魔法を逃げ道としない魔法ファンタジーを書きたかった。話題作『まほころ』蒲生竜哉さんインタビュー

文芸・カルチャー

2020/4/18

『魔法で人は殺せない』(蒲生竜哉/幻冬舎)

 人の心の持ち合わせが足りない魔法捜査官ダベンポート。魔法によって引き起こされる数々の難事件に挑み、その裏に隠された謎や秘密を鮮やかに読み解く――。

 魔法ファンタジーと本格ミステリーという2つのジャンルを融合させたかのような、新感覚・知性派魔法ミステリー『魔法で人は殺せない』(幻冬舎)。作者の蒲生竜哉さんは、元外資系IT企業でプロジェクトマネージャーを務めていた経歴を持つ。もともと作家志望であり、小説は大学時代から書いていた。

富士通、ノキアを経て小説家に

「母親が読書好き、それも海外のSFやミステリーのファンでして、ハヤカワ・ポケット・ミステリシリーズや、『宇宙英雄ペリー・ローダン』(※1)シリーズが本棚にぎっしりと並んでいるような家で育ったんです。蔵書が4000冊以上あって、それらを子どもの頃から読んでいたので、僕自身も本好きになりました。学生時代にはミステリーやサイバーパンクSFを書いては富士見書房の賞に投稿したりしていて、運よく編集部の目にとまり、担当さんもつけていただきました」

 しかしデビューする前に大学を卒業、そして就職し、以降、社会の第一線で働くビジネスマンとして多忙極まる生活を送ってきた。

「最初は富士通、次にノキアへ勤めて、20年間ひたすら仕事をしていました。ノキア時代はフィンランドをはじめ、世界各国をまわりましたね。その経験を数年前からエッセイの形で綴るようになり、再び物を書きたい気持ちが再燃してきたんです」

 そのエッセイとは、アマゾンより販売されている「日本人サラリーマンも世界を食べる」シリーズだ。

 世界中のさまざまな国、さまざまな人びととの出会いと交流、発見を〈食〉を切り口にして描いた内容で、これが実に読ませる。イスラエル編ではユダヤ教の戒律(コーシャー)が、パリ編ではフランス人の食事に懸ける情熱が、日本人サラリーマンという一歩引いた目線から、ときにシニカルに、ときに共感をもって紹介されている。

魔法を逃げ道にしていないか? という疑問から生まれた

「少しずつ書く感覚を取り戻していって、カクヨムに参加するようになりました。そこで“魔法&ミステリー特集”というのを見つけて、何か出してみようと思ったんです」

 書き手と読み手の交流が活発であることで人気を呼んでいる、小説投稿サイトのカクヨム。コンテストやテーマ別の特集も数多く行われ、ここからデビューする作家も着々と増えている。

 たくさんの特集の中から、なぜ“魔法&ミステリー”に挑戦してみたのか?

「僕自身がミステリーとファンタジー小説が好きであることと、最近の、特に異世界ファンタジーものを読んでいて、いろいろと思うところがあったというのが大きかったです」

 その思うところとは、「書き手が魔法を逃げ道にしてしまってはいないか?」という疑問だった。

「せっかく魔法が存在する世界を舞台にしているのに、その設定をうまく活かしていなかったり、そもそも魔法を問題解決のツールとしてしかみなしていない作品が多いような気がしたんです。どんな困難が起きても最終的に魔法で万事解決というのでは、物語としてつまらないし、それらに対するアンチテーゼとなるような作品を生み出せたら、きっと埋没しないはず。そんな思いから本作を構想していきました」

 そう語るように、『魔法で人は殺せない』の魔法設定は非常に緻密だ。

 ルールは3点。物理学の法則を曲げられず(一)、必ず魔法陣が必要で(二)、行使する際には領域(リーム)を定義しなければならない(三)。

 これらのルールを守らなかったり、無茶な使い方をしたりすれば、術者は恐ろしい代償を受ける。それが「跳ね返り(バックファイヤー)」だ。これを受けた者は動物化してしまう。それも外見だけでなく知能までも獣となり、じわじわと時間をかけて変わり果てていくのだ。

 作中では、バックファイヤーを受けてウサギになってゆく愛娘の変化に耐えられず、自ら殺めてしまう親の姿も描かれる。かなり恐ろしくもおぞましい。

「バックファイヤーは、この物語における魔法の本質のようなものですね。魔法は万能ではないし、使うからにはそれ相応の危険がともなうものなのだ、という点を強調するためにつけました。目指したのは、まったく『ハリー・ポッター』っぽくない魔法です(笑)」

 ちなみに魔法の設定を構築する上で参考にしたのは、アメリカのSF作家ラリイ・ニーヴンの『魔法の国が消えていく』(※2)だという。

「魔力についての考え方や錬金術の仕組み、魔法の対価としての代償の法則など、この本から受けた影響は大きいですね。魔法という非現実的なものであっても、設定を徹底化することでリアリティを出すことはできる、ということを学んだ一冊です」

主人公のモデルはブラック・ジャック

 ちょっとひねくれた性格で、独自のモラルで動く人物――それがダベンポート

 主人公のダベンポートは王立魔法院の捜査官。つまり魔法のエキスパートだ。性格はシニカルにしてクール。目的のためなら手段を選ばないところがあり、それでいて、ふとしたときに見せる優しさが魅力的。なんとも掴みどころのないキャラクターだ。

「モデルはブラック・ジャックです。ちょっとひねくれた性格で、世間的な地位や名誉、肩書といったものに興味がなく、独自のモラルで動く。そんな主人公像にしたかった。最初に魔法の設定や世界観をしっかり作っておいたからなのか、登場人物たちはスムーズに浮かんできました」

 そんなダベンポートのハウスメイドで、彼を献身的に支えるリリィ。ダベンポートの長年の友人であり、本作のアクション担当である王立騎士団中隊長のグラム。

 捜査官としては優秀ながら、人間としてはやや難ありなダベンポートを見守るこの2人は、それぞれに包容力があって優しい。

「小説にはヒロインがつきものですが、中心となるのはあくまでもダベンポート。彼より目立たず、かつ彼と似合うヒロインにはどんな女性がいいだろうかと考えて、生まれたのがリリィです。この世界のイメージ的な舞台は19世紀のイギリスなのですが、その当時ちょっといい暮らしをしている家には、ハウスメイドが必ずいたんですね。ダベンポートは王立の魔法院に勤めているくらいだから、メイドの一人くらいは置いているんじゃないかと考え、ならばいっそメイドをヒロインにしよう、と思いました」

 蒲生さん曰く「リリィはダベンポートの邪魔にならないように仕えていて、ダベンポートはリリィには優しく接するよう心がけている」。そんな関係だという。

 主人とメイドという主従関係を踏まえた上で、2人は最高に親密な関係を築いている。互いに一線は決して踏み越えない。それが節度となっている。

 いま一人、ダベンポートと親密な関係にあるグラムは、かつて隣国との間に起きた魔法戦争時代からの戦友同士という背景を持っている。

「若き日のダベンポートはその戦争に従軍し、戦場でグラムと出会いました。2人とも生き延びて今も付き合いがあるというのは、実はかなり仲がいいと思うんですよ。もっとも、ダベンポートはグラムのことを、やたらといじりがちですが(笑)」

 この3人の関係性も興味深い。グラムは密かにリリィに想いを寄せていて、リリィはダベンポートに淡い恋心を抱いている。そしてダベンポートは、親友がリリィに夢中であるのを知りながらも素知らぬ顔をしている。

 恋の空気をはらみながらも、3人は互いを思いやり、信頼しあっている。そんな人間関係の綾が物語に品のよさを添えている。

異世界ファンタジー系のイラストとは真逆

 薄暗い室内に佇むダベンポートとリリィを描いた陰影のある表紙が目を惹くが、挿画を手がけたのは台湾出身のイラストレーター、高山茶さんだ。

「僕の友人が美術系の大学で先生をしているのですが、本作を書籍化するにあたり、すてきなイラストを描いてくれるような優秀な教え子さんを何人か紹介してもらったんです。その中で高山さんの絵柄に最も魅力を感じました。その決め手は、『まったくライトノベルっぽくない作風だったから』。質感や雰囲気に落ち着いたものがあって、今流行の異世界ファンタジー系のイラストとはまるで真逆な絵柄なのが内容にぴったりだと思いました。ファンタジーが本来持っている暗さや不気味さ、ちょっと陰のある感じを高山さんは的確に表現してくださいました」

《カクヨムプライベートコンテスト Vol.03》で特別賞を受賞した本作は、幻冬舎より第1巻が書籍化された。

 収録されているエピソードは、ダベンポート初登場の表題作「魔法で人は殺せない(旧題名「バルムンク邸事件」)」。その後日譚となる「灰は灰に、猫はメイドに」。リリィの小さな冒険を描いた「リリィの休日』。魔法とバックファイヤーの禍々しさが重い読後感を残す「ホムンクルス事件」。猫好きは悶絶必至の「歌う猫」。これら5作品に、掌編「リリィとフクロウ」を加えた構成となっている。

 その続きもカクヨムで公開され、一部は現在も読むことができる。今後この物語はどのような展開となっていくのだろうか。

「海賊船が出てきたり、それをアームストロング砲で沈めたり、発明家がブラックホールに吸い込まれたり……。ファンタジーとミステリーだけでなく、冒険小説やSF風味の話も出てきて、どんどんよく分からないジャンルになっていっています(笑)。ダベンポートの同僚で彼を篭絡しようとする美女が準レギュラーとして登場して、恋愛要素もだんだんと盛り上がっていきますね。第2巻もぜひ出したいと思っていますので、少しでも多くの方に興味を持っていただければ幸いです」

取材・文=皆川ちか

(※1)『宇宙英雄ペリー・ローダン』……
ドイツで1961年より開始され、複数の作家によって書き継がれながら現在も続いている大長編SFシリーズ。日本では早川書房から『宇宙英雄ローダン・シリーズ』(ハヤカワ文庫SF)として刊行中で、既刊は600巻を超える。

(※2)『魔法の国が消えていく』……
天然資源である魔力が枯渇しつつある世界。最強の魔法使いウォーロックは、地球上から戦争をなくし、自分たち魔法使いが生き延びていく道を仲間と共に模索してゆく。ロジカル・ファンタジーの名作。

この記事で紹介した書籍ほか