伊野尾 慧(Hey! Say! JUMP)「あの情報が共有されてさえいれば、救える命があった、と思わないために」

あの人と本の話 and more

公開日:2020/2/6

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、伊野尾 慧さん。Hey! Say! JUMPのメンバーとして歌番組やライブで活躍するだけでなく、バラエティのMCや、Eテレの子供向け番組で声の出演をしたり。そんな伊野尾さんの活動には、大学時代の恩師の言葉や研究室での取り組みが役立っていた。

advertisement

伊野尾 慧(Hey! Say! JUMP)さん
伊野尾 慧(Hey! Say! JUMP)
いのお・けい●1990年、埼玉県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。07年よりHey! Say! JUMPのメンバー。出演作に、ドラマ『トーキョーエイリアンブラザーズ』『家政夫のミタゾノ』、映画『ピーチガール』など。『めざましテレビ』の木曜レギュラー、MCとして『メレンゲの気持ち』に出演中。

 逃げ地図。それは、足の悪い高齢者を基準にした避難地図のこと。災害時、どの道が安全でどれくらいの時間がかかるのか、地域の情報を持ち寄ってみんなで作る避難対策。

 伊野尾さんは、明治大学在学中、著者の一人である山本俊哉教授のもと、本書の基盤となる研究に携わった。

「東日本大震災が起きたとき、山本先生はいちはやく現地入りしていたんです。当時の僕は、テレビを通じてしか被災地の状況を知ることができないのに、コメントを求められたりすることに違和感を覚えていました。

 そうした思いを少しでも払拭したくて先生の研究室への配属を希望しました。アンケートを配り、被災当時の状況を子どもから年配の方々にまで聞いてまわって。最初は聞いてもいいのかという戸惑いもありましたが、現地の方々と密に交流することで心を通わせていく先生の姿にハッとさせられたんです。

 一緒に食事をしたり仮設住宅で悩みを聞いたり、調査という以前に相手に寄り添う姿勢があって初めて聞かせてもらえる話がある。何より先生がとても楽しそうで、コミュニケーションとはこういうことなのだと思い知らされました。

 人見知りで、“ジャニーズ”という先入観で見られたらと積極的になれなかった僕を、先生は変えてくれたんです。研究室での経験は、仕事にも大きく役立ちました。バラエティやドラマなどに出演する際、どんな想いで番組づくりをしているのか、スタッフさんたちの話により耳を傾けるようになったんです」

 その聞き取り調査から生まれたのが逃げ地図づくりプロジェクト。大事なのは地図づくりそのものよりも、皆で情報共有する場だという。

「近しい人でも考えるものさしは意外と違う。でも逃げ地図という一つの軸があると、全員が同じ目線で議論ができるんです。

 去年の大型台風のように、年々予期しない災害に襲われることが増えているのに、人はどうしても『自分だけは大丈夫』『自宅がいちばん安全』と楽観しがち。ハザードマップがあるからいいやと思うかもしれないけれど、同じ避難区域でも場所によって高度は違うし、地震か水害かによっても避難経路は変わってくる。

 地図に書かれていない通行止めの道だってあるかもしれない。そういう地元の人しかわからない情報を持ち寄って、もしもの場合を想定するだけで命を守れることがあるんです。平穏な今のうちに、多くの人に逃げ地図づくりに参加してほしいと思います」

(取材・文:立花もも)

 

『u&i』

『u&i』

毎週水曜 9:00~9:10  NHK Eテレ

発達障害や身体障害などの困難を抱える人たちの特性やマイノリティの存在を取り上げ、多様性への理解を深めることを目的とした子ども向け番組。伊野尾さんはサルの妖精シッチャカ(パペット人形)の声優を務める。「より多くの人に理解してもらうためにはどういう表現が必要なのか、さまざまな議論を経て作られる、この番組に関わったことで知ることができました」(伊野尾)