醍醐虎汰朗×森七菜対談! 2人だけで全編朗読した『小説 天気の子』オーディオブックの魅力とは?

文芸・カルチャー

公開日:2020/9/26

 2019年7月に公開され興行収入140億円超のメガヒットを記録した、新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』。監督自らが執筆した『小説 天気の子』の全編を、映画で森嶋帆高の声を演じた醍醐虎汰朗、天野陽菜を演じた森七菜が、二人だけで朗読するオーディオブックが8月28日にリリースされた。二人の対談で、その魅力を探る。

醍醐虎汰朗さん、森七菜さん

――お二人は今日、「おひさしぶり」だったそうですね。

醍醐 ひさしぶりでしたね。今年はまだ会ってなかったみたいで、七菜ちゃんにさっき「あけましておめでとう」と言われて驚きました(笑)。

advertisement

 12月に、報知映画賞の授賞式でお会いしたのが最後だったんです。1年前はほぼ毎日会っていたのに。

醍醐 ほんとだよね! また会えたことが嬉しいです。しかも、また陽菜と帆高を演じることができて。

――新海さんが自ら手がけた『小説 天気の子』を、全編朗読する。しかもアニメ本編で演じたそれぞれの役だけでなく、男性の登場人物は全て醍醐さんが、女性の登場人物は全て森さんが読む、演じる。今回のオーディオブックの企画を耳にした時、どんなことを思いましたか?

醍醐 そうですね、僕は……。

 ウフッ。

醍醐 ちょっと、なんで笑ったの!

 醍醐くんって取材の時いっつも、「そうですね」から始まる(笑)。

醍醐 またそうやって悪いところばっかり指摘するんだから。

 悪いところじゃないじゃん。いいところですよ。

醍醐 いいところではないじゃん。

 チャーミングなところ?

――話を戻しますと……(笑)。

 はい、すみません(笑)。私は、正直「できない」と思いました。夏美役の本田翼さんとは声も全然違うし、本田さんの素敵さっていうのが、私には表現できないだろうなって……。お話をいただいてから結構研究したんですけど、難しいなって気持ちのままで。収録中も、そことずっと戦っていました。

醍醐 僕もやっぱり、素敵なキャストの方々が演じられていた役を、自分ができるのかなっていう不安がありました。あと、帆高を演じることに関しても、アニメのアフレコから1年近く経っていたんです。「声が変わっちゃってないかな?」という不安もありましたね。ただそっちの不安は、実際に収録が始まったらわりと大丈夫でした。

 私も、陽菜のセリフ自体は結構すんなりいけたかも。

森七菜さん

――小説版は、アニメには存在しない「序章」から物語が始まります。全ての事件や出来事が終わった時点から、帆高が過去を振り返り回想している。醍醐さんによるモノローグが積み重なっていった先で、〈――だから、泣かないで、帆高〉という陽菜の、森さんのセリフが1行インサートされた瞬間、鳥肌が立ちました。あの二人とまた会えた……と感じたからだと思うんですよ。

 嬉しいです。アニメで陽菜がしゃべった言葉は、私も頭の中にこびりついているんですよね。「ねえ、今から晴れるよ」とか「どこ見てんのよ」とかは、持ちネタというか、持ち歌みたいになっているんです。音程も全部決まっていて覚えているから、セリフのところは大丈夫だったんですよ。ただ、地の文がすごく難しかったんです。

醍醐 難しいよね。

 醍醐くん、ほんとにすごいと思いました。私の何倍も読む量があった。

醍醐 地の文がものすごいボリュームでしたし、一発OKというのもなかなか難しくて。後でスタッフさんに教えてもらったんですが、合計30時間ぐらい収録したみたいです。

――「一人称多視点」が採用された小説の地の文は、モノローグの集積です。映画は帆高のモノローグで物語が語られていきますが、小説版は帆高を基本としつつ、陽菜のモノローグも登場するんですよね。

 そうなんです。陽菜が自分の気持ちを告白するみたいな地の文を、どうやって喋ったらいいのか、探り探りでした。

醍醐 僕はアニメ本編にモノローグがあったので、アフレコの時に新海さんから演出をつけていただいたんです。そこで鍛えられたから、地の文を読む時はなんとなく感覚的に、「新海さんはきっとこういう音の感じを求めそうだなぁ」と思い浮かべながら読んでいったんです。

 うらやましい! でも、私も意外と、すっといけたかも(笑)。陽菜は、自分の体に染み付いてるんだなぁと思いました。あと、私が収録する時は、醍醐くんの声が全部先に録られた状態だったんです。それを聞いて間を埋めていけばよかったから、私は読みやすかったです。醍醐くん、ありがとう!

醍醐 どういたしまして(笑)。

帆高と陽菜だけでなく須賀や夏美も演じました

――小説を朗読して、新たに発見した部分もあったのではないですか?

醍醐 新海さんの描かれる世界はやっぱり本当に綺麗だな、と。

 すっごく綺麗。その中でも比喩表現が本当に綺麗で、新海さんの目には世界がそんなふうに見えているんだとしたら、世界ってどれだけ綺麗なんだろうって思いますね。小説は映像がないから、その綺麗なものを“見せられている”というよりも、“自分が見ている”って感覚になると思うんですよ。

醍醐 映像を想像しながら読んでいくもんね。さすが新海さんの世界観というか、言葉が繊細で映像的で。

 本当に繊細です。ちょっと触ったらほどけちゃいそうなレース、みたいな感じで……。

醍醐 ふふっ(笑)。

 なんで笑ったのよ。

醍醐 そういえばこういう取材の時、ちょいちょいいいコメントを入れてくるなぁって思い出した。よく覚えているのが、「映画を観る前は何も考えずに、心のシートベルトを締めてぜひご覧ください」。

 イイでしょ?(笑)

醍醐 うん。だから、他の作品の取材の時に使ってる(笑)。

 思い出した! 二人で一緒にたくさんの取材を受けさせてもらっていた時期に、私が「おっ、いい表現の仕方ができた」と思った言葉を、その次の取材で醍醐くんが使ったんですよ!!

――話を戻しますと(笑)、朗読してみて特に印象に残ったシーンや言葉の表現などを教えてください。

 私は、陽菜が六本木の高層ビルの屋上で、晴れを祈るシーンの文章がすごく好きでした。あのシーンの陽菜のモノローグを、録音の前に何回も練習したんです(〈私は頭の中で、ゆっくりと数字を数えはじめる。いち、にい、さん、し。すると、考えている場所――脳のありかがくっきりと際立つ。その数字たちを、私は全身に散らしていく。真っ赤な熱い血液にまぜて、数字が頭から体中に流れていく様子をイメージする。思考と感情がまざっていく。私は爪先で考えることが出来るようになる。私は頭で感じることが出来るようになる〉)。本編でも好きなシーンの上位に絶対入ってくるし、このシーンをどうやって音楽も映像もない、小説に持っていくんだろうと思ったら……新海さんの表現力ってすごいです。ぜひ聴いてほしいなと思うポイントの1つですね。

醍醐 僕はぜひ、須賀さんパートに注目してほしいなと思います。小説は、帆高や陽菜の心情が本編より深く掘って書かれているんですけれども、須賀や夏美に関しては、本編では描かれていなかったことがたくさん書かれているんです。「ああ、あの場面ではこんなことを考えていたんだ」って驚いてもらえる部分はきっと多い。須賀や夏美のことを、より好きになれるんじゃないかなと思うんです。

――大人パートが読めるのは、『小説 天気の子』の大きな楽しみですよね。

 醍醐くんの朗読を初めて聞いた時、須賀さんの声が小栗旬さんそのものに聞こえてびっくりしました。リスペクトしているだけのことはあるな、と。普段からモノマネもされているんですよ、小栗旬さんの。

醍醐 それ、言う!? えーと、はい。オフィシャルでモノマネをやらせていただく機会を頂戴しました(笑)。できる限り自分を消して、本編で小栗旬さんが演じた須賀に寄せたいな、と思ってやりましたね。

 めちゃめちゃうまかったです。

――夏美の声も、「変身」感がありましたよ。

 私も本田翼さんの声にできるだけ寄せたくて、映画を何回も観返して、声質は近づける限界があるかもしれないけど、「言い方」はできるだけマネしようとしました。

醍醐 七菜ちゃんの夏美は、本田翼さんが演じた夏美とはまた違った良さもありました。モノローグのところの、自分の将来のことで悩んでいる心情とか……。生っぽいというか、ちょっと実写っぽいお芝居も入ってきているなと思ったんです。あと、すごいなと思ったのが、天気予報のアナウンサーさんの声。夏美さん以外の女性のキャラクターも七菜ちゃんがやっているんですけど、天気予報のアナウンサーさんの声は別人にしか聞こえなかった。

 嬉しい。私は個人的に、占い師さんの声をやった時に「いける!」って手応えを感じてました。

醍醐 わかる。あれも別人みたいだった。他にもおばあちゃんの声とか、小学5年生の女の子の声とか、本当に上手に演じ分けているんですよ。末恐ろしい子だなと思います。

一同 (笑)

醍醐虎汰朗さん

――あるシーンで登場する『君の名は。』の瀧と三葉をどう演じたか……というのも聴きどころですよね。とはいえ、お二人にとっては最難関ポイントだったかも?

 「絶対できない!」って思いました。

醍醐 むずかしかったです。

 でも、頑張りました。上白石萌音さんの優しさが前面に押し出せるように、私の優しさポイントをマックスまで出しました。

醍醐 僕はひたすら『君の名は。』を観返して、神木隆之介さんになり切ろうと思いましたね。そのシーンの時は、自分は“神木くん”だと思っていました(笑)。

新海さんの綺麗な言葉は読むことで心が浄化される

――帆高と陽菜がバラバラになり、再会に向けてお互い手を伸ばす……という物語の終盤の展開は、朗読していても掻き立てられるものがあったんじゃないですか?

醍醐 アフレコをした時の記憶が蘇ってきました。アニメ本編の時は、声を枯らしながら録っていたんですよ。今回の収録でも、読むうちに声が枯れてきてしまって、スタッフさんから「続きは後日に回しましょう」と。アフレコの時も同じことを言われたなと思って、懐かしいなと。

 アフレコの時、叫んで喉を痛めちゃって「血の味がしてきました」とか言うんですよ。平気な顔して「全然大丈夫です」って言うから、みんなで「いや、ダメでしょ!」って(笑)。でも、醍醐くんの枯れた声、すごくイイんです。今回、また聞けて良かったなと思いました。

醍醐 ついに褒めてくれた。

 ずっと褒めてるじゃん(笑)。

醍醐 ちょっと不思議だなと思ったのは、例えば最後の坂道のシーンって、本編のアフレコ中はずっと泣きながら声を入れていたんです。でも、今回は泣けなかった。泣ける気持ちもあるんだけど、熱くなる、というか。アフレコの時は100%帆高の目線で陽菜のことを見ていたから、泣く以外はなかったんですよね。時間が経ってちょっとずつ自分の中から帆高が抜けて、俯瞰で作品全体を見られるようになったんだと思うんです。

 確かに私も、客観視できるようになってきたかもしれない。アフレコの時みたいに、陽菜に入り込んで帆高のことを大切に思うだけじゃなくて、帆高と陽菜の二人に尊みを今回すごく感じたんです。だからこそ、よりこの二人が尊く見えるためにはどういう表現がいいだろうと考えましたし、ラストシーンは昔の歌をなぞって歌うだけじゃなくて、今の自分に何か新しくできることはないだろうかって悩んだところでもありました。

――『天気の子』がこんなにも惹きつけられる、何度も観られるし読めるのって、一体なぜなんでしょう。

醍醐 答えが1つではないからじゃないかなと思うんです。観る時期によってもきっと感じ方が違う。例えば、僕らが20年後にまた観た時は、須賀さんの気持ちに共感するのかもしれない。観る人や観る時期によって、同じ作品が全く違うもののように感じられるというのが、この作品の特徴じゃないかな、と。

 こうやって1年越しで取材してもらったり、作品について今の自分の気持ちから語るってことは、なかなかないと思うんです。それができているということが、『天気の子』の魅力を存分に表しているような気がしています。どれだけ深く掘っても底まで届かないし、ずっとベールに包まれている。映画になり小説になり、今回オーディオブックになり。この先もずっと、作り手も受け手も、みんなで可能性を追求し続けていくんだと思うんです。

醍醐 いろんな作品と比べてみても、『天気の子』は「残る」っていう感覚が強いんです。今回のオーディオブックをきっかけに、もっとハマってほしいですね。

 収録は初めてのことも多くて大変でしたけど、本当に楽しかったんです。綺麗な言葉を読むことって、心が浄化されていく感覚があるんですよ。収録中は、常にパワースポットにいるような気持ちで、癒されました。今回のオーディオブックは10時間弱もあってボリューム満点で。『天気の子』の新しい魅力を感じていただけたらなと思いますし、新海さんの言葉で織り成す世界観に、ぜひ浸ってほしいです。

醍醐 僕も楽しかったですし、新海さんの言葉に癒されました。ぜひ皆さんに聴いてほしいですね。せっかく頑張って、30時間も収録したので!(笑)

一同 (笑)

取材・文:吉田大助 写真:河内 彩
醍醐さんヘアメイク:KANANE(PUNCH/BVC) 醍醐さんスタイリング:井上亮(PUNCH/BVC) 森さんへアメイク:佐藤 寛(KOHL) 森さんスタイリング:申谷弘美(Bipost)

だいご・こたろう●2000年生まれ、東京都出身。2015年に俳優を志し「エーチームグループオーディション」に応募、現事務所に所属し活動をスタート。2019年、演劇『ハイキュー!!』 新作公演で主演を務めた。2020年、第14回声優アワードで新人男優賞を受賞。

もり・なな●2001年生まれ、大分県出身。2016年に行定勲監督によるWebCMで芸能活動を開始。現在、連続テレビ小説『エール』、公開中の映画『青くて痛くて脆い』に出演中。2020年、第14回声優アワードで新人女優賞を受賞。歌手としても活動している。

65万部突破!原作小説も好評発売中
『小説 天気の子』
新海 誠 角川文庫 600円(税別)