5年間の歩みを支えてくれたものとは何か――水瀬いのり・音楽活動5周年インタビュー①

アニメ

更新日:2020/11/20

水瀬いのり

 12月2日。1stシングル『夢のつぼみ』で声優・水瀬いのりが音楽活動をスタートしてから、もうすぐ5周年を迎える。戸惑いながら歩き始めた水瀬いのりの足跡は、多くの聴き手の応援を受け、支えられながら、リリースを重ねるごとに確かなものとなっていった。これまでに8枚のシングルと3枚のオリジナルアルバムを発表、日本武道館をはじめ大きなステージに立ち、ファンと心を通わせて絆をはぐくんできた結果、「水瀬いのりの音楽」は5年間愛され続けてきた。そのあたたかい関係性は、きっとこれからも変わらないだろう。今回は、音楽活動5周年と、水瀬自身の25歳の誕生日でもある12月2日の9thシングル『Starlight Museum』リリースを記念して、連載形式で5本立てのロング・インタビューをお届けしたい。第1回のテーマは、「5年間の振り返り」。5年間で自身を支えてくれたもの、活動開始当初の心情について語ってもらった。

たくさんの人がまわりで支えてくれていて、それを一身に受けられる喜びを感じました

――5周年インタビュー、最初のテーマは「音楽活動5年間の振り返り」です。その前に、今回取材させてもらうにあたって、改めてすべて全部の曲を聴きまして。名曲ばかりで、しかも初期の頃から本当にいい曲が多いなあ、と思いました。

水瀬:嬉しいです(笑)。ありがとうございます。

advertisement

――同時に、「いい意味で、この人は変わってないんだな」という印象もありました。で、だいぶ振り返りになりますけど、1st シングル『夢のつぼみ』をリリースしたのが2015年の12月でしたね。まずは、自身名義で音楽活動をすることに関してどう思ったか、話してもらえますか。

水瀬:当時は、声優という職業柄キャラクターとして歌を歌ったり、キャラクターを演じたりすることが主で、自分自身として表に立って表現する経験もあまりなかったため、自分のパーソナルな部分について自分でもよくわかっていない状態でした。なので、自分の名前で音楽活動をすることが決まって、デビューする前にキングレコードさんにお話を聞きに行っても、なんだかフワフワしていて。自分のことだけど自分のことにうまく置き換えられていないまま、だけど両親や友達、ファンの皆さんがものすごく喜んでいることを感じました。歌を歌うことが好きで、やってみたいことのひとつだったので、「本当に形になろうとしているんだなあ」という気持ちはありつつも、舞い上がることはなかった、というか(笑)。舞い上がり方がわからなくて、「どうはしゃいだらいいんだろう?」みたいな気持ちでした。

 もちろん嬉しかったですけど、当時はまさかこんなに長く続いていくものだとは自分では想像していなくて。一緒に音楽を作ってくれる皆さんは、長く活動していけるように「全力で支えます!」っておっしゃってくれていましたが、「自分の頑張り次第なんだろうなあ」って思ってました。はじめは記念受験みたいな気持ちもありました(笑)。

――(笑)たとえば自分だけがジャケットに写っているCDが店頭に並ぶのは、初めての経験じゃないですか。嬉しい面もあるだろうし、受け取ってもらえるだろうかっていう不安もあったかもしれない。リリースの前にどんなことを感じていたか、覚えていますか。

水瀬:最初は、いったいどれくらいの人に自分の音楽が届いているのか、なかなかわからなかったです。だけど、リリースに向けて取材をたくさんしていただいて、初めて自分ひとりで表紙になったりしていたので、○○役ではない自分を、そこまで求めてもらえることが、新鮮でした。キャラクターありきだった声優のお仕事から、「声優アーティスト」に変わっていく中で、こんなにも個人としてのわたしを紐解いてくれようとする方がいたり、ファンの皆さんもキャラクターをまとっていない自分の声を、こんなにも楽しみに待ってくれているんだなって感じて。そこで改めて、自分ひとりの活動だけど、自分ひとりの活動ではない、ちゃんとみんなに届けるためにわたしの活動はあるんだなって思いました。

 最初は、ソロというと、ユニットとかに比べて孤独なのかな、とか、ひとりでビジュアルや歌の世界まで表現するのはすごく難しそうって考えていたんですけど、実際には全然ひとりではなくて。逆に、表に出るのがわたしひとりだからこそ、たくさんの人がまわりで支えてくれていて、それを一身に受けられる喜びを感じました。みんながわたしを支えてくれてるんだ、と思うと、ひとりで表に出ることが全然怖くなかったですし、それはこの活動をしてから知ったことです。

――1stシングルの時点で、すでにその気づきがあったんですか。

水瀬:そうですね。でも、最初はまわりを見られていなかったですし、「うまく歌わないと」「歌詞を間違えないようにしないと」「お客さん全員の目を見ないと」とか、「○○しないと」ばかりが念頭にあったと思います。自然体ではなく、自然体を偽っているような状態で(笑)、人前に立っていた気がします。当時は自分の悩みとか、活動への不安とか、まわりの人に自分の気持ちをうまく話せていない時期だったので、最初のシングルに関しては、自分らしさをこれからどう見つけていけばいいのか、迷いながら始まった感じでした。

――冒頭の話だと、もともと歌うことは好きだったし、やってみたいことのひとつだったのかな、と思うんですけども。

水瀬:子供のとき、それこそ5歳、6歳くらいで声優のお仕事に興味を持った頃に、アニメを観たり、アニメの歌を聴いたりしていて。あと、同世代――ちょっとお姉さんですけど――モーニング娘。さんやSPEEDさんなど、テレビで活動するアイドルの皆さんを見て、憧れたりしていました。小さいときは歌を歌うことがすごく楽しかったのですが、年齢を重ねていくと、歌を聴いてもらうことをお仕事にする厳しさに気づいて。昔から、誰かに評価をされることが、あまり好きじゃなかったんです。単純に怖かったですし、それは自分が好きなものを嫌いになってしまう引き金にもなるのかもしれない、と思っていて。そういう現実を受け止められない自分の心の弱さでもあるんですけど、好きなことを仕事にしなければ評価もされないので、家族であったり、友達であったり、自分を好きでいてくれる人たちだけに届いていればいいなと思って、しばらくは歌手になる夢は持たないようにしていました。

水瀬いのり

水瀬いのり
水瀬いのり 1st LIVE Ready Steady Go!」より

「ありがとう」はわたしにとって魔法の言葉

――結果、「やりたいこと」のひとつだった歌を実際に仕事にして、今に至るまで5年間活動を続けることができているわけですが、この5年間で水瀬さんを支えてくれたもの、原動力は何でしたか。

水瀬:もちろん、ファンの皆さんにもいつも支えられているのですが、わたしの場合はやっぱり家族が一番です。自分の人生も含めて、どんなときも側にいてくれて、いわばファン第1号みたいな存在なので。自分の夢を応援してくれたり、つらかったときに温かい言葉をかけてくれたり、どんなときも味方でいてくれる、絶対的な信頼を寄せられる存在は、やっぱり家族だなあ、と思います。両親あっての自分なので、それはすごく感じます。なので、今までの活動の中に苦しいことやつらいことがあって、そのとき家族が側にいなかったら、きっとやめてしまっていただろうなと思う場面はいっぱいあります。家に帰って、いろいろお話して、それでも「素敵だよ」「輝いてるよ」っていつでも言ってくれる両親は、自分にとってはかけがえのない存在です。

――キャリアが始まった頃から今まで、ずっとそうだったんですか。

水瀬:もう、ずっとそうですね。何度弱音を吐いたことか。喧嘩もしましたよ。わたしが「こういう活動をやめたい」「自分には無理だ」みたいなことを言うと、それに対して「そうだね」じゃなくて、なんでそんなこと言うの!」って、めちゃめちゃお母さんが食い下がってきます(笑)。お父さんはシャイな人なので、応援していることを表に出さないんですけど、でも陰ながら支えてくれていて。主に母が、魂に叫びかけてくれています(笑)。その情熱が、自分を支えてくれていたと思います。

――5年間の中で、誰かにかけられて嬉しかった言葉は何ですか。

水瀬:ファンの方は、いろいろなシーンでわたしと出会ってくれているんですよね。受験勉強中に励みにしてくれていたとか、就職活動であったり、もっと先の人生、わたしよりも先輩な年齢でわたしと出会ってくれた人が、わたしの活動を見て「こんなに頑張ってるんだ」って思ってくださったり。そのひとりひとりとの出会いって、CDを手に取ってくれるのと一緒で、わたしには目に見えない出会い方をしていると思うんです。曲を聴いて、今日こうして話している間に、もしかしたら初めてわたしの歌を聴く人がいて、魅力的だと思ってくれる人がいるかもしれない。そういう刹那的な出会いを繰り返して、皆さんとわたしはつながっていってると思うんですけど、やっぱり「ありがとう」「出会えて嬉しい」という気持ちを、ファンレターや感想で送ってくださる人がいるのは、すごく嬉しいなあ、と思います。

 もちろん、「素敵な楽曲」って言っていただけるのも嬉しいですけど、その中でも「水瀬いのりとしていてくれてありがとう」と言ってもらえると、自分が何かを発信し続ける意味があるんだな、ちゃんと届いてるんだなあ、と思えるんです。「ありがとう」はわたしにとって魔法の言葉で、励みになりますし、「ありがとう」と言われたら「ありがとう」と返したくなるので、そのキャッチボールは素敵だな、と思います。

――5年間音楽活動をしてきて、レコーディングやライブで悔しいと思ったことと、それをどう乗り越えたのかを教えてください。

水瀬:“夢のつぼみ”でデビューしてから音楽フェスやイベントに出ることがあって2,3曲自分の歌を歌って、代わる代わるいろいろなアーティストさんにバトンタッチしていくイベントに出たときに、改めて自分の実力であったり、パフォーマンス力の現実を、受け止め切れないくらいの差として感じてしまって。それは頑張って埋まるものなのか、それとも天性の見せ方、持って生まれた才能なんじゃないか、と。それを知ったときに、そこで食らいついていくガッツが当時の自分の中になくて、どこかで「これは無理なのかも」と思ってしまい、自分が表現したいこと、やりたいことが1回わからなくなってしまったことがありました。1stシングルの時点では、ワンマンライブはやっていなかったので、「今後、ライブをやりたいですか」と訊かれても「……わからないです」という答え方しかできなくて(笑)。自分がひとりでショウとして見せ続ける自信がまったくなくて、不安や悔しさとも違う、呆然とした感情になって、「自分が表現したいものを体現するのは、すごく難しいんだな」と思いました。

――今はステージに何度も立っていて、ライブを楽しめているでしょうし、その呆然とした状態は乗り越えてるんですよね。

水瀬:そうですね。やっぱり、経験と数なんだなと思います。ある日、突然覚醒するわけではないので、とにかくライブイベントに出ては反省の繰り返しでした。「どう頑張っても、きっと今できたパフォーマンスのベストはこれなんだろうなあ」って思いながら帰ったり。「どうしたら自分はもっと成長できるのか」って考えても、そのヒントすらわからないまま空回りしてしまったり、そういう繰り返しの中で、人とのつながりがあったからこそ、今日まで頑張れています。これが、自問自答を繰り返すだけで、ずっとひとりぼっちだったら、たぶん5周年を迎えられないまま、わたしは逃亡していたと思います(笑)。そんな中でも、「この人たちのためにもっといいものを見せられるようになりたい」「自分を応援してくれる皆さんが、水瀬いのりを応援していてよかったと思える世界にしたい」と思っています。「水瀬いのりが好きなんだ。なんかわかる」と共感してもらえたり、みんなが誇らしくわたしを応援してくれる世界になったらいいなあ、と思いながら、今は頑張っています。

――音楽活動の中で、自身の変化を感じたエピソードはありますか。

水瀬:ツアーをやらせていただいたときに、いろいろな体力配分、時間配分をミスしてしまったことがあって。そのときに、自分の本気モードというか、わたしの中にもそういうスイッチがあるんだな、と思いました。もう、無我の境地、みたいな(笑)。自分では気づいていなかったですけど、それも活動の年月を経て培ったこと、度胸なのか場慣れなのか――それは、デビュー当時だったらきっとできなかったことだと思うので、ちょっと肝が据わったのかも?と思いました。

第2回は11月22日配信予定です。

取材・文=清水大輔  写真=GENKI(IIZUMI OFFICE)
スタイリング=田村理絵 ヘアメイク=大久保沙菜