“物語請負人”が仕掛ける、新たなロボットアニメの真髄――『OBSOLETE』虚淵玄インタビュー

アニメ

公開日:2019/12/6

『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで配信中。
(C)PROJECT OBSOLETE

『OBSOLETE』公式サイト:https://project-obsolete.com

 ロボットアニメとともに幼少時代を送ってきた虚淵玄。これまで数多くの作品を手掛けてきた彼にとって、『OBSOLETE』は、初めて企画した「ガチのロボットアニメ」。40年以上の歴史があり、数々の名作が生まれてきたロボットアニメで、彼が仕掛けようとしていることとは? 新たな物語がここから生まれる。

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――虚淵玄さんの待望の新作はリアルにロボットを描くアニメーション『OBSOLETE』です。この企画は、最初にどのようなかたちで立ち上げられたのでしょうか。

虚淵 ずいぶん前になるのですが、あるときに突然の思い付きで企画書を書きまして、グッドスマイルカンパニー(フィギュアメーカー)さんに持ち込んだんです。昨今のロボットのプラモデルやアクションフィギュアは直立している姿が基本になっていて、膝を曲げたりすると途端に格好良さが損なわれてしまうのが多くて。そういったポージングができるロボットのアクションフィギュアやプラモデルを作りたい、その商品化につながる映像作品という内容でした。フィギュアを作るためにロボットの関節構造まで考えたスケッチを企画書に付けて、提案したんです。

――じゃあ、立体化ありきの企画だったんですね。

虚淵 立体化も目標のひとつではありましたが、立体物でも無理のないロボットのアクションを映像で観てみたいという思いもあったんですよ。たとえば、ロボットアニメでは設定上では手持ちの銃の予備弾倉を装着していても、いざ立体物になると構造上そこに指が届かなかったりすることが多い。そういう演出上の妥協を可能な限り廃したアニメが作れないですかね、といった話もしていました。

――それが『OBSOLETE』の原型になったわけですね。

虚淵 あまりにも急な提案だったので、ちょっと呆れられた節もあったのですが、そこから今回の『OBSOLETE』の企画になりました。

たやすく残骸になってしまうロボットたちが、人のように躍動感を持って動きだす驚き。その快楽が僕にとって大きかった

――虚淵さんは、ロボットアニメというジャンルのどんなところに面白さを感じているのでしょうか。

虚淵 僕は幼いころからロボットアニメを見てきて、『機動戦士ガンダム』(1979年~、以下『ガンダム』)、『太陽の牙ダグラム』(1981年~、以下『ダグラム』)、『装甲騎兵ボトムズ』(1983年~、以下『ボトムズ』)といった作品が好きだったんです。とくに強烈だったのは『ダグラム』の第1話でした。冒頭でいきなり、主人公が乗るロボット(コンバットアーマー)が、壊れて朽ち果てているシーンから始まるんです。人のかたちをした大きなロボットが壊れることで、モノであり、風景になりうることに衝撃を受けました。続く『ボトムズ』ではオープニング映像では、無数のロボット(アーマードトルーパー)が壊れて死屍累々となっている中で、主人公が乗っているロボットだけが立っている。その強烈なカットが当時、小学生だった僕に焼きつきましたね。たやすく残骸になってしまうロボットたちが、人のように躍動感を持って動きだす驚き。その快楽が僕にとって大きかったです。

――ロボットが”壊れる”ことに面白さを感じていた。

虚淵 ”壊れる”ってすごく強烈なカタルシスだと思うんです。『ガンダム』も最終回では、主人公が乗るガンダムが手と頭を失った状態で戦うじゃないですか。それまで格好良かったガンダムが完全に壊れてしまって、主人公だけが生き残る。あの決別のドラマは印象的でしたね。残骸になり、風景になって消えていくロボットと、それを手放して生きていく少年の対比が、すごくドラマチックだなと。でも、最近のロボットアニメを観ていると、そういう美意識はすでに古いものになっているのかなと感じることもあるんです。

――近年のロボットアニメをご覧になっていかがですか?

虚淵 最近のロボットアニメは、壊れないんですよね。まるで美しい神様の象徴のように描かれていて、使い捨ての兵器のように消耗されていくものじゃなくなっている感じがありました。ロボット自体も美しく、込み入ったデザインになっていて、ちょっと破損しただけで動きに支障をきたしてしまいそうで。ロボット観のターニングポイントを感じましたね。自分のロボット観と、世の中のロボット観がズレ始めたのかなと。

――『ガンダム』の本放送が始まってから40年。時代の変化にあわせて、価値観も変容しているわけですね。

虚淵 そうですね。僕らが子どもだった昭和の末期って、そのあた廃車が転がっていたものなんです。廃車のすぐ横を、普通にクルマが走っていたりして、機械の生と死を一度に目の当たりにしていたんですよね。でも、最近はクルマが傷ひとつない綺麗な状態で走っていて、故障するとディーラーが引き取ってしまう。自動車、服、携帯電話……どれも傷ひとつない状態で使うのが普通とされていて、傷がつくと一気に価値が損なわれてしまう。そういう”傷ものに対する忌避感”がすごく大きくなったと思うんです。その結果、”人やモノが死ぬこと”を日常で見かけることがなくなったなと。そういう変化の中のひとつとして、フィクションの中でもロボットを壊さなくなったんじゃないかと思えるんですよね。

――死のタブー化の加速が、フィクションにも影響を与えているのかもしれません。

虚淵 これはロボットに限らず、現代のヒーロー像にも共通に感じることかもしれません。でも、どんなに傷つこうと立ち上がるキャラクターこそが本来のヒーローだと思うし、どこまで壊れたとしても、それなりに使えることが、本来のロボット強さだし、魅力だったと思うんです。

――現実においても、ロボットは壊れてしまうことを前提に、被災地や地雷原などの危険な場所へ派遣されるわけで。”壊さない”ことは、ロボットの本質のひとつを欠いてしまうことになりますね。

虚淵 とくにロボットアニメは、どこまでぶっ壊れようとも最後まで立っているほうが勝ちという、ある種のプロレス的な美学があったと思うんです。〝壊さない”ことでロボットの〝道具としての魅力”は失われたのかなと感じているんです。

――ロボットアニメに失われてしまった“壊れる魅力”“使い捨ての美学”の復権が『OBSOLETE』の根幹にはあるんですね。

虚淵 ロボットがロボットである必然性に立ち返って、壊れて、使い捨てられていくロボットを描きたいなと思ったんです。

人じゃないものが、人のように動いている驚愕と恐怖は、映像だから伝わりやすい

――虚淵さんは脚本家やシナリオライターとしての顔だけでなく、小説家としての顔もお持ちです。ロボット作品を小説で書きたいと思ったことはありませんでしたか?

虚淵 習作としてロボットが出る小説を書いたこともありました。だけど、やっぱりロボットは目で見てナンボだなという感じがあったんです。人じゃないものが、人のように動いている驚愕と恐怖は映像だから伝わりやすいことなんじゃないかと思うんですよね。

――これまでいろいろなアニメ作品に関わっていらっしゃいましたが、たとえば『翠星のガルガンティア』でもロボットを出していますよね。そういうときに虚淵さんのロボットの美学を描こうとは思われなかったんですか?

虚淵 『ガルガンティア』は『ガンダム』のような巨大ロボットの系譜とはちょっと違う作品だと思っています。あの作品に出てきた「チェインバー(マシンキャリバー)」は世話役のロボットで、どちらかというと『スター・ウォーズ』におけるC-3PO(翻訳ドロイド)に近いキャラクターです。文芸上の必然から搭乗し操縦するメカニックにしたわけではなかったんです。

――そういう意味では、がっつりとロボットアニメを企画するのは『OBSOLETE』が初めてですよね。

虚淵 ロボットが登場する作品は過去にいくつか手がけましたが、物語の軸はやはり人間のキャラクターのほうにあったので、ロボットの重要性が世界観を構築する上での肝になるほど徹底したものは、今回が初めてです。先行作品である『ガンダム』も『ダグラム』も『ボトムズ』も、当時のスタッフのみなさんの試行錯誤の産物だと思うんです。その結果に生まれた産物を僕らは享受しているだけで。それと同じことをやるのなら、バンダイチャンネルで『ボトムズ』を見ればいいじゃないですか。僕らはロボットアニメの違う可能性を探りたいと思ったので、あらためて原点に立ち返って、当時のみなさんがした試行錯誤をしてみようと。まず、ロボットアニメの前提から見直そうと考えてみました。

――どこからまずお考えになったのでしょうか。

虚淵 そもそも何でロボットアニメが制作される本数が少なくなってしまったのか、という疑問があったんです。きっと何かが障害になっていたんだろうと。ならば、その障害になりそうなものを全て外して企画を考えてみました。「ロボットアニメをつくるための予算の割り振り」や「アニメとしての1話の長さ」「お客さんに何を見せるべきか」を考え直して、最後に何が残るか。自分なりの思考実験をしていったわけです。

――それでたどり着いたのがYouTube Originalsによる配信。1話15分のオムニバス形式の作品というわけですね。

虚淵 そうですね。世の中が変わりつつあって、映像作品のフォーマットや見せ方も自由度が増している。ならば短い尺(放送時間)、オムニバス形式で、物語の時間軸を飛ばした構成のロボットアニメを考えてみたんです。枠組みを変えることで新しいチャレンジができるんじゃないかなと思いました。

現実ほど芳醇な取材資料がある舞台はない

――『OBSOLETE』の舞台は2014年から2026年の地球。宇宙人からロボットが提供されるようになり、様々な状況が変化していく姿が描かれます。現代を舞台にしたのはなぜですか?

虚淵 現実ほど芳醇な取材資料がある舞台はないわけで。リアルなロボットを描こうとするうえで、その背景を使わない手はないだろうと。見覚えのある風景の中に、見たことのないロボットがいるという構図がエキゾチックだろうし、奇妙な不気味さが出るだろうなということですね。

――宇宙人が人類に通商を申し出てきて、石灰岩1000キロと交換にロボットを提供し始めます。石灰岩1000キロという対価のアイデアが面白いですね。

虚淵 地球上にある資源の中で、人類の文明に一番影響を及ぼさないものを宇宙人が欲しがっているというアイデアです。「そんなもの欲しがってどうするの?」というものを対価に、未知のロボットが手に入るということですね。これは監督の白土(晴一)さんと相談しているうちに出てきた要素です。

――人類は手にした未知のロボットはエグゾフレームと名付けて、素体に外装を付けて使い始めます。エグゾフレームのデザインについては、どのようにお考えでしたか。

虚淵 エグゾフレームの素体については、とにかく動けるデザインにしてほしいと。ありとあらゆるポージングができることを要求しました。素体に付ける外装に関しては、なるべく現行の兵器や部品を流用してほしいとメカデザイナー(石渡マコト)にお願いしました。エグゾフレームが使用する武器も銃弾も現行兵器なんです。

――そのエグゾフレームは正体不明がゆえに大国では使用が制限され、結果として小国や紛争地帯で普及するという構図が印象的です。

虚淵 先進国は、よくわからないロボットなんていらないし、むしろそんなものがあると迷惑を被る人が多いだろうと。でも、ロボットを使わなくちゃいけない必然性のある場所では使うわけです。たとえば、最初に正規軍がエグゾフレームを採用するのはシアチェン氷河という僻地の国境紛争地帯なんです。そういう場所から、エグゾフレームが徐々に活躍していく場所を広げていくという展開になっています。

――先ほどの虚淵さんがおっしゃっていたように、「廃車がない世界」ではエグゾフレームが普及せず、「廃車がある世界」でエグゾフレームが増殖していくんですね。

虚淵 そうですね。僕は仕事で海外に行くことが多いんですが、道端に廃車が転がっているような土地もまだまだあって、そういうところの景色を見ていると、アーマードトルーパー(『ボトムズ』に登場するロボット)やレイバー(『機動警察パトレイバー』に登場するロボット)がいても馴染むだろうなと思えるんです。世の中が便利になるに従って、ロボットの居場所がなくなっていく。先進的な都会にはロボットは不似合いなものだし、ロマンの産物なんだなと感じます。

――そのロマンの産物が、現実をどんどん侵食していく。それが『OBSOLETE』なんですね。

虚淵 ロボットが似合わない世界なら、どんどん変えてしまって。ロボットの似合う世界にしてしまえばいい。『OBSOLETE』はそういう物騒な物語でもあります。

これまでの戦争映画にはなかった怖さを前面に出したいと思っていました

――『OBSOLETE』はフルCGの作品です。虚淵さんはアニメ版『GODZILLA(ゴジラ)』でもCG作品に取り組まれていましたが、今回のCGの印象はいかがですか。

虚淵 『OBSOLETE』を制作してくださっているアニメ制作会社の武右ェ門さんは、映画『SHORT PEACE』に収録されている「武器よさらば」を手掛けられているスタジオなんです。その映像がすごかったので、お願いすることにしました。情報過多になりがちなCG作品を、人の脳に情報をわかりやすく送り込むテクニックに長けたスタジオで。バンド・デシネ(フランスのマンガの手法)のような絵柄でキャラクターを描くという、インパクトある映像を作ってくださっています。CGは日進月歩で進化しているんだなと感じますね。白土監督と山田(裕城)監督の二人三脚で現実にエグゾフレームがいたらどんなアクションがふさわしいだろうと考えてくださっています。

――第1話は、2014年にエグゾフレームが登場してから10余年後、2023年に謎の部隊アウトキャスト・ブリゲードに対抗すべく、アメリカの海兵隊がエグゾフレームを使用している一面が描かれます。作品の時系列的にも未来のエピソードから始まりますね。

虚淵 『OBSOLETE』はエグゾフレームの素体がどういうふうに発展していったかを描く年代記にしたいなと思っていました。ただ第1話から一番シンプルな素体を見せても仕方がないなと思ったので、熟成しきったエグゾフレームを見せるエピソードにしようと思っていました。

――第1話で虚淵さんやスタッフ陣がこだわったところはどんなところでしょうか。

虚淵 海兵隊が使っている「見えないレーザー」ですよね。あと「エグゾフレームが迫撃砲を運んでいるところ」。そういう泥臭いところを見ていただきたいです。エグゾフレームがあれば、山の中だろうがジャングルだろうがどこにも迫撃砲を持っていける。こんなに強力な兵器が動き回ったらシャレにならないだろって。このアニメ独自の怖さを前面に出したいと思っていました。そういう敵部隊を蹴散らすために、アメリカ海兵隊もエグゾフレームを投入する。あと、これまでのロボットアニメでは格闘戦にビームサーベルを使っていたんですが、それを現実的な兵器で実現しようと考えた結果、使い捨てトーチを相手に突き刺すというアクションにしています。2000年代のテクノロジーでロボットのアクションを実現するという、ちょっとひねったアイデアもおもしろいところです。

――エグゾフレームが出現したことで、様々な人々が行動し、地球上のあちこちで変化が起きていく。『OBSOLETE』の物語や世界観はまだまだふくらませていくことができそうですね。

虚淵 今回のシリーズはまだ最初なので、出来事の周辺を描いている感じがあるんです。もし状況が許すことになって、次のシリーズを描くことができれば、より核心に迫ることができると思っています。ただ、その道筋は決めていなくて、ゆるくゆるく作っていければ良いなと思っています。遊び心が満載の作品なので、しばらくはこの作品で遊んでいただきたいなと思っています。

取材・文=志田英邦

 2014年、突如現れた異星人は、人類に対して「交易」を要求した。彼らは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用ロボット「エグゾフレーム」を提供し始める。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。

【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで配信中。YouTube Premiumメンバー(有料)は、最新エピソードを広告なしで視聴できます。
YouTube Premium メンバーの以外の方も、広告付きで無料で視聴いただけます。

【公開スケジュール】
2019年12月3日(火)EP 1 〜 EP 6 公開(YouTube Premium メンバー対象)EP 1 無料公開
2019年12月10日(火)EP 2 無料公開
2019年12月17日(火)EP 3 無料公開
2019年12月24日(火)EP 4 無料公開
2019年12月31日(火)EP 5 無料公開
2020年1月7日(火)EP 6 無料公開