「小児性愛」という病――大型ショッピングモールのトイレなど死角が性被害の犯行現場に。無抵抗な男児も狙われる現実

社会

2019/12/27

『「小児性愛」という病―それは、愛ではない』(斉藤章佳/ブックマン社)

 幼い子どもたちが性被害に遭う事件があとを絶ちません。どうして彼らは犯罪行為を起こすようになってしまうのか、なぜ子どもに性加害を繰り返すのか、小児性犯罪者の心理や認知の歪みを治療の中でヒアリングして再犯防止プログラムを行う、『「小児性愛」という病―それは、愛ではない』(ブックマン社) を上梓した精神保健福祉士、社会福祉士の斉藤章佳さんに話を聞きました。

■「子どもへの性加害」をテーマとした理由

――斉藤さんはこれまでに「性依存症」「痴漢」「万引き」についての本を出されていますが、今回「子どもへの性加害」をテーマとして取り上げたのはどうしてなのでしょう?

 榎本クリニックで日本で初めて「性犯罪再犯防止プログラム」を始めたのは、約13年前アルコール依存症で通院していたMさんという人がきっかけだったんです。Mさんは3年間お酒をやめていたんですが、ある日突然クリニックに来なくなったので、再飲酒つまり「スリップ」をしたのかと思って待っていたら、1週間後警察から「Mさんを逮捕勾留している」という連絡があったんです。早速、面会へ行ったところ驚くべき事実を聞かされました。実は、酒が止まってしばらくしてから子どもに対する強制わいせつをかなりの件数繰り返していて、実は過去にも同じことで逮捕された経験があると言うんです。それで相当ショックを受けて、いろいろな人にアドバイスを求めたり、論文や文献をリサーチしたのですが、当時は小児を対象とした性的嗜好である「ペドフィリア」への対応について詳細な記述のある書物がなかったんです。

 それでアルコール依存症の自助グループ(AA)に参加していたある日、彼らのバイブルである『アルコホーリクス・アノニマス(通称ビッグブック)-無名のアルコホリックたち-』(NPO法人 AA日本ゼネラルサービス)に、「われわれは酒を止めてしばらくたってから自分の本当の問題に気づいた。それは性の問題だった」というくだりがあることを知って「これだ!」と衝撃を受けたんです。

――斉藤先生の勤務する榎本クリニックでは、2006年から痴漢や盗撮、強制わいせつ、強制性交といった性犯罪を繰り返す人を対象とした専門外来を日本で初めて開設されました。

 2004年に「奈良小1女児殺害事件」があり、犯人のKも過去に児童への強制わいせつ事件を繰り返していて、それがMさんとも重なりました……。当時、小泉純一郎総理が国会でこの事件を取り上げ、すぐに法務省で有識者会議のメンバーが中心となり研究会が立ち上がり、2006年に刑務所で「性犯罪者再犯防止指導(R3)」が始まったんです。当クリニックでも同じ時期にプログラムがスタートしました。

 しかし子どもへの性加害者は、他の性犯罪者と同じグループでは正直な話をしてくれません。変な話ですが、刑務所内のヒエラルキーは一番上が殺人犯とヤクザ、一番下が性犯罪者で、その性犯罪者の中でもヒエラルキーがあって、ペドフィリアが一番下なんです。最も男らしくないということです。なので、痴漢や盗撮をした人が「俺たちはあいつらとは違う。あいつらは頭がおかしい」というようなことを言うんですよ。外からは「君らが言うな!」と言いたくなりますが……そういう意味では、ペドフィリアは世界でもっとも社会から排除されてしまう人たちなんです。彼らが同じ問題を持った仲間とつながれ、正直な話をできる場所を作らないといけない、ということで2018年から小児性犯罪に特化した治療グループを立ち上げ、これまでに受診された方の詳細なヒアリングをもとに本書をまとめました。

 そしてこれは個人的なことなのですが、私にも子どもが生まれたこともありますね。それがきっかけで防犯の無料アプリをスマホに入れているのですが、子どもに対する事件の情報がしょっちゅう入ってくるんですよ。露出、つきまとい、触る、写真を撮る……これだけいろいろなところで起きていて、しかも暗数(事件化、表面化しないケース)も多い。こうしたこともあって、子どもへの性加害を取り上げることにしたんです。

■子どもが「受け入れてくれた」という自分に都合のいいストーリーはなぜ作られるのか?

――2019年12月には「新潟小2女児殺害事件」の被告に無期懲役判決が出た(その後、一審判決を不服として被告と検察が控訴、東京高裁での審理が続くことになった)ニュースがありましたが、子どもへの性加害では重大な事件がたびたび起こっていますね。

 依存症もそうなのですが、こうした人たちは排除されればされるほど、孤立化すればするほど再発(リラプス)率が上がるんです。いろんな性犯罪の中でも子どもへの性加害はもっとも再犯率が高く、法務総合研究所の報告では、過去2回児童に性犯罪をした人の再犯率は80%を超えています。子どもへの性嗜好や加害欲求という「小児性愛障害」という精神疾患を持っている人が適切な治療にもつながれず自分の内面を話すことができず排除される中で生活していき、再犯してしまうんです。従って、彼らに必要なのは社会から排除することではなく、刑罰と適切な治療なんです。

――本書を読むと、加害行為中に抵抗しなかったことを「受け入れてくれた」「涙を流して喜んだ」と語る当事者がいます。恐怖で動けなくなって体が動かなくなったり、声が出なくなったり、痛みを感じにくくなる「フリーズ」の状態を曲解するなど「認知の歪み」が本当にひどいです……。

 最近では「Tonicimmobility=擬死反応、強直性不動状態」という言葉で言い表される場合もあります。これは性別、年齢を問わず、性暴力被害者に広く見られる現象なんです。

 子どもへの性加害を「純愛」や「性教育」と誤認している人もいます。そうした自分に都合のいいストーリーを作ることの下地には「児童ポルノ(実写版)」や「二次元(漫画、アニメ、ゲームなど)」の存在があります。本書で対談した当事者のケンタロウさんは、子どもへの性嗜好をある程度の年齢まではっきりと意識したことがなかったそうなんですが、大学生のときにある書店で成人男性が男の子を性虐待しているマンガを目にして「これが俺の生きる道だ!」と衝撃を受け、そこから子どもへの性加害、海外への児童買春という行動化までそれほど時間がかからなかったといいます。もちろんそれを見たからといって必ず行動化するというエビデンスはありませんが、当クリニックに通院している人の多くは「児童ポルノは性加害の引き金になる」と語っています。

 児童ポルノには被写体になった「被害者」がいます。場合によってはケンタロウさんのように二次元ものを愛好している間に実際に本物の児童へ行動化する人もいます。彼らは特に実写版と二次元を使い分けていないようです。ただ実写版は単純所持や製造で逮捕になるため扱いは慎重にしているようです。ペドフィリアの発生原因は様々な要因が複雑に絡み合っているといわれています。私自身は「児童への性欲」に矮小化してとらえるのではなく、社会モデルで捉えることがポイントだと考えています。本人自身のストレス脆弱性(原家族の機能不全やいじめ被害、自己評価が極端に低い、成人女性との関係での挫折体験など)と日本の社会にある「歪んだ認知(子どもを性の対象として消費していい、男尊女卑的価値観)」を、成長するに伴って学習し内面化することとそれを実際に行動化しながら――この行動化にはマスターベーションも入ります――強化していくことで歪んだ認知を育んでるという「学習された行動」という概念を重要視しています。詳しくは本書にありますが、遺伝的な要因を主張する研究もあるようです。

 しかし仮に遺伝的な要因があったとしても、子どもが被害に遭うわけですから、小児性愛障害の病気の治療を受けるべきだと思いますし、学習された行動という観点から見ると、日本の社会にある女性蔑視や男尊女卑も含め、子どもを性対象としていいという価値観をどのように変えていくかが重要です。

 またセクシャルマイノリティである「LGBT」と同じ文脈で扱うべきだと「LGBTPZN」(※)を主張する人もいるのですが、LGBTは「性自認」や「性指向」です。ペドフィリアなどは「性嗜好」であり、場合によっては被害者もいることですから、仮に遺伝であっても同じ文脈で語るべきではありません。

※P=ペドフィリア(幼児や小児を対象とした性的嗜好) Z=ズーフィリア(動物を対象とした性的嗜好) N=ネクロフィリア(死体を対象とした性的嗜好)

 2018年には児童ポルノのDVDを購入した疑いで約870人が書類送検されたことがありましたが、そのうち少なくとも約20人が強制わいせつなどの疑いで逮捕されました。「20人なら少ないだろう」という声が聞こえてきそうですが、子どもへの性加害は関係性を作って同じ子に何度も繰り返すことがあるので、一人の子がかなりの回数の被害を受けていたり、事件化していない暗数も相当あるはずです。

――2014年、児童ポルノ禁止法が改正され、所持・保管への罰則も新設されました。

 1990年代、世界の8割の児童ポルノが日本にあると言われていて、法整備されようやく対策に乗り出したというところですが、彼らにヒアリングしてみると「2020年は『VR』と『児童のセックスドール』の時代」と言っていました。これらは児童ポルノ禁止法の規制の対象ではないんです。

――そのような自分にとって都合のいい認知の歪みは、本書のタイトル『「小児性愛」という病――それは、愛ではない』に表れていますよね。

 これは明確に書いておきたかったんです。子どもの事件があると加害者に「小児性愛」と表現する人が多いのですが、そこに「愛」はないんです。愛というのはお互いの親密性と信頼関係の上で成り立つものです。子どもは愛だと思っていません。またいまだに「いたずら」と表現する人がいますが、性暴力は圧倒的な力関係の中で、支配とコントロールのメカニズムから派生するものです。ですから今後はこの著書をきっかけに「小児性愛」ではなく、「小児性暴力」「小児性犯罪」という言葉へ変えていきたいですね。

■子どもには被害に遭いそうな危ない場所を一緒に共有することが大事

――帯の文章を読むだけで気持ちが削られそうになりますが……最後の斉藤さんと当事者であるケンタロウさんの対談まで読み通すことで、彼らがどういう人で、どう考えていて、現実に何が起き、これから何をしなければいけないのかわかりますね。小さなお子さんのいる親御さんも必読と感じました。

 ペドフィリアはもっとも実態が知られていない、どんな人なのかわからないというのが大きいですね。彼らはどんな人で、どういう場所で犯行を重ねるのか、その人たちが再犯しないためにはどうすればいいのか、そうした実態を多くの人に知ってもらうことが大事だと考えています。子どもは親だけでなく、社会全体で守らないといけない存在です。本書で取り上げている事例は強烈なので、各所からすでに気持ちが萎えて先に進めないという感想もいただいているんですが、読み進めてもらえば少しずつ未来へ向けた話になっていくので、しんどいとは思いますが、コンディションを整えて最後まで読んでもらいたいですね。

 また私自身が彼らにヒアリングをしていて「先入観や常識、思い込みがあったな」と驚いたのが、女児だけではなく、男児もかなりの数が性被害に遭っているということでした。実は、男児の児童ポルノはとても多いんですよ。男児を狙うのは同性愛者だからという理由ではなく、男児の方が無抵抗、無警戒だからなんです。トイレで待ち伏せしてスマホゲームなどを使って個室に誘い、身体を触わられたり、陰部を舐められたり、口淫させられたり、ズボンをおろした状態で写真を撮られたりするんです。

 そして成人よりも子どもの方が声を上げにくい上に、彼らは必ず口止めをするんです。「僕たちだけの秘密だよ」「お母さんに言うと、悲しむよね」といったように、力関係を巧妙に利用するんです。大人をレイプする犯罪者の場合は写真などを撮って「ネットにバラまかれたくなかったら言うことを聞け」などと言うこともありますが、それともまたちょっと質が違うんです。しいていうなら、真綿で首を締めるようにゆっくりと追い詰めていきます。

――子どもへの性加害者はどんなところに潜んでいるのか、本書にも詳しくありますね。

 彼らは逮捕されやすい場所では絶対にやらないんです。死角になりやすい、人目につかない環境をリサーチして、そこで犯行を重ねるんです。つまり性犯罪とは環境への反応行動なのです。意外に多かったのは、大型ショッピングモールのトイレですね。あとはシネマコンプレックスの映画館のトイレはとても広いので、奥の個室におびき出した、ということを加害者からヒアリングしたことがあります。時間にしたら数分ですから、子どもが訴えなければ親も気づきません。またトイレ内には防犯カメラはありません。

 そして彼らは、いわゆる性犯罪者っぽい雰囲気がないことが特徴です。普通の格好のニコニコした、優しそうな人なんです。性犯罪者はよく「透明人間になる」と言うんですが、あまりに普通の人なので、景色に馴染んでしまうのでまずわからないです。今どき帽子にサングラス、マスクにロングコートという人なんていませんからね。なので防犯を子どもたちに教えるためには、怪しい人に気をつけなさいと教えるのではなく、危ない場所、時間帯、状況、環境を伝えることが大事だと考えています。なるべくなら子どもと一緒に防犯マップなどのアプリを使い、共有できるとなおいいですね。

 また子どもに関わる教員、保育士、塾の先生、インストラクター、ガールスカウト・ボーイスカウト、児童館など子どもにかかわる職員、そういうところで働いたことがある人など、子どもに触れる機会が多い職に就いている人が多い傾向があるのも特徴です。もともとそういう性嗜好を持っていてそれを基準に職業選択をするというケースと、たまたま就いた職が引き金になりパンドラの箱が開いてしまう人がいました。もちろんその職に就いている人がすべてそうだ、というわけではありません。

 ペドフィリアの人たちに共通するのは、アンダーヘアが生えているとまったく性的に反応しないことです。ある男性保育士は、三歳の女児のおむつ替えをきっかけに勃起していることに気付きました。そこから行動化が始まって、仕事の中で性加害を繰り返していました。最終的に事件化しました。3歳の子は何をされたのかよくわからないですし、言葉でもうまく伝えられないのですが、たまたま同じ職場で働いていた人がおかしいと気づいて発覚したそうです。

 子どもが力の強い大人、先生などを疑うのは難しいことです。しかしプライベートゾーンを触られるなど、スキンシップとしてちょっとおかしいなと感じたら、それが先生であろうと誰であろうと信頼できる大人(親)へ伝える、というルール決めをしておくことが大事ですね。

■子どもが被害を打ち明けたら、大人はどう対応?

――子どもが被害をカミングアウト、どのように対応したらいいでしょう?

 被害を打ち明けられたとき、最初の人がどう対応するかはとても大事です。子どもの性被害の実態を知らない人は「そんなことあるはずがない」「あなたも悪かったんじゃないの?」という反応をしてしまいがちです。特に親は「自分の子どもが性被害に遭った」と思いたくない、認めたくないので、そう言ってしまう傾向にあります。でも最初に「被害に遭ったあなたは悪くない、責任はない」ということが前提としてあれば、信頼できる他者に打ち明けていいんだと思える。最初に打ち明けた人に否定されると、それ以降打ち明けられなくなって、自分が悪かったからだと自責し、自尊心が根こそぎ傷つけられます。

 子どもは親を心配させたくないものです。性被害に遭ったことを言ってしまうと、今のこの幸せな生活がなくなってしまうんじゃないか、私のせいで家族が悲しい思いをするのではないかということから、自分が犠牲になって、「言わない」「我慢する」という選択をすることが多いんです。それでも打ち明けた、ということは子どもは勇気を出して言っているはずなので、大人や親はとにかく受け入れてあげて、よく話してくれたねと否定しないことが大事です。その上で市や区の性被害の相談窓口など適切な場所へつないでください。

「あなたは悪くない」

 教科書的な対応ですが、これが意外と知られていないんです。突然打ち明けられると、人間は動揺するものです。しかしきちんと相手の目を見て、傾聴できるかがとても大事ですね。

――そのためにはまず本書を読んで、子どもへの性加害の実態を知ることですね。

 彼らはペドフィリアであることを自覚したときのことを「パンドラの箱が開いた」と表現するんです。開けてしまったことで箱に封じ込められていた悪いことや不幸、禍(わざわい)が外へ出ていきますが、最後にパンドラの箱の底に残っていたのは「希望」なんですよね。加害者の実態は知られておらず、漠然としていて、モンスターのように感じている人もいる。でも彼らも我々と同じ人間なんです。どこにでもいる人間なんだということを知ることでちゃんと向き合って、「適切な治療」という希望につなげていきたいですね。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

[プロフィール]
精神保健福祉士 社会福祉士
斉藤章佳(さいとう・あきよし) 1979年生まれ。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。榎本クリニックにて、約20年間に渡りソーシャルワーカーとしてアルコール、ギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、虐待、DVなど様々なアディクション問題に携わっている。専門は加害者臨床。現在まで2000名を超える性犯罪者の治療に関わっており、著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』など。