いつか『革命』を——。4年前から、私たちの合言葉でした。

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

2008年、フジテレビ「ノイタミナ」にて、『図書館戦争』『図書館内乱』『図書館危機』がテレビアニメとして放送されてから4年。ファンのみならず、関係者も心待ちにしていた『図書館革命』がついに劇場版アニメとなった。作品が生まれた背景と思いを原作者の有川浩さんにうかがった。

 嵐の二宮和也が主演した連続テレビドラマ『フリーター、家を買う。』、沖縄国際映画祭で2冠を受賞した実写映画『阪急電車』など、有川浩の小説はさまざまなメディアミックスを実現してきた。自他ともに認める代表作「図書館戦争」シリーズ、そのテレビアニメ版は、有川にとって初めてのメディアミックス作品だ。先鋭的なアニメーションを放送するフジテレビの深夜枠「ノイタミナ」にて、2008年4月から6月にかけて全12話を放送。制作は、『機動警察パトレイバー』や『攻殻機動隊』などで知られる、Production I.Gが手がけた。「初めてのメディアミックスが、この作品で良かったなと思います」と、有川は喜びを語る。

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「スタッフの皆さんが原作をすごく大事にして、愛情をいっぱいかけて作ってくださったんです。私の仕事としては、毎回、シナリオや絵コンテのチェックはしていましたね。ただ、セリフ回しやミリタリー用語などを監修させていただいたくらいで。“次はどんなものを観せてくださるんですか!”と、一視聴者として毎回楽しみにしていました」

 原作同様、一話完結の連作スタイル。シリアスとコメディが同居する原作の「文体」をも活かし、アニメならではのマジックをさまざまに振りかけた全12話は、原作ファンのみならず、アニメファンの熱狂を呼んだ。有川自身は、制作過程を覗き見することで、多くの刺激を受けたという。

「アフレコに何回かお邪魔させていただいたんですが、声優の皆さんが自分のキャラクターをどれだけ愛して、大事にしてくれているのかを目の当たりにしたんです。すごく印象的なエピソードがあります。物語にとって重要な〝日野の悪夢〟の回想シーンで、『君たちは──公序良俗を謳って人を殺すのか!』というセリフが、原作の〈稲嶺司令〉にはあるんですね。アニメ版の絵コンテでは、尺の関係もあって、このセリフは落ちていたんですよ。でも、〈稲嶺〉役の佐藤晴男さんが、そのセリフをアドリブで突っ込んでくれた。その現場に私もいたんですが、尺的にも見事にハマったし、演技的にも素晴らしくて……鳥肌が立ちました。あとで佐藤さんに伺ったら、原作をしっかり読み込んだうえで脚本を読んで、〝稲嶺として、あのセリフが落ちたらダメでしょう〟と思ったらしくて。ああ、そんなに愛してもらっているんだって、本当に感動しました」

〈柴崎〉役の沢城みゆきとの出会いは、彼女をキャラクターのモデルにした小説「シアター!」シリーズへと繋がっていった。有川は昨年、今年と、演劇作品にも挑戦。アニメ制作で実感した「役者」への興味が、小説家を新たなステージへと導いたのだ。

 

4年前の約束。合言葉は「いつか『革命』を!」

 ただし、ひとつ心残りだったことがある。「図書館戦争」シリーズの原作は、全4巻(本編の間のエピソードを埋めるスピンオフ、「別冊」全2巻ものちに刊行)。だが、アニメ『図書館戦争』は3巻までのエピソードで構成され、オリジナルのエンドマークが付けられた。本編で唯一の長編ストーリーにして最終巻『図書館革命』は、映像化されなかったのだ。

「浜名監督が最初におっしゃっていたのは、“駆け足で『革命』まで描くこともできるんだけど、3巻分のエピソードをきっちり描くためにあえて『危機』で終わらせたい。いつか別のタイミングで、『革命』を作りたいです”と。私ももちろん同じ気持ちでしたし、キャストさんやスタッフさんの間でも、“いつか『革命』を”が合言葉でした」

 昨年、「図書館戦争」シリーズを文庫化したことが大きなきっかけとなった。

「文庫化のタイミングで、版元が角川書店さんに移ることになったんです。その時に、“『革命』のアニメ化ってどうかな?”と編集者に言ってみたら、角川さんはアニメが得意ですしね、企画をガッと動かしてくれて。反応はすごかったですよ。キャストさんやスタッフさんからメールがバンバンきて、“待ってました!”と」

 テレビシリーズの放送終了から、4年。本編最終巻『図書館革命』は、『図書館戦争 革命のつばさ』というタイトルで、劇場用長編アニメ化が実現した。有川はつい先日、2日間にわたるアフレコに立ち会ってきた。

「普通はこれだけ時間が空いちゃったら、キャラクターって“残って”ないらしいんですよ。でも、テストで声優の皆さんが今回の台本を読んだら、音響監督さんが〝みんなこのまま行けるね。じゃあ本番行こうか〟って。4年も前に演じた『図書館戦争』のキャラクターを、“いつか『革命』をやろう”という叶うかどうかわからない約束を頼りに、みんな大事に思ってくれてたんです。心のどこかにキャラクターたちを、ちゃんと残してくれていたんですよ」

 シナリオには書かれていないアドリブも、声優たちの判断によってどんどん盛り込まれていった。キャラクターを愛し、理解しているがゆえに可能となることだ。

「4年前の遠い約束が、まさか叶う日が来るなんて。いつか絶対やろうって言いながら、みんな心のどこかで、きっと難しいだろうと思ってたんじゃないでしょうか。それが、本当に叶っちゃった。作品に対する愛情が、すべての困難を乗り越えたメディアミックスだったと思います」