最新シリーズ放送直前、『ソードアート・オンライン』特集――『SAO』を磨き育てた、4人のプロデューサー座談会【前編】

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公開日:2020/6/26

 TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』最終章が、いよいよ7月11日(土)にスタートする。「アリシゼーション編 最終章」となる本作で、待ち受けている物語とは――? 期待が高まる放送に先立ち、ダ・ヴィンチニュースでは、3本のインタビューを通して『SAO』の真髄に迫っていきたいと思う。第3弾は、『SAO』の第1期《アインクラッド》編から最新作《アリシゼーション》編まで関わってきたプロデューサー陣=アニプレックス・岩上敦宏氏、A-1 Pictures・柏田真一郎氏、EGG FIRM・大澤信博氏、ストレートエッジ ・三木一馬氏に集まっていただき、それぞれの組織の代表取締役も務める4人に、『SAO』への想いを語り合ってもらった。TVシリーズから劇場版へステップアップした経緯、そして《アリシゼーション》編最終章にかけた思いとは? 『SAO』の過去と未来を見通す、貴重な座談会だ。

『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』 TOKYO MXほかにて7月11日(土)より放送開始 (C)2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project

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――最初に皆さんのプロデューサーとしての『SAO』におけるお仕事をお聞かせください。8年前とお仕事は変わりましたか?

柏田 僕は『SAO』が初プロデューサーなんですよ。それがまさか、現在A-1 Picturesの社長として関わることになるとは……。

岩上 いまのクレジットはなんだっけ?

柏田 いまは制作統括になっています。

三木 あれ? 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。(以下、俺妹)』はプロデューサーじゃなかったんでしたっけ。

柏田 あの頃はアシスタントプロデューサー(AP)です。このメンバーとは長いんで、『SAO』が最初の感じがしないんですよ。

岩上 柏田さんがアニプレックスに入社してくれて、僕と一緒に関わったのが『俺妹』で。そのときは僕がプロデューサーで、柏田さんはAPだったんです。

柏田 入社1日目で、三木さんと打ち合わせをしましたからね(笑)。今の『SAO』は丹羽(将己/アニプレックスプロデューサー)に任せていて、厳しいふたり(大澤と三木)に丹羽を育ててもらうのが良いだろうと思っています。

大澤 僕の『SAO』の関わり方は最初から今まで変わらないんです……年をとっただけ。アニメが始まって8年。8歳年を取りました。

三木 僕も変わらないですね。ちょっと肩書が変わった(笑)。おこがましいですが。

大澤 僕も三木さんも、プリプロからポスプロまで打ち合わせに出るようにしています。

岩上 大澤さんはホン読み(脚本打ち合わせ)に出ているんですか?

大澤 出席するようにしていますが、なかなか出られないときもあります。

三木 相当出てもらっている印象がありますよ。『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』のときのホン読みもほぼ全部出てくださったし。

大澤 社長(プロデュース会社EGG FIRM)になったらなかなか関わることができないかな、と思っていたら、意外と出てる(笑)。

岩上 この4人の中で、僕が一番関わり方が変わっているんです。『SAO』の中の肩書はいまでもチーフプロデューサーとなっているんですが……大澤さんでしょ? この肩書きにしてくださっているのは。

大澤 最初に一緒に始めたんだから、ずっと一緒にいてもらわないと。

岩上 皆さんは10年間変わらず、この作品を支えてくださっているんですが、僕は現場を柏田さんや、丹羽さんに任せていて。わりと自分は視聴者に近い立場で毎週のオンエアを楽しませていただいています。この場に呼んでいただいて、ありがとうございます。

ストレートエッジ ・三木一馬氏

『アクセルワールド』は盛り上がりそうだけど、『SAO』は大丈夫なのかと不安になった(三木)

――そもそも『SAO』のアニメ化はどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

三木 これも全部言っていいんですかね。段取りとしては川原礫さんが第15回電撃小説大賞の大賞を受賞されて(2008年11月)。川原さんがウェブ小説としてすでに発表されていた『アクセル・ワールド』と『SAO』をほぼ同時に電撃文庫化したんです(2009年2月/電撃小説大賞受賞作は『アクセル・ワールド』)。それからしばらくして、アスキー・メディアワークス創立20周年記念作品(2012年)として、その2作をアニメ化しようという話が出てきたんです。しかも、「両方の作品をベストな形でアニメ化したい」ということになって。さらに、あろうことか「別々のビデオメーカーでやる」「ほぼ同時のタイミングで放送をしたい」という話も出てきて。そうなれば連動企画も立ち上がるだろうし、原作の担当編集者では手が回らないなと。別々のビデオメーカーでは連携も取りづらいかもしれない。そこで、アニメプロデュース会社さんに間を取り持っていただくと良いんじゃないかと。潤滑油になっていただこうと、当時ジェンコの大澤さんに白羽の矢が立った……というのが経緯です。

大澤 アニメ化の権利は争奪戦だったよね、たしか。

三木 『アクセル・ワールド』が争奪戦だったんです。商品化の話も放送前から『アクセル・ワールド』の引き合いが多くて。『SAO』はほとんどなかったんですよ(笑)。大澤さんも僕に相談してくれましたよね。「『アクセル』は盛り上がりそうだけど、『SAO』は大丈夫なのかな?」って。

大澤 当時の知名度的にはそんな感じだったよね。

岩上 僕も三木さんに最初に相談したのは『アクセル・ワールド』だったと思うんです。でも、その中で『SAO』を読んで。「こりゃ、おもしろい」となって。そこでぜひ『SAO』のアニメ化を引き受けたいという話をしましたよね。

三木 そうでしたね。当時『アクセル・ワールド』の制作はサンライズさん(メーカーはワーナー・ホーム・ビデオ)、『SAO』の制作はA-1 Picturesさん(メーカーはアニプレックス)と最強の布陣が組めたな、と思いました。

――岩上さんと柏田さんは、アニプレックスのプロデューサーとして、『SAO』をどのように作っていこうとお考えでしたか。

岩上 僕は『世紀末オカルト学院』が好きだったんです。あの作品はオリジナル作品だったのですが、スタッフの入れ替わりなどがあって、若手の伊藤(智彦)さんが監督することになった、という経緯を聞いていたんですね。その第1話を観た時にすごく面白くて。よくここまで仕上げたなと。第1話を観た直後に、A-1 Picturesのプロデューサーに、「次は伊藤さんと仕事をしたい」と伝えていました。そこで『SAO』というめちゃくちゃ面白い原作を、伊藤さんが監督のも、とA-1 Picturesでやろうと。監督とスタジオは、セットで考えていたんです。でも、伊藤さんなりの慎重さで、何度か断らましたね(笑)。

柏田 二度断られましたね。

三木 岩上さんが、伊藤さんが描いた『魔法少女まどか☆マギカ』の第11話の絵コンテを見せてくださって。「監督経験はまだ少ないんだけど、これほどの絵コンテを描く人だから、大丈夫です」と言われたことをよく覚えています。

大澤 僕も同じですね。岩上さんから『魔法少女まどか☆マギカ』の絵コンテを見せていただいて、そこでお会いして。そうね、最初は断られましたねえ。

柏田 なんとか説得して、引き受けてくださったんです。

岩上 キャラクターデザインを足立慎吾さんにお願いしたいと言ったのも伊藤さんでしたね。

三木 足立さんが描かれるデザインは、abecさんの原作テイストとはやっぱり違うんですよね。でも、媒体が違えば特性も違うわけなので、ちょっと考えどころだなと思っていました。決定打となったのは、abecさんが足立さんの絵の大ファンだったんです。「足立さんに描いていただけるのだったら、ぜひお願いします!」とabecさんがおっしゃるものだから、ここは足立さんにお願いしようと。僕らも決断したんです。

柏田 キャラクターデザインを足立慎吾さんに決めたあとも時間がかかりましたよね。

岩上 足立さんは当時『WORKING』という作品のキャラクターデザインを担当されていて、そこからabecさんの絵と融合させるために、時間をかけたんでしょうね。

大澤 最初は、足立さんも前の作品に引っ張られていたから、慎重に修正をしていきましたね。

柏田 その後、発表まで時間がなかったので、キービジュアルを描くために合宿したんです。SME(ソニー・ミュージックエンタテインメント)の保養所が那須高原にあったので、そこに伊藤監督と足立さんとで一緒に合宿をしました。3日間一歩も外に出ずに、ずっと打ち合わせをしていましたね。

A-1 Pictures・柏田真一郎氏

手ごたえを感じた《アインクラッド》編第1話「剣の世界」(柏田)

――実際に『SAO』第1期を制作していて、手ごたえを感じたところはどんなところでしたか?

柏田 確か、アニメ『アクセル・ワールド』のほうが放送が1クール分先行していたんですよね。ムチャクチャ良いフィルムだったんで、なんてことしやがると思ってました。でも『SAO』の第1話ができたときは、「これはいけるな」という認識がありました。

大澤 自分も第1話のアフレコの最後の松岡(禎丞/キリト役)が叫んだ時に「勝ったな」と思いました(笑)。第1話は映像もかなりいい状態でアフレコができたのですが、そのときに松岡が空中に向かって叫んだときに、すごいものを見たなと。アフレコで久々に震えましたね。

――松岡さんを起用したのはオーディションだったそうですね。

大澤 そうです。

岩上 オーディションのときに伊藤さんが松岡さんを推していて。当時はまだキャリアも浅かったので、プロデューサー陣の中にはもうちょっと名前が知られている人はどうかという案もありました。でも、議論を重ねるうちに、最終的には伊藤さんの言うとおりだね、と。『SAO』の小説を読んだときに、考えていた声って確かに松岡さんの声だったね、と。伊藤さんの意見に一票入れた記憶があります。

――三木さんはどの段階でアニメ版『SAO』に手ごたえを感じましたか。

三木 確か『SAO』は週末放送だったんですよね。第1話が放送されて翌週、月曜日に僕が出社したんです。そうしたら重版の連絡が届いていて、POSデータ(書店での販売動向を示した数値)の売り上げが、他作品に比べて段違いに大きかった。あの第1話の反響だと確信しましたね。

岩上 《アインクラッド》編は、第1話が大事じゃないですか。この作品が「デスゲーム」であることをちゃんと明示しないといけない。それを、キャラクターを通じてちゃんと見せていた伊藤さんの構成力の上手さがすごく出ていましたね。松岡さん、戸松(遥)さん(アスナ役)といったキャストと、梶浦(由記)さんの音楽と。完成度がすごく高い第1話ができたなと思いましたね。

大澤 構成も、原作から変えていますからね。時系列を再構築して、並べなおしているんです。でも、その構成が良かったですね。

岩上 伊藤さんは、脚本会議のときに、映画における構成論を語ってましたからね。

大澤 そうそう。でも、途中で「それは置いておいて」と岩上さんが言うから……(笑)。でも、伊藤さんから学ぶことがすごく多かったですね。

三木 岩上さんの発案で、『SAO』は脚本家さんが入っていないんですよ。本来は、編集職の人たちに、原作を再編集してもらっているんです。原作小説は、時系列通りには書かれていないので、アニメ化に際して全体を時系列通りに並べなおしたときに、登場人物のマインドの流れに微妙なズレがあったんですよね。ですので、アニメ脚本を12話まで上げた後、伊藤監督決定稿になった12話をもう一回最初から一気に読み直して、最後の修正を入れたんです。主に、メンタル面の感情変化の調整をしてましたね。『SAO』第1期の《アインクラッド》編はアスナとキリトの物語なんだけど、サチ(キリトが参加したギルド・《月夜の黒猫団》のメンバー)の一件があって、落ち込むんですよね。そのキリトを救済する展開を入れるんだと、ポイントごとに直す……といったふうに。もちろんこういうやり方はスケジュールに余裕がないと、脚本が上がったところから絵コンテ作業に入らないといけないので、そういった脚本修正はなかなかできないのですが。このやり方はすごく良いなと。進行にゆとりがあると脚本の質が上がるんだなと思いましたね。

柏田 まあ、原作どおりなんですけどね。第7話あたりの圏内事件がおとなしくなるのでそのあたりをどう盛り上げていくか。そのあたりが構成的に一番議論したところでしたね。

三木 そうでしたね、四苦八苦したところでしたね。

柏田 あとサチ(第3話)のエピソードを1話にまとめるか、2話にまとめるか。いま思うと、1話にまとめて良かったですね。

大澤 そうだね。

三木 物語の舞台である《アインクラッド》は全部で100層あって、その層をひとつずつ上っていくことを描くためには、テンポよく先に進んでいく必要もあったんですよね。

――《アインクラッド》編、《フェアリィ・ダンス》編をアニメ化した第1期のあと、『SAO』は第2期、劇場版へと展開していきました。長期のシリーズの企画に、どの段階から切り替えていかれたのでしょうか。

柏田 まさか8年続くとはね……。第2期が決まったのも第1期の後半ギリギリ……だったんじゃないですか?

大澤 そうでしたね。制作ラインを押さえなくてはいけなかったから、第1期の中盤あたりから動き出して……。

柏田 結局、第1期から第2期のオンエアまで2年かかりましたからね。第2期は原作のエピソードがうまく全24話にハマらなかったんですよね。

三木 何を入れるかが難しかったんですよね。《ファントム・バレット》編(原作第5・6巻)と《マザーズ・ロザリオ》編(原作第7巻)を入れるとして、「アーリー・アンド・レイト」(第8巻・短編集)の《キャリバー》編を入れるかどうか……。

大澤 《ファントム・バレット》編(アニメ14話分)と《マザーズ・ロザリオ》編(アニメ7話分)じゃ、24話に足りなかったんですよね。

三木 かといって《キャリバー》編以外を入れると、今度は足りなくなる……。

柏田 しかも、第2期から舞台となるゲームが変わるわけです。いまA-1 Picturesに来て実感しましたけど、『SAO』でゲームが変わるって、大変なんですよ。設定を全部作り直さないといけないから。当時の自分はアニプレックス側のプロデューサーとして、制作会社にムチャぶりする仕事だったので(笑)。たぶん現場からはすごく悪口を言われていたと思います(笑)。

三木 柏田さんは立場が変わっても、そのスタンスは変わらないで欲しかったな(笑)。

大澤 いまもムチャぶりしてるでしょう?

柏田 いやいや、さすがにスタンスは変わりますよ(笑)。

大澤 TVシリーズの制約も大きかったですよね。1クールは12話、13話という固定の枠組みだから、今回のような話数に収める窮屈さはありましたね。本当は《ファントム・バレット》編〉の《ガンゲイル・オンライン》と《マザーズ・ロザリオ》編の《アルヴヘイム・オンライン》は別のゲームなので、別のフォーマットだったら良かったなとも思うんですけどね。

岩上 僕としては、第1期の立ち上げのときはみなさんとかなり深くやり取りをしていたんですけど、中盤からホン読み(脚本打ち合わせ)を柏田さんに任せていて、毎週視聴者として楽しんでいたんですね。『SAO』は原作から各章ごとにテーマが明確にあると思うのですが、そこをちゃんと汲み取った映像になっていて、僕の立場としては「面白いアニメに仕上げてくれてありがとう」という感謝しかないですね。

(左から)アニプレックス・岩上敦宏氏、A-1 Pictures・柏田真一郎氏、EGG FIRM・大澤信博氏、ストレートエッジ ・三木一馬氏

後編へ続く(7月3日配信予定です)

『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』公式サイト

取材・文=志田英邦 写真=小野啓