三池崇史「理解できなくても触れるだけで心地いい世界がある。それを初めて知ったのが三島作品でした」
更新日:2013/12/19
「僕が本を読み始めたのは、高校生のころですね。
それまでは、まったく本が読めない子どもでした」
本に苦手意識を持つようになったのは、小1の時に両親からプレゼントされた『トム・ソーヤの冒険』がきっかけだった。
「絵本とか児童書みたいなのをくれればいいのに、
マーク・トゥエインの原作を買ってきて。
1ページの中に4段組みで文字がギッシリ埋まってる。
それが子どもの僕には荷が重かったんですよね。
頑張って読もうとしても1ページの途中で力つきちゃう。
で、「来年こそ読もう」と心に決め、
小2になってまたページを開くんですが、
全然変わらないんですよ(笑)。
結局、6年生になるまで読めなかったですね」
小学生で初めて味わった挫折感。それでも毎年トライしようと、彼を駆り立てたものは一体なんだったのか。
「それはもうコンプレックス以外のなにものでもないですよ。
本をわざと勉強机の端っこの方に置いておいて、
自分にプレッシャーを与えていたんです。
それでも一向に読める気配がないから、
最後の手段としては捨てるしかないなって思ったりして(笑)」
気がつけば読書がトラウマになり、中学生になると完全に本から遠ざかった。そして、高校生になるとバイクとパチンコにはまリ始める。
「でも趣味や娯楽だけに走ると、
「さすがにこれはまずいな」っていうのが
自分の中で芽生えるんですよ(笑)。
それで、違うものを求めていった結果、
自分のお小遣いでも手に入る小説の
文庫本を買うようになったんです」
「わざと大人びて、『ほほ~』なんて、
分かったふりをして読んでました(笑)。
でも、分からないなりに三島由紀夫に
才能があるってことだけは感じたんですよね。
特に『近代能楽集』を高2で読んだ時は
衝撃を受けました。
話が奇抜ではありますけど、
トラディショナルな内容で、それでいて美文でしょ。
たとえ無知でも、触れるだけで心地よさを
感じられるものがあるんだって知ったのは、
三島さんの作品のおかげかもしれないですね」
(取材・文=倉田モトキ 写真=山口宏之)
みいけ・たかし●1960年、大阪府出身。映画監督。『ゼブラーマン』、『クローズZERO』、『ヤッターマン』など、バイオレンス、コメディ、ホラーとジャンルを問わない作風で、多くの話題作を手がける。また暴力描写を得意とし、クエンティン・タランティーノなどにも多大な影響を与え、海外からも注目を集めている。
『夢の国』
韓国の貧しい農家に生まれ、金を稼ぐために18歳の時に日本の鉱山で働き始めた菊山尚泰。やがて男は、荒れた戦後の日本で、腕力と自分の信念だけを武器に、巨額の富を得ていく。『人を殺すとはどういうことか』などのノンフィクション作品で知られる美達大和が、実の父親をモデルに書き下ろした小説デビュー作。
映画『愛と誠』
原作/梶原一騎・ながやす巧『愛と誠』 監督/三池崇史 脚本/宅間孝行 出演/妻夫木 聡、武井 咲、斎藤 工、市村正親、他 配給/角川映画、東映 6月16日(土)全国ロードショー ●額に大きな傷を持つ不良少年・太賀誠と、ブルジョア一家の令嬢の早乙女愛。住む世界観のまったくことなる二人だが、愛は執拗なまでに誠を追い求め、献身的な愛情を注ぐ。1970年代に連載され、男女を問わず熱い支持を得た、究極の片思いラブストーリー。