「ポンコツな夫にイライラが止まらない…」は、もしかしたら濡れ衣かも。夫婦がギクシャクする原因を脳科学で解説【黒川伊保子さんインタビュー】

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公開日:2019/11/15

 2018年に発売された『妻のトリセツ』が40万部を超え、その“アンサー本”とも言える『夫のトリセツ』(講談社)が発売された。著者は、人工知能研究者であり、自身も結婚35年目を迎えたという黒川伊保子さん。人工知能(AI)開発のためにヒトの脳を研究するなかで、男性と女性の脳のチューニングの違いを発見し、この執筆に至ったのだとか。

 妻は、特に子育て期において、なぜ夫に対してイライラするのか? その理由を脳科学の観点から解き明かし、夫婦が機嫌よく共に暮らしていくためのちょっとした工夫が、本書では数々紹介されている。

『夫のトリセツ』(黒川伊保子/講談社)

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 インタビューでは、「男性脳/女性脳」の実態を知ることの大切さや、その先にある思いがけぬ効果について話を伺った。「とはいっても、うちの夫はどうしようもないポンコツだから!」と諦めかけている人も、気の持ちようが変わるかもしれない。

■夫の欠点ばかり目につきイライラするのは「濡れ衣」!?

――私事で恐縮ですが、最近夫のマイナス点ばかりに目がいくようになってしまったんです。食事でパンくずを落とすとか、お風呂で耳を洗わない、とか。そのせいで、夫婦仲もギクシャクしがち。特に出産後は顕著で、急に変わった妻に夫も困惑しているのかなと頭ではわかっているのですが…。

黒川伊保子さん(以下、黒川):大変な時ですね。でも、まずはホッとしてください。世界中、みんなそうみたいですから。今は、「子ども」という“小さくやさしく可愛いもの”に脳がフォーカスしている状態。認知のレンジが、微細でデリケートになっていますから、夫が「でかくて、ガサツで、気の利かない人」に、ことさら見えてしまう時期なのです。子どもが生まれてから、妻に「足音が大きすぎる」「声がでかい」と叱られるようになったという男性もたくさんいます。いわば“濡れ衣”を着せてしまっている状態。

――本当は大したことではないのに、必要以上にイライラしているのが自分でもわかります…。この状態はずっと続くのでしょうか?

黒川:そうですね、いずれ楽になりますが、しばらくは続きます。ご夫婦によってその長さは違うようです。妊娠や出産、授乳期などの子育て期に、急に夫への不満が増えたとしたら、大事なのは「この先どうやってその状況と付き合っていくか」ですね。とはいっても、この本に道徳的にこうすればいいということはひとつも書いていないんです。女性脳で起こっている錯覚と、男性脳の実態を説明しています。

――夫婦仲がギクシャクするのは、女性の脳が変わってしまった、ということなのでしょうか?

黒川:実は夫の脳も、家族を守るために、より“男らしく”なっているんです。たとえば、妻が人間関係の愚痴を言った時に、恋人だった時代には「君は悪くないよ」とやさしく同調してくれたのに、この人を守る責任があると思うようになると、「まあ相手の言い分もあるだろうし、君もここに気をつけたら?」なんて言い出すようになる。問題解決をしようとするわけですね。妻にしてみれば、急に責められているように感じることがあるかもしれない。でもそれは、夫が男性として成熟したということなんですよ。子どもが生まれると、脳のチューニングが母性と父性の両極端に振り切るので、心が通じ合えない感じがする。夫婦としてはちょっとつらいかもしれませんが、脳の実態を知っておけば、やがて修復できるし、逆に相手のことが頼もしく思えたりします。

――考え方一つで、夫婦仲は変わっていくと。

黒川:そう。私も夫に「なんて、ひどい人」って思っていたこともあるけど、それが家族を守るための父性だと理解するようになってからは、「一理ある!」と受け止められるようになったもの。だから、「知ること」ってとても大事ですよね。

――脳のしくみを熟知している黒川さんにも、夫に対してイラッとすることが?

黒川:たしかに、私は理系の人間だから、人の脳をある種の“装置”として見るところもあるんです。たとえば、朝からなんだか緩慢な部下が目の前にいたら、「ああ、タンパク質が足りなくてセロトニン分泌に失敗しちゃったんだな」とか「右脳と左脳の連携信号がいつもの40%減だな」って思えるから、「今日のランチは定食にしてね」なんてアドバイスもできるんだけど。でも、夫に対しては腹が立ちます(きっぱり)。理性が働く前に、感性で腹が立つ(笑)。

――夫の存在は、それだけ特別なのだと。

黒川:そうね、よっぽど夫に期待しているのよね。理性で考えたら、そこまでおおごとではないとわかるんだけど、夫や子どもにはつい小言も言っちゃう。相手が子どもなら、可愛い寝顔を見て「ごめんね、言いすぎたね」と反省できるかもしれないけど、夫は別に寝顔が可愛くないから(笑)、反省するタイミングがない。男性はちょっと不利かもしれない…(笑)。