伊藤沙莉「小説もお芝居も、伏線回収劇が大好き。『オーデュボンの祈り』の桜に、めちゃくちゃ恋してました」
更新日:2021/1/13
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、11月13日(金)公開の映画『ホテルローヤル』で、教師とラブホテルに来た女子高生を演じた伊藤沙莉さん。本誌で選んだ一冊は、数え切れないほど読み返したという伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュボンの祈り』。映画の現場のエピソードとともに、お話を伺いました。
マンガは好きだったけれど、小説は食わず嫌いだったという伊藤さん。好きな映画の原作に伊坂幸太郎作品が多かったことから、高校一年生のとき『オーデュボンの祈り』に出会い、劇的にハマってしまう。以来、伊坂作品はほとんど読んでいるという。
「小説もお芝居も、伏線回収劇が大好きなんです。伊坂さんの作品って、伏線だらけじゃないですか。ここまで? というところまで伏線が張ってあって、それが一気に回収される瞬間が超気持ちいいんです。『オーデュボンの祈り』を初めて読んだときは、頭の中でちゃんと情景が映像になって、登場人物たちが命を持ち始めて……映像の感じは、自分が演れない台本を見ているような感覚に近かったですね。それですごくおもしろいなと思って、肌身離さず持ち歩いて、繰り返し読んでいました」
とりわけ、舞台となる外界から遮断された不思議な島の住民の中で、ただ一人、法で殺人を許されている美しい男・桜に、伊藤さんは夢中になった。
「唯一、キャスティングができないんですよ! この生命がない感じというか、感情がなにもない感じ、いったい誰がやったらかっこいいんだろう? って。一見怖くて、いつ殺されるかもわからないけれど、桜はバンバンバン! と人を殺すわけではなくて、淡々と“はい、処理しました”みたいな感じなんですよね。めちゃくちゃ恋してました(笑)。ほんとうは殺していい人なんていないし、なぜ桜だけがそれを許されるの? という疑問はあるんですけれど、この作品においては、それですべてを回収できるというか、みんなをスカッとさせられる。それがすごく気持ち良くて、小説の魅力に目覚めたんです。ほかの小説も読まなくちゃと思いつつ、つい伊坂さんの作品ばかりリピートしてしまっているのですが。『残り全部バケーション』も大好きで、全部絵が浮かびます。伊坂さんの作品、ほんとうにおもしろいですよね」
そんな伊藤さんが女子高生役で出演した映画『ホテルローヤル』が11月13日に公開される。
「原作も読ませていただいたのですが、原作の持つ空気感をすごく絶妙に、丁寧に描けている映画だと思います。先日監督の武さんも、ホテルローヤルを軸に、波瑠さんが演じる主人公・雅代のモデルである原作者・桜木先生の人生を、桜木先生の要素を全部組み込んでこの映画を作ったとおっしゃっていました」
「ホテルローヤル」に集う人々は、みな人生に悩みを抱えている。けれど、つらい時期をマイナスにばかり捉えないようにしたほうがいい、という思いも、伊藤さんは映画から感じたという。
「誰でも悩んだり、葛藤したり、もがいたりして生きていますよね。でもどんなときも、この映画のように、どこかに多少なりとも、ちっちゃい光くらいはあると思うんです。完全に真っ暗だという人も、たぶんそれは今現在のことであって、なにかしら、状況はつねに変わりますから、もしかしたら2~3歩進むだけでかすかな光が見えるかもしれません。誰と出会い、誰が近くにいるのかも大事ですよね」
演じたまりあは、両親に見捨てられ居場所を失い、そんな選択すらもできない子どもだったと伊藤さんはいう。
「口をずっと半開きにするとか、歩きながらなんでもかんでも触るとか、そういう子どもっぽさは、全部監督の武さんに叩き込まれました。まりあは最初、なにも考えていないバカっぽい女子高生に見えて、あとから“子どもっぽい”という印象がついてくる。最終的に、あんなに子どもなのに……と観ている方に伝われば、その流れが、この作品としては正解だと思います。まりあの一番近くにいたのが同じく問題を抱えた先生だったというのは、大きかったですよね。雅代とまりあの未来の違いは、年齢だけでなく、その差もあるのかなと。出会いって人生に大きく関わってくるんだなと思いますね」
取材・文:波多野公美 写真:干川 修
ヘアメイク:AIKO スタイリング:吉田あかね 衣装協力:オールインワン3万円、チュールリブニット2万円(すべて税別)(アンスリード/ アンスリード青山店TEL03-3409-5503)
映画『ホテルローヤル』
原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫) 監督:武 正晴 脚本:清水友佳子 出演:波瑠、松山ケンイチ、余 貴美子、伊藤沙莉、安田 顕ほか 配給:ファントム・フィルム 11月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
●釧路湿原を望むラブホテルの一人娘・雅代は、家業を手伝うことに。やがてホテルで起こったある事件をきっかけに、雅代は自分の人生に向き合うことになり――。
(c)桜木紫乃/集英社 (c)2020 映画「ホテルローヤル」製作委員会
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