「人生は水平移動でもいい」ジェーン・スーさん、堀井美香アナの言葉が疲れた心にじんわりしみる!

文芸・カルチャー

2020/2/26

『これでもいいのだ』(ジェーン・スー/中央公論新社)

 ジェーン・スーさんの最新エッセイ集『これでもいいのだ』(中央公論新社)の刊行を記念して、2月5日にブックファースト新宿店で行われたトークイベント。ゲストは、ラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』(平日11~13時放送)で金曜日アシスタントを務めるTBSアナウンサーの堀井美香さん。気心の知れた2人のトークは、会場に笑いの渦を巻き起こした。その一部をレポートします!

■「オバさん」も「更年期障害」も言っていいのは自分だけ

ジェーン・スー(以下、スー) 今日の巻き髪はいいですね、艶がある。以前、あなたの18歳くらいのときの写真を見たけど、今とまったく同じファッションですよね。巻き髪にジャケット。同じ時代を生きてきたはずなのになんでこんなに違うんだろ。

堀井美香(以下、堀井) スーちゃんは、基本的にお洋服にお金かけないですよね。

スー かけない。美香ちゃんはどこで買ってるの?

堀井 デパートの最上階。

スー デパートの最上階! いまどきデパートで服買ってる私の友達、あなたとメラニーさん(※後述)くらいですよ。昔はデパートしかなかったですからね、服を買うところ。私は基本、ユニクロかGU。高いブラウスとか買ってシミがついたりクリーニングを出すのが苦行。

堀井 けっこうなお値段しますしね。

スー たぶん堀井さんとは、大学生のときに出会っていたら友達になっていないけど、40過ぎるとどんなに違うタイプの人間でも同じ枠に入って仲良くなれるから最高ですね。

堀井 生きてきた道も考え方も全然違うのにね。

スー 今だって、違いを突き詰めていったら殴り合いですよ(笑)。でもそれをしないでいるのがいい。白黒はっきりつけないというのがまさに「これでもいいのだ」ということ。誰に対しても、問題を真剣に詰めすぎると最後は一人になってしまうから。

堀井 棚上げですね。時間が経つと、すれ違いもいい感じに熟成していたりします。

スー 『これでもいいのだ』の帯には「思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。」って書いたんですが、どうですか。思ってた未来、生きてます?

堀井 いやー、ちょっと違いますね。頑張ってきたことがわりと報われていなくて、今も化膿している状態。このあいだもスーちゃんに話しながら号泣しましたよね。ステーキ屋のカウンターで(笑)。他人からはうまくいっているように見えるかもしれないけれど、そうじゃないこともたくさんある。

スー 第二の思春期に突入していますよね、我々。ちょっとしたことですぐ傷つく。更年期みたいなものでしょうか。

堀井 いろんなことが整理つかないんですよ。これまではやるべきことが明確だったのに、子育ても終わって、一気に見えなくなってしまったせいもある。がむしゃらな時期を終えて40歳を迎え、穏やかになるかと思いきや、みんないろいろありますよね。とはいえ、まわりから「それは更年期だよ」とか言われると、そんな簡単なものじゃない! って言いたくもなる(笑)。

スー 「オバさん」って言葉と同じですよ。自分で言って免罪符にするのはいいけど、他人に揶揄されるのは絶対に許しません。

■ストップ脳内上場! 自分の価値は自分で決めちゃだめ

スー ちょっと自己啓発みたいな話ですが、最近思うんですけど、自分の価値は自分で決めちゃだめなんだと思うんですよ。というのも、自分が大丈夫かだめかは全部他人が勝手に決めるから。ライムスターも言っていますが、評価を決めるのは時代と他人。だからこそ自分を見限らず、がんがん外の世界に出ていったほうがいいと思います。自分が何者なのかも、何が得意分野なのかも、勝手に人が決めてくれるので。だって私、文章を書いたりしゃべったりすることがお金になるなんて、思ってもみなかったですよ。

堀井 なるほど。

スー さっき言ったメラニーさんは高校の同級生なんだけど、彼女は20年間ずーっと、アカデミー賞を予想し続けているんです。その成果が最近『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』っていう本になりまして。わりと売れて、取材依頼も入り、注目されて喜ばしいことなんですが、彼女を土俵にあげるまでが大変だった。まわりがいくらすごいと言っても「こんな話は誰も興味がないよ」とか「見てりゃわかることだし、みんな知ってるよ」とか言うんだもの。知ってるわけないじゃないですか、オスカーの予想メソッドなんて。でも本人だけに自覚がなかった。そういうものです。アナウンサーも、発注ありきの仕事でしょう?

堀井 そうですね。自分で得意だと思っているものがあっても、お仕事の依頼がなければどうにもならない。

スー でしょう。とにかく、得意なことは人に決めてもらって、いいねいいね! って言ってもらえるところで頑張ってみると、少しずついろんなことが変わってくるんだと思う。

堀井 自分で決めてもだめだけど、他人が決めつけすぎてもだめですよね。私は管理職なので、この人にはこれが向いていそうとか、あの人にはこれがうまくやれるんじゃないかって予想しながら仕事を振り分けるんですよ。でも意外とそのとおりにはいかなくて、思いもよらない場所で思いもよらない人が成果を出したりする。

スー 要は、思い込まずに柔軟に対応しなきゃってことですよね。ちょっとした偶然が重なるだけで、流れは変わってくるから。

堀井 誰しも得意だと思っていることに限って視野が狭くなりがちだから、そのつど軌道修正していかないとね。

スー 我々就職氷河期世代は、まじめなんですよ。ベビーブームにオイルショックに、厳しい時代を生きてきたから、基本的に頑張らなきゃ! って思っているし、自分にできないことがあれば、できる人たちの中に入って認められるまで頑張ろう、って思っちゃう。頑張ればどうにかなると思いがちなんだけど、それが正解ではない場合もあるんだと、大人になってから気付きまして。自分でコントロールできないことがほとんどだから、劣等感を抱えながら向いていない場所でもがくより、ちょっとでいいから自分にできることを見つけて、その分野に飛び込んだほうが楽しいと思うようになった。そういえば先日、同じような話を別のトークイベントでしたときに「いつかスーさんと一緒にお仕事をするのが夢なんですが、夢を持ち続けるのはダメですか?」とラジオDJをされている方に聞かれたので、僭越ながら「全然関係ないジャンルで頭角をあらわしたほうが、一緒に仕事をするのはやいかもしれません」って答えたんですよ。

堀井 ほう。

スー 私も若いときなら、たとえばいつかジェニファー・ロペスと同じステージに立ちたいと思ったときに、ダンスの勉強をしたりアメリカに渡ったりして、近づく方法を探したと思うんですよ。でもこういう仕事をさせていただいてわかったのは、同じジャンルで正攻法をとるよりも、異業種からジャンプするほうがずっと早いということ。たとえば私がTwitterで「あの映画すごく楽しみ!」ってつぶやいたら「パンフレットにコラムを書きませんか」と依頼がくるように、向こうが私を宣伝に利用できるって思ったら声がかかるんです。声がかかるのは、私が映画業界の人間ではないからです。「これとこれを組み合わせたら面白いかな」と思われたから依頼がきたわけで。全然関係ないからこそ得られる、思わぬ特権っていうのがあるんだなと。

堀井 でも、声がかかるのは一部の人でしょう? 誰にも見つけてもらえない場合はどうしたらいいの?

スー やっぱり大事なのは、人と交わることなんじゃないでしょうか。脳内だけで自分の株を上場させていると、ずーっとストップ高なんですよ。自分しか買ってないから。でも自分以外の目に触れるところで売り出さないと、真価はわからない。一歩踏み出せば、他人の目を通じて自分の価値が見いだされることもあるかもしれない。逆に、これだけは誰にも負けないと思っていたことが、あっさり一蹴されてしまうことも、もちろんありますけどね。

■積み上げるだけが人生じゃない。水平移動でもいいことがある

堀井 私、バブルの終わりごろに秋田のド田舎から上京してきて、上昇志向の強い華やかな先輩たちと一緒にいたから、いつもついていくのに必死だったんですよ。女子大生生活を謳歌しているように見えていたと思うけど、必死で遊んでいた、という感じ。だから、結婚してからは母や妻っていう役割があるから、すごくラクになって。

スー というと? 

堀井 この役割を演じていればいい、やるべきことに向かってただひたすら邁進すればいい、というのはとてもわかりやすかったから。でも今、子育てが終わって役割を失ったらどうしていいかわからなくなっちゃって。

スー 我々の世代ならではの悩みなのかもしれませんね。

堀井 だから一人旅したりしてるんだけど……。どうしても、これから何をしよう、もう一花咲かせるにはどうしたらいいんだろう、みたいなことを考えちゃうじゃないですか。だけどね、私がいつもお世話になっている韓国エステのお姉さん(56歳)が「私は、来世ではモテるけど今世はあきらめた。だから結婚もしないし友達もいらない」って言うの。で、お店のサイトを見ると、24時間土日も予約可能になっているのね。

スー えええ!?

堀井 これから何していくつもりなんですか、って聞くと「仕事がいちばん!」って。仕事だけだとさみしいとか、趣味や友達をつくろうという気持ちはまったくない。それを聞いて、いいなあって思った。私もやっぱり、混乱している時期やつらいことがあったときに、助けてくれたのは仕事だったから。

スー そうなんだよねー! 仕事は裏切らない!

堀井 昔読んだ村上春樹さんの小説に「混乱したら家事をしろ」というようなセリフがあったんだけど、何があっても会社を無断欠勤したら大騒ぎになるし、行ったら悲しいことがあっても笑わなきゃいけない。そうしたら夜には意外と元気になっていたりした。そう考えると、仕事を続けているだけでもいいなあ、って思った。ときどき好きな本とか読めたらいいや、って思ったからか、今は「こうなりたい」って考えることもないですね。

スー 私もジェニファー・ロペスのお尻が欲しいとか夢想レベルならあるけれど、具体的なロードマップを自分の将来に描いてはいないですね。だってこの歳になってこういう仕上がりになると思っていなかったもん。

堀井 昔ね、伊奈かっぺいさんのラジオで、自分の年齢を3で割ったら人生における時間帯がわかるっていうのを聞いたんですよ。18歳のときだったから、3で割ると6。まだ朝の6時だ、夜明けもまだだし、なんでもできる!ってわくわくしたんだけど、今48歳だからもう16時なの(笑)。

スー 朝ごはんも昼ごはんも終わっちゃった(笑)。

堀井 だから、このあと余暇なの、わたし。

スー でも、いきなりぜんぶが余暇になっちゃうと、精神がぶれるから。まだまだ仕事すればいいと思いますけどね。「自分とは何者か」なんて、暇だから考えるんだもん。多少は休むことも必要ですけど、毎日やることがあるというだけですごく幸せなんだと思います。

堀井 『これでもいいのだ』にサーカスを一緒に見に行ったときの話が書いてあったじゃない。あのとき、「この人たちもいつか有名になるといいね」みたいなことを言ったら「この人たちはこれが幸せなんだ」ってスーちゃんが言ったんですよね。どうしても、誰かに評価してほしい、認めてほしいって感情が生まれてきちゃうけど、あなたの言葉で、水平移動でもいいんだと思った。

スー 積み上げるだけが人生じゃないですからね。移動が基本の彼らにとっては、積んで壊して、積んで壊して、を繰り返す一日一日が幸せなんだと思いますよ。最低限の荷物で仲間と全国を旅しながら、人を喜ばせる仕事。あんなふうに潔く生きられたらカッコいいですよね。そもそも積み上がれば幸せってわけでもないだろうし、死んだあとにまわりが積み上げた荷をおろすのも大変。だから「宍戸錠、孤独死」みたいな表現には違和感ありますね。いいじゃない、自由に生きた結果なんだから。

堀井 60代、70代になってカッコいいと思えるって、上にいるとかいないとか、そういう基準でははかれませんもんね。

■自分だけでなく、相手のことも「これでもいいのだ」と思う

スー 昔だったら結婚して子どもを育てていくのが一人前の大人と言われていたけど、その考え方にはいろんなところにバグがあるんですよね。好き同士じゃないといけないのかとか、子どもは産まなきゃいけないのかとか、そもそも結婚する必要はあるのかとか。こんな不景気の時代に、昔のままのスタイルを採るのは無理があるんですよ。ヨシとされていた型は、ある程度経済力がないとどうにもならないものだし。

 うちはパートナー氏が主夫を担っていたんだけど、最近は彼も仕事をはじめて忙しくなって、共稼ぎになったとたん、今までとは違う部分で強気になった(笑)。2人にとっていいことだと思います。と同時に私も、妻の副業がうまくいきだしたときの不遜な夫みたいな気持ちにもなるわけ。おまえ変わったな、みたいな。最近ちょっと夜遅いし、ごみ捨ててないし、って。私もひどいもんですよ。

堀井 本にも書いてありましたね(笑)。性別で感情や性質に差が生まれるわけじゃなくて、社会的に背負わされた役割によってなるものが大きいって。

スー そうそう。本当に性別関係ない。ともすると私が「仕事するのはいいけど、もうちょっと家のこともやってくれないと」って言いだすいやな夫になりかねない(笑)。これからどうなっていくかはわかりませんけど、これも本に書いたとおり、自分の選んだ道は自分で正解にしていくしかないし、「これでもいいのだ」って思っていくしかないですね。同じ精神で他人にも口を出さない。ゆるやかな無関心でいきたいものです。

堀井 ああ、いいですね。それでときどき、あなたは大丈夫よって言ってほしい。言ってください。

スー あなたは大丈夫よ(笑)。って、語尾に「(笑)」をつけちゃうのもまたいいですよね。それでげらげら笑い合ってさ。女友達は唯一、元本割れしない資産ですから。「これでもいいのだ」とお互いに言い合って、スルーしたり受容したりしながら生きていきましょう。

取材・文=立花もも 撮影=下林彩子