今話題の女性ラップユニット・chelmicoに聞いた!「おうち読書」で何読んだ?

文芸・カルチャー

公開日:2020/9/12

『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」の投票がいよいよスタート!そこで、3rdアルバム『maze(まぜ)』をリリースしたばかりの女性2人組ラップユニット・chelmicoに、今年のおうち読書について教えてもらった。言葉遊びが好きな彼女たちは、読書も好き。自粛中、自宅ではどんな本を読んで、なにを考えていたのだろう?

chelmico

Rachel 私が読んでいたのは『なつのひかり』(江國香織)。友達に川上未映子さんの『夏物語』を薦めたら、同じ夏の話ってことで紹介されて。『不思議の国のアリス』みたいな話だよって言われて読み始めたんですけど、日常にどんどん不思議なことが紛れ込んできて主人公がずっと途方に暮れている、っていうすごく不思議なお話でした。

――あらすじを説明するのがとても難しい本ですよね。隣に住む少年の飼ってるやどかりを追いかけるうち不思議なことが起きるのは確かにアリス的。でも、そもそも兄の裕幸には当たり前のように愛人がいて、妻公認で、その妻が失踪したかと思えば、幸裕と名乗る兄が現れて、別の妻を連れてきて……という。

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Mamiko 意味わかんないね(笑)。

Rachel わかんない(笑)。最初から最後までわけわかんないことの連続で、大騒ぎするわけでもなく、妙に静かなテンションでずーっと続いていく。その気持ち悪さというか、居心地の悪さみたいなものが、私は好きなんですよ。お兄ちゃんも、つかみどころがないところがすごくいい。桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』にも飄々とした感じのお兄ちゃんが出てくるんだけど、現実でも小説でも、寡黙で何を考えているかわからない人に憧れるんですよね。こちらが頑張って汲んであげなきゃコミュニケーションは成立しないんだけど、その試行錯誤が楽しいのかな。

Mamiko 私が読んでいたのは『たいようのおなら』っていう詩集で、灰谷健次郎さんが選んだ、子どもの詩が収録されている。灰谷さんのことはよく知らなかったんだけど、「ろくべえまってろよ」の方なんですね。

Rachel ああ、教科書に載ってたやつ! 覚えてる。

Mamiko 私も短歌をやっている友人からの紹介で読んだんですけど、もうすごくよくて。たとえば、みほちゃんって6歳の女の子が書いた「いぬ」という詩。〈いぬは わるい めつきはしない〉。以上。いや悪い目つきするよ?って私は思うんだけど(笑)、でもみほちゃんにはしないんだよね、その感性いいな、って何度も何度もかみしめちゃう。まゆみちゃん・6歳の「こおり」っていう詩は〈ふといのん さわったら ちりちり いたかった〉〈つりつり すべったよ〉〈すべって すべって 手が ぬしぬし したよ〉って、擬音の表現がすごくおもしろかった。

Rachel 擬音って、いいよね。『なつのひかり』にも〈しのしのと空気にからまるように降る雨の音をききながら〉って表現があって、最初は“しとしと”じゃない?って思っていたけど、味わってると、うん、やっぱりここは“しのしの”だな、ってなる。そういうの、自分でも歌詞にとりいれたいけど、なかなか難しいんだよね。今回、「ごはんだよ」って歌には〈なつのひかりに現れたやどかり〉って歌詞を入れちゃったけど(笑)。

Mamiko 影響受けてるね(笑)。

Rachel 『なつのひかり』の主人公って、なんかずっと、歩いているんだよね。外に出かけるだけじゃなくて、自分の心の中を散歩しているイメージ。だから自粛中、読んでいるだけで自分も一緒に歩いている気持ちになれて救われたりもしたんだけど、今回のアルバムじたい、子どもの頃の自分に向けて、自分の記憶のなかを歩きながらつくるイメージだったから、いろんな意味で心象風景がリンクして、入れたくなったのかもしれない。

Mamiko 「子どもの頃の自分へ」っていうのは最初から話していたテーマだったよね。どうしても昔のことって美化しがちだけど、きらきら素敵な思い出ばかりじゃなくて、なかにはトラウマになるくらい衝撃的だったこともある。自分の記憶をたどりながら、でもそのごちゃまぜの感覚を味わって、楽しんで……っていうのは私も『たいようのおなら』を読んでいるときと近いものがあった。子どもたちの、純粋で新鮮なまなざしに触れながら、これを忘れちゃいけないなって何度も思いましたし。この本を読んでいれば、大事なものを忘れないでいられる気がするから、音楽活動だけじゃなくて、人生のバイブルになる予感がする。

Rachel 本って、やっぱり出会うタイミングがあるよね。私も、もう少し若くて、自粛中でもなかったら、『なつのひかり』のわからなさに身を委ねることはできなかった気がする。でも自粛に入る前から、自分たちのパーソナルな部分により踏み込んだ『maze』をつくりながら見つめ直していた自分っていうものを、読書がさらに深めてくれたような気がします。

取材・文=立花もも

【アルバム紹介】

【プロフィール】
chelmico●2014年結成のRachelとMamikoからなるラップユニット。自由でキャッチ―なリリックとメロディに注目が集まる。憧れはRIP SLYME。「大人なのに楽しそうでおしゃれで肩の力が抜けている、彼らになりたいと私たちが願ったように、chelmicoになりたいと言ってくれるファンの声を聞くと、少しは理想に近づけているのかなと思います」(二人談)。