大人気「Fateシリーズ」の15周年画集発売! TYPE-MOON・武内崇インタビュー

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更新日:2019/12/25

「Fate/stay night」発売から15年。アプリゲーム「Fate/Grand Order」で誰もが知る人気コンテンツとなった「Fate」シリーズ。12月25日「Fate/stay night」誕生15周年を記念した豪華イラスト集『Return to AVALON -武内崇Fate ART WORKS-』が発売された。今回は、その「Fate」シリーズをビジュアル面より牽引しつづけるTYPE-MOON代表の武内崇に直撃。本画集の構想から制作までの思いや、描きおろしの取材のため訪れたイギリスに関してなど語って貰った。

構想7年 「Return to AVALON」が生まれるまで

――画集「Return to AVALON」の企画の発端について教えてください。

武内(崇): 2012 年まで遡るのですが、定期的に KADOKAWAとの打ち合わせをしているメンバーに、休暇でイギリスに行ってきた編集者がいまして……この画集の担当で、今もこのインタビューをしている人なのですが。彼からイギリスでの旅の話や写真を見せてもらっているうちに、その頃、自分も少し作業時間のゆとりが出てきたということもあり、イギリスを題材にしたイラスト本を作ろうという話が動き始めました。

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 以前、自分と漫画家の小林尽さんとで「京都、春」という「女の子と風景」をコンセプトにした同人イラスト本を作ったことがあり、これと同じ方針で、イギリスの風景と「Fate」のキャラクターの本が作れるのではとの思いがありました。

 その後、編集者がもう一度イギリスに行ってくれて、アーサー王伝説の縁の場所や美しい景色の名所の情報を集めてきたので、それをもとに2013年夏、私と奈須きのこと KADOKAWAの3名の編集者で 9日間の取材旅行に行ってきました。

――取材を経て、どのタイミングから今の「Fate」画集へと変わっていったのでしょうか?

武内:取材旅行の後ぐらいから、様々な企画が動き出して、私自身が、結構忙しくなってしまって……ただ、そんな中でも少しずつ絵作業を進めながら、このイラスト本の企画を成立させるには、どうすればよいのか、ずっと考えていました。その結果「イギリス紀行」のイラストたちを何かと併せて1 冊の画集の形に出来たらという発想に至り、折よく2019年に「Fate/stay night」が15周年を迎えるということもあって、これらを「Fate」の集大成として画集にするという、今の企画にまとまりました。

自らの手で行う選別と構成。長年、支えてくれた方々への想い

――イギリス取材旅のお話は、この後たっぷりとお話いただくとして、次に画集の内容についてお聞かせください。今回の画集で、武内さんは内容や構成にも関わっているとのことですが?

武内:自選画集ということだったので、膨大な過去絵から収録する絵を選び、それをどういうコンセプトで本に掲載していくか、どの順番に並べるかを完全に監修させてもらいました。

――膨大な絵を選別していくのは大変だったのでは?

武内:当初はページ数もそこまでではなく「Fate」イラストのベスト版のように考えており、かなり絞り込んで選んでいたのですが、やはり集大成であり決定版ということであれば、なるべく多くの版権絵を入れようと思い、画集として成立する範囲で出来うる限りの、いい絵を入れさせていただきました。

――過去15年以上の絵を一気に見て、どのように思いましたか?

武内:いっぱい描いたなあと思いましたね(笑)

「カーニバルファンタズム」の特典や「Fate/stay night+hollow ataraxiaセット」の付録、「Fate」の全素材をまとめたマテリアル本など、今までいろいろな形でイラストを纏めた本は制作してきましたが、今回はそれらの本と同じ見え方の構成にならないように、頭を捻りながら絵のチョイスもさせてもらいました。

――今回の画集は奈須さん含む、TYPE-MOONスタッフも関わられているとのことですが。

武内:今回の画集のコンセプトの一つとして「展覧会を巡る」というものがあって、色々なテーマの部屋を廻ることで、作品や絵について様々な再発見をして欲しいという意図があります。奈須には、この各章(部屋)の冒頭に添えるテキストをお願いさせて貰いました。

 短い文章ですが、読者の背中を押して「展覧会を巡る」という流れを生み出してくれる大切な文章となっています。

 また、収録されている各イラストはTYPE-MOON のスタッフや多くのクリエイターさんに彩色や背景を担当して貰っています。彼らがいてくれたからこそ、今が成り立っているといっても過言ではありません。特に、こやまひろかずというクリエイターが「Fate」に長年に渡って輝きを与えてくれたこと、それによって「Fate」が今も続くシリーズになっているということが改めて感じられる画集になっていると思います。巻末には、収録イラストごとに、担当してくれたスタッフがすべて掲載されているので、じっくり見てもらえると嬉しいですね。

――関わってくださったといえば「イギリス紀行」の背景はアニメスタジオのufotableが手がけているということですが。

武内:企画当初は「キャラ」を中心に置くか、「風景」を中心に置くかで少し悩んでいました。ただ「京都、春」でもそうだったのですが、いい場所(背景)にキャラを馴染ませていく方法が良かったので、まずはどなたかにいい背景を描いてもらおうということになりました。そこで「空の境界」「Fate/stay night [unlimited blade works]」のアニメでお世話になっていた ufotableさんに相談したところ、快諾していただきました。

――ufotableによって描かれた美しい背景を見た印象はいかがでしたか?

武内:基本は取材での写真をもとに背景を描いて頂いたのですが、ufotableに絵に起こしてもらったことで、そこからすごく温かみが立ち上がってくるのが感じられました。現地で取材してきた身としては、この背景を見ただけで、風景にキャラクターたちが居るというイメージが湧き上がってきて、とても手ごたえがありました。

――野暮を承知でお聞きしたいのですが、過去の絵から特に思い入れのある絵がありましたら教えてください。

武内:少し質問の趣旨とは異なりますが、基本的に作品のパッケージやキービジュアルなどは、目的や用途によって必要な要素をじっくり考えて形にしていくことが多いです。その一方で過去には自分の情緒やリビドーで描きあげた絵もあります。p88の「魔法使いの夏休み」コンセプトイラストや、p76の「TYPE-MOONエースVOL.8」は特にその要素が強く押し出されていて、今でもお気に入りの絵です。

左:「魔法使いの夏休み」 右:「TYPE-MOONエースVOL.8」
武内崇のお気に入りという2枚。その全貌は本書にて確認しよう。

――また武内さんと言えばけして外せない、セイバーというキャラについて。彼女を描き続けて、ご自身の中で変化など感じることはありますか?

武内:絵柄や服装にはその時の自分の好みが反映されていますが、キャラクターとしてはFateルートのラストの印象まま、何も変わってはいません。セイバーの物語は15年前に描き終えているわけですが、今でもシリーズ全体の顔役としてずっと描き続けられているということは、キャラクターを考え、描いている者としてはありがたい限りで、本当に恵まれた15年間だったと思います。

イギリス取材旅行の思い出をイラストに

――「イギリス紀行」ですが、取材前にイギリスに抱いていた印象などはありましたか?

武内:一度はイギリスのグラストンベリーに行って、アーサー王のお墓参りをしたいという気持ちと憧れがありました。

――実際に行ってみたら、いかがでしたでしょうか?

武内:とにかく、面白かったです。どこを撮っても絵になる所ばかりでした。まず降り立ったロンドンは、見どころばかりで、ひたすら歩きまわった記憶があります。おかげでクタクタになりましたが。次に行ったオックスフォードは、街全体が大学という規模感に驚かされ想像力を刺激されました。コッツウォルズでは、田舎の羊の群れを撮影したり、マナーハウスという貴族の邸宅を改築したホテルに泊まれるという最高の経験ができました。自分の中でも驚きがあったのが、画集でも何枚か描いてますが、建物と自然が本当に美しいバースの街ですね。行く前までは聞いたこともない街だったのですが、今では何度でも行きたい場所です。そこから北上し、スコットランドのエディンバラでは、着いた瞬間から濃い霧に包みこまれて、まったく先が見えない中を車で進んでいくと、真っ黒な石造りの塔や聖堂が現れるという、幻想的で最高のシチュエーションを味わえました。

 そんな旅の中で一番印象に残っているのがグラストンベリーです。トーア(丘)に登って観た風景は、まさに今回のカバーで描いたイラストそのものでした。また青空の下と、美しい芝生にたたずむ朽ちた修道院の傍らにアーサー王のお墓がひっそりとあったのを見たときは、本当に来れてよかったと思いました。

 途中いろいろとトラブルもありましたが、それも含めて自分としてしっかりと目的もあって動けて、最終日の夕食ではサプライズで自分の40歳の誕生日まで祝ってもらえるという、人生の中で最高といってもいい楽しい旅でした。そんな楽しい旅の雰囲気や印象ある風景は、絵にしてこの画集に入れることが出来たと思います。

――イギリスの食事はいかがでしたか?

武内:もう6年前になりますがイギリスに行く前までは周囲から「イギリスはご飯が美味しくない」と言われ続けていたのですが、実際には、すごくご飯が美味しかったですね……ロンドンの一部を除いてはですが(笑)。最近は、そのロンドンでさえもマズイ飯屋は減っていると聞きますし。

「Return to AVALON」でしか味わえない体験を

――作業を終え、画実際に手にとってみて今の心境はいかがでしょうか?

武内:先ほど話したとおり、これまで「Fate」の画集っぽいものはいくつか作ってきたこともあり、当初はあまり目新しく見えないのではという心配がありました。この本としての価値をどう見出してもらえるか、構成だけでなく、デザインに関してもデザイナーのWINFANWORKSさんと小まめに打ち合わせをしながら進めていきました。いざ完成して見てみると、頑張った甲斐あって手前味噌ですが、良い本になってくれていると思います。制作時の紆余曲折や考えたことが、読者の皆さんにとっていい形になってくれているといいなと思います。

――最後に「Fate」シリーズのファンに向けて何かコメントありましたら、お願いします。

武内:「展覧会を巡る」というコンセプトで、もう一度「Fate」の絵に触れる体験をして欲しいという思いで本書を構成しました。また、主にキャラクターの顔の部分ですが、収録にあたってイラストにも可能な限り修正を加えていますので、見慣れた過去の絵も新鮮に感じてもらえるのではと思います。Fateシリーズの最新作となる「FGO」のイラストも収録し、Fate15周年の集大成と語るにふさわしい画集となっておりますので、昔から「Fate」が好きな人も、最近「Fate」を好きになってくれた人も、手に取ってもらえると嬉しいです。

取材・執筆:藤原賢

Return to AVALON -武内崇 Fate ART WORKS-
●発売中● 定価: 4,400円(本体4,000円+税)円+税 ●KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000912/
著者:武内 崇

特設サイト:https://promo.kadokawa.co.jp/fate-returntoavalon/

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