僅か半年で7万2000部超え! 『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない。』著者・冬野夜空、初インタビュー

文芸・カルチャー

更新日:2023/11/22

冬野夜空

 余命短い彼女と、彼女の写真を撮り続ける僕。ふたりの切なくも濃密な2カ月間を描いた『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない。』(スターツ出版)が、現在7万2000部を超えるヒットに。著者の冬野夜空さんは、これがデビュー2作目の若手作家。大学に通うかたわら小説を執筆し、今もっとも期待されるライト文芸作家のひとりとして注目を集めている。

 作家を目指した経緯、『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない。』の誕生秘話、最新作『あの夏、夢の終わりで恋をした。』での挑戦など、初めてのインタビューでたっぷり語っていただいた。

じんわり切ない読後感の物語を描きたい

──はじめに、冬野さんが小説を書こうと思ったきっかけを教えてください。

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冬野夜空さん(以下、冬野):いくつかありますが、一番大きいのは「読んでいたら書きたくなった」というシンプルな理由です。特に好きな作家は三秋縋さん。三秋さんは“不幸中の幸い”を描くのがうまいんですよね。不幸が前提にありつつ、その中で幸せを見つける物語が多く、影響を受けました。僕のデビュー作『満月の夜に君を見つける』(スターツ出版)も、三秋さんの『恋する寄生虫』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)に影響されて書いたんです。あとは、西尾維新さんも好きで、その影響からダジャレ好きに(笑)。逆に、自分には書けないのでミステリーはあまり読みません。

──大学在学中にデビューされたそうですが、小説を書き始めたのはいつ頃ですか?

冬野:16歳、高校2年生からです。ライトノベルのほか、伊藤計劃さんが好きでSFも書いていました。

──書いた作品は、小説投稿サイトなどで発表していたのでしょうか。

冬野:完結したら賞に応募して、落選したらネットに載せていました。当時は全然受賞できませんでしたが。

──デビューが決まったきっかけを教えてください。

冬野:スターツ出版の賞に応募しました。でも、どうせ落選するだろうと思って、結果を見ていなかったんですね。そのまま放置していたのですが、ある時なんとなく応募作を投稿したサイトを確認したら5カ月くらい前に書籍化打診のメッセージが届いていて。「マジか!?」と思って慌てて電話したところ、晴れてデビューとなりました。

──デビュー作『満月の夜に君を見つける』は三秋さんの影響を受けた作品だそうですが、どのようにして生まれたのでしょう。

冬野:三秋さんの作品を読んで、救いのない設定を書いてみたいと思ったんです。「幸せになればなるほど死に近づくという設定は、救いがなくて最高だな」と思い、そこから絵画というモチーフを取り入れて、物語を作っていきました。最初はふたりとも報われない、バッドエンドを予定していましたね。それを改稿したものをスターツ出版に拾っていただき、さらに改稿したのがデビュー作です。結末も大きく変わりました。

──冬野さんの趣味を前面に出すと、不幸な話になりがちなのでしょうか。

冬野:そうですね。何も指示されずに書くと、不幸のうえに不幸が重なっていく話になります。最終的にハッピーになるとしても、途中で不幸に落としたくて。自分の人生があまりハッピーじゃないからじゃないですかね(笑)。

──そう簡単に幸せにはせんぞ、みたいな。

冬野:そんな感じです(笑)。読後感も爽やかというよりは、じんわり切ないものにしたいと思っていて。2作目の『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない。』も、切なさを意識しました。

ネタを書き留めるのは、ノートやスマホのメモ機能ではなくLINE

──現在ヒット中の『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない。』が誕生した経緯について教えてください。

冬野:カメラマンが死期の近い女の子の遺影を撮るという設定を、6年ほど前から温めていたんです。2作目は泣ける話を書きたいと思ったので、ストックの中からこの設定を使うことにしました。

──ネタはいろいろストックしてあるんですか?

冬野:そうですね。小説家を志した当初、自分の中にネタがたくさん湧き出てきたんです。それを書き出しておき、小説を書けるぐらいまで文章に慣れてきた時に、ようやくそのネタを使って物語を書き始めました。

──ネタになりそうなキーワードをメモしているのでしょうか。

冬野:ものによってバラバラです。キーワードだけを箇条書きで書くこともありますし、自分の中である程度形ができていたらプロローグを書いてしまうことも。「今の自分にはこれ以上書けないな」と思ったら、その先の展開を予想してメモっておいたり。いろいろですね。

──ネタ帳に書き留めているんですか? スマホのメモ機能でしょうか。

冬野:LINEの適当な公式アカウントにメモしているんです(笑)。AIが応答する公式アカウントってあるじゃないですか。複数のアカウントを使って、「このアカウントにはこういう設定のものをメモしよう」となんとなく決めています。

──それは珍しい。スマホのメモ機能は使わないんですか?

冬野:ある程度、長文を書く時はメモも使うんですけど。キーワードレベルなら公式アカウントにメモします。歌手のAimerさんが好きなので、Aimerさんの公式アカウントに長文送ったりしています(笑)。

──作中では、ヒロインである綾部香織がとても魅力的に描かれています。彼女が主人公の天野輝彦を専属カメラマンに任命し、そこからふたりの撮影の日々が始まります。難病で余命が短いながらも、日々を全力で生きる香織というキャラクターは、どのようにして生まれたんでしょうか。

冬野:死という概念とは、正反対のヒロインにしたかったんです。幸薄そうな子よりも、溌溂とした子が病気だと明かされたほうが悲しみや驚きも大きいので。そのうえで、自分自身も書くことを楽しめるよう、自分が会ってみたくなるような女の子を想像しながら設定を考えていきました。最初に決めるのは、身長や髪形などの外見。そこから見た目に合いそうな言動を考えていくんです。表紙についても、イラストレーターのへちまさんに「こんな絵にしてほしい」と細かく指定しました。

──主人公の輝彦は、香織とは正反対の人物のように見えますね。

冬野:一見すると正反対ですが、共通点もあるんです。香織は生きる希望を諦めていますが、主人公は希望を必要とせず平凡な日々を送れればいいと考える人物。希望から離れた存在という点で、彼らは共通しています。そんなふたりがお互いに影響し合い、希望を見出し、成長していく物語を書きたいと思いました。

ヒロインは、すでに死を受け入れて達観した女の子

──物語が始まった時点で、死期の近い香織は希望を失っています。あとがきでも触れていましたが、死を受け入れる段階について冬野さんの考えを聞かせてください。

冬野:僕はまだ22歳ですが、これまでに何度も身近な人の死に触れる機会がありました。その経験から、死を受け入れるまでにいくつか段階があると思うようになったんです。最初は死を受け入れられませんが、やがて現実だと認めると自暴自棄になって、それすらも越えると虚無感に苛まれ、そして最後はすべて受け入れる。香織はすでに全部受け入れた状態なので、達観しているんです。

──そんな彼女が、輝彦と撮影をする日々を通じて少しずつ変わっていきますね。

冬野:これまで香織は、「私は病気だから」という前提で行動し、病気に人生を左右されてきました。一方輝彦は、「平凡でありたい」という一貫性を持って行動し、周囲の批判や好意に左右されることなく生きています。そんな輝彦に感化され、香織は彼のことが少しずつ気になり始めていったのでしょう。輝彦に恋したことで生きる希望が生まれ、彼女の成長につながったのではないかと思います。

──そんな輝彦も、香織と出会って変わっていくように感じました。

冬野:自分にないものを持っている香織と一緒にいたおかげで、「自分からなにかを望んでもいいんだ」「自分だって行動できる」と気づいたのだと思います。最初は香織に逆らうとデメリットが大きいので行動を共にしていましたが、一緒に星空を観に行くあたりで彼のほうから積極的に行動しようと気持ちが変わっていきます。輝彦の成長を描くうえで必要なシーンだったので、とても印象に残っていますね。

──星空を観に行くシーンは、作品全体を通してもとても印象的です。どのような気持ちで書かれたのでしょうか。

冬野:最初に設定を考えた時、香織にもなにか趣味を持たせようと思い、星が好きという設定にしたんです。そこで、輝彦はカメラ、香織は望遠鏡と、それぞれファインダー越しに対象を見ていることにしようと考えました。その直後に、星空を観に行くシーンは決めていて。かなり初期から、セリフも考えていました。

 一連のシーンは、ノリノリで書きましたね(笑)。待ち合わせから、ネタをたくさん入れているんです。バイクに乗せてもらおうと、香織がヘルメットをかぶって現れたり、モーゼの十戒の話が出てきたり、香織が川端康成の『雪国』を知らなかったり。3ページくらいの中にネタをポンポン入れて、楽しんで書きました。

──このシーンに限らず、輝彦と香織の会話が楽しいです。香織がしょうもないダジャレを言うのも、かわいいですよね。

冬野:読者の方にもふざけているおてんばキャラだと認識してほしかったので、あえてくだらないことを言わせています。もともとライトノベルを書いていたので、軽快な掛け合いを書くことも多かったんですよね。あとは、自分も日常的にダジャレを言うので、会話に取り入れました。友達からはよく「小説家の語彙力を無駄に使っている」と言われます(笑)。

大切な人になにかを“遺す”ということを描きたかった

──写真が印象的なモチーフとして使われていますが、カメラに対して特別な思い入れがあるのでしょうか。

冬野:なにかひとつ、物語の中心となるモチーフがあったほうが書きやすいので取り入れました。それに、2作目のテーマは“遺す”ということ。大切な人になにかを遺す、それはなにがいいかと考えた時、カメラが思い浮かびました。

──“遺す”というテーマについて、もう少し詳しく聞かせてください。

冬野:遺された側としては、亡くなった人のものが遺っているとうれしいですよね。それは、ものに限らず思い出や心の成長だっていい。大切な人になにかを遺すということを描きたかったんです。

──一瞬を切り取る写真と、はるか昔の光を届ける星、ふたつの対比も印象的です。星を作品に取り入れたのはなぜでしょうか。

冬野:香織=織姫というイメージを早い段階で決めていました。香織が天文好きという設定を決めた瞬間に、「じゃあ七夕にしよう」と。「遠く離れたものになりたい」と言っている女の子っていいなと思ったんですよね。それに、物語の構想を練る時、よく夜道を散歩して空を見上げているんです。それもあって、星を取り入れました。

──デビュー作のタイトルにも“満月”とありますし、ペンネームも“夜空”です。やはり空や星がお好きなのでしょうか。

冬野:デビュー作の構想を練っている時に、冬の夜空を眺めていたんです。覚えやすいし、これでいいかな、と。その割に、これまで描いてきたのはなぜか夏空ばかりですが(笑)。この名前のせいか、女性だと思っている読者も多いようです。

ネットでは考察も 主人公が香織にかけた言葉とは?

──ほかに、この作品で力を入れたところ、苦労したところを教えてください。

冬野:輝彦が、香織の遺影を撮るというのを決意するシーンでしょうか。決意するまでの過程が一番難しかったです。すんなり「撮ろう」となるのもおかしいですし、どう葛藤させればいいかわからなくて。そこで、「父親もかつて病院で写真を撮っていた」という設定を加えたんです。

──最初はしぶしぶ撮影に付き合っていた輝彦が、彼女に惹かれ、死期が近いことを受け入れて遺影を撮る。こうした感情の流れをどのようにして作っていきましたか?

冬野:ふたりが一緒にいるようになって、お互いに影響し合うようになりました。主人公としてはそれを自覚しつつも、まだどこか香織は他人だったんですよ。でも、香織が家に遊びに来て、彼女が帰ったあとの部屋の惨状を見て、香織の存在を強く感じたんです。その時、「この子といたい」と自覚して動き出す…という気持ちの流れがあります。そこから、彼女の存在が特別になったのかなと思います。

──生前に遺影を撮るのは、よくあることなんですか?

冬野:この作品を書くうえで調べましたが、生前に撮ってほしいという方は多少なりともいらっしゃるようです。香織の場合、明記はしていないのですが、「モデルの応募用に撮ってほしい」と言いつつ、本当は家族に写真をあげたいと思っていたんです。家族に、自分が生きていたことを遺すために主人公に撮影を頼んだんですね。そういう意味でも“遺す”につながるのですが。

──無粋な質問で恐縮ですが、物語の終盤、手術を終えた香織の写真を撮る際、輝彦がある言葉を投げかけますよね。作中では、その言葉が伏せられていますが、何と言ったかヒントを教えてもらえませんか?

冬野:読者からも「あの時、輝彦はなんと言ったのですか?」と聞かれるのですが、「ご想像にお任せします」「“好き”ではありません」と返しています。ネットでは、名前を呼んだのではないかという考察が多いようですね。それはそれで素敵ですし、間違ってもいないと思います。正解はありませんが、しいて言うなら香織の笑顔を引き出す言葉、でしょうか。

──正直なところ、難病と純愛を組み合わせた感動ストーリーは他にも存在します。そんな中で、他の作品に埋もれないよう独自性を出すために意識したことはありますか?

冬野:執筆にあたって、もっとも意識したのは香織をいかに魅力的に見せるか。そもそもカメラの被写体は、魅力的でないと意味がありませんよね。そこで、輝彦がカメラのファインダー越しに見た香織の姿を、そのまま描写しようと心掛けました。あとは、人間的なところ、苦悩している姿もしっかり描きたくて。そんな香織に寄り添える主人公でありたいと思いながら書きました。その結果、自分でもかわいい子が描けたなと思いますし、香織を褒められるととてもうれしいです(笑)。

──現在、発行部数が7万2000部に達しています。ご自身では、人気の理由をどのように捉えていますか?

冬野:香織のキャラクターも人気の一因だと思いますが、単純に1冊の本として読みやすいのではないかと思います。読者からは「読書が苦手だったけれど、この本は読めました。読書が好きになりました」という声も。そこが強みなのかなと思います。

 もともと青春小説ではなくSFやファンタジーを書いていたので、本来は設定を詰め込んで説明するのが好きなんですよね。そうすると地の文が多くなるのですが、青春ものは地の文よりもセリフを増やすようにしています。それも読みやすさにつながっているのかもしれません。

3作目は“もしも”の世界を描いた、SFテイストのラブストーリー

──新作『あの夏、夢の終わりで恋をした。』(スターツ出版)についてもお聞かせください。

冬野:デビュー作が絵、2作目が写真だったので、今回は音楽をスパイスとして使いました。個人的に、パラレルワールドやタイムリープを扱った作品が好きなんです。そこで“もしも”の世界という設定で、恋愛ストーリーを描きました。自分自身、後悔をよく引きずりますし、そういう方はきっとたくさんいますよね。後悔や選択の話にすると、メッセージが伝わりやすいのかなとも思いました。

──構成も凝っていますよね。

冬野:前2作とは違うチャレンジをしています。主人公視点の物語に“間奏”としてヒロイン視点を入れたことで、設定の切なさが増したのではないでしょうか。最初は主人公とヒロインの食い違いに違和感を覚えるかもしれませんが、最終的には伏線をきれいに回収できたのではないかと思います。

──反響はいかがですか?

冬野:2作目ほどの盛り上がりはまだありませんが、読んだ方からは好評です。前2作は批判的な意見もありましたが、3作目はほぼなくて。ある意味、一番きれいな話を書けたのかなと思います。

──次回作についても、すでに執筆が進んでいるのでしょうか。

冬野:構想は考えています。4作目のテーマは“自己犠牲”。今までで一番ファンタジー要素が強くなりそうです。

──ファンタジー、純愛、SFなど趣の異なる作品に挑戦されていましたが、冬野夜空らしさを感じさせるのはどのような作品でしょう。

冬野:もっとも自分らしいのはデビュー作です。設定を詰め込むのが好きなので。本当はもっと複雑な設定だったのですが、複雑すぎるのでカットしました。

──これまでの作品は、すべて高校生のお話です。10代の心情を描くうえで大切にしていることは?

冬野:自分が10代だったころを思い出すことでしょうか。と言っても、自分が20代になっているという自覚もあまりないのですが。今22歳なのですが、「昨日まで高校時代だったな」ぐらいの感覚です(笑)。10代を書くにあたって、あまり苦労はありません。

──今後、ご自身が年を重ねることで、描く年代も変わっていくのでしょうか。

冬野:多少年齢が上がることはあるかもしれませんが、青春時代を絡めることになると思います。学生って学校とその周辺の世界で生きていますし、日々の生活も恋や友情に左右されることが多いですよね。恋愛、友情を描くなら、高校時代がもっとも適しているのかなと思います。中でも、恋愛が発展するまでの話をできるだけわかりやすく描きたい。ファンタジーやSF要素が加わっても、感情がどう変化するのか書いていきたいです。

──最後に、作家としての目標を教えてください。

冬野:動いている人物を想像しながら書いているので、アニメや実写など映像化されたものを見てみたいですね。2作目については、実写映像化しやすいのかなと思っています。

 あとは、専業作家として生きていけたらいいなと思っています。現在は大学卒業間近で、もしかしたら他の仕事に就くこともあるかもしれませんが、それでも書き続け、いつかは専業作家という目標を叶えたいです。

取材・文=野本由起 写真=山口宏之