進化を重ねて、もっと前へ。3rdシングル『Broken Sky』で得た手応え――富田美憂インタビュー

アニメ

公開日:2020/11/10

 2019年11月に1stシングル『Present Moment』で、自身名義の音楽活動をスタートした、声優・富田美憂。もうすぐ21歳だが、すでに声優デビューから約6年を数え、数々の作品に主要キャストとして参加しており、順調にキャリアを重ねている。表現者・富田美憂の特徴は、ビジョンが明確で、自身のポジションを理解し語る言葉を持っていること。1周年を迎える音楽活動のこと、11月11日にリリースされる3rdシングル『Broken Sky』(自身も出演するTVアニメ『無能なナナ』のオープニング主題歌)のこと、今後目指すべき目標について、話を聞かせてもらった。

 なお、ダ・ヴィンチニュースでは、現在の富田美憂を形成する経験を本人の言葉で綴ったコラム、「私が私を見つけるまで」も、好評連載中だ。ぜひ、こちらもあわせて読んでみてほしい。

声優のお仕事も、アーティストとしてのお仕事も、やってみたいこと、夢、目標が増えた

――去年から今年にかけて、音楽活動も声優としての活動も、活躍の場がより広がった印象があるんですけど、富田さん自身は日々どんな気持ちで仕事に向かってますか。

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富田 もちろん、楽しいのが一番なんですけど、同時に去年20歳になり、成人して、ひとつ自分の中で「もっと頑張らなくちゃ」と決めたことがあって。今までは10代だったので、キャラクターと同じ年だったりして、わりとスタッフさんから珍しがっていただいたりすることがありました。もちろん、自分が10代であることに甘えていたわけではないんですけど、自分の一個の武器でもあった年齢が、20歳になったことで、他の大人の声優さんたちと今まで以上に勝負していかないといけなくなって。純粋にお芝居で勝負していくことに対して、より身が引き締まった思いがあります。

――これから勝負をしていく中で、現時点で自身が持っている役者としての強みは何だと思いますか。

富田 自分で言うのも変なんですけど、吸収力、かな。何も持ってない状態で現場に出て、とにかく現場で学ぶことがすべてだったので――声優とはどういうものかを知らないまま、ゼロの状態からスタートしてここまでやってきたので、吸収力はあるほうなのかな、と思います。

――過去に演じたキャラクターや作品で、その吸収力が発揮されたエピソードを教えてください。

富田 『メイドインアビス』だと思います。当時は声優3年目くらいで、それなりにお芝居をやってきたつもりだったんですけど、『メイドインアビス』の現場に初めて行ったときに、自分のお芝居が何も通用しなくて。正直、「もうできないかもしれない」って、心が折れてしまって。でも、まわりの先輩たちが優しくて、「ただ台詞を言うだけじゃなく、キャラクターが感じてる温度や味や匂いを意識しながらやったら、キャラクターに人間味が出て、もっとお芝居が楽しくなるよ」って、教えていただきました。それを意識し始めてから、ガラッとお芝居が変わったと思います。

――そして、この1年間は音楽活動も並行してきたわけですけど、1stシングル“Present Moment”がリリースされた当時、「歌によって元気を与えたい」「背中を押すお手伝いができるようになりたい」という話をしてましたよね。そのビジョンは、この1年でどれくらいは実現できたと考えていますか。

富田 まだ完璧には実現できてないし、もっとわたしの歌で元気になってくれる人を増やしたい気持ちは変わらず持ってるんですけど、リリースイベントなどで実際にファンの方と会って、歌を聴いてもらって、ちょっとお話もしたりする中で、音楽活動を通してファンの方の年齢や性別が広がった気がしますし、みんながほんとに嬉しそうな顔をして帰っていってくれてるので、実現しつつあるのかな、と思います。

――音楽活動をやってきて、この1年間で最も嬉しかったことと、最も悔しかったことは?

富田 嬉しかったことは、やっぱりファンの方が笑顔になってくださること。あとは、声優としてキャラクターを演じることでアニメ作品のお手伝いをしていましたけど、それに加えて歌でも作品をさらに盛り上げられることにやりがいを感じているので、初めて『放課後さいころ倶楽部』のオープニングが流れて、サビで自分の名前が出てきたときは、すごく嬉しかったです。

 悔しかったことは……やっぱり、アーティストとしてはまだまだ新人なので、思うようにライブのパフォーマンスができなかったりとか、うまく歌えなかったりして、たとえば同じライブに出ているアーティストの方で素敵なパフォーマンスをされているのを観ると、自分には持ってないものを持ってると思うから、悔しいと思うことがありました。

――その「悔しい」は何につながります? 「負けないぞ」なのか、自分の成長の糧になるのか――。

富田 「やってやるぞ!」につながりますね。

――素晴らしい、では、この1年間で、表現者としての自身の新たな一面を見つけたとすれば、それはどんな部分ですか。

富田 一気に視野が広がった気がします。音楽活動でも、具体的な目標ができました。声優のお仕事も、アーティストとしてのお仕事も、やってみたいこと、夢、目標みたいなものが増えて、それが一番大きな変化だったかなって思います。

富田美憂

(“Broken Sky”は)今までは自分の主観で歌っていたけど、今回は一歩引いて、自分も客観的に歌詞をとらえて歌うことを頭の片隅に置きながら、レコーディングした

――最新シングル『Broken Sky』に収録された2曲は。一度聴いただけで、1st、2ndシングルからの進化が伝わってくる内容でした。まずは富田さん自身が感じている手応えを教えてください。

富田 「今までで一番富田美憂らしさが出せた曲じゃないかな」って、マネージャーさんも言ってくださった曲です。わたしの父は音楽が好きな人で、ギターもやっていて、それこそメタルとかロックな音楽を聴いていたので、そういう音楽が小さい頃からまわりにあって。今までのシングルは爽やかでフレッシュな楽曲でしたけど、“Broken Sky”は自分が小さいときに親しんでいた音楽に近いので、そのときに聴いてきたものが役に立ったなって思います。

――シングルはこれで3枚目ですけど、1枚目から2枚目、2枚目から3枚目と、目に見えて歌がよくなっているな、と思いました。その進化の背景には、何があると思いますか。

富田 純粋に、技術ではなくて、アーティストとしてまず“Present Moment”を出させていただいて、ファンの方と交流して、いろんなところで歌って、と経験していくうちに、もともと好きだった歌うこと、音楽が、より好きになりました。音楽に対しての愛情が自分の中でより大きくなったから、歌うことの楽しさや歌が好きな気持ちがどんどん増していって、気持ちの変化があったと感じています。歌っているときも、ファンの方の顔を見たときに、みんなが楽しんでいる顔をしてくださるので、その顔を見ていると「歌を歌っていてよかったな」って思うし、短い期間でたくさんそう感じることができたので、音楽って楽しいなって、より思うようになった気がします。

――今回の表題曲は、TVアニメ『無能なナナ』のオープニング主題歌になっているわけですが、アニメはなかなか物騒な作品で――。

富田 そうなんです(笑)。

――(笑)声優としても出演しているんですよね。この作品に触れて、どんな印象を抱きましたか。

富田 歌う前に原作を読ませていただいたんですけど、もう裏切りの連続で「なんて面白いんだ!」って思いました。いちファンとして『無能なナナ』を楽しめたので、自分が作品のファンになったことで、よりいい歌、よりいい芝居が出せたかなって思います。オープニングは作品の最初に流れるものだから、プレッシャーも大きかったんですけど、その分やりがいも感じたし、作品のファンになったことで、「これはもう絶対うまくいく!」っていう自信もついた気がします。

――役者としての収録はどうでした?

富田 今回、主題歌を歌うアーティストとして作品に参加しているのと、佐々木ユウカ役で声優としても参加してるので、長くやってきたお芝居が「富田美憂は歌だけじゃなくて、芝居もすごいよね」と言っていただけたら、自分の中でこの作品は大成功だって思っています。実はこういうテイストの作品、初めてだったんですよ。サバイバル、サスペンスの要素があって、自分も好きなジャンルです。ユウカをこうやって作ろうというプランを考えに考えて、アフレコに臨ませていただきました。実際にオンエアでユウカの活躍を見て「富田美憂ってすげえな」って思っていただけたら、わたしは満足です。

――ということは、いい芝居ができた手応えがある?

富田 あります!

――素晴らしい。“Broken Sky”の歌詞ですけど、並んでいる言葉を見ていると、歌いこなすのが難しそうな曲だな、と。わりと、日常から飛距離のある言葉が多くて。輪廻とか時雨とか慈愛とか――。

富田 確かに、普通に生活していたら言わないですよね(笑)。

――そう、日常の生活では口にしない言葉じゃないですか。曲や歌詞を取りこんで、自分のものにしていかないと、それらの言葉が上滑りしていく感じになってしまうんじゃないかな、と思ったんです。曲や歌詞に説得力を持たせるために、どんな工夫をしたんでしょう。

富田 今までに歌ってきた曲の歌詞では、自分のデビューに向けての思いとか、感情的なものを歌っていて、今まで経験してきたことを歌声に乗せて発信していく感じでレコーディングもしていたんですけど、おっしゃってくださったように、“Broken Sky”は非日常感がある楽曲で。歌詞と原作を照らし合わせると、ナナちゃんの気持ちを歌っていると解釈できる曲でもあるんです。この曲を初めて聴いた方が、どうやったら非日常感を感じてくれるのかを考えたときに、今までは自分の主観で歌ってましたけど、今回は一歩引いて、自分も客観的に歌詞をとらえて歌うことを頭の片隅に置きながら、レコーディングしました。

――まさにそれですね。実際、この曲って、力押しでは通じないのかな、と。

富田 そうなんです。楽曲はすごくパワフルなんですけど、ちょっと遠くから俯瞰で見てみたり、試行錯誤をだいぶした、難しい楽曲でした。

――「力強くいこう」とアプローチしただけでは力強くならない、というか。

富田 そうですね。パワフルな曲なんですけど、ちょっと冷たい部分もあったり、切ない部分もあるので、今までにチャレンジした楽曲とは違うアプローチをしました。これまでは歌詞の世界観の真ん中に自分がいるイメージで歌ってきたんですけど、今回は歌詞の世界観から浮かぶ風景を、遠くにある建物の上から見下ろしてる感じをイメージして歌っています。

――そして、カップリングの“インソムニア・マーメイド”、この曲めちゃくちゃいいですね。

富田 やった! 嬉しいです。

――オリジナル曲をいくつもやってきた中でも、新鮮な印象で取り組めた曲なんじゃないですか。

富田 新鮮でした。アーティスト活動が始まったときから、いつかバラードにも挑戦してみたいと思っていて。わたし、事務所のオーディションに入るときに歌ったのも、バラードだったんです。だからバラードは自分の中で特別なので、念願が叶ってチャレンジできました。“インソムニア・マーメイド”は女性らしさを前面に出した曲です。しかもこの曲は初恋が終わったときではなく、歌詞的には何度か恋を重ねて失恋してしまった、という曲になっているんです。いつもより少し、経験豊かというか、フレッシュさではなくて大人っぽい雰囲気、ちょっと背伸びした感じを意識して歌わせていただきました。ただ切ないだけの曲では終わらせたくなかったので、切ないんだけどあたたかい気持ちになるような楽曲作りをしましたね。

――まさに、大人感がありますね。

富田 よかったです。初めてチャレンジする歌い方なので、ファンの方にこれがどう受け入れてもらえるかは不安だったんですけど、この曲を聴いて「これ、ほんとに富田美憂?」って思っていただけたら、わたしの勝ちだなって思います。

――思いました。

富田 思いました? 勝ちました(笑)。

富田美憂

新しいことにどんどんチャレンジしていって、「唯一無二の富田美憂」になれたら

――これまで6曲のオリジナル楽曲を歌ってきたわけですが、今回の2曲は非常に手応えを感じられる内容だと思います。ここまでの音楽活動を経て、自分自身の歌の強みと課題、それぞれ何だと感じてますか。

富田 強みは、やっぱりエモいって言われることがすごく多くて。でも、「エモい」って一言で表せちゃいますけど、実は難しいことだな、と思っています。そのエモさって、必死さのようなものでもあって、聴いてくれる方がどこか近い存在に感じてくれているからこそ、感じていただけることなんじゃないかなって思います。だから、自分の歌声の武器として持っていきたいです。逆に、課題だと感じているのは、なんでも全力でやりすぎてしまうので、「これ、聴いていて疲れないかな」って、ふと思うことがあります。なので、余裕を持った音楽作りもしてみたいですね。

――わりと足し算で歌を歌っていくことは得意な印象があるけど、今回のシングルで引き算することを学べたんじゃないですか。

富田 はい、引き算を覚えられました。お芝居も一緒で、プラスしていくのは得意ないんですけど、マイナスしていくことがあまり得意ではなく(笑)。引き算をうまくなることが、芝居に関しても音楽に関しても、今後の目標です。

――課題に向き合うことって、反省を伴うわけで、必ずしも楽しいことばかりではないですよね。

富田 そうなんです。だからたまに自分の歌や芝居を聴いて、落ち込むこともあるんですけど(笑)。

――でも、それはやらねばならないこと。

富田 そうですね。やっぱり、自分がそうやってつらいことも経験することによって、よりいいものができあがって、それを届けることによって、ファンの方が喜んでくださる、という方程式が自分の中でできあがるので、ちょっとしんどいな、と思うことでも、最終的にみんなが喜んでくれるんだと考えたら、全然頑張れます。

――1年間、芝居と並行して音楽活動をしてきて、自分が変わった点、変わらないな、と感じている点について教えてもらえますか。

富田 わたしはすごく消極的で、あまり自信がなくて、他人と自分を比べてすぐ落ち込む癖があるんですけど、その相談を以前マネージャーさんにしたときに、「まわりと自分を比較して、いいものを盗むこと、勉強することはすごく大事だけど、他人と自分を比べて落ち込むのは何のプラスも生まないし、そうやって落ち込んでいることによって、負の感情が歌声や芝居に無意識に乗ってしまう。他人のことを比べて悩むよりも、最大の敵である自分と戦いなさい」って言われて、「確かにそうだな」って思いました。この言葉は、自分の中でずっと持っていたい言葉です。

――カッコいいことを言いますね(笑)。

富田 最近、心の中でマネージャーさんを「ローランドさん」って呼んでいます。そういうことを考えてくださるマネージャーさんやスタッフさんが、ありがたいことに自分のまわりにはすごく多いので、皆さんに助けられて仕事ができているなって思います。

――これから音楽活動を続けていく上で楽しみにしていることは?

富田 いろんな人、いろんな世代から好かれるアーティストになりたいと思いますし、いろんな地方とかに行って、まだ会ったことのないファンの方とも、これから活動を続けていったら出会えと思うので、それが一番の楽しみです。

――では、今後「表現者・富田美憂」はどんな存在になりたいと思いますか。

富田 身近に感じてもらえる存在でいること、誰かを笑顔にできる人になりたいです。それは、デビューしたときから今まで、ずっと変わらない目標です。いろんな音楽やいろんな役柄、新しいことにどんどんチャレンジしていって、「唯一無二の富田美憂」になれたらいいな、と思います。

連載コラム 富田美憂の「私が私を見つけるまで」はこちら

取材・文=清水大輔