ブクガ、覚醒。3rdアルバムリリース直前、それぞれの想い――Maison book girl個別インタビュー④(コショージメグミ編)

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公開日:2019/12/17

 12月18日、Maison book girl(以下ブクガ)のメジャー3rdアルバム、『海と宇宙の子供たち』がリリースされる。「夢」をコンセプトにした2018年11月リリースの前作『yume』は、ブクガのすべての楽曲を担う音楽家・サクライケンタの才気が全編を包む素晴らしいアルバムだったが、新作『海と宇宙の子供たち』には、今年の春から夏にかけて発表された2枚のシングル『SOUP』『umbla』でも方向性が示されていたように、「歌」を前面に打ち出した楽曲が揃った。メンバー4人のパフォーマンス面の成長に伴い、楽曲の中で表現できる幅を飛躍的に広げてきたブクガは今、「覚醒」の時を迎えている。『海と宇宙の子供たち』は、今後ブクガの音楽が広く届き、多くの聴き手を巻き込んでいくことを予感させてくれる1枚である。

 今回は、メジャー3rdアルバムのリリースに向けて、メンバー4人とサクライケンタ、それぞれ個別に話を聞くことで、『海と宇宙の子供たち』が完成するまでの背景に迫っていきたい。第4弾は、コショージメグミのインタビューをお届けする。ステージ上のMCで、「もっとライブに来てほしい」とストレートな言葉を口にするようになったコショージの内面には、どんな変化が起こっているのだろうか。

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ライブに来てほしいと言って、来てもらえるんだったら、いくらでも言うし、なんでもする

──まずは、メジャー3rdアルバムの手応えを聞かせてもらえますか。

コショージ:今、ブクガを聴いてくれてる人が、友達にオススメしやすいんじゃないかな、と思いますね。いろんな人たちが気に入ってくれて、なおかつ「もっとブクガを広めたい」と思ってくれてるブクガのファンの人が、友達にオススメしやすいアルバムになったと思います。

──かつてなくポップでありつつ、ブクガらしさもしっかり表現されたアルバムだな、と思っていて。で、これは全員に聞いてるんだけど、今の「ブクガらしさ」って、メンバー的には何だと思う?

コショージ:「これってブクガらしいよね」ってあまり感じたことはないけど、逆に「それ、ちょっとブクガっぽくないな」はあるんですよ。でも、「ブクガっぽくない」があるなら、「ブクガっぽい」もあるんですよね、きっと。

──でしょうね。で、これまでに「ブクガっぽくないこと」はたぶんやってきてないんじゃないかな、という気もするし。

コショージ:そうですね。そういうことは、選んでこなかったと思います。

──消去法的に「らしくないこと」を選んでこなかったのだとしたら、一方ではブクガとしての正解、こうであるべき、という姿も、イメージしているのでは?

コショージ:たぶん、存在しますね。たとえば、「これはブクガっぽくないよね。じゃあ、こうしよう」ってやってきたことが、「これがブクガっぽいね」になってきたと思うんですよ。だからブクガっぽさは、わたしたちの先にあるものじゃなくて、ギリギリ過去にあるもの、というか。「らしいほう」に行っていたというよりも、行ったほうがらしかった、ということかな?と、今思いました。その方向に進んだ、その時点でそれがブクガらしさになっていた、みたいな。でも最近は、わたしが今まで「これはブクガらしくない」と思ってきたことを、一個やってるんですよ。「ライブに来てください」ってめっちゃ言ってる(笑)。

──(笑)確かに、だいぶ言ってる。

コショージ:もしかしたら、それって今回のアルバムにも通ずるものがあるのかなって、ちょっと思っていて。ずっと我が道を進んでいくだけではダメなんじゃないか、みたいなことも、少し考えてるんですよね。逆に、「ライブにすごく来てほしい」ってあまり言えなかったのも、「ブクガってそういうこと言わなそう」と思ってたからで。というか、わたし自身は、ライブに行くかどうかって、誰かに言われて変わることではないんですよ。行きたければ行くし、「来てくれ」って言われたり、何も言われなかったとしても、わたし自身は変わらないし。

──シンプルに、自分が行きたいかどうかである、と。

コショージ:そうそう。でも、自分はそう思ってたけど、たぶんそうじゃない人もいるじゃないですか。「これ、いいよ」って薦められて聴いてみて、好きになって、ライブに行こうって思う人もいるから。そう考えたら、今は「ブクガっぽくない」と思って、「ライブに来て」「友達呼んできて」って言わないことを選択するより、いっぱい人に来てもらって、ライブにお客さんが増える、聴いてくれる人が増えることが大切だと思うから、「来て」って言うようになったんです。でも、「ライブに来てください」って言うことって、別に普通じゃないですか(笑)。それを言わずにきたけど、わたしの中ではわりと大きなことかもしれないです。「ライブに来てほしい」と言って、来てもらえるんだったらいくらでも言うし、なんでもするし。できることなら全部やりたいと思ってるので、とりあえず今はめちゃくちゃ言ってます。

──とても大事な話ですね。

コショージ:実際、ファンの人の感覚を少しだけ変えられたかな、と思います。ブクガが好きな人の、ブクガに対する意識を、少しだけ変えられたのかな、と。自分たちも先に進んでいるし。

──もともとライブに来てほしい、いろんな人が来てくれる場所でやりたい、という意欲はあったけれども、あえてそれを言葉にしてこなかった。でも、それを「ブクガっぽくない」を理由に言葉にしないことをやめた、というか。

コショージ:そうですね。あと、自信もなかったんでしょうね。「来てほしい」って言って、いざ来てもらって、ほんとに好きにさせられる自信が、たぶんなかったんだと思います。今は、少し自信があるライブができているから。それが、もしかしたら一番かもしれないです。

──確かに、「これはいいものだ」と思ってもらえる確信がなければ、「来てください」って積極的に言葉にできないでしょうね。

コショージ:ほんとにそうですね、言葉にできないです。今は、少しでも影響を与えられるライブができてるんじゃないかなって思うから、言えるんだと思います。だから、なんでもする。「来て」って言って来てもらえるなら、何百回でも言うし。

──「ファンの人の感覚を変えられた」というのは?

コショージ:これは、もしかしたらわたしが思ってるだけかもしれないけど、Maison book girlを支えるような感覚が、たぶんないんじゃないかな、と思うんですよね。なんか、「ずっといるんだろう」と思われてるんじゃないかな、というか。CDだけ聴いてればいいっていう人も、たぶんいるだろうし。自分たちが支えてる感覚はなさそうだな、と思ってたんですよね。もちろんわたしたちは、ファンの人の支えがあってこそ成り立つって感じているけど、ファンの人はあまりそう思ってないんじゃないかなって。

──確かに、作品についているファン、というイメージはあるかも。

コショージ:うん。だからね、ちょっと人間味を出していってるんですよ。

──ライブの理想は? 全公演ソールドアウトしたい、とか?

コショージ:もちろんです! それはそう。わたしは、全部ソールドアウトがある意味最低ラインです。最低ラインで、なおかつ自分たちも納得がいくライブができるか、お客さんが楽しめるか、も含めて、全部ですね。完売するところが最低ラインで、お客さんたちが観て、すごくいいライブだったなって思ってもらえなかったら、全然意味がないし。だから完売が最低ラインで、次に全員を楽しませる、自分らが納得いくライブができる、っていう感じです。

──かつてなくアグレッシブな話をしているような気が。

コショージ:そう。なんかね、もう、そうしないとたぶんダメなんですよ。わかりますか?(笑)。

──(笑)わかるけど、それにしても頼もしい発言をするようになったなあ、と。

コショージ:たぶん、関わってくれる人が増えたことが、一番大きいと思います。

──責任が増した?

コショージ:責任もそうだし、たとえば関わってくれる人がいたとして、与えられるのを待ってるだけだとダメなんだなって思って。メジャーデビューしてから、「メジャーデビューしたら、いろいろ環境が変わるかもしれない」って思ってたんですけど、もちろん与えてもらえるものもたくさんあるけど、待ってるだけではダメで。自分から取りにいかないと欲しいものは手に入らないって気づいたので、どんどん「これください」って言うことにしたんです。

──ブクガって、リーダーを決めてる?

コショージ:いないですよ。いたら、こんな感じになってないんじゃないですか?(笑)。

──(笑)でも、言ってることはそれに近い感じがする。そこの部分を引っ張れるのは、やっぱりコショージメグミなんだなって、話を聞きながら思って。頼れる存在、リーダー的な資質を感じる。

コショージ:的なるもの(笑)。リーダー、ではない?

──ブクガは、リーダーを置いてその人が引っ張っていくグループではないと思う。だけど、そういうことを考える人は絶対にいたほうがよくて。広げていくことに対して強い意欲を持ってるから、それをやっていくんだ、と。

コショージ:そうですね。このまま何もせずにいて――いつかは、どうせ終わるんだから、ちゃんと後悔をせぬように、動けるときは動いたほうがいいんだなって思ったんですよね。ほんとにそれは、関わってくれる人が多くなって、わたしもその人たちから少しずつ、無意識に学んでいるんだと思います。全員、プロだから。そこに入ることによって、学んでます。わたしたちが、その人たちよりも頑張らないと。エネルギーは、自分たちが一番強く持ってないといけないから。

4年もかけたら、それは形にならないとダメだよな、と思って。これから4年かけてもっとよくなる、とか言ってる場合ではない

──『海と宇宙の子供たち』って、わりと集大成感があるなって感じるんですけども。

コショージ:確かに。わかりますよ。

──勝負作?

コショージ:勝負作かあ~。怖いっすね。でも、『yume』もよかったですよね。今回も、『yume』とは別のベクトルで広がったらいいなあという感じがする。

──ブクガって、現状に満足できるシチュエーションが今まであまりなかったんじゃないかな、と思っていて。常に課題が目の前にあって、これでOK、みたいなことに一度もなってこなかった人たち、という印象があるし、満足しない意識が強い集団なのかな、と。

コショージ:確かに。

──象徴的な発言として、『yume』のときに、インタビューが終わろうとしてるタイミングで「自信はあるけどない、みたいな状況が続いています」と言い出した人がいたんだけど(笑)。

コショージ:ははは! Amazonさんで、ブクガのドキュメンタリーを撮ってもらっていて、配信前に仮の映像をちょっと観たんですよ。そうしたら、わたし「自信、あるけどない、けどある、みたいな感じですかね」って締めで言ってて(笑)。

──(笑)ずっと言ってる。

コショージ:もう、ずっと言ってて! 「あるけどない、けどある」に変わってるくらいなんですよ。でも、その先を聴いたらちっちゃく「ない」もつながってるんですけど(笑)。「ずっと同じこと言ってるんだな」って、今思いました。

──そう、だから自信がついても次にやるべきことがあって、ずっと満足してない。言ってみれば、ブクガの歩みはそういう戦いの歴史だったのではないかな、と。

コショージ:戦いの歴史。確かに、戦ってはいますよね。部屋の掃除みたいな感じです。掃除しても、完璧な状態にはならないじゃないですか。「こんなにきれいになったな」って思わないし。服とか畳んでいて、「ああ、こっちも気になってきた!」みたいな(笑)。

──(笑)急に生活感が出てきた。

コショージ:まあ、掃除はしないんですけどね、基本。モノで散らかってるんですよ。ブクガで、やらなければいけないことが多すぎるから。歌とか、ダンスとか。でも、曲についていけてないって思うことがあって、それは今もあるけど、少しずつ「これからやっていったらいいんじゃない?」ってわかってきたような気がしていて。でも、ひとつわかったからこそ、また問題が山積みであることに気づく、みたいなことが、一生続くような気がする。

──一生!?

コショージ:ははは! 一生ある気がする! 死ぬまであるんじゃないかなあ。

──今だから言えることだけど、メジャーデビュー前の音源を聴くと、正直歌もへろへろしてるな、と思う。もちろんそこがよかった部分もあるんだけど、着実に前進もしてきていると思うのですよ。

コショージ:へろへろしてましたね~。この間、プー・ルイ(BILLIE IDLE)が――ブクガの結成当初の頃のライブを観てくれてたんですけど、そこから4年くらい経ってるじゃないですか。そのプー・ルイに、「あの頃、ほんと大丈夫かな?と思ってたけど、4年経って、ここまで来れるんだね」みたいな感じで言われて。そういうことをお互いに言い合うタイプでもないんですけど、「ブクガを観て、頑張ろうと思った」って(笑)。それを聞いて、「そっか、わたしたちは頑張ってきたのか」って思いました。でも、4年もかけたら、それは形にならないとダメだよな、とも思って。これから4年かけてもっとよくなる、とか言ってる場合ではないじゃないですか。4年かけたらいいものにはなるかもしれないけど、今はそれとは違うことを求められている。そこに気づいてしまったから、問題は山積みです。

──さっき『海と宇宙の子供たち』を勝負作だと言ったけど、このアルバムの先のブクガをどうイメージしているかを聞きたくて。どこでライブをやりたいとか、何枚売れたいではなく、ブクガとして、どういう姿でありたいか、という。

コショージ:わたし的には、このアルバムが出て、1月5日にLINE CUBE SHIBUYAでライブをやったら、もう少し自分の中で明確に見えるかな、と思います。今の時点では、たぶん答えは一個じゃないです。だから1月5日に向けて、今はとにかくやることをやる。そうしたら、道がひとつになるんじゃないかな、と思ってます。

──なるほど。では最後に、次のインタビューのメンバーにメッセージを。これがラストなので、トップバッターの井上唯さんに一言。

コショージ:番組を録画してくれてありがとう。

──何を?

コショージ:音楽の特番とか。ライブがあるときに打ち合わせがあって、家に帰れなかったときに、唯に言ったら録画してくれてたんです。だから、ありがとう。井上は、優しいですよね。でも、若干舎弟感もあるんです。ほんの少し、ほんのりとある。一番強そうだけど(笑)。

次回(サクライケンタ インタビュー)は12月18日配信予定です。
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取材・文=清水大輔