漫画は人生そのものだ! 東海オンエア・てつやが「根源」となる作品を語り尽くす

エンタメ

公開日:2020/12/28

東海オンエア・てつや

 愛知県・岡崎市を拠点に動画を発信し、YouTubeチャンネル登録者数560万人以上を誇るトップクリエイター、東海オンエア。リーダーを務めるてつやさんが、このたびエッセイ『天才の根源』(KADOKAWA)を上梓。縦横無尽の発想力から“天才”と称される彼が、自身の半生や考え方を1冊にまとめた初の著書となる。

天才の根源
『天才の根源』(てつや/KADOKAWA)

 てつやさんの「根源」となった要素は数あれど、その中で「漫画」の占める割合はかなり大きいのだという。『天才の根源』の発売を記念して、現在の「てつや」を形作った、欠かすことのできない作品について伺った。

『ドラゴンボール』は「漫画」じゃない。僕にとっては「悟空の伝記」

東海オンエア・てつや

――てつやさんの中で一番の「根源」と言える作品を一つ選ぶなら、何になりますか?

advertisement

てつやさん(以下、てつや):「一番」と聞かれたら、『ドラゴンボール』(鳥山明/集英社)を挙げるしかないですね。僕の「人間味」の部分を作ってくれた作品で、人生のバイブルです。周知の事実ではありますが、悟空ってやっぱりすごいんですよ。苦痛の表情を見せず、いつも楽しみながら生命の危機、地球の危機を乗り越えていく。大きな目標に向かって進んでいくというより、その場その場で「強くなりたい」とか、「相手に勝ちたい」とか、瞬間の情熱を全力で注ぐんですよね。そうして修行そのものを楽しみながら、世界を救いまくってきた。その姿を見て、「人生に計画性は必要ないんだな」ということを学んでしまった節があります。あれこれ策略をめぐらせるより、目の前のことを楽しむほうが結局うまくいくんだという実感が、悟空に憧れて生きてきた僕の中にも確実にあります。

――悟空と自分を重ね合わせて生きている?

てつや:というより、ずっと追いかけてきたんですよ。僕の人生の中に、悟空を追いかけることで積み重ねてきた経験、作られてきた人間性が山ほどある。仮に今、『ドラゴンボール』への思いをリセットしたら、僕という人間自体も塵となる。それくらい、悟空を信じて生きてきました。ゆえに、ただの「作品」だと切り離すことはできません。『ドラゴンボール』は漫画というフィクションではなく、悟空という偉人の伝記として人生すべてに取り込みました。

――ストーリー的な魅力はどのような部分でしょうか?

てつや:『ドラゴンボール』に触れたことがなくても、超サイヤ人(スーパーサイヤ人)の存在は見聞きしている人が多いと思うんですけど……念のため補足すると、金髪で全身からオーラ出まくってる悟空の姿が、超サイヤ人です。超サイヤ人になった悟空とかフリーザって戦闘力がバカ高くて、その強さばかりに目が行きがちなんですけど、実は悟空が超サイヤ人になるのって全42巻の第27巻なんです。あの長編漫画の半分以上を過ぎたところでようやく超サイヤ人になる。この積み重ねがあるから、超サイヤ人がどれだけ強くてもめちゃくちゃ納得できるんです。普通の成人男性は戦闘力が5で、初期の悟空は50くらい、第27巻の超サイヤ人で1億5000万になって物語が終わる頃にはデコピンで相手を倒せるくらいの強さになる。その強さに説得力を与えているのが、第27巻までの積み重ねなんですよね。物語に厚みがあるんですよ。

東海オンエア・てつや

――積み重ねの大切さは、ご自身の生活でも感じますか?

てつや:まさにそう。東海オンエアも最初はチャンネル登録者数10人というところから始まって、今は560万人。560万という数字も、知らない人からすると漫画のように現実味のない話だと思うんです。だけどこの登録者数に至る過程には、悟空の積み重ねと同じく歴史があって……そのあたりが気になる方は『天才の根源』を読んでいただくとして。昔、チャンネル登録者数を「フリーザの戦闘力」に例えたときに「第2形態とタメ張れるくらい」と答えたのですが、今は「第3形態には勝てるくらい」かも。最終形態は1億2000万だから、国民全員にチャンネル登録してもらわないといけない……⁉ いや、それでも1億5000万人くらいの登録者数を目指します。悟空なら、間違いなくそうすると思うので。

「笑い」のステージを一段上げてくれた『ギャグマンガ日和』

東海オンエア・てつや

――チャンネル登録者数のお話が出ましたが、東海オンエアの動画にも表れるてつやさんの「ユーモア」の根源も、実は漫画からきていると本に書かれていましたね。

てつや:はい、『ギャグマンガ日和』(増田こうすけ/集英社)のことですね。男にとって「おもしろ」の目覚めって大体『コロコロコミック』だと思うんですが、『ギャグマンガ日和』はその一歩先の笑いなんですよね。小学生でコロコロを読んで、「変顔」とか「ダジャレ」とか、そういう基礎の基礎を習得した人が次に行き着くステージ、それが『ギャグマンガ日和』だと思います。笑いにおける「シュール」という概念を、僕はこの作品で知りました。これを読んで、自分がレベルアップしたような感覚は今も覚えてます。

――「落差」の笑いを知った、とのことでした。

てつや:そうですね、「間」の作り方というか。それを漫画表現に落とし込んでいるのがすごいなと思います。たとえばセリフ一つとっても、フォントが変わってたり、吹き出しからはみ出しているものがあったり。その落差が絶妙な「間」となって笑わせてくるんですよ。絵のほうもなんか急に雑になったり、肩から「だんご三兄弟」みたいなのが一切の説明なく生えてたり……。そういう「緩急で笑わせる」手法に対して、レベルの高さを感じました。

――クスッと笑える、みたいなところでしょうか。そのユーモアは動画にも生かされていたり?

てつや:動画を編集するとき、テロップ、フォント、効果音……そういうところに、この作品からインプットされた細かい感性が自然と滲み出ている気がします。ボケるときも、思いっきり「どうだ! おもしろいだろ!」と全面に出すより、しれっとやっておいて「笑える人は笑ってもいいよ」みたいな。そういうところも似ているのかな。あと、なんといっても作者自身がやりたいことやっているという感じがたまらないですよね。描いてる本人が一番笑ってるんだろうなって。何よりも自分に刺さるものを追求し続ける。それは今の僕が一番大事にしていることです。『ギャグマンガ日和』は、東海オンエアの根源、とも言えるかもしれません。

飛ぶように服が脱げる『魔法先生ネギま!』と衝撃の出合い

東海オンエア・てつや

――「漫画」のほか、「アニメ」「ゲーム」「ガンプラ」など趣味にのめり込む様子も動画を通して公開してきたてつやさん。いわゆる「オタク」の根源となったのは……?

てつや:「オタク」と呼べるほどの知識があるわけではないので、名乗るのはおこがましいと思っているのですが……たぶん中学2年生で、『魔法先生ネギま!』(赤松健/講談社)にハマったときにオタクの地平が開けてきた感があります。この作品の魅力は、シンプルによく服が脱げるところです! 魔法が暴発して服が飛んでいくという場面がよく出てくるんですけど、かわいい女の子の服がここまで脱げる漫画にはそれまで触れてこなかったので、衝撃がありました。『ネギま!』に出合うまでは、おっぱいって『ドラゴンボール』のブルマの乳くらいしか拝めなかったんですよ。世界が一変しましたね。

――キャラクターに対して「かわいい」と思ったのも初めてだったんでしょうか。

てつや:そう! キャラ萌え、みたいな感情を知りました。出てくる女の子たちもいろんなタイプが揃っていて、明るい子も根暗な子も、妹っぽいのもロボットっぽいのも……ありとあらゆるキャラの宝庫でした。あと、主人公がちゃんと強くてバトルシーンがカッコよかったのも魅力の一つです。主人公がヘナチョコすぎると、いまいち入り込めないんですよね。たとえ普段はヘナチョコだったとしても、いざというときに頑張れるタイプの主人公が好き。『魔法先生ネギま!』はその点、主人公の強さと女の子のかわいさを両立している稀有な作品なんですよ。さらに絵もめちゃくちゃ細かくて上手だし、もっと爆発的に評価されてもいいと思うんですけど……パッと見がエロいというか、“THE・オタク”という感じが強くて取っ付きにくいのかもしれない。

――てつやさんも自分の“THE・オタク”な部分は表に出しにくかったりしますか?

てつや:中学生の頃は多少抵抗ありましたけど、いつのまにか吹っ切れました。というか、「オタクっぽいか」どうかで物事を線引きするより、「おもしろいものはおもしろい」と堂々としていればいいと思っていますし、そうやって自分に刺さるエンターテインメントをどんどん見つけていくほうが人生は楽しくなると思います。僕は大学時代、『ネギま!』への憧れで主人公と同じ赤髪にして、バイト先のガストで「赤すぎちゃうか…!?」って怒られましたけど……。ちょっと堂々としすぎましたね。

『バトル・ロワイアル』から学んだ、信じ抜く生き様のカッコよさ

東海オンエア・てつや

――何事にも動じない、気にしない。「優しい」とよく言われるてつやさんの「性格」の根源となったのも、ある作品がきっかけなんですよね。

てつや:同じく中学2年のときに出合った『バトル・ロワイアル』(高見広春:原作、田口雅之:漫画/秋田書店)です。僕が触れたのは原作小説ではなく漫画版のほう。めちゃくちゃリアルな世界観で中学生同士が殺し合う話なんですが、印象に残ったのは殺し合いの描写ではなく、物語の根底に流れる人間の信念とか、優しさ、みたいなものです。狂気や恐怖、絶望とか、そういうネガティブなものに飲み込まれそうになっても、それでも相手に対する優しさを貫く、という描写が中学生の僕の心にすごく響きました。

――友達同士だったはずの生徒たちが裏切ったり騙したり、足を引っ張り合う場面が多々ありますね。

てつや:自分だけが生き残ろうと必死になって取り乱してしまう。ああいうふうにはなりたくない、と思いました。僕が憧れたのは、自分が殺されそうになっていても「こんなことやめよう」と相手を説得する主人公の七原みたいな生き方。ほとんどの生徒たちが人を信じられずに死んでいく中で、七原のように信念を守り抜く男になりたい、と感じました。七原は人を信じまくる熱い男なんですけど、小細工なんかせずとにかく人を信じるほうがカッコいい、という理想の人物像を見せてくれました。

――「信じる」と一口に言っても、これはけっこう難しいことですよね。

てつや:「どうせ裏切られるから信じない」と考える人もいますよね。だけどそうやってどこか人を見くびるような姿勢でいると、自分も信じてもらえないような気がするんです。僕は信じている相手からたとえ裏切られたとしても、信じていたからこそ「まぁいっか」と思えるというか……こちらからは裏切りに見えたとしても、あちらにも何か理由があったんだろう、と受け入れます。大概のことは、死ぬわけじゃないしまぁいいかなって。

――とはいえ、反射的に怒りがわくこともないんでしょうか?

てつや:キレて慌てる奴って『バトロワ』だと大体死ぬんですよ。「キレる」「慌てる」は死亡フラグ。生き残るためにはやっちゃいけない。それに、裏切られたとき「信じる」とか「許す」という選択肢を取れたらカッコいいじゃないですか。そう思うと、誰かに裏切られたときって自分のことをカッコいいと思うチャンスかもしれない。ここで許せたら俺カッコいいぞと。これまでの人生でそんなに大裏切りされた経験はないんですけども……「何があっても許すぞ」という気持ちでいると、意外と裏切られないものなのかもしれません。「裏切られたらどうしよう」と疑心暗鬼になってると、相手にもたぶんそれが伝わってしまう。そういうちょっとしたところからほつれていく人間関係もあると思うので。結論としてやっぱり、人のことは信じたほうがいいんです。

――信じること、許すこと。『バトル・ロワイアル』はてつやさんの「優しさ」の根源となっているんですね。

てつや:『バトル・ロワイアル』を読むと、日常におけるちょっとしたことは気にならなくなりますね。七原たちが命を懸けて頑張っている状況と比べたら僕の問題なんてゴミカスです。クラスメイトと殺し合ってなお、人のことを信じてる奴がいるんですよ? 武器を持って笑いながら突っ込んでくる奴に、真っ向から説得するような男気を見せられたらもうね……現実の些末な問題にとらわれている場合じゃない。そういう気持ちになりますよ。

漫画がなかったら、こんな人生にはなってなかった

東海オンエア・てつや

――てつやさんにとって「漫画」は、ただの作品ではなくまさに「人生」「人間」そのものを形作る大切なピースになっているように感じます。

てつや:本当にその通りです。「漫画なんてフィクションでしょ。現実はそんなふうにはいかないよ」と考える人がよくいますけど、そういう人は漫画を漫画としてしか捉えてないっていうことですよね。逆になんでそこまで切り離せるんだ? と僕からしたら思います。物語や主人公にひたすら憧れながら歩んできた僕の人生は、それなりに成功しているといったらアレですが、現実もだんだんと漫画のような世界観になってきてるんですよ。あと単純に、漫画のキャラクターってとてつもない人気があるじゃないですか。人気になる理由がそこにあるなら、学んで真似して取り入れたほうがいいと思うんです。人生を輝かせるヒントがたくさん詰まっているのに、「漫画なんて……」と一歩引いてしまうのはもったいない!

――てつやさんのエッセイにも、生き方のヒントがたくさん詰まっているんでしょうか。

てつや:そうですね。こちらはもうそろそろ、最終話を迎える局面というところで……。

――そちらは『進撃の巨人』(諫山創/講談社)です。

てつや:え? これ僕が書いたやつじゃないんですか? あわよくばこの作者になり替わって締めたいと思ったんだけど、ダメか。

――てつやさんが出版したのは『天才の根源』です。

てつや:そうでした。今回、僕自身を形成した漫画たちのお話をしてきましたけど、その素晴らしい作品群を吸収した僕という人間のすべてをまとめたのが『天才の根源』です。つまり、こちらを読んでいただけたら『ドラゴンボール』の悟空の強さも、『バトル・ロワイアル』の七原の優しさも、読者のみなさんにインプットされるんじゃないかと。

――『天才の根源』を一冊読めばよいということでしょうか?

てつや:はい。『ギャグマンガ日和』、『魔法先生ネギま!』、『進撃の巨人』、あと『はじめの一歩』とか『へろへろくん』とかいろいろ読んだことになります。……やばい、そろそろ怒られそうだな。どれも素敵な作品なので自信を持ってオススメできます! 僕の人生は、本との出合いによってすごく豊かになりました。僕の初めてのエッセイ『天才の根源』も、誰かの、何かの、根源になることができたら最高です。

東海オンエア・てつや

取材・文=山岸南美 撮影=神戸健太郎 スタイリング=小山田孝司 ヘア&メイク=中軍裕美子