「負け始まりの物語」に重ね合わせた気持ちが、あまねく人の心を引き寄せる――LiSA“炎”インタビュー

アニメ

更新日:2020/10/14

LiSA

 LiSAが、17枚目のシングルと、5枚目のオリジナルフルアルバムを、10月14日に同時リリースする。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌“炎(ほむら)”と、『LiTTLE DEViL PARADE』以来3年半ぶりとなる、『LEO-NiNE』。LiSAが立つステージ、LiSAが歌う楽曲が見せてくれる景色は、この1、2年で飛躍的に大きく、広がってきた。主にそれを引き寄せたのは、TVアニメ『鬼滅の刃』の主題歌であり、2019年のNHK紅白歌合戦に初出場を果たしたときに歌われた“紅蓮華”だった。受け取る誰かの心を動かし、奮い立たせる楽曲を、音楽を届けることの意味が変わってしまいそうなほどの状況に見舞われた2020年も、LiSAは歌い続けている。それは、自らのメッセージをブレることなく発信し続けてきた、LiSAだからこそできることなんだと思う。そして来年、2021年に、LISAは自身の名義でデビューしてから10周年を迎える。LiSAの歩み・楽曲・メッセージは、これからも僕たち聴き手の背中を押し、楽しませてくれることだろう。

 今回の2作同時リリースにあわせて、2本立てのインタビューをお届けしたい。前編は、10月16日に公開される『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌“炎”について。誰もが知っている通り、『鬼滅の刃』はいまやこの国を代表するアニメーション、国民的な作品へと成長した。“炎”は、その劇場版作品を飾るにふさわしい、スケールの大きな名曲である。そして、“紅蓮華”がLiSAにとってどのような存在になっているのか、とても気になっていた。『鬼滅の刃』はLiSAに何を与えたのか、話を聞いた。

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自分の歌に向き合う時間ができたことで、今まで持っていた武器ではないところでできることが、“炎”に込められた

――『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌の“炎”、何回聴いても名曲だと感じさせる、素晴らしい楽曲ですね。まずはこの曲について感じていること、手応えを聞かせてください。

LiSA:これはアルバムにも通じる話なんですけど、自分の歌の表現として、ただ直球で感情をぶつけるだけではないやり方ができるようになったな、と思っていて。“from the edge”(TVアニメ『鬼滅の刃』のエンディングテーマ。“炎”と同じく梶浦由記作曲)のときに出し切れなかった――あのときも最高のものを出したつもりだったけど、後になって「もっとできたな」「今のわたしならもっといい歌が歌えたな」って思う機会が、どんどん増えていって。“炎”で改めて梶浦さんとご一緒させていただいて、梶浦さんがわたしに寄り添ってくれる楽曲を提示してくださったのを感じたので、今回は梶浦さんをビックリさせられる歌を歌える気がするなって思いました。

――自分の中のどういう部分が、「梶浦さんの音楽に応えられる」と感じる自信になったんでしょう。

LiSA:わたしの一番の武器って、速い球を鋭く、ピンポイントで投げられることだと思うんです。野球で言うと、わたしはリリーフだと思っていて。「あいつなら絶対に点を取られない、すごい球を投げてくれる」っていう。いつも安定したものをキープする役割じゃなくて、取っておくタイプ(笑)。

――(笑)なんとなくわかるけど……豪速球を武器に短いイニングを抑えるほうである、と。

LiSA:そう。自分はそのタイプのシンガーだな、と思っていて。エモーショナルに歌うことイコール、泣き叫ぶように歌うことがひとつの表現になっている楽曲の場合、テンポが速かったりキーが高かったりする構成やポイントが必要なんですけど、“from the edge”はそういう曲ではなくて。そこで自分が表現できることを精一杯やったつもりだったんですけど、“紅蓮華”以降少しずつ、自分が歌を歌うこと、表現に対してすごく向き合ってきました。ライブの場で届ける以外の自分の歌に向き合う時間ができたことで、今まで持っていた武器ではないところでできることが、今回の“炎”に込められたと思ってます。

――そういう意味では、前作のシングル“unlasting”も大きかったんじゃないですか。まさに、豪速球を投げるような曲ではなく、静かな中にエモーションを込める曲だったわけで。

LiSA:はい、そう思います。“炎”を受け取ったときも、単純に嬉しくて。梶浦さん自身が作品を大事にされる方で、作品に寄り添うことを大事にしてきた方ですけど、わたしにも『鬼滅の刃』にもすごく寄り添った楽曲を作ってくださったんだなって、曲を受け取ったときに感動しました。それに対して、自分は“from the edge”以降の楽曲、それこそ“unlasting”も含めて、自分の中で積み上げてきた歌に対する気持ちや姿勢を持って、“炎”に臨むことができました。

LiSA

『鬼滅の刃』に共感するのは、「全員が負け始まりの物語なんだな」って思ったから

――『鬼滅の刃』とのエピソードを話してもらう上で、改めて“紅蓮華”のことを聞きたいんですけども。アニメ作品との向き合いとして、たとえば『ソードアート・オンライン』だったら、“crossing field”のときは大きな作品に一生懸命食らいついていて、“Catch the Moment”では作品と仲間・同志のような関係になり、“ADAMAS”では作品を引っ張る自覚が芽生えて、“unlasting”ではOBになっていた、と(笑)。

LiSA:はい(笑)。

――関わり方が、より濃くなっていく。それこそが、LiSAとアニメの結びつきのあり方なんだと思うんだけど、『鬼滅の刃』とはどういう関係を築けていると感じてますか。

LiSA:もちろん作品自体はすごくパワーがあって、魅力的で、それに魅了されてアニメを作りたいと思った人たちが、「これは絶対にたくさんの人に観てもらいたい」と全員が思って、そこにかけた情熱が勝ち取った結果が、今だと思っていて。その人たちが、「これに命懸けてやりたい」と思っているものに対して、わたしも命を懸けます、一緒に行きます、みたいな気持ちでした。実は、“紅蓮華”を作るときって、めちゃめちゃ大変だったんです。最初に何曲も出して、全部出し直しになったので、わたしはツアー中だったんですけど、ツアー先からそのまま直でスタジオに行って新しい曲を作ったりしていて。とても大変な制作だったけど、アニメを作る人たちが信じてる作品なのであれば、わたしも死ぬ気でやる覚悟で臨みたかったし、誠実に返したかったんです。それが、みんなが信じたものをやり遂げるために必要なことだと思ったから。だから、“紅蓮華”の歌詞はマッハで書いた気がする。

――マッハであれなんだ?

LiSA:マジで、マッハで書いた(笑)。寝ずに書きました。

――“紅蓮華”の歌詞はいま読み返してもすごいなって思うんですよ。LiSA自身の想いのコアに《打ちのめされて負ける意味を知った》という歌詞があって。作品にも寄り添いつつ、シンガー・LiSAのありようをはっきり映し出した歌詞だけど、そういう意味では、ひねったりする時間もなく、LiSA自身の本質が出た結果なんでしょうね。

LiSA:そうですね。今の形になる前に何曲も作っていたし、書きたいこと、曲に込める根本の気持ちは何も変わってなかったから。そこで、仲間たちがデッカい夢を叶えるために大変そうだ、でもそれはすごく大事なことなんだって思ったから、「よしっ、腹くくる!」みたいな感じでした。

――そのプロセスを経て、『鬼滅の刃』が鬼のようにヒットして、国民的アニメになりました、と。結果“紅蓮華”と、歌っているLiSAの存在感を、ものすごく広い範囲で知らしめることになったじゃないですか。今までも広く活躍してきたと思うけど、ステージが変わった感じはあると思うんですよ。で、“紅蓮華”は炭治郎のことだけを考えた歌詞ではなく、自分自身が伝えたいことも含めてアウトプットできた曲だった。そういう曲がこれだけ広がっていく様子を、どう見てたんですか。

LiSA:『鬼滅の刃』がヒットした理由はいっぱいあると思うんですけど、わたし自身が『鬼滅の刃』に気持ちを重ねていたところ、共感する部分って、鬼も鬼殺隊も、みんなが悲しい思いをして負けを味わったあとに、自分が鬼になる、もしくは鬼殺隊になる選択をしていることなんですね。「全員が負け始まりの物語なんだな」って思ったからなんです。その物語を好きになる人たちが――もちろん、キャラがかわいいとか、壱ノ型やりたい、みたいな要素もあると思うけど、アニメの『鬼滅の刃』を好きになって、“紅蓮華”を聴く人たちは、同じ思いをしたことがあるんじゃないかなって思っていて。自分と同じ気持ちの人がこんなにたくさんいるかもしれないって思ったら、すごく嬉しかったというか、心強かったです。

“紅蓮華”を書いてるときは、原作も『無限列車編』までしか出てなかったし、その後にどんな展開が待ってるかはわからなかったけど、当時わたしは炭治郎だけが負け始まりなんだと思ってたんです。だから炭治郎に感情移入して、“紅蓮華”の歌詞を書いたんですけど、話が進んでいくにつれて、全員が悲しみを背負っていて、全員が負け始まりなんだ、と知りました。そこで自分がした選択を貫いていくところに、共感してもらえてるのかなって思います。

――いま話してくれた通り、“紅蓮華”は人の心に届く要素を最初から持っていたと思うけど、歌うたび、聴かれるたびに力が増していく感じもあったんじゃないですか。

LiSA:そうですね。最初は、他の曲たちと同じように、わたし自身が生んだ曲たちを自分が責任を持って最後まで育てます、みんなに愛してもらうためにライブで精一杯曲に愛情を注いで、遊び方も含めて育てていきます、と思っていて。責任という意味では、他の曲と一緒でした。だけど、“紅蓮華”はわたしがライブで歌うだけではなく、それを誰かが歌ってくれることによって知る人たちもいて。考えたら、自分も友達がカラオケで歌ってる曲を覚えることが多かった気がするなって思って。曲と出会って、そのアーティストのことを調べたり、作品にハマっていく。“紅蓮華”はそうなっているんだなって感じます。

 わたしがSPEEDを好きになったときも、そんな感じでした。あんなにセクシーな大人のことを歌っている歌だと知らずに歌ってたし。ただ、同年代の子がそれをカッコよく歌ってる姿が好きだっただけだったけど、“紅蓮華”はそれに近づいてるのかもしれない、同じことが起きてるのかもって思います。

――こうやって話しているときに、三人称に「みんな」という言葉をよく使うじゃないですか。それは主にファンの人たち、LiSAッ子たちを示していると思うんだけど、“紅蓮華”は名実ともにみんなの歌になったわけですよね。ある意味、LiSAを知らなくても、“紅蓮華”は知っている。それくらいのパワーを持った曲に育っていった、と。

LiSA:そうですね。たとえば今、テレビで“紅蓮華”を歌うときって、そういう気持ちです。みんなの歌を歌ってる気持ち。責任感があるというか――“紅蓮華”が二十歳を超えて、成人しちゃった感じです。

――自分の手から離れて大きくなっていく感覚は、確実に今までの楽曲の中で一番強いでしょう。

LiSA:そうそう。だからテレビで、それこそ、NHK紅白歌合戦までは自分の歌としてちゃんと歌って、「この子を最後まで育てなきゃ!」みたいな責任感があったけど、今は「求めてくれる人たちのためにこの曲を歌おう」って思ってます。なんかね、今はちょっと、お母さんの気持ちがわかる(笑)。「あの子、武道館に行ったわ」「やるやるとは聞いてたけど、武道館行くとはね」みたいな。“紅蓮華”くんの夢が叶うところを見ている親のような気持ちです。自分が叶えられなかった夢を子供に叶えてもらう、じゃないけど、自分だけでは叶えられなかった夢を、一緒に見せてもらってる感じです。

――今回の劇場版の物語になっている『無限列車編』には、どんな印象がありますか。

LiSA:『無限列車編』は、煉獄さんがすごく好きです。自分を貫いて、自分の意志を持って戦うし、産んでくれたお母さんに対しての敬意を払っていて、その生き様が好きですね。それは、“ADAMAS”の歌詞にも書いた自分が憧れてる姿に近くて、その生き方がすごくカッコよく見えたので、その煉獄さんが主役の『無限列車編』が好きになりました。

『鬼滅の刃』に出てくる子たちは、みんな大事なものをなくしてるじゃないですか。そこで鬼になるのか、鬼殺隊になるのか―― “炎”は、幸せが何かを知ってる人たちに対しての歌だと思ってます。幸せをなくさないと、幸せって気づかない。だから、幸せをなくしたことがある人みんなに対しての歌なのかな、と思います。

――おそらく“紅蓮華”と同じように、たくさんの人が歌ったりすることで広がっていくだろうし、“紅蓮華”とは違う意味で普遍的な力を持っていくと思うんですけど、今後の自身にとって“炎”はどういう存在になっていくと思いますか。

LiSA:『鬼滅の刃』にわたしが感じていたこと――負けを味わったことがある人、何か大事なものを失ったことがある人が『鬼滅の刃』を観たときに、それでもわたしたちは生きていくんだ、歩いていかなくちゃいけないんだって思ってもらえたらいいですね。わたしにとっても、決意の歌です。

――負け始まりの自分を認めることも、すごく重要なんでしょうね。

LiSA:うん。わたしも、そう思います。

LiSA『LEO-NiNE』インタビューは、10月14日配信予定です

取材・文=清水大輔  撮影=藤原江理奈
スタイリング=久芳俊夫(BEAMS) ヘアメイク=田端千夏