不妊治療の保険適用。産婦人科医から見た課題とは

出産・子育て

公開日:2020/10/23

菅総理大臣が政策のひとつとして「不妊治療への保険適用の拡大」を掲げ、治療を受ける側の当事者からは歓迎の声が上がっているといいます。その一方で医師からもさまざまな意見が出ています。今回は、All Aboutガイドであり、ポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長の清水なほみ先生に、産婦人科医から見た本政策の課題を聞きました。

不妊治療の保険適用。産婦人科医から見た課題とは

 不妊治療の保険適用に対して、医師からもさまざまな意見が出ていますが、不妊治療ご専門の先生や、婦人科診療に関わる医師たちからは、一定の見解が示されています。不妊治療を保険で行えるようにしても、保険適用になったがゆえに質の高い高度な不妊治療が行いにくくなる恐れがあることが指摘されています。

 元々、自費診療となっていた不妊治療に保険適用を拡大しようという動きは、数年前からありましたが、保険適用ではなく不妊治療への「助成金」を各自治体が治療を受ける人に支給するという措置でとどまっています。不妊治療が必要な方への金銭的負担を軽くしようという流れ自体は、個人的にも喜ばしいことだと考えていますし、今後重要課題となっていくでしょう。

 ただ、不妊治療を受ける人「全員に」保険適用という「本人負担を軽くする方法」を用いることが、本当に、治療を受ける側のメリットにつながるのかというと少々疑問です。

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 まず、保険の仕組みをざっくり説明しますと、厚生労働省が「この病名に対してこの薬をこの量まで使っていいですよ。その場合の処方代や薬代は何円ですよ」というのを明確に決めて、その決められた値段の一部(多くの人は3割)を患者側本人が負担し、残りの費用は保険加入者が「毎月支払っている保険料」から月締めで病院に直接支払われる仕組みになっています。

 つまり、どんな医師が、どんな病院で、どんな医療を行おうと、「病名によって定められた検査や治療」を行えば一律同じ値段でその医療が提供されるというわけです。保険を使うと、治療を受ける本人が窓口で支払う金額は少なくて済みますが、実際には加入者が毎月支払っている保険料によってまかなわれているのです。

 不妊治療が保険適用になると、現在は自由診療で各病院が担当する医師の裁量で使っていた薬が自由に使えなくなったり、行っていた検査が行えなくなったりする可能性があります。また、高度な不妊治療を行っていた病院が、自費診療の治療費をいただいていたからこそ提供できていた治療が行えなくなる可能性があります。

 保険で決められた診療費用では、提供できる医療の内容が限定されてしまい、その結果「保険適用になったから治療の質が下がる」ということも起こりうるのです。

 不妊治療に対して行うべきサポートは、保険適用の拡大なのか。保険料を支払い・治療を受ける側、つまり国民の皆さまが一人一人で考えてみてはいかがでしょうか?