中川大志インタビュー「そこまで知ってしまったら、もう引き返せない。ジョゼはそんな魅力のある女の子」映画『ジョゼと虎と魚たち』

アニメ

公開日:2020/12/23

12月25日に公開される映画『ジョゼと虎と魚たち』。
田辺聖子が描く恋愛小説の金字塔として、かつて実写映画化もされた物語が、アニメーション映画になって登場する。
主演声優は、中川大志と清原果耶。
恋をすること、未来に踏み出すこと……
青春の痛みときらめきを描き切る傑作小説は、どのような形でスクリーンに現れるのだろうか。

中川大志

 自分の世界の中で生きていたジョゼを、外の世界へいざなう恒夫。最初は戸惑い、次第に惹かれ、気づいたら引き返せないところまでいってしまう等身大の青年の心の揺れを瑞々しく演じきった中川さん。本作との出会いで何を得ただろう。

 タムラコータロー監督と最初に話しあったのは、「声優ではない僕たちが声を担当するということに意味を持たせないといけないね、ということでした」そう中川さんは語る。

 ご存じのように中川さんも、ジョゼ役の清原果耶さんも本業は俳優であり、国内長編アニメーション作品で主演を務めるのは共に初めてとなる。声のみでキャラクターを演じる難しさ、奥深さを監督から学んだそうだ。

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「タムラ監督のオーダーはとても細かかったです。ひと言ひと言のニュアンスや口調について、徹底的に意見をいただきました。たとえば出会ったばかりで、まだ関係ができあがっていない状態のジョゼと恒夫の距離感や、恒夫の彼女に対するものの言い方とか。ちょっと子ども扱いしていたり、なんだ、この子、って内心で呆れたり。そういったキャラクターの心情や、そのときそのときの気持ちをどう声で表現するかということを色々と細かく教えてくれて、それがまた絶妙な指摘でした」

自分の身体全部を使う実写の演技と声だけで表現するアニメーションの演技の違いについて意識した

 難しく大変な現場であり、また大いに勉強にもなったという。

「アニメと実写の決定的な違いって情報量だと思うんです。アニメは絵なので、実写の映像よりも物理的に情報量が少ない分、声にいろいろなものを乗せて表現しなければならないんですね。実写だと顔の演技、目線の演技、動作と、身体全部を含めて芝居をするところを、アニメーションだと声ですべてを演じなければいけない。だから台詞の言い方も実写とは変わってきて、もっとわかりやすくというか、より感情を出してしゃべる必要がある。そのバランスを掴むまでに苦労しました」

 中川さんはこれまでにもいくつか声優の仕事をしてきた経験がある。だけど「今回ほど声で演技をすることについて意識したことはなかった」と言う。

「普通の芝居と同じような感じで演じたら、弱くなってしまう。かといって、僕と清原さんを起用したということは、声優さんのような演技を求めているわけではないんだろうな、とは思いました。最初は監督の目指しているところがなかなかわからなかったんですが、何回もやっているうちに、だんだん、こういうことなのかな、と気づいていった感じですね」

 中川さんが演じた恒夫は、海洋生物学を専攻する大学生だ。卒業後の留学資金を貯めるためにアルバイトを掛け持ちして、夢に向かって努力することを惜しまない。

「恒夫は自分の好きなものに対して真っすぐで、熱量があって、そこがいいですよね。僕自身も心がけていることなんですが、自分の夢とか目標が生まれた瞬間って、意外と忘れがちになっていませんか。目の前にあるしなければいけないことを、ひたすらこなしているうちに、『あれ、俺なんでこれをやってるんだっけ?』って思っちゃったり。だけど恒夫は小さい頃に好きなものと出会った瞬間や、そのときのワクワクした気持ちを大人になっても忘れずに持ち続けている。そこが素敵だなあと感じました」

中川大志

恒夫はちょっと鈍感で“天然”。ジョゼに対してもマイペースで、彼のそんな部分を大切にしました

 役作りに関しては監督から「あまりジョゼに対して受け身な感じにならないで」と言われたそうだ。

「恒夫はちょっと鈍感で、その自然体さが女性からすると、一緒にいて身構えないでいられるというか、楽な感じがするのかもしれません。彼のそういった“天然”な部分を大切にしました。ジョゼに対しても恒夫はけっこうマイペースに接していて、いろんな仕打ちをされてもあまり響いていないんです(笑)」

 坂道で事故に遭いそうになっていたジョゼを助けたことから、彼女と関わりを持つようになる恒夫。ジョゼは彼を「管理人」と呼び、理不尽な命令をぶつけては、手足のごとくこき使う。

 肝心なのは、恒夫はそんなジョゼの振る舞いを優しく受けとめてくれる“王子様”ではないということ。車椅子のジョゼをただ庇護するのではなく、対等なひとりの人間として向きあい、ぶつかりながらも、次第に距離を縮めていく。

「恒夫は最初ジョゼのことを、かわいげがなくて文句ばかり言ってる子という印象を抱きます。そういうところからはじまり、パーソナルな部分が見え隠れしてくるにしたがって、気になっていくんです。ふとした瞬間のさびしげな表情とか、他人には見せない姿を不意に見てしまったときに、どきっとして。無邪気に笑う表情なんて、本当にかわいいですよね。そうして距離が縮まれば縮まるほど、ジョゼは本当は素直な子で、子どもみたいに泣いて笑って感動する心の持ち主であることが恒夫にもわかってくる。そこまで知ってしまったら、もう引き返せない。そんな魅力のある女の子ですね」

 ジョゼが恒夫との出会いをきっかけに自分自身の夢に目覚めていくように、恒夫もまたジョゼから影響を受けてゆく。

「いつも当たり前のように通り過ぎていた景色が、ジョゼと一緒に見ると違って見えてきたり。そういうことに気づかされるって、すごく大きなことだと思うんです。ジョゼの持つ強さや純粋さにふれて、恒夫も変わっていく。そんな二人の関係性の変化を、しっかりと表現できていたらいいのですが」

 清原果耶さん演じるジョゼがぽんぽんとまくし立てる軽妙な関西弁と、対する恒夫のマイペースな標準言葉。台詞のかけあいのリズムにも、二人の関係性がよく出ている。

「清原さんとはこれまで二度共演したことがありますが、声のお仕事での共演は初めてでした。ジョゼというキャラクターは、アニメの女の子っぽくするのも少し違うし、だけどナチュラルな芝居をしすぎても絵と合致しないので、どこでバランスをとるかは僕以上に大変だったと思います。彼女もまたストイックで、納得いくまでやるタイプなので大いに刺激を受けました。本業ではない声の仕事に向かう者同士、『こういう表現って難しいよね』と話しあいながらいろいろと共有していきました」

 本作品は2003年に実写映画化され、恋愛小説の不朽の名作として今なお多くの人々に愛されている。今回アニメーションという形で再び映画化されたわけだが、「この作品にしかない空気感を味わってほしい」と中川さんは語る。

「原作にあった優しさ、あたたかさ、雰囲気に加えて、アニメだからこそ表現できたような幻想的なシーンがたくさんあるんです。その映像は本当にきれいで、僕も観ていて心が洗われる気分になりました。世代を問わずに大人にも子どもにも、原作小説と実写映画を知っている方も、今回初めてふれるという方にも、新鮮に感じられる映画になっていると思います。この作品に参加できて本当によかったです」

なかがわ・たいし●1998年、東京都出身。2009年に俳優デビュー。翌年『半次郎』で映画初出演を果たし、11年『家政婦のミタ』で注目を集める。以後、NHK大河ドラマ『真田丸』(16)をはじめ数多くの映画やドラマに出演。公開待機作に『砕け散るところを見せてあげる』『犬部!』がある。

取材・文=皆川ちか 写真=江森康之 ヘアメイク=堤 紗也香 スタイリスト=山本隆司

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』
公開:2020年12月25日(金)
原作:田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』
監督:タムラコータロー
脚本:桑村さや香
出演:中川大志、清原果耶、宮本侑芽、興津和幸、Lynn
公式サイト:https://joseetora.jp/