人気ヤクザマンガ『ドンケツ』とまさかのBLスピンオフ『ビリケツ』!――男が惚れる主人公ロケマサの魅力とは?

マンガ

公開日:2021/2/19

※この記事は『ダ・ヴィンチ』3月号「男と男のマンガの話」特集に掲載の記事から転載しています。

 荒くれ者たちの衝突を描くヤクザマンガ『ドンケツ』。本作はシリーズ化され、ついにはその『ビリケツ』も生まれた。男性読者は、どうしてヤクザモノに惹かれてしまうのか。シリーズの主人公であるロケマサに注目し、その魅力に迫りたい。

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ロケマサという画期的なキャラクター

『ドンケツ』
付き合う相手に分け隔てないのもロケマサの魅力。天気の良い日は外で近所のおじさんとビールを飲む。

 マンガ好きな男性読者から一定の支持を集めるのが、“ヤクザモノ”だ。そこで描かれる暴力と血にまみれた世界観は、強さに憧れる男たちを刺激する。そんな人気ジャンルに、ある突き抜けた主人公がいることをご存知だろうか。それが『ドンケツ』のロケマサだ。

 ヤクザモノのなかでも絶大な人気を誇る「ドンケツ」シリーズ。2011年に連載がスタートした『ドンケツ』は28巻で完結したが、『ドンケツ第2章』と続き、現在では『ドンケツ外伝』が連載されている。同一の世界観で長きにわたるシリーズ化。それは熱狂的な読者の存在を意味するものだろう。

 では、なぜ本シリーズはこんなにも人気を集めているのか。その最大の魅力は主人公であるロケマサが規格外過ぎること。敵対する事務所にロケットランチャーを打ち込んだことで“ロケマサ”と呼ばれるようになったこの男は、破天荒・傍若無人・ワガママが服を着て歩いているような人物。同じヤクザたちもロケマサの顔を見れば震え上がり、及び腰になってしまう。誰も彼には逆らえないのだ。

 しかもロケマサは、とにかくトラブルが大好き。なにかといえば大暴れする理由を探している。その生き方は、およそ「マンガの主人公」とは思えないほど。

『ドンケツ』
組織の論理を超えて暴れまくるロケマサと、彼と同類のチャカシン。数々の男が彼らに挑むが、その強さをねじ伏せることはできない。

人物紹介

『ドンケツ』ロケマサ
ロケマサ
「ロケマサ」という呼称で知られる、伝説的なヤクザ。傍若無人な振る舞いながら、他を圧倒する唯一無二の存在。

『ドンケツ』ロケマサ
チャカシン
ロケマサと同じ「孤月組」の組員だが、同時に彼の好敵手的な存在。名前の通り頭に血がのぼると所かまわず銃をぶっ放す。

 ただし、ロケマサは非常に真っ直ぐな男だ。相手の地位や立場を気にせず、高校生や浮浪者(と思しき男たち)と駄弁ったり遊んだりするし、ときにはチンピラを救うためにヤクザの事務所に乗り込んだりもする。もちろん、言うことを聞かない奴は力でねじ伏せてしまう。とにかく強く、自分の生きたいように生きる。なににもとらわれないロケマサは、いつだって自由だ。そんな生き様が、多くの男性の心に響くのかもしれない。

 そんなアウトローな男たちを描く「ドンケツ」シリーズに、スピンオフ作品『ビリケツ』も登場。同作はヤクザとして成り上がろうとするサブと、彼を見守るアニキの姿を描くマンガ。しかし、いわゆるヤクザモノとは少々異なる。どうやらサブは、アニキに恋愛感情のようなものを抱いているよう。「2人でよう 出世してェよなァ」「おまえのためなら 命捨てるぜ」。アニキが何気なく呟く言葉の一つひとつは、サブの心をかき乱していく。そう、『ビリケツ』は、ヤクザの世界に生きる男たちにBLのフィルターをかけて描いていくのである。今回、シリーズの生みの親であるたーしさんにこの両作についてインタビューを敢行した!

[インタビュー]たーし

「ドンケツ」シリーズの生みの親が、たーしさんだ。その原点は一体どこにあるのか。そしてBL要素もふんだんに詰め込まれた『ビリケツ』は、たーしさん“黙認”と謳われているが……?率直な気持ちを伺った。

──まずは『ドンケツ』を描いたきっかけを教えてください。

 新作についていろいろと考えすぎて疲れていたとき、単発でコメディタッチのサクセスストーリーではないヤクザマンガを描いてみたくなったのがきっかけです。描いてみたら楽しくなってしまって、結局、10年も続けさせていただいていますね。

──主人公のロケマサは傍若無人な乱暴者です。そんな主人公を描くうえで気をつけていることはありますか?

 いわゆる主人公っぽくならないように意識しています。嫌われ者ばかりの『ドンケツ』の社会で、特に嫌われるようにもしていますね。ぼく自身、「こんな人、嫌だなぁ」と思いながら描いているんです。

──確かに、ロケマサには関わりたくない、と思ってしまいますね(笑)。それでも、彼の生き様を追いかけていると「カッコいい」と思ってしまう瞬間があります。そんな男性読者は少なくないと思いますが、男はなぜ、ロケマサのような破天荒な人物に惹かれてしまうのでしょうか。

 男女問わず、人は圧倒的なものに面白みを感じるんだと思うんです。わたしたちは社会生活を円滑に送らなければいけないと思いがちなので、常識や理性などで自分の本質をコントロールしようとします。だからこそ、そこをくすぐるような破天荒なものと出会うと心が高揚するのではないかな、と。ぼくも自分の想像を超えてくる人には惹かれてしまうところがあります。

──たーしさんが描くヤクザの世界は非常にリアリティがありますが、実際に取材などもされているんですか?

 いえ、取材を元に、誰かの実体験を描いたということは一度もないんです。ただ、ディテールにはこだわりたいので、“観察”のようなことはしていました。

──「ドンケツ」シリーズのスピンオフとなる『ビリケツ』は、「たーし黙認スピンオフ」を謳われていますが、最初に読んだときはどんな感想を持たれましたか?

『ビリケツ』
何気なく“キラーワード”を言い放つアニキ。彼の一挙手一投足に、純情なサブの胸中には嵐が吹き荒れていく。

人物紹介

『ビリケツ』サブ
サブ
本作の主人公。「風月組」組員で、末端の構成員。“強い男”に対してドキドキしてしまい、それが恋愛感情なのかと思い悩む。

『ビリケツ』アニキ
アニキ
サブの兄貴分。敵対する者には冷酷な顔を見せるものの、サブに対しては非常にやさしく、常に気遣っている。

 あくまでも“黙認”というスタンスで制作してもらっているので、わたしが読んだかどうかのコメントも控えておきたいと思います。設定を守るって大切なことでしょ?(笑)

──なるほど。では、たーしさんが構築されたシリアスな世界観がコメディタッチに描かれていくことや、アウトローな男たちの関係がBLテイストで描かれていることについても……。

 ノーコメントでお願いします。

──わかりました! では最後に、アウトローな世界に馴染みがない、あるいは少し苦手意識を持っている読者に対してメッセージをお願いします。

 ぼくにも苦手なジャンルがあります。たとえば、少女マンガ。でも、あるときまったく興味がなかった少女マンガを手に取ってみたら、とても面白くてどっぷりハマってしまったんです。ちなみにそれは『花より男子』でした。それ以来、少女マンガも読むようになりました。そんなふうに、「ドンケツ」シリーズが誰かの“新発見”になったらうれしいですね。ただ、読むうえで、なにか特別なことを感じる必要はありません。アウトローの世界って、ある意味、ファンタジーだと思うんです。犯罪や暴力、人殺しまでもアリとされてしまうし、強引な展開も許される。いきなり100億円稼いだって通用するんです。そんな特殊な世界を描いた、痛快娯楽として楽しんでもらいたいと思いながら描いています。メッセージ性や精神論なんて存在しませんし、息抜きするためのただの娯楽として読んでもらえると最高ですね。

たーし
福岡県生まれ。地元、北九州を舞台にしたマンガを手掛ける。アウトローな世界を舞台に、男たちの生き様を描く作風が特徴。代表作に『アーサーGARAGE』『ドンケツ』『ドンケツ第2章』『ドンケツ外伝』など。『ビリケツ』は「あくまでも黙認作品」とのこと。

取材・文:五十嵐 大
(c)たーし/株式会社 少年画報社 (c)染春&たーし/株式会社 少年画報社

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