報道の世界の光と闇を描いた『セイレーンの懺悔』『夜がどれほど暗くても』WOWOWで2か月連続ドラマ化!【中山七里インタビュー】

小説・エッセイ

公開日:2020/10/16

2020年1月にデビュー10周年を迎え、前代未聞の新刊12カ月連続刊行(!)に挑む中山七里さん。そんな中、“報道”をテーマにした2作品が、WOWOWプライムにて2カ月連続ドラマ化決定! メディアへの思い、ドラマの見どころなどについて語っていただいた。

中山七里さん
(c)浅野 剛

中山七里
なかやま・しちり●1961年、岐阜県生まれ。会社員生活のかたわら、2009年『さよならドビュッシー』で第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、翌年デビュー。『連続殺人鬼カエル男』『贖罪の奏鳴曲』など映像化作品多数。現在12カ月連続刊行企画を実施中。12月16日、NHK出版より『護られなかった者たちへ』続編にあたる『境界線』が刊行予定。

 

「ドラマ化不可能」と言われる小説には、大きく分けて2タイプある。ひとつは文章でしか表現できないトリックを用いたミステリー。もうひとつは何らかのタブーに切り込んだ作品だ。『セイレーンの懺悔』『夜がどれほど暗くても』は後者。どちらも報道の世界の光と闇を描き切っている。

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「変な話、映像化されてたまるもんかと思って小説を書いているんです(笑)。この2作も、地上波ではドラマ化不可能。WOWOWだからできたのだと思います」

『セイレーンの懺悔』で描かれるのは、テレビの報道番組制作の裏側。入社2年目の朝倉多香美は、報道は権力者の監視役であり、社会の木鐸だと信じる女性。だが、女子高生誘拐殺人事件のスクープを狙ううち、報道のあり方に疑問を抱くようになる。

「この小説を書き始めたのは2014年1月、テレビ番組のやらせが表面化した時期です。この騒動をヒントに、僕としては初めてマスコミの世界を正面から描きました。多香美は、自分の仕事は世の中になくてはならないとやや傲慢に思い込み、知る権利を主張する人物。多くの視聴者も、彼女に近い感覚を抱いているのではないでしょうか。でも2年目になり、自分の仕事は社会的に評価されることなのか、会社の方針は正しいのかと葛藤が生まれるんですね。長編の醍醐味は、物語の最初と最後で主人公がどう変化するか。あるいは、世界がどう変わるか。この作品では、齟齬を踏まえて多香美が成長していく過程を描きました」

 そんな多香美を導くのが、上司の里谷と刑事の宮藤だ。

「同じ業界の先輩だけでは、一方的な見方しかできず、間違った方向に進みかねません。『お前のその考え、間違っているんじゃないか?』と批判する人間もいないと、人はまっとうに育たないと思いました。里谷は、マスコミにおける正義の具現者。宮藤は、警察組織における正義の具現者。ふたりのバランスの間で、多香美がどう変わっていくかを描いています」

 報道の自由を声高に叫び、視聴者を不信と嘲笑の渦に引き摺り込もうとする。そんなマスコミのありようを、作中では美しい歌声で船を難破させるギリシャ神話の妖精セイレーンになぞらえる。

「世間の人々は、報道を通して世界を見ています。自分では紛争地帯や事件現場に行けませんから、報道された内容を受け取るしかありません。でも、報道する側の見方が偏っていたらどうなるのか。報道する側にも倫理や想像力、バランス感覚がなければいけないという思いを込めました」

社会の閉塞感が高まれば不幸を欲する人が増える

 一方、『夜がどれほど暗くても』は、出版社を舞台にしたサスペンスだ。週刊誌の副編集長だった志賀倫成は、大学生の息子がストーカー殺人を犯して自殺したため、スキャンダルを追う側から追われる側へと転じていく。

「どん底まで落ちた男の再生を描いています。『夜がどれほど暗くても』に続くのは、『それでも朝は来る』という言葉。朝の明るさを強調するには、夜は暗ければ暗いほうがいい。しかも夜の本当の暗さは、夜にいる人間にしか見えないんですね。同じように、実際にカメラを向けられる側にならないと、報道される側の気持ちや恐怖はわかりません。自分たちの力がいかに強大で凶暴かを自覚しない限り、報道する人間や組織はいつか暴走する。そういう警告を込めています」

 執筆を始めたのは2018年10月。ちょうど保守系雑誌にヘイト記事が掲載され、物議を醸した頃だ。

「人を撃っていいのは、自分が撃たれる覚悟のある人間だけ。報道する側に矜持や覚悟がなかったらこうなる、と思いました」

 加害者家族となった志賀は、被害者の娘である星野奈々美に突然切りつけられる。当初は一方的に憎しみをぶつけられていた志賀だが、いつしか奈々美との間に不思議な連帯感が生まれていく。

「人が変わっていくのは、人との触れ合いの中だという思いがあるんです。世の中の争いごとは、相手のことを知らないために起こります。今、世界に不足しているのは相手に対する理解と想像力。たとえ共感はできなくても、相手を理解すれば問題解決の糸口が見つかるのではないかという願いも込めています」

 加害者家族と被害者遺族、立場の異なるふたりだが、どちらもカメラに追われる側という点は共通している。その相似も興味深い。

「今のマスコミは、何でもかんでも消費しますよね。被害者だろうが加害者だろうが、マスコミにかかれば等価値の材料にすぎません。そういう態度であれば、被害者遺族も加害者家族も同じような思いを抱くのではないかと思ったんです。とはいえ、マスコミばかりを責められません。新聞や雑誌は大きな事件、大きな不幸を報じたほうが部数が伸びます。もっとも悪いのは、不幸な話を欲する側。どこかにはけ口を求めずにいられない、社会の閉塞感もテーマのひとつです」

業界が“不変”だからこそ今も色あせない物語に

 どちらの作品も、執筆当時に放送・出版業界で起きたことをタイムリーに描いた作品だ。だが、2020年に読んでも色あせない普遍性が感じられる。

「それは“普遍”ではなくて、業界が変わっていないという意味の“不変”だからではないでしょうか。社会も人間も、よほど大きなことがない限り体制、体質は変わりませんからね」

 中山さんには、未来を予見したかのような小説も多い。それも、社会が“不変”だからだろうか。

「執筆に必要な材料を集め、想像を緻密にすればするほど現実に近づいていくんです。いわば妄想の産物。作家なんて、誇大妄想でできていますから(笑)」

 妄想を膨らませ続けて早10年。節目の年を迎え、どのような思いを抱いているのだろうか。

「恩返しをする時期に入ってきたなと思います。出版不況と言われますが、それによって痛い目を見るのは新人作家。新人がデビューするには、出版社に体力がなければなりませんから。新たな才能を世に送り出すには、出版業界に利益をもたらさなければならない。僕も先輩方の資産によってデビューさせてもらいましたから、次は僕の番かなと思います」

 次の10年への目標は、スピードアップ。今も驚異的な速さで書き続けているが、さらに加速したいと言うから恐れ入る。

「僕は怠け者なのでね。テーマは、読むよりも速く書く(笑)。もっともっと量産したいです」

取材・文=野本由起

 

10月放送『連続ドラマW セイレーンの懺悔』

『連続ドラマW セイレーンの懺悔』

WOWOWプライムにて10月18日(日)スタート
毎週日曜夜10:00~(全4話) 第1話無料放送
出演:新木優子、池内博之、高嶋政伸 ほか
原作:中山七里 『セイレーンの懺悔』(小学館文庫) 監督:中前勇児、村上正典 脚本:篠﨑絵里子
テレビ局を舞台に、報道のタブーに切り込む衝撃作。報道の自由と職業倫理、過酷な現実の狭間でもがく主人公・多香美を、WOWOW連続ドラマW初主演の新木優子が熱演する。

『連続ドラマW セイレーンの懺悔』

 

11月放送『連続ドラマW 夜がどれほど暗くても』

『連続ドラマW 夜がどれほど暗くても』

WOWOWプライムにて11月22日(日)スタート
毎週日曜夜10:00~(全4話) 第1話無料放送
出演:上川隆也、加藤シゲアキ、岡田結実 ほか
原作:中山七里 『夜がどれほど暗くても』(ハルキ文庫) 監督:橋本 一、谷口正晃 脚本:大石哲也
犯罪の当事者になってしまった人間は、理不尽な茨の道をどう乗り越えるのか。どん底から這い上がる志賀の生きざまを、上川隆也が気迫を込めて演じる重厚な報道ドラマ。