アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑦(星井美希編):長谷川明子インタビュー

アニメ

公開日:2021/2/10

『アイドルマスター』のアーケードゲームがスタートしたのが、2005年7月26日。以来、765プロダクション(以下765プロ)の物語から始まった『アイドルマスター』は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『アイドルマスター ミリオンライブ!』など複数のブランドに広がりながら、数多くの「プロデューサー」(=ファン)と出会い、彼らのさまざまな想いを乗せて成長を続け、2020年7月に15周年を迎えた。今回は、765プロのアイドルたちをタイトルに掲げた『MASTER ARTIST 4』シリーズの発売を機に、『アイドルマスター』の15年の歩みを振り返り、未来への期待がさらに高まるような特集をお届けしたいと考え、765プロのアイドルを演じるキャスト12人全員に、ロング・インタビューをさせてもらった。彼女たちの言葉から、『アイドルマスター』の「今までとこれから」を感じてほしい。

 第7弾は、星井美希役の長谷川明子に話を聞いた。ビジュアル・ボーカル・ダンスと、アイドルとしてのきらめく才能を備えた美希を演じながら感じてきたこと、「ひとりの女の子」としての美希への願いについて、愛情たっぷりに語ってくれた。

星井美希
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

ライブが始まるときや、次が出番だよ、というタイミングで、絶対にあくびが出るんです(笑)

――2020年の7月に『アイドルマスター』のゲームが稼働してまる15年を迎えました。長くプロジェクトに関わってきたおひとりとして、15周年についてどのように感じていますか。

advertisement

長谷川:正直に、すごいなあと思いました(笑)。プロデューサーの皆さんが作品とアイドルや関わるキャラクターをとても深く愛してくださって、その愛があるからこそ、こんなに長く続いて、今もいろんな仲間が増えていて。それはやっぱりプロデューサーさんのおかげだし、愛がすごいなあって思います。

――長谷川さんが『アイドルマスター』に参加したのは2007年からですが、プロジェクトの中に入ってみて、どんな印象を抱きましたか。

長谷川:オーディションのお話をいただくまでは『アイドルマスター』のことをあまりよく知らなかったんです。ゲームセンターにあるらしい、と聞いて見に行ったんですけど、筐体にプロデューサーさんが座って一生懸命プレイされていて。そのときに、「たくさんの人がアイドルをプロデュースしてるんだあ」って、まず感動して。当時、ゲームセンターにプロデューサーノートというノートが置いてあって、作品やアイドルについていろいろ書いてあったんです。第一印象は、「いろんな人と一緒に楽しむゲームなんだな」ということでした。ただ画面に向かって黙々と何かしているというよりは、プロデューサーさん同士もつながるし、アイドルともつながるし、みんなで楽しむゲームなんだなあって。そうやってみんなで作ってきた作品に美希も入れていただけるんだな、嬉しいな、と思いました。

――長谷川さんが担当されてきた星井美希と出会ったときに感じたことを教えてください。

長谷川:オーディションのときはまだビジュアルがなくて、セリフも今とはだいぶ違う感じのセリフだったんですけど、自分なりに「きっとこういう感じの子なんだ」と思って一生懸命やって、受かることができました。その後で受かった理由を伺ったら、「声に生意気さがあって、そこがいい」と思っていただいたみたいです(笑)。その生意気さみたいな部分も美希の魅力なのかな、と思いました。収録が始まって、台本を読んでいくと、かなり世間知らずで、素直すぎることがわかって(笑)。いい意味で、とても正直な子だけど、甘やかされて育っていたので、ちょっとマイペースなところがあって。しばらくしてから絵も見せていただいたんですけど、金髪で、ナイスバディで、とにかくかわいくて。そのときに「ああ、この子のことが好きだな」って思いました。

――ライブやお芝居を続けていく中で、美希のどんな一面を発見していきましたか。

長谷川:一番に感じるのは、一途だなあっていうことですね。最初に美希が登場したXbox360版『アイドルマスター』のストーリーの中で、彼女はものすごく成長するんですけど、世間知らずで失礼なこともしちゃったり、ちょっとまわりがビックリするようなことを言っちゃったりしていて。そこから、プロデューサーとコミュニケーションを取っていくうちに信頼関係が生まれて、やる気も出て、アイドルとしての想いが芽生えていって。何よりプロデューサーのことが大好きになっていくんですけど、「本当に一途なんだなあ」って、今でも感じています。こんなに人を信頼して、これだけまっすぐに「好きです」と言えるところが、美希のすごさだなって思います。

――アイドルが関わるプロジェクトって、頑張って夢をつかもうとする人物が描かれることが多いと思うし、実際に美希もそうだと思うんですけど、彼女の場合は持って生まれたスター性みたいなものがあるなあ、と感じます。

長谷川:その通りだと思います。顔もかわいいし、スタイル抜群だし。キラキラしていて。アイドルとしての才能の塊だなって思います。

――美希が最初から天才肌だったとすると、演じる立場で彼女に追いついていくのはけっこう大変だったんじゃないかな、と想像するんですけども。

長谷川:そうなんです、特にライブではもうほんとに(笑)。自分では長谷川が長谷川のままやって「長谷川です」ってやってるんですけど、「美希に見えました」「美希を感じました」ってお手紙をたくさんいただいて。今でもどういうところに美希を感じてるもらえているのか、すべてわかってるわけではないし、自分にとっての課題ですけど。喜んでいただける方がいることがわかったのは、とても励みになりました。

――十数年の間、美希を感じてもらえるように努力をしてきた中で、長谷川さんが大事にしてることはなんですか。

長谷川:最初は、慎重さがどうしても先に立ってしまいました。歌をちゃんと歌わないと、振りを間違えないようにしないといけないと思っていて。ライブをすることにいっぱいいっぱいで、正直「美希としてこう表現しよう」というレベルには最初は行けなかったです。不思議なのは、ライブが始まるときや、次が出番だよ、というタイミングで、絶対にあくびが出るんです(笑)。ほんとに「あふぅ」っていうあくびがよく出るんですね。「これはきっと、『美希が一緒にいるから、なんとかなるの』って言ってくれてるのかな」と勝手に思うようにしていて(笑)。「じゃあ、なんとかなるか!」と思いながら、美希が背中を押してくれてるような気がするので、なんとかやってこられました。

――確かにそれって、美希と一緒になっている象徴ですよね。普通、あくびが出ないタイミングなんでしょうし。

長谷川:そうですね。常に出るわけではなくて、ライブ開始の直前と、「本当に今大事だぞ、正念場だぞ」っていうときに出ます(笑)。そういうときは、「美希、ありがとう」って思います。

――美希は961プロダクションに移籍するストーリーもありましたが、そのときのエピソードを聞かせてもらえますか。

長谷川:個人的には、ちょっとだけ複雑で(笑)。美希は初めての追加アイドルで、「これから仲間に入れていただいてもいいですか?」という感じで入っていって、「仲間だね」って言ってもらえたように感じていたときに移籍しちゃったので。それがまず、自分の中でショックでした(笑)。そのときのゲームのシナリオがまた切なくて、美希がライバルになっていたので、プロデュースもできなかったんですよね。シナリオの中で、寝言で「765プロに帰りたいなあ」みたいなセリフがあったんですけど、心を込めすぎたみたいで、当時のディレクターさんに「やりすぎ!」って言われました(笑)。でも、961プロダクションに移籍したときの“オーバーマスター”は人気がある曲で。『初星宴舞』で久しぶりに原(由実)さん、沼倉(愛美)さんと3人で歌わせてもらったときもすごく盛り上がっていただいて。いろいろあったけど、それがあったから原さんや沼倉さんと会えたし、美希にとっても新しい一面として、カッコいい曲を歌わせていただけるようになったきっかけだと思うので、あの頃あってよかったな、と今では思います。ただ、当時はめちゃめちゃ寂しかったです(笑)。今、「765プロの美希です」って言えることが、とてもありがたいですね。

――ライブで、アイドルとしてステージに立つことの楽しさ、喜びはどういうところに感じますか?

長谷川:私はほんとに、すぐ人の後ろに立ちたがるんです(笑)。あまり前に行けなくて、ライブで決まっている立ち位置があっても、なぜかちょっと後ろに立ってしまったり。「うわ~~、楽しい~!」という気持ちだけでいけたらいいんですけど、今でもどこか慎重になりすぎたり、不安があったりします。それでも、観に来てくださった方が喜んでくれているのがわかる瞬間は、すごく嬉しいです。みんなが喜んでいる歓声を聞くのが、一番嬉しいですね。「みんなが喜んでくれる、なんて幸せなんだあ」って。

――長谷川さんの中で、ライブが楽しめるようになったのはいつ頃ですか?

長谷川:いつ頃だろう? 全然最近だと思います(笑)。たぶん、これからも緊張はすると思うんですけど。「ライブの正解ってなんだろう」と考えたときに、歌詞を1回も間違わずに、立ち位置や振りも完璧にやることが正解なのかというと、そうではないんだなってわかったタイミングがあって。何のためにライブをやるかといったら、来てくださった方に楽しんでもらうためだから、完璧なものを見せることもエンターテイメントだけど、こちら側が楽しんでるところを観て楽しんでもらうのも、エンターテイメントだなって思って。「とにかく楽しんでもらえることが大事なんだ」と思うようになりました。

――思考が切り替わったんですね。

長谷川:はい。歌だけじゃなくてトークでも、いただいているチケット代や時間以上のものを、何倍にもして返したいという思いでからこそ、プロデューサーさんたちも一緒に楽しんでついてきてくれたんだなって、先輩方の背中を見て実感して。「エンターテイメントってこういうことなんだな」って考えました。

――アイドルを演じる他のキャストの方からかけられた言葉の中で、何が印象に残っていますか。

長谷川:もう、数え切れないですね。私がライブで歌詞と振りが飛んでしまって、間違えてしまったときがあったんですけど、それが初めての大きなミスで、ショックすぎて涙が止まらなくなってしまって……。舞台袖で、「どうしよう。なんてことをしてしまったんだろう。楽しんでもらえなかったかも」と思ったら涙が止まらなくなってしまったんですが、そのとき近くにいた仁後真耶子さんと中村繪里子さんが、「大丈夫だから」「とにかく涙を拭いて歌おう」「次の曲を頑張ろう」って言ってくださって、背中を押していただいたんです。自分の中で少しパニックになってしまったんですけど、「まだライブは続いているから、今は反省するときじゃないんだよ。残りのライブを一生懸命頑張ろう」と言っていただいて、なんとか頑張ることができました。

――レッスンの場ではいかがですか。

長谷川:レッスンで、同じ振り付けでダンスをしていてもそれぞれに個性があって、面白いなあ、と思うと同時に、アイドルに重なって見えることがあるんですね。プロデューサーの皆さんも、こういうところを感じて楽しんでいらっしゃるんだなって感じます。若林(直美)さんはレッスンの段階からすごく元気いっぱいに楽しく踊っていらっしゃるので、元気をもらっています。ダンスレッスンで直美さんと一緒のときは、私もつられて元気が出るし、まわりの方々からいっぱい勉強させていただいているし、とても尊敬しています。

星井美希
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『アイドルマスター』は、人生を豊かにしてくれるもの

――『アイドルマスター』は大きなステージでのライブをたくさん開催してきましたが、長谷川さん自身が特に思い出に残っているライブは何ですか。

長谷川:10周年のメットライフドームには私は出ていないんですけど、さいたまスーパーアリーナ公演と、『バンナムフェス』では東京ドームでライブをしたり、大きなステージにたくさん立たせていただいて、印象深いです。でもやっぱり、最初に歌った『ゲームショウ』のナムコブースは印象的でした。初めて人前で歌うことになって、胃が痛くて立てない状態を初めて体験しました(笑)。そのときのことは、どうしても忘れられないですね。緊張したし、いっぱいいっぱいだったけど、同時にそのとき一緒に出演されていた中村さんと今井(麻美)さんの素晴らしさを感じました。

――では、長谷川さんが個人的に好きな楽曲、についてはいかがですか。

長谷川:う~~ん、どれも好きではあるのですが、全員曲だと間違いなく“M@STERPIECE”が一番です。ちょっと落ち込んだときに元気をもらえるし、初心を思い出せる曲です。765プロのみんなの声が聞こえると、とにかく安心します。曲も歌詞も好きだし、ライブの前は“M@STERPIECE”をいっぱい聴いて、準備をしています。劇場版の最後に、ライブでみんなと一緒に歌うシーンがあって、そこがすごく好きなんです。美希も765プロの一員なんだって感じられるのが嬉しいです。

――今回新たにレコーディングした『MASTER ARTIST 4』では、美希のどんな一面を見せられたと感じていますか。

長谷川:今回特に強く感じたのは、アイドルとしてではなくひとりの女の子としての美希の気持ち、15歳の女の子としての本音の部分でした。その部分が、より強く表現されたCDになったんじゃないかと思います。

――新曲の“アプデ”はとてもポップで弾けた曲ですけど、収録してみてどんな印象がありましたか。

長谷川:もう、かわいいし楽しいし――――あとは正直な話、歌詞の中で失恋してなくてよかったなって(笑)。美希って、見た目が派手だったり大人っぽかったりで、高校生くらいに見られたりするんですけど、実はまだ中学生なんですよね。中学3年生で、まだちょっと幼い部分もありつつ、全部が全部子どもというわけでもなくて。女性と女の子の間というか、大人っぽい面を見せるときもあれば、ちょっと幼い面も見せたりするところが、美希の魅力だと思います。今回は、歳相応にかわいらしく恋しているウキウキ感を表現できる曲だな、と思いました。

――カバー曲の収録はいかがでしたか。

長谷川:“イジワルしないで 抱きしめてよ”は、まさに15歳の美希の情熱と純真な心がテーマかな、と思いました。カッコいい曲を歌ってるときの大人っぽい一面と、女の子としての正直な気持ち――――「もっと好きな人と触れ合いたい」という気持ちも表現できるな、と思いながら歌わせていただきました。その部分を、ぜひ聴いていただきたいです。

――もうひとつのカバー曲である“部屋とYシャツと私”はものすごく有名な曲ですけども、これを15歳の子が歌うと想像すると、なかなかインパクトがありますよね。

長谷川:そうですね。美希って、ゲームでもアニメでも、花嫁衣装を着させていただくことが多いんです。今回のカバー曲は、プロデューサーと結ばれたと考えてもいいし、もしかしたら他の誰かなのか、アイドルを卒業して誰かと結ばれて、その結婚前夜はどんな感じなんだろう、という想いが込められています。アイドルとしてではなく、女性としての結婚前夜に、好きな人にかける言葉はこんな感じなのかな、という、美希のひとりの女の子としての一面を私自身が見たいし、見せていけたらいいなあ、と思いました。

 本当に偶然なんですけど、今回のカバー曲が決まる時期に、美希の初期のシナリオのコンセプトは「どこまでも女の子」がキーワードだった、と聞いたんです。アイドルではあるけど、何をするにもやっぱり女の子の気持ちが一番にある、というか。その話を聞いて、そういう部分も見せていけたら、美希の魅力もより一層伝わるんじゃないかな、と。

――これまで長い時間一緒に歩んできた『アイドルマスター』は、長谷川さんにとってどんな存在であるのかということと、美希に今かけたい言葉を教えていただけますか。

長谷川:『アイドルマスター』には、本当にいろんな経験をさせていただいて、ただ暮らしているだけでは体験できなかったことがたくさんあるので、人生を豊かにしてくれるもの、です(笑)。人とのつながりもそうですし、『アイドルマスター』に受かっていなかったら、きっと感じられなかったことが、たくさんあります。美希にかけたい言葉は、「幸せになって~」ですかね(笑)。もうとにかく、幸せになってほしくて。私、ほんとに美希のことがかわいくてしょうがなくて、大好きなんです(笑)。美希がどんなに「大好き~」ってプロデューサーに言ってもスッとかわされてしまって、それを何年も見てきているので、幸せになってほしい気持ちが強いです。その思いが、今回の『MASTER ARTIST』にものすごく反映されちゃったかも(笑)。とにかく美希が大好きだし、幸せになってほしいです。

――かわされた続けた時間も、だいぶ長くなってますからね(笑)。

長谷川:しょうがないんですけど、Xbox360版以外のシナリオでは全避けされてますからね(笑)。余談ですけど。劇場版の最後で空港にプロデューサーを見送りに行って、「離れても浮気しちゃダメだよ、ハニー」って美希が言ったら、プロデューサーは無言なんです。でも、やよいちゃんが「お手紙くださいね」って言ったら「ああ」って言っていて、そのことを私はいまだに根に持ってます(笑)。美希にはひとりの女の子として幸せになってほしいし、その想いは常に強いですね。


取材・文=清水大輔