福井晴敏が語る、「宇宙世紀ガンダム」の歩みと未来③~『Zガンダム』『逆襲のシャア』が果たした意義~

マンガ・アニメ

2019/12/27

©創通・サンライズ ©創通・サンライズ・MBS

『機動戦士ガンダム』の40周年を記念し、ガンダムシリーズより「宇宙世紀」の作品をスペシャルプライスでリリース中の「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ」。12月25日には待望の『機動戦士ガンダム』と『機動戦士Zガンダム』の劇場版が同ライブラリーズに加わり、宇宙世紀ガンダムのコンプリートに向けていよいよその厚みを増しつつある。

 そんなライブラリーズの特典として注目なのが、『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』へと至る宇宙世紀を描いたガンダム・シリーズ全ての映像を、新作パートを交えながら再構成した新映像『機動戦士ガンダム 光る命Chronicle U.C.』だ。ダ・ヴィンチニュースでは、この『光る命』のシナリオを書き下ろした福井晴敏のロングインタビューを敢行。『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』を筆頭に数々の作品でガンダムの物語を綴り続けてきた福井に、壮大な宇宙世紀のガンダムサーガについて語り尽くしてもらった。ライブラリーズの副読本として、宇宙世紀ガンダムの総括として、そして「UC NexT 0100」への助走としてお楽しみいただきたい。

 第3回となる今回は、『Z』から『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』までを語ってもらった。ファーストガンダムの流れを汲むシャアとアムロの物語であり、宇宙世紀の言わば「幹」を成すこれらの作品が持つ意義とは。

『劇場版 機動戦士Zガンダム』

アムロもカミーユも100点満点に近い主人公

――『光る命』の中でもシーンを多く抜粋されていました『機動戦士Zガンダム』について、福井さんは『Z』がリアルタイムでご覧になった初ガンダムだったそうですが、『Z』はファーストガンダムとは比べ物にならないくらい複雑な対立構造、戦況が敷かれた物語です。それが逆に今の時代も色褪せないリアリティになっていて。

福井:うん、一連の中東紛争とかまさにそうですよね。特に2001年以降、ああいう『Z』の構造はわかりやすくなった。

――『Z』は現実のテロリズム、紛争のカリカチュアだという認識は当時もあったのでしょうか?

福井:あの当時もなんとなく、あったかもしれないですよね。『Z』の放送は85年。まだ米ソの冷戦が続いていて、ベルリンの壁もあった時代ですから。今みたいにテロ組織のようなものが国家とタメを張るような存在になる感じはまだなかったですけど……なんだろう、あの頃僕は全共闘とかそっちの方の日本映画をよく観ていたので、世界の構造がこうというよりも、これは要はあの頃の日本のカリカチュアだったのかなって思ってたんです。高校生だったんですけど、そうやって観てましたね。

 全共闘というのはやっぱり、世の中がおかしい、このまま俺は学校を出て会社員になっていいのかな、と理想を持ちつつ悩んでいた若者たちに対して、いや、社会は間違っている、こういう道もあるのだ、と言って勧誘して。でも、そこに入ってやらされることといったら、結局ゲバ棒持って警官に叩かれ、それがもっと末期になってくると考え方の違うもの同士で殺しあったりしたっていう。そういう世界というのは、まだあの時代には匂いとして残っていたんです。それこそ御茶ノ水の明治大学の前を通ると、大きな立て看板に成田闘争どうのこうのって書いてある時代でしたから。だから、それとリンクして観ていた気がしますよね、『Z』は。何も生まない、内輪もめにしか最終的に収斂するしかないこの不毛な争いに、カミーユっていう子は巻き込まれていってしまったんだなっていうのは、わりと初期の段階で気づいていた気がします。

――『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイと『Z』のカミーユ・ビダン、ガンダムの最初期を担ったふたりの主人公をどう評価されていますか。

福井:物語の主人公としては、いわゆる作劇において、お客さんに対して世界を紹介していきながら、自分の物語を生きていくという意味では、両者とも本当に100点満点に近い主人公ですよね。アムロのファンの印象がすごくいいのは、(②で語った)ロマンの部分にちゃんと軸足を置いた、いわゆる王道の物語として見てもなんの遜色もない主人公像を、きちんと提示していたからです。当時のロボットアニメの文脈で言ったら、あんないじけてて内気な主人公は珍しかったというアニメ論評をよく目にしますけど、普通の人はアニメしか観ていないわけではないんですよ。さまざまな映画や本の中のひとつとしてガンダムを観ていた人たちにとっては、内気でいじけたアムロは普通に感情移入できる存在だったはずです。世の中の様々な物語の中で「内気な主人公」というのは成功パターンのひとつでもありますから。

 これに対してカミーユは、『Z』という物語の主人公としては間違いなく100点満点の働きをしていますけど、ただしそれは前衛劇に近い面もあり……一般の人がカミーユに対して気持ちがわかる部分があるとしたら、フォウ(・ムラサメ)のところだけじゃないですかね。

――どこに感情移入すればいいかわからないという。

福井:と、いうことになっていたと思いますね。ただ僕の感覚では、当時の高校生からすると、極めてシンクロ率は高かったですけどね。現にそれから数年後に、尾崎豊がああいう形で命を落として、非常にカミーユ的な最期を遂げたこともありましたけど。あの時代に高校生をやっていたら……そう、ちょうどあの頃ですよね。「キレる」っていう言葉が流行り出したのは。キレずにこの時代に高校生なんかやってられるかよっていう気分が、どこかにあったと思います。

――例えば福井さんが『UC』でミネバ・ラオ・ザビを主人公のひとりとして登場させたことで、『機動戦士ガンダムZZ』の内容に繋げて行くという意図はあったんでしょうか。

福井:いや、『ZZ』への意図でミネバを主人公のひとりにしたというのは、今言われるまで意識の片隅にもなかったです。でも、今の話で言うと、『UC』で気をつけたのは、今回の『光る命』もそうですけど、フィルムとして現れたものは否定しないっていうことです。そういう流れの中で『ZZ』もきちんと受け取っていきましょう、と。

『逆襲のシャア』があまりにも『ZZ』の話をすっ飛ばしてしまっていて、まあそれは映画の2時間の尺に収めるためだった、というのは理解できるんですけどね。でも、それで一部のファンは『ZZ』はもうなかったことになったんだっていう受け取り方をしていて、「いや、そこは全部受け取っていきましょうよ」と。なぜならガンダムの宇宙世紀の歴史って、都合のいいことばかりではなかったので、そうしたほうが世界に厚みが出る部分がありますし。あと、何しろこれだけモビルスーツやキャラクターの財産があるんだから、それをそのまま埋もれさせてしまう手はないよっていう。その両方の意味で『UC』をやった結果、これまであまりにも無視されてきたがためにそれが悪目立ちしてしまった部分もあるのかもしれないけれど。

『機動戦士Vガンダム』

「で、結局どっちが勝ったんですか?」っていうことに対して、誰も答えられないのが『逆襲のシャア』なんです

――また、『光る命』には時系列とは関係なくさまざまなガンダムのシーンがインサートされていきますけど、あの場面のセレクトも福井さんが?

福井:そうですね。大変でした。特に『Vガンダム』は全然記憶がなかったんで、もういっぺんあの50話を見返すところからのスタートでしたから。あれ、何が大変だったかというと、これは裏話なんですけど、バラ素材っていう、音楽とかセリフがバラに分かれている素材が残っていないんですよ。少なくとも『F91』『Vガンダム』はまったくなくて、残ってるのはBlu-rayの、みなさんが持っているのと同じ映像素材だけで。なので、音楽がかかっていたり、効果音が被さっていたりするシーンのセリフは使えない。それって、映像作品を滑らかに見せていく上では本当に難しい制約なんですよ。

――そうした物理的な制約、時間的な労力とは別に、シーンのチョイス自体は迷われなかったんですか?

福井:ざっくりこういう方向性でいこう、というのは最初に組み立てて、セリフを箱書きみたいな感じで考えて、ここでモビルスーツのまとめ、ここはこういう感じの映像のまとめ、という風に事前に想定して、そこに合うシーンをセレクトしていったので。ひとつひとつ観ながらどうしようかなってやっていたとしたら、きっと今でも完成していないですね(笑)。

――実際、『光る命』の内容では時系列がむちゃくちゃのはずなのに、すごく滑らかに話が流れていきました。

福井:苦肉の策の部分もありますよね、あれ、時系列通りにやっていったらおそらくパンクしちゃうかなと。初めてガンダム作品を観る人にとっては、特にそうだと思います。それよりもむしろBGV(バックグラウンドビデオ)みたいなつもりで観ていってもらって、少しずつ印象に残っていくことが積み重なっていくといいな、と思ってました。

――アムロとララァの対話の中で、「シャアって本当に困った人よね」みたいに、しみじみ思い出語りしているのもいいですよね(笑)。

福井:あれね、ララァが田舎のおばあちゃんみたいな感じなんだよね(笑)。

――『光る命』の中でも取り上げられていた、福井さんの『逆襲のシャア』に対する評価は。

福井:最初に観た時は……その頃ってもうガンダムを卒業して久しかったんですけど、今作は長年の因縁のふたり、アムロとシャアの最終決戦にすごく惹かれて、「これは観なきゃ」となって劇場に行ったんです。で……もちろんひとりのファンとしては楽しめたのですが、ひとつ気になるのが「で、結局どっちが勝ったんですか?」っていうことに対して、誰も答えられないっていう。勝ち負けじゃない地平に行ったらしい、ということだけはわかったんだけれども。

――とにかく、アクシズは落ちなかったけども……という。

福井:っていうね(笑)。でもやっぱり、なんでこの人ここまでヒリヒリしているんだろうっていう。あのシャアの言動とかを観ているとね。それはやっぱり作り手の投影そのものだったと思うし、あの、無我夢中で叫んでいるところはちゃんと耳に入ってきましたね。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』

νガンダムはシックで大人っぽい。アムロが乗っていることまで含めて、新たな象徴的なガンダムになっている

――ファーストガンダムの頃よりも子供じみていますよね、シャアが。

福井:本当にそうなんですよね。でもその辺もなんか、この歳になるとリアルだったりします。当時のシャアはまだ30そこらの若さなんだけど、彼自身は50歳くらいの気分だったんでしょうね。そこにはもちろん富野(由悠季)さんご自身の投影もあっただろうし。当時はバブルの真っ只中、そこからさらなる狂奔に、そしていきなりの終焉を迎える時期でもあったし。だからあの時期に作られた意味としては、時代との親和性が高かった作品だと言えると思います。

――狂気のシャアの一方で、アムロは大人になっていますし、アムロが乗るνガンダムも大人向けガンダムというか、当時は少し地味な印象がありましたが。

福井:でも、この前のNHKの「ガンダム総選挙」を観てたら、1位はνガンダムでしたしね。なにしろ今、10万円するνガンダムの高級フィギュアが人気すぎて買えないっていう状況ですから。当時は地味に見えたんだけれども、逆にあの当時のリアルタイム世代からすると、なんだろう、ファーストガンダムはもうさすがに恥ずかしいかなっていう、デザインとしてね。あれにはもう乗れないかなっていう時に、νガンダムくらいシックで大人っぽいデザインで、さらにはアムロが乗っていることまで含めてちょうどいい、新たな象徴的なガンダムになってる感じはしますよね。

――大人ガンダムなんですね。

福井:そうですね、間違いなく。それに『逆襲のシャア』自体が『UC』の周辺効果もあって、『UC』の1巻目がBlu-rayで出た時に併せて1万本くらい動いたこともあってですね。あの頃から宇宙世紀の0090年代っていうところの商圏がジワジワっと広がっていく中で、『逆襲のシャア』がその最右翼にいたんで、商品として再びすごく売れるようになった印象はありましたね。

――確かに、『UC』は『逆シャア』を観ていないと、ちょっと分からないですよね。

福井:うん、最初のガンダムから観るのは流石に厳しいなっていうのはあるんだけれども、この直前のやつくらいは、なんだか『UC』の中でみんながこんなに問題にしているアクシズなんたらっていうのは一体なんだ?っていうことくらいは確かめたいだろうし。それに前に観ていた人ももう一度観返すし、初めて観る人もいるっていう動きは当時ありましたね。

取材・文=粉川しの

第4回は12月28日配信予定です
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福井晴敏(ふくい・はるとし)
作家。代表作として、『Twelve Y.O.』『亡国のイージス』『終戦のローレライ』『戦国自衛隊1549』など。2000年、『ターンエーガンダム』のノベライズを発表、以降ガンダムシリーズのさまざまな作品に深く関わり続けており、『機動戦士ガンダムUC』(小説)、アニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』(シリーズ構成)、映画『機動戦士ガンダムNT』(脚本)、漫画『機動戦士ムーンガンダム』(ストーリー)などを担当している。

U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズとは?
『機動戦士ガンダム』40周年を記念して、ガンダムシリーズの宇宙世紀作品がスペシャルプライスでリリース。各作品に、すでに発売されているBlu-rayブックレットなどの資料から厳選されたデジタルアーカイブを収録。また、全タイトルに、新規映像特典『機動戦士ガンダム 光る命 Chronicle U.C.』のディスクも付属する。

●発売中
機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート
機動戦士ガンダム0083 ―ジオンの残光―
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
機動戦士ガンダムF91
価格:各3,800円(税抜)

●12月25日発売
劇場版 機動戦士ガンダム
劇場版 機動戦士Zガンダム
価格:各10,000円(税抜)

●2020年2月27日発売
機動戦士ガンダム 第08MS小隊 価格:16,000円(税抜)
機動戦士ガンダム MS IGLOO 価格:12,000円(税抜)
機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 価格:8,000円(税抜)
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY 価格:18,000円(税抜)

2020年9月からは『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』までの宇宙世紀TVシリーズ作品も発売決定! 詳細は公式サイトをチェック!
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