8周年の『アイドルマスター シンデレラガールズ』、それぞれの想い①(神崎蘭子編):内田真礼インタビュー

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更新日:2019/11/5

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『アイドルマスター シンデレラガールズ』のプロジェクトが始動したのは、2011年。今年でまる8年を迎える『シンデレラガールズ』は現在、東名阪の3都市で、それぞれ「Comical Pops!」「Funky Dancing!」「Growing Rock!」と異なるテーマを掲げたライブツアーを行っている。9月に開催された幕張公演では、ステージ上でパフォーマンスを繰り広げるアイドル(=キャスト)と、彼女たちを見守り、支え、盛り上げるプロデューサー(=ファン)が気持ちを通い合わせる光景を目撃し、改めて『シンデレラガールズ』のライブや楽曲が生み出す引力を実感した。今回も、7周年を機に実現した昨年の特集に続いて、自身が演じるアイドルとの信頼関係や、ライブへの想いを、3都市のライブのいずれかに出演するキャストに、熱く語ってもらった。第1回は、2020年2月の大阪公演に出演する、神崎蘭子役・内田真礼のインタビューをお届けする。

『アイドルマスター シンデレラガールズ』の中でいつまでも神崎蘭子が生き続けるために、「昔の自分を追わないようにしよう」と思った

――内田さんは初期からこのプロジェクトに関わっているわけですけど、『アイドルマスター シンデレラガールズ』にどのような印象を持っていますか?

内田:『シンデレラガールズ』は夢があるなあ、という感じがします。出会ったときは、まさかここまで大きなコンテンツになると思っていなくて、“お願い!シンデレラ”のリリースイベントを池袋サンシャインシティの噴水広場でライブをやったときに、みんなで大それた夢を語った記憶があって(笑)。アニメをやりたい、大きなライブがしたい、とか。それらを全部叶えてきたので、本当に夢を叶えるプロジェクト、という印象です。当初は15人くらいだったけど、今は90人近くのキャストがいて。そうやって広がり続けているのも、私たちが最初に感じていたことに、新しく加わった子たちの夢が加わって、どんどん広がりゆくものなのかなって思います。

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――今話してくれたことに近いんですけど、『シンデレラガールズ』には不思議な引力があって。というのも、みんなで「こうしていこうね」って話し合いをしているわけではないですよね。誰かが先導しているわけでもない。だけど、なぜか意識が共通していて、そこがすごいな、と思うんです。個々が考えていることは違うのかもしれないけど、思い描いてるものは近いものがあるのかな、と。

内田:確かに。私たちは「シンデレラガールズ」という名前を与えられたわけですけど、童話の『シンデレラ』ってすごく夢のあるストーリーじゃないですか。もしかしたら、それに対しての憧れがあるのかもしれないですね。素敵な衣装を着させてもらってステージで輝けたりすることに、全員共通でポジティブな思いがあるのかも。だからシンデレラのように輝ける、というか。私たちって、熱血ではない気がするんです(笑)。でも、どこか夢を見ている感じで、そこが「シンデレラガールズ」全体の空気感になってる気がします。

――『シンデレラガールズ』の特徴として、皆さん自身が担当するアイドルへの愛情がものすごく深いですよね。

内田:はい。衣装を着てステージに立つのはもちろん、やっぱりその子が輝いてくれることが、何より幸せです。人数がたくさんいるので、それこそ曲を作ってもらえたり、ゲームで新しいカードが出たりすることが自分のことのように思えるし、愛を注がれているような気がして、とても嬉しいんですよね。アイドルとひとつだから、晴れ舞台のときは、より嬉しくなります。自分の分身のように思えたりするし、それくらいの責任を持たないと関われないものだと思っています。

――神崎蘭子と出会ってから7年以上経つわけですけど、最初に抱いていた印象から考え方が変わったり、深まったりしてるところはありますか。

内田:そうですね。蘭子は二面性があるというか、心の声がこの子の特徴で。ゲームでは、(心情を語る)カッコ内のセリフと、彼女の中二病の部分の両立があるんですけど、中二病のセリフは振り切ってやることで成立していて、カッコの内側の言葉で補足していたんです。でも、アニメではカッコが全部なくなっていて。

――蘭子が「闇に飲まれよ!」(意味:お疲れ様です!)と言ったら、言葉は「闇に飲まれよ」のまま伝わっていく。

内田:そう(笑)。(赤城)みりあだったり、数人だけその言葉を読み取ってくれる子もいるんですけど、ほぼ伝わっていない感じがする(笑)。だから演じていく中で、どこが彼女の正解ラインなのかを考え続けた、この数年でした。最初は「中二病とはここなんだろうか?」って想像したものを演じていて、蘭子の感情はカッコ内で補足していました。で、TVアニメを経た今は、「中二病のセリフの中にも感情を感じさせたい」っていうやり方に変わったんです。もっと蘭子の可愛いところを見せたいっていう。だから、最初はクールだったけど、最近は「あなた、キュートの人なの?」って思うくらいのかわいさを持っていて(笑)。

 それはたぶん、蘭子が歩んできた歴史の中で、彼女のかわいい一面を知っている方が増えて、そこを取り上げられることが多くなったからこそ変わってきたのかなあ、と思います。いい変化ですよね。いろんなことができるようになったなっていう印象があります。尖っている部分がいい感じで磨かれてきて、とても成長を感じます。

――中二病キャラって、ある種の鎧のようなものじゃないですか。表面が尖っていても、本質は繊細で、実はすごく真面目でいい子だったりする。蘭子には、そういう側面がありますよね。

内田:ありますね。熱心に好きなものを追いかけてるから、もしかしたら勉強ができたりするのかもしれないし、真面目さが見えて。自分の中に貫く思いがあって、それを崩してはならないと思っているけど、だからこそそれが崩れたときに、「こんな一面があるの?」ってかわいく思えてきますね。

――内田さん自身は、『シンデレラガールズ』や蘭子と関わってきて、自身の成長した部分や変化を感じたりしますか。

内田:私自身も、『シンデレラガールズ』が始まった当初からすれば、いろんなことが起こったし、いろんな経験をして、ほんとにガラリと変わった、と言っていいと思いますね。歌を歌うことをひとつ取っても、全然違う気がします。スタンスとしては、「昔の自分を追わないようにしよう」と思っていて。自分が最初に蘭子を演じたときと今の自分は、違うところにいるわけですよね。で、蘭子自身も成長している。だから、あの頃の芝居は追わないようにしてます。歌も、「今の蘭子だったらどう歌うかなあ」って考えるようになりました。最初は、「同じものを出さないといけない」と考えていて、「このポジションの音じゃないとこの子じゃない」という思いもあったんですけど、そこにとらわれず広げたときに、表現の幅が増えた気がして。頭でっかちだったけど、少し柔軟にしたところが、変わったところかもしれないです。

――固定された場所に立ち返るほうが、技術的には簡単だったりするんですか。

内田:簡単ですね。でも、そこから一歩も動けなくなっちゃうんです。そこに立ち返ると――。

――それでしかないものになってしまう。

内田:そうそう。それも、もしかしたら、ずっと同じ安心感だったり、変わらないものになり得るかもしれないけど、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の中でいつまでも神崎蘭子が生き続けるために、「昔の自分を追わないようにしよう」と思ったんですよね。自分も成長しているし、蘭子も成長していると思っているから。同じことを繰り返さないようにしている、という感じです。「これって蘭子っぽいよね」という部分は外さないですけど、それ以外はちょっとずつ試していて。しゃべり方も、昔はもっと殻に閉じ籠る感じだったけど、今はもう少し感情が見えるようになったのもその表れで、変わることは楽しいですね。彼女のストーリーが見えたからこそ、より踏み込めたような感じはあります。

 あとは、信頼している、というか。たぶん、みんなそう思ってると思うんですけど、自分の演じるアイドルがすべてなわけですよね。他に誰が演じるわけでもなく、自分自身が作ったものがそのアイドルのすべてになるから、自分を信頼することなんです。「これが蘭子である」と自信を持って出せるお芝居ができれば、間違いはないと思っています。

――蘭子について、演じてる内田さんにだけ見えてると思う彼女のいいところは何ですか?

内田:そうだなあ……私はカッコの中のセリフを演じてるときのほうが得意なんですけど、心の声なので、リアルなものというよりは、「デフォルメ蘭子」の感じでやってるんですね。実は、私の中ではそういう遊びがちょっと入っていて。内面は、ちょっと子どもっぽいんですよね。だから「蘭子ちゃん、言ってみなさい」って誰かに言われたら、恥ずかしくて言葉が前に出ないはずなんです。もしかしたら、表現としては三面あるのかもしれないですね、本音を言おうとするけど、恥ずかしくて出せない自分、でも心の中ではちゃんと考えている感じ。心の中はすごく明るくて、そこが蘭子のいいところかなあ、と思います。

大勢ではなくて、たくさんいる中のひとりひとりに届けたい

――ライブの話になりますけど、開演前ってどういう雰囲気なんですか。

内田:開演前は、わりとそれぞれの過ごし方ですね。おのおの、集中の仕方も違いますし。そこに集まったメンバーは、ほんとにその日の精鋭たち、という感じです。でも、それぞれがベストパフォーマンスをするためには、全員同じ方向を向いてる必要はあると思っていて。なんだろう、横じゃなくて縦の関係かなって思うんですよ。

――縦の関係?

内田:うん。なんか、縦になって走ってるというか、そんな感じの団体な気がします(笑)。どちらかというとみんながそれぞれ自分のことを見てる感じなのかな。

――個々人が縦の関係で何かに向かって走ってるとして、その向かっている先が一緒だからバラバラにならずまとまってライブができると思うんですけど、その向かう先って何だと思いますか。

内田:プロデューサーさんですね。その思いの先は、一緒です。「伝えたい」「私を見てほしい」という気持ちは、一緒だから。みんなが呼びかける「プロデューサーさん」っていう言葉にはその想いが詰まっている気がして、いつも感動しますね。「プロデューサーさん」という個に、もっと密に話しかけている感じがいいなあって思います。私自身、「みんな~」よりも「あなた」っていう言葉が好きなんですよ。だからライブでも「あなたに届けていますよ」って常に思っています。何か自分だけでするときも、役者としてやるときも、大勢ではなくて、たくさんいる中のひとりひとりに届けたい。それが「シンデレラガールズ」では「プロデューサーさん」という言葉に詰まっている気がして、いい関係だと思います。

――内田さんの中で、個人的に思い入れのある楽曲とその理由を教えてください。

内田:“Nation Blue”が好きですね。あとは、『jewelries!』シリーズというCD以前が出ていて、そこに入ってる“ススメ☆オトメ”が、すごく夢にあふれてるんですよ。あの曲を聴くと当時のことを思い出しますし、どんな思いを持って『シンデレラガールズ』をやっていたのか、とか、スタジオの空気、いろいろ感じたことへのハングリー精神が、曲を聴いているとムクムク湧いてきて。数年経っても、あの頃の曲は自分に響いてきます。

――ハングリー精神。

内田:やっぱり、アイドルがたくさんいるので、その中で蘭子をなんとか輝かせてあげたいと思う気持ちが、それにつながってると思います。歌詞にある《ススメ☆オトメ もっと先へ》には、チャンスはこれから先どんどん広がっていって、ひとつずつにしがみついていこう、という思いを感じて。この先どうなるかわからない『シンデレラガールズ』に対して、夢も希望も全部含めて思いを持って走り出したときを思い出す曲です。“Nation Blue”は、“おねシン”や“ススメ☆オトメ”のようにかわいらしい曲がたくさんある中で、クールな曲で蘭子の違う面も見せられるな、と思ったので、大好きです。

――『シンデレラガールズ』が大きくなった今、ハングリー精神はどうなったんですか。

内田:5thライブの『Serendipity Parade!!!』のとき、私は大阪公演に出たんですけど、いい意味で自分の居場所を見つけられた感じがしたんです。頑張っても頑張っても届かなくて、「もっと上に行ける気がするのに、『シンデレラガールズ』はもっとすごいことになりそうなのに」って思っていたけど、気づいたら安心する場所になっていたんですよね。だから、ハングリー精神から、守るものが増えた気がしていて――大人になったっていうこと?(笑)。

――(笑)ある部分では、そうなんでしょうね。

内田:やっぱり、時が経つってすごいことですね。でも、蘭子には尖りも必要だと思うんです。だから、そんなこと言ってちゃいけない、とも思っていて。もう、尖ってますよ、私のライブパフォーマンス。今観ると、笑っちゃいますから(笑)。この間も、久しぶりに大阪公演の映像を観たんですけど、まあ~尖ってて(笑)。だから、ハングリー精神も実際にはまだ持ってるんだと思います。でも、外に対してはあまり見せなくなったかもしれないです。ステージに立つと、やってきたことを全部解放して、200パーセントでやらないと気が済まない感じになるんですけど、後輩には多くを語らず、背中を見てもらう的なスタイルなんだと思います。それはひとつの成長かもしれないし、初々しさとの調和かもしれないですね。

――内田さんは、今回のツアーでも大阪公演の出演ですね。今度は、ドームです。

内田:私、ドーム公演は初なんです。でも、会場が大きければ大きいほど、一瞬で人に伝えられる量が増えるわけですよね。たくさんの人にその瞬間の思いを共有できる。私が思う蘭子のよさ、かわいさ、カッコよさを伝えられるって、めちゃめちゃすごいことだなあ、と思っていて。だから、私は大きい会場が好きなんです。その瞬間、絶対に楽しいと思うんですよね。人間ひとりって、すっごく小さいじゃないですか。なのに、ドームの真ん中でパフォーマンスをしてもいい機会をいただけるなんて、ほんとにシンデレラストーリーだな、と思います。

――最後に、これまでともに歩んできた蘭子に、内田さんからかけたい言葉を教えてください。

内田:変わらずにいてほしいなって思います。この数年間の中で、彼女自身には変わろう、変わってみよう、チャレンジしようっていう言葉があったと思うんです。私もそれは受け入れてきたつもりですし、そこで成長できたところもたくさんあったけど、彼女のアイデンティティは捨てないでほしくて。中二病であること、堕天使であるということは一生変わらずに、輝いていてほしい。それが続く限り、私もその思いを発信していくし、ライブに出る機会があれば蘭子の想いを届けていこうと思うので、いつまでも変わらずカッコいいあなたでいてください、と思います。

取材・文=清水大輔