戸次重幸「ドラマ『半沢直樹』の現場は、正直面食らいました」

あの人と本の話 and more

更新日:2020/10/6

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載「あの人と本の話」。今回登場してくれたのは、11月2日(月)から秋冬2クール連続でスタートするフジテレビの月9ドラマ『監察医 朝顔』(第2シーズン)で、強行犯係の山倉係長を演じる戸次重幸さん。本誌で選んだ一冊は、カリスマIT社長・郷田役を演じたドラマ『半沢直樹』の原作小説、池井戸潤さんの『半沢直樹 3 ロスジェネの逆襲』。大注目のドラマの現場の話を交えて、お話を伺いました。

戸次重幸さん
戸次重幸
とつぎ・しげゆき●1973年、北海道生まれ。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。舞台では出演のほか脚本も手掛ける。TEAM NACS本公演のほか、2014年に一人芝居で脚本・出演に挑戦、同年、書き下ろし小説『ONE』を刊行。活動の幅は多岐にわたる。近年の主な出演作に、『おっさんずラブ-in the sky-』『半沢直樹』など。

 自身も小説『ONE』を上梓しており、舞台の脚本も書く戸次さん。自粛期間中は自宅でお子さんと過ごす時間が増え、自分の時間はお子さんが寝てからの数時間。Netflixにもハマっていたため、なかなか本を読む時間は取れなかったというが、それでもダン・ブラウンなど好きな作家の新刊を待ちながら、『ロードス島戦記』を全巻再読したりして過ごしていたという。

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「池井戸さんの作品は、郷田役をやることが決まって初めて読ませていただいたのですが、小説でここまでスピード感やテンポ感があるのはすごいですよね。ほんとうに才能がある作家さんなんだなと思いました。止まらなくて一気読みしまして、赤川次郎作品を初めて読んだ時の感覚を思い出しました。楽しかったです。小説なので、郷田さんだけでなく、それぞれのキャラクターをいいボリューム感で描かれていますよね。それをドラマに落とし込むと、どの程度郷田さんが描かれるのかな……と思っていたんですけれど、予想通りでした(笑)。30歳の瀬名社長が、郷田さんを尊敬している描写がある中で、見た目が若く見える僕では尊敬を得られないんじゃないかと心配でしたが、それはもうしょうがないので、現場では自信を持ってやらせていただきました」

 ドラマ『半沢直樹』は、ほかの作品では見られない、独特なケレン味のある演出が特徴でもある。

「ご覧になってわかるように、普通のドラマとは役者陣の芝居ひとつとっても違いますよね。ネットの評判でも、歌舞伎だ、現代劇の皮をかぶった時代劇だと言われています。僕は顔芸という言葉は大嫌いなんですが、そう言われたりもしているし、セリフの抑揚なども、正直最初は面食らいました。自分がいつも通りに芝居をしたら、薄すぎるんじゃないかと。どちらかというと、僕も大げさな芝居と言われ続けてきましたが、それでも彼らにはかなわないなと。でも、みんながそうだと疲れますよね。なので役者の基本に立ち返って、気持ちを重視して演じました。それをオンエアで見て、ああこれで良かったなと。森山役の賀来賢人くんも、どこまでも濃いコミカルなお芝居はできるんだけれど、あえて『半沢直樹』では、二歩も三歩も引いてクールなお芝居をされていて、逆に目立ちますよね。なので、僕も賀来くん路線だなと思いながらやらせていただきました」

 現在は11月2日(月)からスタートする『監察医 朝顔』(第2シーズン)の撮影中だ。フジテレビ月9ドラマ初の2クール連続で放送される注目のドラマである。コロナ禍で放送が夏・秋クールから、秋・冬クールに変更。そのため、第1シーズンからのテーマのひとつである東日本大震災が発生して10年の節目に放送されることとなった。戸次さんは、まじめで優秀だが、時にコミカルなシーンも描かれる強行犯係の山倉係長を演じる。

「第2シーズンが決まって、またあの人たちとお芝居ができるんだ、作品が作れるんだ、というのが単純にうれしかったですね。2クールには驚きましたが、よけいなプレッシャーがかかることもなかったです。スタッフさんがものすごく戸次演じる山倉をおもしろがってくれている雰囲気があって、とてもやりやすい現場なんです。山倉のコミカルな部分も、どちらかというとシリアスよりコミカルな芝居が得意な僕の醸し出す雰囲気を見逃さずに、演出の平野さんがおもしろさを大きく引き出してくれました。平野さんはすごい演出家さんだと思います。僕も舞台の脚本を書いたり、演出をしたりしますが、おもしろいシーンを作る時って、まずおもしろいセリフだったり、おもしろいシチュエーションを考えちゃうんですよ。だけど平野さんは、たとえばちっともおもしろくない捜査の状況報告のシーンを、セリフをまったく変えることなく、役者の動きだけでおもしろくしちゃうんです。演出というもののすごさというか、本当の演出っていうのはこういうことなんだ、というのを、いま『朝顔』の現場で平野さんから勉強させていただいている感覚があります」

 そんな『朝顔』のもうひとつの大きな魅力は、家族の描写だ。法医学者・万木朝顔(上野樹里)、ベテラン刑事の父・万木平(時任三郎)、朝顔の夫で平と同じ刑事の桑原真也(風間俊介)、朝顔と桑原の娘・つぐみ(加藤柚凪)の4人は万木家で一緒に暮らしている。協力しあって進める朝の支度、小さなつぐみと大人たちとの心なごむやり取り、日々の食事、当たり前に分担される家事など、作中で繰り返し、万木家の日常の風景が描かれる。その「何気ない日常」が、とても大事なのだと戸次さんは言う。

「ドラマの中のああいう描写って、あるようでないな、というのが勝手な僕の印象なんです。物語の展開をばーっと編集でつないでいくと、どう考えてもああいうシーンは、編集される方が最初に切る印象があるんですよね。それで、余裕があったら入れていく、というような。でも『朝顔』はそうしなかった。第1シーズンのドラマが成功した理由のひとつとして、僕は万木家のほっこりする日常の生活シーンがあると思っています。扱っているテーマが重いだけに、そういうほっとする場面があることで、見る人は心の緩急がつけられるんです。山倉のコミカルなシーンも、シーズン2では最初から全開ですので、楽しみにしてください(笑)」

取材・文=波多野公美 写真=山口宏之

 

ドラマ『監察医 朝顔』

ドラマ『監察医 朝顔』

原作:『監察医 朝顔』(香川まさひと;原作 木村直巳:マンガ 佐藤喜宣:監修 実業之日本社) 演出:平野 眞 脚本:根本ノンジ 出演:上野樹里、時任三郎、風間俊介、志田未来、中尾明慶、森本慎太郎(SixTONES)、戸次重幸ほか 2020年秋・21年冬2クール連続 11月2日(月)21:00〜よりフジテレビ系にて放送開始予定
●法医学者の朝顔と、刑事の父・平。異色の父娘を描く感動のヒューマンドラマ、待望の第2シーズン。