ついに最終章へ! 7月放送開始、『ソードアート・オンライン アリシゼーション』特集――アリス役・茅野愛衣インタビュー

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更新日:2020/6/10

 TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』の放送が、いよいよ7月にスタートする。「アリシゼーション編 最終章」となる本作で、待ち受けている物語とは――? 期待が高まる放送に先立ち、ダ・ヴィンチニュースでは、3本のインタビューを通して『ソードアート・オンライン』の真髄に迫っていきたいと思う。第1弾は、アリス・シンセシス・サーティを演じる茅野愛衣が登場。過酷な運命にさらされるアリスと向き合う中で感じていることや、『ソードアート・オンライン』ならではの収録時のエピソードなど、幅広く語ってもらった。

『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』 TOKYO MXほかにて7月より放送予定 (C)2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project

『不思議の国のアリス』のように、さまよい続ける、常に迷い込んでいるイメージなのかな、と思ったので、わたしも迷ったままがいいのかも

――まずは、『ソードアート・オンライン』と茅野さんの出会いからお話を聞いていきたいと思います。この作品にメインキャストとして関わることになったときのことを振り返ってみてもらえますか。

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茅野:最初はゲーム収録からだったんですけど、アニメで「アリスを演じてもらいます」って聞いたのは、たぶん『3月のライオン』の打ち上げで、伊藤(智彦)監督が「アリスをよろしくね!」みたいな感じでおっしゃられたときだったと思います(笑)。メインキャストの松岡(禎丞)くんと戸松遥ちゃんのふたりとは共演も多いですし、縁のあるふたりなので、すごく楽しみだな、と思ってました。でも、『アリシゼーション』の1話を録りにいったら、まさかのおなじみのメンバーがいなくて、のどかな村から始まっていて。「えっ、これはほんとに『ソードアート・オンライン』ですか?」みたいな感じで(笑)。

 わたしは、収録に臨むときに原作を読む場合と読まない場合があるんですけど、今回の場合は「これはちょっと、読まねばわからないぞ」と。今までの『ソードアート・オンライン』のアニメシリーズも観ておかないと話にならないと思って、最初から全部観たんですよ。原作も、アフレコを進めながら読んで、小説と照らし合わせながら演じさせていただいたんですけど、やっぱり面白くて。先に進まずにはいられず、結局全部読みました(笑)。続きが気になっちゃって――ある程度我慢してたんですけど。もう、涙涙の展開が待っていて、特にエルドリエのお話はもう……嗚咽が漏れるくらい、泣きながら読みましたね。

――今のお話だと、「『ソードアート・オンライン』とはこういうものだろう」というイメージがあったと思うんですけど、茅野さんの中でそれはどういうものだったんですか?

茅野:イメージとしては、ゲームの中で生死をかけた戦いを繰り広げている、という印象だけだったので、「こんなに面白い作品をもっと早く読んでおけばよかったな」って思いましたね。やっぱり「知らないって損だな」って思いました。

――受け手として感じた『ソードアート・オンライン』の面白さとは?

茅野:キリトの人間力が魅力的だな、と思いました。個人的に、アリスを演じる立場としてはちょっと複雑な気持ちなんですけど、キリトとアスナのふたりを見ていると応援したくなっちゃいます。キャラクターたちの生きざまというか、生々しい感じが好きなのかな、と思いますし、世界観の深さみたいなところにも魅力があるのかなって感じています。

――そのイメージを持ちつつ、実際に『ソードアート・オンライン』の収録に参加して感じたこととは?

茅野:まずは、キリト役の松岡くんがいないことが不思議でしょうがないですよね(笑)。「主人公なのに!」みたいな。でも、アスナが出てきてくれたときは、ちょっとあこがれの芸能人に会えた感がありました(笑)。茅野個人としては、「はるちゃん(戸松)が来てくれて嬉しい」っていう気持ちだったんですけど、アリスとアスナが完全にキャットファイトみたいな感じで。わたしとしては、「すごい、ソードアートのアスナに会えた!」みたいな気持ちがあって、「シリーズのファンになったんだな」ってそこで実感しました。

――それこそ松岡さんや戸松さんは、2012年放送の「アインクラッド編」から『ソードアート・オンライン』に関わっているし、合間にゲームの収録もあったりするわけで、かなり長い間役と向き合ってきた方々ですよね。その中に飛び込んでいくにあたり、どんな覚悟を持って収録に入ったんでしょう。

茅野:それこそ、今までの『ソードアート・オンライン』とはだいぶ違う雰囲気だったと思うので、緊張感があったというよりは、「ここから新しくみんなで作り上げていこう」という、前向きな現場の印象が強かったですね。1話は子ども時代の話だったので、信長くん(島﨑信長・ユージオ役)と松岡くんが子どもの声を出すために発声練習をしていて、急にかわいい感じで声を出してるのが印象的でしたけど、それも含めて楽しかったです。作品を形作っていく作業も、長く続いているからこそ軸がしっかりしているので、みんなで肉付けをやっている感じでした。大変だったのは、カタカナが多いので、「セントラル・カセドラル」がなかなか言いにくかったり、ラ行とサ行の言いづらい固有名詞が多かったことですね。それこそアリス・シンセシス・サーティって、全部サ行みたいな感じなので(笑)。あとは、騎士言葉を頑張りました。普段しゃべっている言葉とだいぶ違うので、そこはひとつ課題ではありましたけど、騎士の役を演じる機会は他作品でもいろいろあったりするので(笑)。

――(笑)確かに。

茅野:「ものなのだな」系のセリフは、なかなか試される感がありますね。アフレコ現場でマイクの前に立つと、一応そのキャラクターになりきるので、眉間にしわが寄っている表情のときは、自分たちも眉間にしわが寄ったりします。アリスも、眉間にしわが寄っているシーンが多くて、特にセントラル・カセドラルのシーンでは、わたしもきりっとした表情で収録していたと思います(笑)。

――(笑)なるほど。

茅野:未だに、すごく難しいキャラクターだなって思いますし、つかみきれてないところもあります。それこそ、シンセサイズされる前と後では、まったく違うじゃないですか。アリス・ツーベルクとアリス・シンセシス・サーティはまた別物なので、自分の中で切り替えるのもなかなか難しくて。「アリシゼーション War of underworld』になってからは、人間らしいアリスが見られたりもするので、そこもまた演じていて楽しくもあり、難しくもあり。自分の中で考えることが増えたなって感じています。

――演じる上で、茅野さん自身とアリスの関係性は大切だと思うんですけど、アリスとすごく近づけた、絆が深まったなって感じた瞬間はありますか?

茅野:やっぱり、エルドリエを喪った回がそうだったかな、と思います。悲しみを乗り越えるのはとても大きなことだったので、そこで少し近づけたというか、わたしがアリスに寄り添うことができたのかなって思いました。アリス自身も、乗り越えるまでに時間がかかったと思うんですけど、わたしも収録前は緊張しました。テストと本番があるので、2回つらい思いをしなきゃいけないのが、ほんとにつらかったです。悲しすぎて、「もう、なんでこんなつらいことを何度もやらなきゃいけないの?」みたいな。

――今お話してくれたように、アリスってだいぶつらい目に遭う人じゃないですか。そのたびに、原作を読んでアニメにも没入してきた茅野さんとしては、強く心を動かされてきたと思うんですけど、アリスとしてつらい経験と向き合うとき、演じ手としてどうあるべきだと考えていますか。

茅野:こう、疲弊していくことをあまり恐れなくなりましたね。本当に気持ちを持っていかれる役だし、人の生死に関わる作品でもあるので、収録が終わった後の脱力感がすごいんですよ(笑)。なので、あまりそこに抗わずに、身を任せたほうが楽かもって思い始めています。アリスは、あまりにもつらいことばかりなので(笑)。「早く幸せになって!」って思いますし、ゲームに楽しそうなアリスのエピソードがあると、すごく嬉しくなりますね。

――ハードな経験が押し寄せるアリスですけど、そういう人物を演じることは、経験として大きいところもあるんじゃないですか。

茅野:ここまでたくさんの話数を使って、ひとりの人物を演じられることってあまり多くないので、丁寧に長く演じられるのは貴重な機会だと思います。演じていくうちにアリス像はけっこう変わっているので、正解はないのかなと思っていて。アリス自身が、自分の体ではないわけじゃないですか。アリス・ツーベルグの体を借りて生きているアリスにとって、「本物の自分がどこにいるのか」みたいな感覚はたぶんないんだろうな、と思っています。ルーリッドの村は故郷ではありますけど、アリスにとっての故郷ではないし、常に自分探しをしているような状態だと思うので、正解がない。だから、演じていても自分の中で決め込む必要性がないのかも。それが、流れに身を任せることにつながっているのかもしれないです。流れるプールのように、ずっと回ってる、みたいな。

 なので、あまり考えないほうがいいのかもしれないなって思ったこともありました。アリス自身もどうしたらいいかわからなくて――自分の気持ちも、キリトへの思いも、こういう気持ちを持っていいのかもわからない、何もかもがわからない状況で、答えがないし、出口もないんですね。まさに『不思議の国のアリス』のようにさまよい続ける、常に迷い込んでいるイメージなのかな、と思ったので、わたしも迷ったままがいいのかもって思っています。

――苦悩はしてるんだけど、わからないことに対して苦悩をしているわけじゃない、みたいな感じなんですかね。わからないことを思い悩むのではなく、感情のままにいくっていう。

茅野:そうですね、だから初めてのパターンの役だなって思います。今までに、出会ったことがないですね。いろんな役を演じている中で、一番幸せになってほしいと思うのがアリスです。

(C)2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project

松岡くんはいつもテストから全力で、信長くんもそれに引っ張られてテストから全力を出しているのが『ソードアート・オンライン』

――物語の中で言うと、ユージオとの別れもアリスを演じている茅野さんにとってはかなり大きな出来事だったんじゃないかと思うんですけど。

茅野:そうですね。『War of underworld』の1話で、ルーリッドの村に戻ったのにユージオがいないっていう。お部屋にユージオの青薔薇の剣があって……あそこもまた、胸を打たれるような気持ちになりました。キリトの剣とアリスの金木犀の剣、3つ並んでたんですよね。3人、せめて剣だけは一緒にっていう。実体はなくて、分身とは言わないけど、ユージオの形見的なものじゃないですか。ユージオのことは、キリトが一番ショックを受けてたと思うんですけど。

――まさに、ユージオがいなくなってしまい、キリトが心神喪失になった『War of Underworld』の1話におけるアリスは、非常に印象的でした。演じる茅野さんとしても、気持ちの持っていき方が難しかったんじゃないかな、と想像してたんですけども。

茅野:もう、キービジュアルの段階で、キリトの目に光がなかったじゃないですか。「えっ、キリト?」ってなりますよね(笑)。そこに至るまでの期間、キリトと一緒にいた時間って、アニメの中では描かれてないんです。なので、オープニングでセルカと料理を作っているシーンがあったり、料理下手なところとか、やっぱりアリス・ツーベルクとは違うところが観られたりしたのは、すごく嬉しかったです。キリトと一緒に過ごしたお話は、わたしは原作の方で読んでいたので、そこで気持ちを作って、1話の冒頭に臨んだ感じでした。

――気持ちを作った上で臨んだ冒頭について、演じてみてどんな感覚があったんでしょうか。

茅野:やっぱり、キリトとの会話にはならないんですよ。向こうからは返ってこないので。でも距離感が変わったことは、皆さんにも感じてもらえていたらいいですね。声色からも、アリスが整合騎士のときとはまったく違う感じにしたくて、アリス・ツーベルクが普通に成長していたらこういう感じになったのかなって思わせるくらいの雰囲気も出したかったんです。なので、「アリシゼーション編」の1話も、『ソードアート・オンライン』を応援している皆さんからしたら衝撃を受ける話数だったと思うんですけど、『War of Underworld』の1話に関しても、「この空白の時間に何があったんだろう?」と想像してもらいたいなって思いながら演じました。アリスの声色や空気感から、空白の時間を感じでもらえたらいいなって。

 その状態で、1話のときに次回予告も録ったんですけど、ちょっと柔らかい雰囲気で、キリトに寄り添って、キリトのために生きていると言ってもいいようなアリスの状態でやったら、「ちょっと違います」って言われて(笑)。やっぱり次回予告は、整合騎士であるアリスのほうに戻してほしい、という。エルドリエが来て、戦うと決意するまでがけっこう短い時間だったので、ユーリッド村のお話は一時だけだったんですけど、そこで間の時間を感じてもらえたら一番だな、と思っていました。

――アリスひとりの言葉、ニュアンスの表現に、いろいろなものが託されてたんですね。

茅野:そうですね。口調も随分変わって、すごく新鮮でした。あと、なにげにキリトの洋服で作ってくれてた眼帯があって、「わたしはこれから戦う」って決意したあとに、それとさよならするシーンも好きでした。すごくカッコいいシーンで、出来上がった映像を観たときに感動しました。決意のシーンだったので、ほんとに気合いが入っていて、テストで声が枯れてしまったので、大変だったことを覚えています。キリト役の松岡くんはいつもテストから全力で、信長くんもそれに引っ張られてテストから全力を出しているのが『ソードアート・オンライン』なので、わたしも同じようにしたいと思っていたんですけど、ふたりのタフさをすごく感じました。

――松岡さんの現場でのあり方については他の作品でも聞いたことがあるんですけど、やっぱり『ソードアート・オンライン』における存在感はめちゃくちゃ大きいんでしょうね。

茅野:はい。それこそ、口数がすごく多い人ではないと思うんですけど、言葉よりも背中で語る人かもしれません。『War of Underworld』の最終回は、キリトは出番がなかったんですけど、現場に来てくれて、「『ソードアート・オンライン』をよろしくお願いします」って一言だけ言って、帰っていきました(笑)。本当に真面目な方なので、作品への向き合い方を見ていて、「自分もやらなきゃ」と鼓舞してくれる感じがあります。「頑張ろう」って言葉で言えば簡単ですけど、お芝居でそれを伝えるのは簡単なことじゃないので、すごいなあ、といつも思います。キリト役としての松岡くんと一緒にお芝居できてよかったな、と思いますね。

 松岡くんと信長くんのかけあいを聞いていても、アツすぎて。「アリシゼーション編」の2話だったかな。洞窟に行ってゴブリンと戦ったシーンで、音響監督の岩浪さんから「あの、これ最終回じゃないから」って言われていて(笑)。でも、確かに松岡くんと信長くんがやろうとしていることもわかるんです。ずっと木を切ってきた人たちがゴブリンと戦ってピンチになるので、それは必死にもなるだろうなって。ふたりは「もっと抑えて」って言われるんですけど、現場で「抑えて」と言われるのはすごいことだと思います。どちらかというと、「もっと、もっと」って言われることのほうが多いので。なんだろう、ふたりの間に、化学反応的なものが起きてるのかもしれないですね。プライベートのふたりにはバディ感があるので、キリトとユージオになったときの化学反応がそうさせたのかも。ふたりの背中から熱気が出てるんじゃないかって思うくらい、アツい収録でした。

――アリス役として彼女の境遇に心を動かされたり、共演者の方々から受け取ることもたくさんある『ソードアート・オンライン』という作品、アリスというキャラクターは、茅野さんにとってどういう存在なんでしょうか。

茅野:常に課題、っていう役柄だと思っています。アリスと同じように、「答えが出るときが来るのか?」って思うし、わたしにとっても今までに出会ったことのない役柄だったので。わたしも、声優としてだいたい10年目くらいなんですけど、こういうタイミングでアリスのような役に出会えるのはほんとに貴重だし、ありがたいご縁だな、と思っています。自分も背中を押してもらえそうな役だな、と思っているので、「アリシゼーション編 最終章」では、なんとか彼女ともっともっと近くなれるようにやっていきたいな、と思います。

『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』公式サイト

取材・文=清水大輔 写真=GENKI(IIZUMI OFFICE)
スタイリング=前田千佳子(有限会社モーリス) ヘアメイク=宇賀理恵
衣装=ティアンエクート・OSEWAYA