北川景子×芳根京子「お互い、あんなに泣くとは思わなかった」映画『ファーストラヴ』公開直前! 父親殺し事件の真相を追う公認心理師と容疑者のふたり…

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公開日:2021/2/8

映画『ファーストラヴ』北川景子さん、芳根京子さん

 島本理生さんの直木賞受賞作『ファーストラヴ』が堤幸彦監督の手で実写化! 父親殺しの事件の真相を追う主人公の公認心理師・真壁由紀を演じた北川景子さんと、容疑者の女子大生・聖山環菜を演じた芳根京子さんにお話をうかがいました。

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北川 芳根ちゃんとの共演は、2015年のドラマ『探偵の探偵』以来。あのときはまだ高校生?

芳根 18歳でした。北川さんの妹役で、わりとすぐに殺されて。

北川 そうそう(笑)。だから共演シーンは少なかったんだけど、まっすぐ演技に向き合ってる姿が印象的だった。役者歴2年とは思えないくらい体当たりの演技で、感性のオバケだなと思った。

芳根 あはは!

北川 私はどちらかというと、理想のお芝居を頭で考えるんですよ。考えすぎてうまくいかないこともあるし、思い描いたものに追いつけなくて悔しくなったりする。でも芳根ちゃんは現場での対応もすごく柔軟で、監督から指示されればすぐに軌道修正するし、まるごとの感性でぶつかっていく。本当にすごいな、と思った。

芳根 嬉しいです。実は、北川さんは私のことを覚えていないと思っていて。お会いしたら「以前共演したことがあるんです」ってご挨拶するつもりだったんです。

北川 妹を忘れるわけないよ(笑)。むしろ今回、オファーを受けたとき、環菜役は芳根ちゃんだと聞いてすごく楽しみにしてた。「8割確定しているんですが、あとはスケジュール次第で」と言われたときは「なんとか10割にして」って頼みこんだくらい。

芳根 本当に嬉しい……。

北川 主人公は私の演じた由紀だけど、台本を読めば環菜さんが軸となって物語が進んでいくのは明らか。環菜さんがどれだけ自由に爆発してくれるかが作品にとっていちばんの肝だから、難しい役どころだけど、芳根ちゃんなら絶対に演じきるだろうと不思議な安心感があった。だから、役が確定した時点で、絶対にいい作品になると思っていました。

由紀と環菜の関係に自分たちを重ね合わせた

──アナウンサー試験の帰りに父親を刺殺し「動機はそちらで見つけてください」と取り調べで言ったことで注目を集める女子大生・聖山環菜。事件を取材するため、面会を重ねるのが公認心理師の真壁由紀です。けれど環菜の証言は二転三転し、真実はいくら追っても見えてこない……。

北川 由紀は、はたから見ると完璧ですよね。仕事ができて、テレビやラジオにも出演し、夫は優しくて理解がある。原作では子供もいますし、誰もが羨む理想的な女性。でも内側には、夫にも打ち明けられない傷を抱えていて、どうにか折り合いをつけながら懸命に平静を装って生きている。その、一人で戦ってきた孤独を、境遇は違うけれど、誰からも手を差し伸べられることなく苦しみを抱えて生きてきた環菜さんに重ね合わせてしまい、どんどん肩入れしていったのだろうと思います。

芳根 私……というか環菜は、最初、真壁先生のことが怖かったんですよ。この人なら自分を救い出してくれるんじゃないかという希望の光に見えて、すがりたいという気持ちはあったけれど、誰かに愛された記憶も信頼した経験もないから、どうすればいいのかわからなかった。……実は私も、撮影現場で北川さんに似たような思いを抱いたんです。

北川 私に?

芳根 仕事のこととか、これからの人生のことを考えて悩んでいた時期だったんですが、あんまり人には言えなくて。でも北川さんが唯一見抜いて「大丈夫?」って声をかけてくださった。びっくりしました。それが私にはシンプルに嬉しかったけど、環菜はきっと怖くなっちゃったんだろうな、と。その対比をおもしろがりながら、環菜と自分をリンクさせて演じていたような気もします。

北川 一生懸命な芳根ちゃんを見ていると、私も若いころにこういうことで悩んだよなとか、勝手に共感してしまう部分があって。かわいくてたまらないし、おこがましいけど、守ってあげたいと思ってしまう。同じように由紀も、環菜さんを放っておけなかったんじゃないかなと思います。そういう意味では私も、由紀と自分をリンクさせていたのかも。

何度演じてもきっと、あの涙はこぼれてしまう

──どこか虚ろで狂気を秘めたような環菜と、彼女に飲み込まれ平静さを失っていく由紀の対峙シーンは、圧巻でした。

北川 私は、最初はわりと抑えめの演技をしていたんです。というのも由紀は公認心理師という立場上、自分のトラウマは決して表に出さず、常にニュートラルであることを心がけている。実際、公認心理師の方にお会いする機会をつくっていただいたんですよ。やっぱり、職業に対する印象に間違いがあってはいけないと思ったので。取材というより、ふだんの私が本当に悩んでいることを、患者さんに接するのと同じように聞いてもらったんですけど、そのときの目線、たたずまいや声色というのは参考にさせてもらいました。だけど……お互い、あんなに泣くとは思わなかったね。

芳根 思わなかったですねえ。

──後半の面会シーンですね。環菜が“嘘”をついてまで守りたかったものについて、由紀が問いかける場面。それは、由紀自身が自分のトラウマに向きあったからこそ出た言葉でもありました。

北川 共鳴というかシンクロというか、私も環菜さんもお互いのために涙を流しているような感覚になったのが不思議でした。

芳根 私も、自分があんなふうになるとは思わなかったです。でもカメラテストのとき、目の前には真壁先生がいて、あの言葉が発せられるのを聞いたとき、想像もしない角度から感情が溢れだしてきて……。本番で同じ演技をできる自信がなくて、監督にもそう言ったんです。でも「もうカット割り消しちゃったから、やって」「やってくんないと困る」って。「私も困る!」って思いました(笑)。

北川 監督も「今の撮っときゃよかった」って言ってたね。でも、ものすごく細かくカット割りをしていたのに、テスト演技を観たとたん全部やめちゃった。あれは潔かったなあと思う。

芳根 監督に言われたことをやるのが私の使命なので、なんとか頑張ってみることにしたんですけど……けっきょく、私が頑張る頑張らないの問題じゃないんだ、ってわかりました。北川さんの演じる真壁先生を前にすると、自然とああなってしまうんですよ。演技って、くりかえすうちにリアルさが薄れてしまうものだと思うんですけど、もしかしたらあの場面は、何度やっても同じようになってしまうのかもしれません。それくらい、頭じゃなくて心で演じていたような気がする。

北川 やっぱり感受性の人なんですよ。でも、すっごく緊張してたのは見ていてわかった。映像をチェックしたとき、ドン、ドン、って変な音がしたんだよね。

芳根 そう! 私の心臓の音をマイクが拾っちゃってたんですよね。でも、それほど緊張していたにもかかわらず、あんなふうに作品に入り込むことができたのは、北川さんがいてくださったからだと思います。本当に、この作品でご一緒できてよかった。

生きる力のほとんどを現場で出しきっていた

北川 私も、とくに打ち合わせもしていないのに、ああいうお芝居ができたのは、相手が芳根ちゃんだったから。もともとね、芳根ちゃんがどんな角度で来てもただ受けとめよう、受けとめられるように準備しておこうと思っていたんです。さっきも言ったように、作品の軸は環菜さんで、彼女がどれほど自由に爆発できるかに作品のよしあしはかかっていると感じていたから。信じていたとおり、芳根ちゃんは本当にすごかった。どうやったらそんなふうにできるのか教えてほしいっていつも思っていたし、正直、また一緒にやるのは、ちょっといや(笑)。

芳根 えー!(笑)

北川 だってどんな作品でも絶対すごいに決まってるもん。現場に入ったとたん、まわりの空気を全部惹きつけてしまうというか、その求心力はたぶん誰もが肌で感じること。環菜さんとリンクする部分があるとはいえ、ふだんは全然ちがうタイプの子なのに、ひとたび役に入ると環菜さんにしか見えなくなる。この先どんな女優さんになるんだろうって楽しみでしかたない……けど一緒にやるのは……(笑)。

芳根 私はもっとご一緒したいです! ただ、次はコメディがいいなあ。もっと楽しい掛け合いがしてみたい。

北川 『探偵の探偵』もヘビーだったし、今回もずっと内に籠もっているような雰囲気だったもんね。撮影中は意識していなかったけど、当時インタビューされた映像とか見ると、めちゃくちゃ暗いんですよ。役に染まってた、とまではいわないけれど、心の内側にぐっと力をこめて、痛みに耐えながら自分を抑えながら生きていた由紀の感覚が、私にも移っていたのかもしれない。

芳根 わかります。環菜はいきなり感情を暴発させるタイプだったから、私生活ではその反動でめちゃくちゃ暗い人になっていました。日々を生きる力の99%を撮影で使っていて、ギリギリ人間を保てるくらい1%しかもう残っていない、みたいな。

北川 本当にすべてを出しきって、ぐったりしてしまう現場だったよね。監督は細かなところまで話しあって確認もさせてくれて、撮影も基本的に脚本の順番どおりに進んでいくから、すごくやりやすかったんだけど、クランクアップしたときの解放感ときたら。そんなに泣くほうじゃないんだけど、自然と涙がこぼれていた。自覚がなかっただけで、相当しんどかったんだろうな……。

芳根 私も、自分にできることは全部やりきったなあと思います。もちろん観返せば「もっとああすれば……」というところも出てくるかもしれないけれど、それは素直に実力不足だって認められる。でも、完成するまでに1年くらいかかったせいか、だいぶ客観的に観られました。私はいつも、自分が演じる役のいちばんの味方でいたいと思っているんですけど、誰にも関心をもたれず、孤独な人生を歩み続けてきた彼女が最後に見せた表情に、自分で演じたのにほっとしてしまって。クライマックスの法廷のシーンで真壁先生をはじめとするみんなが環菜を守ろうとしてくれている姿にも、胸がいっぱいになりました。

北川 ラストは本当によかったよね。台本を読んだときは前向きに爽やかに終わるシーンだと思っていたけど、私もなんだか胸が詰まってしまって。Uruさんの曲が絶妙なタイミングで流れるから、場面に泣かされているのか歌詞に泣かされているのかはわからないんだけど。拘置所の環菜さんが、変な体操をまじめな顔でやっていたのも、泣いてしまった。ああよかった、やっと終わったんだ、って。

芳根 あれは監督に「変なストレッチしといて」って言われたんですよ(笑)。どうすればいいかわからなくて、もしかしたらいちばん緊張したシーンかもしれない。

北川 ときどきそういう雑なフリをするんだよね、監督。

芳根 だけど完成してみると、現場では手探りであまりピンときてなかったことも全部ちゃんと腑におちる形になっていて、やっぱりすごいなあと思います。

中村倫也さん演じる迦葉は最後まで理解できない男

北川 すごいといえば、環菜の母親を演じてくださった木村佳乃さん。娘が明らかに自傷しているのに「鶏でしょ?」って、ひどいこと言うなあとびっくりした。法廷では検察側にまわって娘を糾弾する側に立つし、「傷が増えてるか減っているかなんてわかりませんでした!」ってセリフも迫力があったなあ。

芳根 そりゃ環菜もこうなるわ、っていう説得力がありますよね。あまりに凄まじかったから、私も全力で感情をぶつけて大丈夫なんだって思えました。めちゃくちゃ怖かったけど……(笑)。

北川 娘を守ることより自分が夫に愛されることのほうが大事、っていう彼女の心理は理解できないけれど、現実に存在するから虐待事件もなくならない。彼女もまた傷を抱えていて、負のループに陥ってしまったのかもしれないと思うと、やりきれない部分はありますね。そして理解できないといえば、迦葉。

──中村倫也さんが演じた由紀の義弟で、環菜の弁護士。大学時代、由紀にトラウマを植えつけた一人でもありますね。

北川 トラウマにならないほうがおかしいですよ。彼も生育環境が複雑で孤独だから……って分析することはできますけど、私個人としては最後まで「なんなの、この人」って思ってました。かなり失礼な人だし、何を考えているかわからなさすぎて。

芳根 たしかに!

北川 由紀は夫に出会って救われて、本当によかったというのが正直な気持ち。ただ、家族やたまたま出会った異性に理不尽に傷つけられてしまうことは誰しもあると思いますし、この作品で描かれている性的なことでなくても、消化しきれない傷を大なり小なり抱えながら、きっとみんな生きている。境遇は違うけれど、私は由紀にも環菜にも深く共感したし、だからこそ、とくに原作を読んでいる間はずっと胃をつかまれているようで苦しかった。それでもその苦しみの先には希望があると信じられる作品だから、観た人の心も一緒に救われてくれるんじゃないでしょうか。

芳根 法廷のシーンで、逃げ出したい、叫びたい気持ちになりながらも環菜が踏ん張ることができたのは、それまで真壁先生と積み重ねてきた時間と、見守っていてくれる安心感があったから。あそこで環菜が見せた強さが、観る人の希望になってくれたらいいなと思います。

映画『ファーストラヴ』

北川景子
きたがわ・けいこ●1986年、兵庫県生まれ。2003年、ドラマ『美少女戦士セーラームーン』で女優デビュー。代表作にドラマ『家売るオンナ』『謎解きはディナーのあとで』、映画『スマホを落としただけなのに』『約束のネバーランド』など多数。本作の役作りで、トレードマークのロングヘアをばっさり切ったことで話題に。
芳根京子
よしね・きょうこ●1997年、東京都生まれ。2013年、『ラスト♡シンデレラ』で女優デビュー。15年、1000人以上のオーディションの中から選ばれたドラマ『表参道高校合唱部!』や、翌年のNHK朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』の主演抜擢で注目を集める。21年6月公開の映画『峠 最後のサムライ』に出演予定。

取材・文:立花もも 写真:山口宏之

映画『ファーストラヴ』

映画『ファーストラヴ』
出演:北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、板尾創路、石田法嗣、清原 翔、高岡早紀、木村佳乃
監督:堤 幸彦 原作:島本理生『ファーストラヴ』(文春文庫刊) 配給:KADOKAWA
アナウンサー試験の面接帰り、父親を刺殺した女子大生・聖山環菜。取材のため面会した公認心理師の真壁由紀に、環菜は笑って告げる。「嘘つきなんですよ、私」。二転三転する供述と、食い違う周囲との証言。果たして事件の真相とは。2021年2月11日(木・祝)全国公開

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