上白石萌歌「あのラストシーンは、去年の私のすべてです」――映画『子供はわかってあげない』主演を務めて

あの人と本の話 and more

2020/6/7

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。女優としてドラマや映画に引っ張りだこの上白石萌歌さんがおすすめしてくれたのは、料理家である高山なおみさんのエッセイ集『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。』だ。ここでは、そんな上白石さんが主演を務めた映画『子供はわかってあげない』のエピソードについて深堀りしていこう。

上白石萌歌さん
上白石萌歌
かみしらいし・もか●2000年2月28日、鹿児島県生まれ。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞しデビュー。2018年公開の映画『羊と鋼の森』で、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞も受賞。NHKの土曜ドラマ『天使にリクエストを〜人生最後の願い〜』にも出演予定。
ヘアメイク:山田佳苗 スタイリング:嶋岡 隆

 近日公開予定の映画『子供はわかってあげない』。田島列島さんの同名マンガを原作とするこの映画は、沖田修一監督がメガホンをとる。オーディションで主役・美波の座を射止めた上白石さんは、沖田監督作品のファンだったこともあり、念願の沖田組で芝居できることに歓喜した。現場入りする前から、どんな映像世界になるのか期待と想像が止まらなかったほどだ。

「美波役が決まってから原作を読ませていただいたんですけど、読みながら沖田監督の世界観にすごくマッチするだろうなと思いました。ひと夏の青春を描いたストーリーと沖田監督の映像が美しく絡み合うと感じましたし、そんな環境に身を置かせてもらえるのがとにかくうれしかったですね。実写映画の主演は初めてだったので、最初はもちろんプレッシャーも感じました。でも、現場に入ってみると、あまり関係ないなとも思ったんです」

 沖田組での現場では、たくさんのことを学んだそうだ。なかでも驚いたエピソードがある。

「沖田監督は“自然な会話”をとても意識される人なんです。それは過去の作品を観ていても感じていたことなんですけど、『子供はわかってあげない』の現場でもやはりそうで。びっくりしたのは、リハ中に突然『いまから台本を置いて、みんなでジェンガをしながらセリフ合わせをしよう』と言われたこと。お芝居とは違うところに意識を向けながらセリフを発することで、よりナチュラルな会話が生まれるというのが狙いだったみたいなんです。それを経験したことで、たしかに掴めたことがありました。それ以外にも、ひたすら歩きながらセリフを合わせたり……。なんだかワークショップみたいな現場でしたね」

 そして、なによりも大切なことを知った。

「どんな風にお芝居をするのかも大切ですけど、それ以上に“楽しむこと”が鍵になるんだと気づいたんです。現場では沖田監督が誰よりも楽しそうなんです。私たちのお芝居を見てはずっと笑っているし、少年みたいでした。沖田監督だけじゃなく、カメラマンさんも音声さんも、みんなが楽しそうにしている。その様子を見て、エンターテインメントってこうあるべきだなと思いました」

 美波役に挑むにあたっては、髪の毛をばっさりカットし、日焼けもした。そんな上白石さんの役作りへの姿勢を、沖田監督は「10代最後の夏に髪を切らせ、ありえないくらい日焼けをさせ……大変なことをしていたんだと思います」と評する。それを伝えると、上白石さんは笑顔を見せた。

「たしかに髪の毛は短くしましたし、わざわざ日サロにも通いましたね。ちょうどこの作品の前に大河ドラマの撮影があったんですけど、そこで7キロ増量したので、この作品に合わせてそれを戻すっていうこともしました。でも、それらは苦じゃないんです。死ぬこと以外ならなんだってやってやろうと思っていたくらいで(笑)。それが役作りの助けになるのであれば、やっぱりやるべきだなと思います」

 女優としてのプロ意識の高さと、作品を最高のものにしたいという愛情。それはスクリーン越しに見る上白石さんの表情からも伝わってくる。本作はまさに、“夏を代表する映画”になりうるだろう。

 きっと上白石さんにとっても、とても思い出深い一作になったはず。そこで敢えて「特に印象に残ったシーン」を訊いてみると、ちょっと悩んだ上であがってきたのは「ラストシーンです」という答え。

「屋上で笑いながら涙を流すっていうシーンなんですけど、あのシーンはこの映画のすべてですし、(撮影をしていた)去年の夏の私のすべてだとも思っています。台本を読んだときは、『途端に涙があふれる』と書かれていて、どうすればいいんだろう……と悩みました。笑っていたと思いきや、涙を流すなんてできるのかなって。ただ、それくらい美波の気持ちが沸騰していて、どうにもコントロールできないシーンなんです。だからなにも考えずに、感情を放り投げるつもりでチャレンジしました。そしたら一発で決まったんです。何度もできるとは思っていなかったからうれしかったですし、なによりも忘れられないシーンになりましたね」

 美波がなぜ屋上で泣いてしまうのかは、映画本編でぜひ確かめてもらいたい。

「この作品が誰かにとっての“好き”になってくれたらいいなと思っています。一度観て終わりではなく、ふとしたときに『もう一度観たいな』と思い出してもらえるような。そして、こんな夏を過ごしてみたいと感じてもらえたら最高ですね」

取材・文=五十嵐 大 写真=山口宏之

 

映画『子供はわかってあげない』

映画『子供はわかってあげない』

原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニングKC刊) 監督:沖田修一 出演:上白石萌歌、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治、斉藤由貴、豊川悦司ほか 配給:日活 近日公開

●水泳部に所属する高校2年生の美波(上白石)は、ある日、学校の屋上で書道部のもじくん(細田)と出会う。やさしいもじくんを信頼した美波は、ふたりで実の父親に会いに行く計画を立てるが──。 (c)2020「子供はわかってあげない」製作委員会