『FGO』宮野真守×坂本真綾対談! 歴史上の英雄を演じた2人は、この作品にどんな想いを込めたのか?

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公開日:2020/11/27

このインタビューは、雑誌ダ・ヴィンチ2020年9月号に掲載した内容を再構成しています。

 声優としてアーティストとして活躍するふたり。今回の劇場版では、宮野真守は主人公ベディヴィエール役として、坂本真綾はレオナルド・ダ・ヴィンチ役として共演している。劇場版の前編、後編の主題歌においても競作しているというふたりの初対談が実現!

坂本真綾さん、宮野真守さん
坂本真綾さん、宮野真守さん

 

――劇場版『Fate/Grand Order −神聖円卓領域キャメロット−前編 Wandering; Agateram』収録を終えた坂本真綾と宮野真守。歴史上の英雄を演じたふたりは、この作品にどんな想いを込めたのか。『FGO』の超人気キャラ、ダ・ヴィンチちゃんが『ダ・ヴィンチ』に登場!

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坂本 今日はこの取材を受けられて、ダ・ヴィンチをやってて良かったです(笑)。

宮野 真綾さんとふたりで取材なんて光栄です。いっしょに取材を受けたのは十数年ぶりですよね。

坂本 ふたりだけで取材を受けたのは初めてかもしれない。今回の撮影は記念撮影のような気持ちで撮っていただきました。まもたん(宮野真守)は、かわいい弟のように思ってきたので。

宮野 ありがとうございます。ずっといろいろな作品で共演はしてきたんですけどね。

坂本 私は、もともとゲーム『FGO』ではジャンヌ・ダルクがメインの役のつもりで、ダ・ヴィンチはここまで大きな役だと思っていなかったんです。最初は女性の姿で出てくる(註:モナ・リザの姿)ということもよく理解していなくて、綺麗なオネエのつもりで役づくりをしていたんです。

劇場版『Fate/Grand Order −神聖円卓領域キャメロット−前編 Wandering; Agateram』

宮野 綺麗なオネエ(笑)!? ああ、なるほどね!

坂本 お店に行ったら、元気で美味しいお酒を出してくれそうな、気さくなオネエぐらいのつもりでした。RPGに出てくる武器屋の店員みたいに「いらっしゃーい、調子はどうだい?」くらいの気持ちで。ダ・ヴィンチちゃんがこんなにメインストーリーに出てくるようになって、最初はびっくりしていました。

――ふたりはゲーム『FGO』の最初期から作品に関わっている。坂本真綾はゲーム『FGO』第1部・第2部の主題歌の作詞・歌唱を担当。宮野真守は劇中に登場するサンソン、ジキル&ハイドといったメインストーリーの序盤に登場するキャラクターを担当している。そんなふたりに改めて『FGO』の魅力を語っていただいた。

坂本 私は主題歌を歌わせてもらっていたこともあって、『FGO』の配信開始のころ(2015年)から知ってはいたんです。正直言って、これほど大きなムーブメントになるとは全く予想していなくて。やはりストーリーの力がすごく大きかったんだなと思います。

宮野 歴史上の偉人が登場するという展開は熱いですよね。『FGO』で声を入れさせてもらうときは楽しかったですよ。ベディヴィエール、サンソン、ジキル&ハイド……。ジキルとハイドなんてひとり二役ですからね。それぞれ時代が違う偉人たちをひとつにまとめているところがすごいと思いますし、誰もが共感できる物語として書いているのはおもしろいなと思います。

坂本 『FGO』のテキストは、けっこう難しいんですよ。独特な言葉選びもあるし、ボリュームもある。これだけテキストのあるゲームってなかなかないと思うんですよ。本当に読むことが好きな人たちが楽しんでいる作品なんだなと思います。

――『FGO』のテキスト量は現時点で500万字以上と言われる。ストーリーの追加が行われるたびに文庫本1冊相当のテキストが追加されている。

宮野 そんなに文章があるんだ。それは楽しいね。

坂本 キャラクターを強くしたり、育てていくことも楽しいんでしょうけど、たぶん読むことの楽しさは格別なんでしょうね。しかも、設定はファンタジックで伝説の人物や時空を超えた壮大な旅を描いているんですけど、奈須(きのこ)先生が言いたいことは、すごくシンプルで。みんなが人生でぶつかる壁のようなものや、ボーイ・ミーツ・ガールを書いていて。複雑な設定や壮大な世界観があっても、誰もが自分に置き換えられるようなシンプルなテーマがあるから、これだけ多くの人が読んでいるんだろうと思います。

ベディヴィエールの繊細さ、ダ・ヴィンチのフラットさ

劇場版『Fate/Grand Order −神聖円卓領域キャメロット−前編 Wandering; Agateram』

――今回の劇場版はゲーム『FGO』でも人気が高いとされる第六章。十字軍がいなくなった直後のエルサレムを舞台とする同章をふたりはどのように捉えているのだろうか。

坂本 私が第1部の主題歌の話をいただいたときは、まだ『FGO』のシナリオが全部完成していなくて、全体の流れとか、結末について伺いながら『色彩』の歌詞を書いたんです。第六章のシナリオは、私のライブをご覧になって、奈須さんが一気に書き上げられたものだそうで。

宮野 へえ、そうなんだ!

坂本 たぶん、ベディヴィエールがどこへ向かうか、すごく悩まれて書かれた作品なんだろうなと感じました。

宮野 第六章は「人の想い」が描かれているんですよね。今回シナリオであらためて第六章の物語に触れて、ああ、この作品はやっぱりおもしろいなと思いましたね。

――そして今回の映画では、長き旅路の果てに1273年のエルサレムに到達した遍歴の騎士ベディヴィエール(ベディ)が中心に描かれている。ふたりはどのように彼を捉えたのか。

宮野 今回の映画はベディが物語の主軸にいるので、彼の想いが物語になっているんです。彼は後悔や懺悔にも似た強い想いを抱えていて、その想いを長い間もち続けるだけの精神力がある。その想いが自分の内に籠るのではなく、他人に働きかける方向に向かうところが彼の素敵なところだと思います。

坂本 今回、あらためてベディヴィエールの視点で物語を見て、半分は共感できるけど、半分はわからないなと思いました。なぜ、それほど頑なに自分の想いを貫こうとするのか。彼は何が欲しかったのか。彼はどういう気持ちなのか。まもたんの声を聴きながら考えていました。ベディヴィエールはすごく人気のあるキャラクターだと思いますけど、心の動きがすごく繊細で演じるのは難しい役だろうなと感じました。

宮野 そう……。繊細な心の動きがあるからこそ、僕自身はベディが求めているもの、彼が信じているものをはっきりと決めたいと思っていたんです。収録現場では(島﨑)信長くん(藤丸立香役)が先生になって、第六章のことを細かく教えてくれて。「Fate」シリーズの世界観も把握しつつ、細かい物語や設定を自分の中に入れたうえで「ベディはこういう人間だ」という部分をしっかりつくり込むことができました。やっぱりベディは大きな愛をもっている人なんです。後悔や懺悔の気持ちがあるのは、愛があるから。そう思うと、この物語はベディの罪を描く物語なんだなと思いました。彼の愛のせいで歪んでしまった旅なんです。

――今回の劇場版では、これまで藤丸たちチームカルデアのサポート役だったダ・ヴィンチがエルサレムの地に降り立つ。彼女の新たな一面も見どころだ。

坂本 ダ・ヴィンチはまわりの人がどんなふうに動いても、影響される人間じゃないんですよね。ずっとフラットなんです。TVアニメの『Fate/Grand Order −絶対魔獣戦線バビロニア−』でもダ・ヴィンチは出てきましたけど、前回も今回もアプローチはあまり変えていないんです。この作品は思い悩んでいる人が多いので(笑)、どんなときでもシリアスにならないような彼女の軽さが、良い意味で明るさになっていて。ほっとするような、そして頼りになる存在になっていたと思いますね。

宮野 一番男らしいんですよね。

坂本 そうだよね。どんな展開があっても悲壮感はなくて、迷いなく演じることができたのですごく楽しかったです。どんなときも強く明るく、いさぎよくカッコよく。それがかえって、ちょっと不気味にも見える。奥底に計り知れないものをもっている人だと思いますね。

――アフレコには豪華なキャストが集った。

坂本 ゲーム『FGO』のときは、それぞれ単独で収録していたんです。でも今回はみんなでいっしょに録ることができて、すごく新鮮でしたね。この人(キャラクター)はこんな声でこんなしゃべり方をするんだとか。よくわかっているはずの自分の役も、セリフのやり取りをするとやっぱりちょっと変わっていくんです。そういう感覚をみんな現場で楽しんでいるという感じがありましたね。

宮野 僕(ベディヴィエール)の親友役が内山(昂輝)くん(トリスタン役)なんですけど。彼はさまがわりしてしまうんですよね。それがベディにとってはすごく苦しい。本当に苦しい作品だなと思っていました。円卓との絆が失われてしまったときに、藤丸たちがベディと絆をつないでくれる。それが唯一の救いになりました。あと、オジマンディアスがすごかったです(笑)。子安(武人)さんだ! 迫力めっちゃある!って。キャストの顔ぶれが豪華で楽しかったです。

坂本 あと、監督 (末澤慧) がすごく熱いんです。積極的にキャストの録音ブースに入ってきてくださって。ここのセリフはこういう意味を込めたセリフなんですよ、とコミュニケーションを取っていただきました。

 

前編主題歌は坂本真綾、後編主題歌は宮野真守

坂本真綾さん

――ふたりは今回、主題歌も担当している。前編『Wandering; Agateram』では坂本が『独白』を歌い、後編『Paladin; Agateram』は坂本が作詞を担当、宮野が歌唱する(曲名未定)。

坂本 主題歌を制作するにあたり、監督からは「前編のベディヴィエールに寄り添いつつも、後半が楽しみになるような曲をつくってほしい」というオーダーがあったんです。ベディヴィエールの心情に寄り添いつつ、後編への期待感が高まっていくような歌になっていると思います。

宮野 絶妙でしたよ。

坂本 私の中では、この作品はやっぱりベディヴィエールが主人公なんです。前編の彼は「自己否定」をしていて、自分がしてきたことを後悔して、懺悔をしようとしている。けれど後編は自己肯定に変わっていき、自分を許せるようになる。前・後編はそういう両極の物語になるんじゃないかと思ったんです。

宮野 前編が真綾さんで、後編を僕が歌うという方向性を決めていただいたときに、恐れ多いなと思いました。まさか自分が歌わせていただけるなんて……。そして、真綾さんにベディの物語を歌っていただけるのはとても光栄なことだなと。さらに、自分のキャラクターが主軸になって物語を進めていく作品で、真綾さんに歌詞を書いていただいて、僕が歌うということが新鮮で、光栄で。これまで作品にこういう関わり方をしたことが、あまりないんですよね。いままで感じたことがない想い、感覚があります。

宮野真守さん

坂本 前編の主題歌は否定と、後編で描かれる肯定の間にある曲。まもたんが演じるベディヴィエールの“独白”からインスパイアされて、ベディヴィエールの表情を想いながら歌詞を書きました。

宮野 『独白』を聴かせていただいてびっくりしたんですよ。ベディの想いはここに描かれている。だったら、後編ではその先を僕は歌いたいなと思ったんですよね。真綾さんの主題歌によって、前編の流れは完璧になっているので、僕はこの前編が公開されるときをワクワクして待っています。

坂本 今回の劇場版『FGO』は観た人によっていろいろな受け取り方ができる作品ですが、救いのある作品でもあるんです。前後編の物語を楽しんでほしいなと思います。

宮野 前編がかなり気になるところで終わるのですが、きっと後編を早く観たくなってもどかしくなると思います。僕らも後編の収録を楽しみにしています。

 

宮野真守
みやの・まもる●1983年生まれ。埼玉県出身。2001年に海外ドラマの吹き替えで声優デビュー。『DEATH NOTE』『機動戦士ガンダム00』など数多くの作品で主演を務めている。アーティストとしても活動し、これまでに19枚のシングル、6枚のオリジナルアルバムをリリース。

坂本真綾
さかもと・まあや●1980年生まれ。東京都出身。96年にアニメ『天空のエスカフローネ』で主演を務め、『劇場版 空の境界』や劇場版『ヱヴァンゲリヲン』などで注目を集める。アーティストとしても今年でCDデビュー25周年を迎える。作詞家としても多彩に活動している。

取材・文:志田英邦 写真:網中健太
スタイリスト:横田勝広(YKP)(宮野)、岩渕真希(坂本) ヘアメイク:Chica(C+)(宮野)、ナライユミ(坂本)
衣装協力:宮野●ジャケット13万9000円、シャツ5万6000円、パンツ8万円、シューズ7万円/以上全てYOHJI YAMAMOTO / ヨウジヤマモト(ヨウジヤマモト プレスルームTEL03-5463-1500)
坂本●ドレス 5万60円/suzuki takayuki(TEL03-5846-9114)、リング 9万9000円/carat a (ISETAN SALONE東京ミッドタウンTEL03-6434-7975)

主題歌情報