ステージ上の輝きをもたらすルーツとは――中島由貴『Chapter Ⅰ』インタビュー(前編)

アニメ

公開日:2020/12/22

中島由貴

『アイドルマスター シンデレラガールズ』『BanG Dream!』などで活躍中の声優・中島由貴が、自身名義の音楽活動をスタートする。12月23日リリースの1stアルバムのタイトルは、『Chapter Ⅰ』。おそらく彼女を知る人がイメージする通り、爽やかさを基調とする多彩な楽曲が詰まった、楽しくて聴き応えのある1枚だ。ひとりの表現者として大きな一歩を記した中島由貴へのインタビューを、2日連続でお届けしたい。前編は、自身名義で音楽活動をすることになった背景と、彼女自身のルーツについて。ステージに立つと、ひときわ目を引くパフォーマンスを繰り広げる中島由貴の表現は、どのように形成されてきたのだろうか。

「清楚だ」って言っていただくことが多いです(笑)

――まずは、自身の名義で音楽活動をすることになった背景を聞かせてください。

中島:「音楽活動に興味ありませんか?」というお話をいただいたのは、3年半くらい前でした。たぶんまだ19歳、20歳の頃で、今ほどたくさんお仕事をさせていただいてたわけではなかったので、驚きが一番大きかったです。「わたしで大丈夫ですか?」みたいな感じでした(笑)。で、いろいろ打ち合わせをしていく中で、自分がやってみたいこと、自分にできることはなんだろう、と考えてみたり、すでにアーティスト活動をされている先輩の方の映像を観たりする中で、「楽しそうだなあ」と思って。最初は驚いて、ちょっと不安もありつつ、もう一度「どうですか?」と言われたときに、「なんとか頑張ろう」という気持ちが固まりました。

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――いま話してくれたように、3年半前となると、ご自身の立ち位置もかなり違ってたのかな、と思います。今は「この役のこの人」は、わりと認識されてる状態じゃないですか。その中で自分が前に立つとなると、見え方も変わってくるし、それに伴って責任も生じてくる。それについてはどう考えましたか。

中島:作品の場合はファンの皆さんもキャラクターを通して見てくださっているので、もちろん責任感を持っているんですけど、ソロとなると完全に自分、中島由貴なので、何をやっても全部わたしにつながるということで、責任感にプラスでプレッシャーもありました。

――そのプレッシャーは、どう解消していきましたか。

中島:今までいろんなお仕事をやってきた中で、不安なことはもちろんたくさんありました。それでも毎回「楽しそうだな」と思ったり、自分の中でやってみたいことが出てきたりすると気持ちが楽になることがあって、不安が薄れていく感じがあります。自分はソロ活動をどう楽しめるだろうか、と楽しさを探していく形で、プレッシャーは解消していったと思います。まだまだこれからですけど、今がスタート地点で、ちょっと不安はありつつ楽しみしかない感じです。

――今回、最初のリリースが12曲入りのアルバムで、「1枚まるごと中島由貴」になるわけですけど、こんな作品にできたらいいな、というビジョンはどういうものだったんですか。

中島:わたし自身の夢が「マルチに活動したい」ということで、ひとつに絞っていないんです。ひとつに絞れない、というか。なんでもできるような人になりたい気持ちがあるので、今回のアルバムに関しても、自分の可能性も含めて、いろんな楽曲を歌いたいです、とお話ししました。ファンの皆さんが思う中島由貴のイメージを崩さない楽曲もあれば、わたしが好きな要素も入れていただいたりしたので、ファンの方にとっては新しい一面が見られる作品になればいいな、と思いました。幅広く、いろんなジャンルの楽曲が入っています。

――中島さんは、ファンの人からどう見えてると感じてますか。

中島:「清楚だ」って言っていただくことが多いです(笑)。白いワンピースを着てたり――。

――「清楚」が最初に来るんですね(笑)。

中島:すごく言われるんです(笑)。「どんなイメージ?」みたいな感じで訊くと「爽やか」「清楚」「黒髪」みたいな感じで言われることが多いです。今回の『Chapter I』も、爽やかさがたくさん入ったアルバムになっています。

――「爽やか」「清楚」「黒髪」、かなりはっきりした三要素が出揃ってますね(笑)。

中島:はい、三要素が(笑)。

――「黒髪」は事実として、「爽やか」「清楚」について、中島さん自身はどう思ってるんですか?

中島:まったくないと思ってます(笑)。ずっと黒髪だし、清楚感はそことつながっているのかな?って思うんですけど、爽やかさはどこから来るんだろう?って思います。自分としては、まわりからよく言われるのが「見た目はすごく女の子っぽいけど、サバサバしてて男っぽい」ということなので、そういう部分でちょっと少年っぽさがあって、それが「爽やか」になってるのかも。

――実際、表現とか佇まいを見た人が、爽やかさや清楚感を受け取っているというのは、とてもよいことだと思いますね。

中島:嬉しいです(笑)。わたし自身はいつも自然体でいるので、それを皆さんに受け入れてもらえているのは、すごくありがたいなと思います。

――ご本人の自覚は置いておくとして、爽やかで清楚に見えるのは武器ですよ。楽曲やアルバムにも、その雰囲気は多分に入ってると思うし。

中島:はい。全体的に、疾走感ある楽曲や爽やかさは、ありますね(笑)。

――出てますね(笑)。

中島:爽やかさが出ちゃってる(笑)。1曲目の“Happy Signal”も、ちょっとアイドルチックな曲調になりつつも、疾走感と爽やかさもあって。わたし自身は、普段聴く楽曲はわりとドロドロした楽曲も好きだったりするんです。ゴシックな楽曲だったり。もちろんRoseliaの楽曲も好きだし。今回、いざ自分の楽曲として歌うとなったときに、少し難しいなって思いました。キャラソンのようなディレクションが入るのではなく、「好きなようにしてみてください」と言われてみると、「好きなように歌う、自分の歌って何だろう?」と思って。いろいろやっていく中で、すんなりいくものもあれば、ちょっと苦戦する曲もあったんですけど、全体的には楽しくレコーディングできました。

中島由貴

ステージに上がると、自由になれる

――日々仕事をしていて、何か困難にぶつかって乗り越えるとき、何が原動力になりますか。

中島:まず「悔しい」って思います。グループをやっていたときは、それがけっこうありました。メンバーとすれ違うというか、自分が思っていることがあまり伝えられなくて、壁にぶつかったり。自分はリーダーではなかったんですけど、グループの中では一番芸歴が長くていろいろ経験もしていたので、リーダーを支えるようなポジションでした。メンバーはそれぞれ、もともと持っていた夢が違っていたので、そこでぶつかってしまったり。

――そのとき、中島さん自身は何をしたい人だったんですか。

中島:わたしはアイドルユニットをやりたかったし、もちろん声の仕事もしたかったんですけど、それが途中で「あっ、もうできないのかも」って思ってしまって。でも、その経験を通して、自分も成長できたか、と思っています。

――当時やりたかったことは、自身名義の音楽活動で実現できそうですか?

中島:そうですね。ソロ活動も、声優としての活動も含めて、中島由貴としてやりたいこと、伸ばしたいことは、実現できそうな気がしています。

――そもそも、歌って踊ったりする活動がしたいと思ったルーツを聞きたいです。

中島:わたしは、もともとそこまで自分を表に出せるタイプではなかったんです。小さい頃も、よく「人見知りだね」って言われました。両親が芸能界に入れてくれたきっかけのひとつが、人見知りを直したい、ということだったんです。引っ込み思案ではないんですけど、自分の思ったことはなかなか言えなかったりしたので、自由に表現することに憧れています。こうしてソロ活動をする中で、「自分のやりたいことができて楽しいよ」って言っていただいて、他の方の映像を観たりしても、スタッフさんと一致団結して素敵な空間ができ上がっていて、「いいなあ」って思いました。この活動をきっかけに、自分も音楽を表現したいし、身体を使ってダンスで表現することもすごく好きなので、自由に自分の表現したいものをやっていきたいなって思います。

――人見知りで自分の気持ちをあまり上手く伝えられなかったけれども、表現したいことは自分の中にどんどん溜まっていた、と。

中島:そうですね。ステージに立つと、いろんなことが気にならなくなります。緊張もするので、袖では「もう帰りた~い」ってなってたりしますけど(笑)、ステージに上がると自由になれる、というか。『シンデレラガールズ』も『バンドリ!』も、本番が始まるとどんどんつけ足しちゃうんですね。ステージに立って何かをするときに、やりたいことがポンと出てきちゃうんだなあって、感じてたりします。

――それは、自分の中でも予期せぬことなんですか。

中島:予期せぬことですね。本番になると楽しさのほうが勝っちゃって、「わ~!」みたいな(笑)。でも、練習してきたものは染み込んでいるし、はちゃめちゃにはなっていないと思うんですけど、本番が始まるといなくなっちゃいます。

――「いなくなる」とは?

中島:考えていたもの、です。袖にいるときや、ステージに立って暗転しているときには考えていたのに、照明がついた瞬間にプンって忘れて、好きなように動いちゃうみたいなところはありますね。

――ということは、表現をひねり出しているのではなくて、中島さんの内側にいろんな表現がある、ということですね。

中島:そうだと思います。ハロー!プロジェクトさんが好きで、パフォーマンスもめちゃくちゃ見るんですけど、すごくいいなあって思います。カッコいいし、自由に音楽を楽しんでる感じが羨ましくて、踊りも覚えたりします。彼女たちだからこそできるパフォーマンスだし、ひとりひとりが出せる表情を持っているので、真似したくてもできないけど、その感じがすごくいいな、と思っていて。わたしも、そういうパフォーマンスがしたいと思うし、憧れますね。『シンデレラガールズ』でも、先輩の皆さんを見ていると、表情も含めてそのアイドルそのものだなあって、毎回思うんですよ。わたしも同じようにやろうとしてするけど、なんか不器用というか、「自然じゃないな」って感じることがあって。だったら、自分は考えるよりも直感で感じたものを出していったほうがいいんだな、と思うようになりました。

後編は12月23日配信予定です。

取材・文=清水大輔  写真=藤原江理奈
ヘアメイク:イム・ミニ