ひとつの会社で勤め上げる時代は終わり? 自分の「一歩」をどう踏み出すか? 守屋実さんインタビュー

ビジネス

公開日:2020/7/31

――「参画」というのも本書の重要なキーワードのひとつだと思いました。

 僕は新規事業を専門でやっているので、「道なき道を皆で渡る」という感覚です。そのときに外部者になってしまったら、運命共同体や真のチームにはならない。なので、大手企業に「うちの会社を手伝って」と言われて参画するときに、「御社・弊社」という言葉は絶対に言わないんです。たとえば、JAXAやJR、デンソーでもアドバイザーなどを務めていますが、全部が「うち」だし、皆で打ち合わせするときは「我々」という言葉を使うようにしています。そうじゃないと、単なる外注業者になってしまうんですよね。

――細かいことに気付くためには、自分が日々使う言葉も細かく気にしておく必要がありますね。

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 言葉に気をつけているというよりは、根っこで気をつけているから言葉がそうなるという感じです。たとえば、フリーランスで独立して会社をつくる場合、どうしてもみんな自分の会社を中心に考えてしまうと思うんです。僕は自分の会社はわざわざ「守屋実事務所」っていう名前にしました、まったく何の意味も持たせないために。なぜそうしたかというと、僕自身が「ラクスルの守屋」であって、ラクスルを守屋実事務所として支援しているのではありません。ラクスルの副社長でしたが、ラクスルは僕の会社なんです。所有というようなオーナーシップでの意味ではなくマインドの話ですが、そういう気持ちでラクスルに参画すべきということです。そういう心の持ち方はすごく大事だと思います。
 
 守屋実事務所はどうでもいいから参画している事業のことを考えないといけない。だから意味のない名前にしました。

――長期的にみれば、そのほうが可能性を制限せずに済みますね?

 今日とか明日のことばかり考えていたら、1年後とか5年後に負けちゃうと思います。長い間頑張ってきたことっていつの日かきっと芽を出すと思うし、短期的に刈り取っているばかりだと駆逐しちゃうと思うんです。現実問題として、今日も明日も足元を見ずにやっていくことはできないですけれども、長い目線を大事にするのがちょうどいいと思うんですね。今日とか明日のことには放っておいても目が行くので。努めて長い時間軸で物事を考えていたほうがいいんじゃないかと思っています。

――人々の働き方が多様になっています。そういった点についてはどのように考えられていますか?

 本書にもありますが、会社の寿命は平均23.5歳です。そうすると、22歳で設立1年目の会社に入ると、45歳で会社が潰れてしまうことになります。これまでは、会社に入ればやめるまで潰れることはあまりないから、勤め上げることで会社も個人も報われたのだと思います。今は勤め上げるのは難しい。そうすると、個人でプロフェッショナリティを持って、好き・得意を仕事にして、それで頑張るという生活をしたほうがいいと思うんです。今後は、「会社の1枚の名刺であらゆることができる」という昔の総合職のようなものではなく、ひとつの仕事でもいくつかの名刺を持っていて「僕はこれで生きています」と言えるほうがいいのだと思います。人の寿命も長くなっているので、60歳で引退しても、働いていた期間と同じ40年がまだ残っていますからね。

 人生100年時代、新しい一歩はいつ踏み出しても遅くない。既に一歩を踏み出しているけれども自分では気付いていない可能性もある。「人は動いたようになる」という言葉の通り、動かなければ何も物事は生じない。まずは本書を手にとるという「一歩」をぜひ踏み出していただきたい。

取材・文=神保慶政