土屋太鳳「結果を求めすぎると人は不安になる。過程を頑張れば、結果として幸せがついてくると気づきました」

あの人と本の話 and more

更新日:2021/1/14

土屋太鳳さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、雑誌『ダ・ヴィンチ』の巻頭人気連載「あの人と本の話」。今回登場してくれたのは、今や国民的女優となった土屋太鳳さん。ダンサーとしても高い評価を得る土屋さんが感銘を受けた、世界的舞踏家・大野一雄さんの言葉とは? さらに、2月公開の映画『哀愁しんでれら』についてもトークを深掘り。生真面目な主人公・小春が狂気の淵へと追いつめられていく過程、“幸せになりたい”と願う気持ちについてお話を伺いました。

「コロナ禍の自粛期間中、課題でダンスを創作することになったんです。あまり経験がなく、不安でいっぱいの中で読んだのがこの本でした」

 そう言って土屋さんが差し出したのが、『大野一雄 稽古の言葉』。1906年生まれの大野一雄は、南方前線から復員後、本格的に舞踊の道へ。50代で土方巽とともに「舞踏」を確立した世界的舞踏家だ。この本には、1977年から96年にかけて、横浜の稽古場で研究生に語った言葉が記されている。

advertisement

「〈関節がはずれるくらいやってみたらどうか〉という言葉を読めば、素直にやってみようと思いますし、〈舞踏とは命がけで突っ立っている死体である〉という言葉を読めば、なるほどと思います。ダンスはテクニックではなく気持ちだと実感しましたし、“うまく踊らなきゃ”という思いがなくなりました」

 中でも感銘を受けたのは、次の一節だという。
〈前にいる人にだけ語りかけるんでなくて、少し体をねじるようにして、そして語ってごらん。思いの丈を。耐えて、体をちょっとねじるようにしてね。人を見ちゃいけない。しかし見なくちゃならない。見ているようであるが、見ない。そのへんの限界のなかでね、思いの丈を伝えてください。見るよりも思いの丈を。かすかに体をよじってね〉

「この言葉がすごく好きでした。私の中に、そのまますっと入ってきましたね」

 頭で理解しようとすると難しく、なかなか“すっと入る”とはいかない。やはり同じ表現者同士だからこそ、共鳴するものがあるのだろうか。

「感覚が近いのかもしれません。私は“こう演じよう”と考えるより、感覚を大事にするタイプ。“こう動いたらこう見えるんじゃないか”という作為って見ている人にも伝わりますし、それよりも内面をドン!と出したパフォーマンスに感動します。大野さんの世界観は、もう究極ですよね。〈今だってあなたは胎児だろう〉〈動くということは、あなたの命のせいだ〉など、どの言葉も素晴らしくて。いろいろなものを受け入れ、自分を許し、ただそこにいる。“そのままでいい。すべて正解でいいんだ”と言っていただけたような気がしました」

 そんな土屋さんが、感覚を大切に演じたのが2月5日公開の映画『哀愁しんでれら』。幸せになりたいという思いから8歳の娘(COCO)を持つ開業医の泉澤大悟(田中圭)と結婚したものの、歯車が狂い出していく主人公・小春を演じている。不幸のどん底から幸せの絶頂、そして狂気の淵へ。乱高下する運命に絡めとられていく姿に、恐ろしさを、そして哀しさを感じずにいられない。

「最初にいただいた台本は、完成したものよりさらにエキセントリックだったように記憶しています。お話をいただいた時は“どうして私なんだろう”と思いました。私、“怒る演技をしたことはありますか?”“大きい声を出すような演技、したことあります?”って聞かれることが時々あるんです。そういう時には“あ、私が10代の頃に演じてきた作品は届いていなかったんだ”と思い、役に対して申し訳なく感じてしまいます。今回の脚本も“こういう役、やったことないでしょ?”と言われているような気がして。もちろん、“イメージと違うからこそ、この役を演じてほしい”と言っていただけるのは、女優としてうれしいこと。ただ、人が堕ちていくさまを面白いことのように描く脚本に違和感を覚え、最初は出演をお断りしたんです」

 3回出演依頼を断ったものの、それでも土屋さんの前に戻ってきた脚本。渡部亮平監督と話し合いを重ねる中で、土屋さんの心が動き始めた。

「苦しい人が苦しい作品を書くこともあれば、明るく振舞っている人が苦しい作品を書くこともある。監督に“この脚本は計算して書いたんですか?”とうかがったところ、“はい、計算しました”と素直なお答えが返ってきたので、もしかしたら監督の中にも小春のような思いがあるのかもしれないと感じたんです。私は普通の人間ですが、監督は私の中にも小春のような一面があると察知してくれたのかもしれない。撮りたい画がはっきり見えましたし、監督が小春を信じていると感じ、オファーをお請けしました」

 撮影現場でも、渡部監督は小春を信じてくれたという。

「信じていただけないと、“こうやってください”“ああやってください”となり、場合によっては監督が演じ始めることもあります。でも、渡部監督にはそれがまったくなかった。もちろん“こういうシーンにしたい”というビジョンはありますが、ずっと小春を信じ続けてくれたんですね。そんな撮影現場での監督のありように感動しました。私も脚本を読んだ時よりも、現場にいる時のほうが“人は誰しも小春のようになる可能性がある”と感じました」

 ジェットコースターのようにめまぐるしい展開だが、観ている側にも確かに小春の気持ちがわかる。わかるからこそ、恐ろしい。

「そう。わかっちゃうんです。小春が堕ちていく瞬間がわかるから、負けちゃダメという気持ちも強くて。でも、小春は手放した。“もう言われるがままにする。それで幸せになるなら”って。自分のことも相手のことも切り離す瞬間、とても苦しかったです」

 果たして、それで小春は幸せになったのだろうか。衝撃のラストを、土屋さんはどう受け止めているのだろう。

「最後、小春が幸せだったのかはわかりません。ただ、心は泣いていたと思います。小春としては、自分が幸せになるにはそのやり方しかわからなかった。ここまで行ったのだから、幸せであってほしいですね」

〈女の子は漠然としたひとつの恐怖を抱えている。私は幸せになれるのだろうか〉──劇中で語られる言葉どおり、土屋さんにもまた「幸せになりたい」という気持ちが強くあるという。

「幸せを求めるあまり、母に相談したことがあるんです。“私、どうしたら幸せになれるんだろう。幸せになりたいのに、幸せになれないかもしれない”って。すると、“別に幸せにならなくてもいいじゃない。あなたは結果を求めようとしているけれど、それまでに何をしたかが大事でしょう? 今を見なさい。そして、大切な人に感謝や好意を伝えることを大事にしなさい”という言葉が返ってきたんです。そこで、“ああ、結果を求めすぎると人は不安になるんだ。そうではなく、その過程に一生懸命になることで、結果として幸せがついてくるんだ”と気づきました」

 小春も幸せという結果を求めすぎた結果、堕ちていったのだろうか。

「小春はただ自分を認めてほしかったのでしょうね。だからこそ、なんとしても自分を認める存在にしがみつこうとして間違った方向へと進んでしまったのだと思います。幸せになりたいと思うのは、けして悪いことではありません。誰もが抱く気持ちを描いた作品だと、伝わればうれしいです」

取材・文:野本由起 写真:江森康之
ヘアメイク:尾曲いずみ スタイリング:藤本大輔(tas) 衣装協力:ワンピース 4万2000円、キャミソールワンピース 2万3000円/ともにtiit tokyo(THEPR TEL03-6803-8313) *いずれも税別

つちや・たお●1995年、東京都生まれ。2005年にデビューし、08年『トウキョウソナタ』で映画初出演。15年、NHK連続テレビ小説『まれ』で主演を務め、国民的女優に。12月10日~NETFLIX「今際の国のアリス」配信開始、21年4月23日 公開 映画『るろうに剣心 最終章 The Final』、5月公開 映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』、22年公開映画『大怪獣のあとしまつ』に出演。

映画『哀愁しんでれら』

映画『哀愁しんでれら』

脚本・監督:渡部亮平 出演:土屋太鳳、田中 圭、COCOほか 配給:クロックワークス 2月5日全国ロードショー
●児童相談所で働く小春(土屋)は、相次ぐトラブルに見舞われ、一夜にして不幸のどん底に。そこに現れたのが、8歳の娘を持つ開業医の大悟(田中)。小春は、出会ってまもない大悟と結婚するが……? シンデレラストーリーの“その先”をセンセーショナルに描いた、禁断のおとぎ話サスペンス。
(c)2021 『哀愁しんでれら』製作委員会