柳家花緑「書籍に書かれた内容は盲信せず、全否定もしない。それが僕の本との向き合い方」

あの人と本の話 and more

更新日:2013/12/19

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、噺家・柳家花緑さん。「書店には、本の数だけ作家さんとの出会いがある」と話す花緑さんに、本好きになったきっかけをお聞きしました。

「僕が、どうしていろんな本を読むようになったのか――?
それは自分のことに話が返ってくるんですけど、
祖父の存在があまりにも大きかった
という理由がひとつにあります」

花緑さんの祖父といえば、人間国宝でもあった五代目柳家小さん。そのため、幼少の頃から何かと祖父の名前を出されることが多かったという。

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「中学校の同級生ですら、僕を誰かに紹介する時、
『彼は小さんの孫です』って必ず言ってて。
ですから、いっそのこと自分の芸名も
“柳家小さんの孫”にしようかと思ったぐらいでした(笑)」

今でこそ笑い話になっているが、当時はこのことで相当悩まされたそうだ。

「自分自身の実在感がなく、なんだか自分のことを
ニセモノのように感じていたんですよね。
だから、漠然と『本物になりたい!』って思っていたんです。
その時は“本物”の定義や意味すら
よく分かっていなかったのですが(笑)、
とにかく、自分の両足を大地にしっかりつけて
立ってみたいという思いが強くありました。
そこから、“本物とは何か”、“本質とは何か”
ということを深く考えるようになり、
いろんな本を読むようになったんです」

以来、本屋に足繁く通うようになった。
読む本はもっぱらノンフィクション。

「スピリチュアルな世界が好きで、
超常現象について書かれたものから、
生き方を説いたものまで、幅広く読んでいます。
ただ、僕の中のルールとして
何でも鵜呑みにしないというのがあります。
『なるほどな』と思えるものは受け入れますが、
『これはどうなんだろう…!?』
と感じるものについては、頭の片隅に留めておいて、
腑に落ちるようになるまでグレーゾーンに残している。
盲信すると周りが見えなくなりますし、
だからといって最初から全否定するのも
もったいない気がして。
ですから、自分の中で考えをじっくり咀嚼して、
理解していくようにしているんです。
そのほうが、きっといろんな意味で
自分の力になっていくと思うんですよね」

(取材・文=倉田モトキ 写真=山口宏之)
 

柳家花緑

やなぎや・かろく●1971年、東京都出身。87年に祖父・五代目柳家小さんに入門。94年に戦後の落語界最年少で真打昇進を果たした。古典落語のみならず、演劇界の作家とともに創作落語にも取り組み、また子どもに向けた落語の普及活動も積極的に行っている。最近では舞台出演など落語の枠を超えて活躍中。

 

紙『淡々と生きる』

小林正観 / 風雲舎 / 1500円

学生時代から人間の潜在能力に興味を持ち、のちに人生論や幸福論についての講演を毎年300カ所以上で行ってきた小林正観氏。その彼の思考をまとめた最新作にして遺作。釈迦や空海、三蔵法師等の説法や宗教観を解き、時には自身の生活を例に出しながら幸せな人生を送るためのヒントを分かりやすく解説している。

※柳家花緑さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ8月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

スクリーンで観る高座 シネマ落語『落語研究会 昭和の名人 四』

出演/六代目笑福亭松鶴、五代目柳家小さん、六代目三遊亭圓生、五代目桂 文枝 配給/松竹 現在全国ロードショー中
●今回は噺家初の人間国宝・柳家小さんが登場。小さんの卓逸した話術や扇子を使った華麗な仕草が堪能できる『試し酒』のほか、松鶴の『高津の富』や圓生の『猫忠』、文枝の『猿後家』など、いずれも十八番と言われる演目で構成されている。問い合わせ先:☎03-3541-2711(東劇※7/20まで)