アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑨(三浦あずさ編):たかはし智秋インタビュー

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公開日:2021/2/17

『アイドルマスター』のアーケードゲームがスタートしたのが、2005年7月26日。以来、765プロダクション(以下765プロ)の物語から始まった『アイドルマスター』は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『アイドルマスター ミリオンライブ!』など複数のブランドに広がりながら、数多くの「プロデューサー」(=ファン)と出会い、彼らのさまざまな想いを乗せて成長を続け、2020年7月に15周年を迎えた。今回は、765プロのアイドルたちをタイトルに掲げた『MASTER ARTIST 4』シリーズの発売を機に、『アイドルマスター』の15年の歩みを振り返り、未来への期待がさらに高まるような特集をお届けしたいと考え、765プロのアイドルを演じるキャスト12人全員に、ロング・インタビューをさせてもらった。彼女たちの言葉から、『アイドルマスター』の「今までとこれから」を感じてほしい。

 第9弾は、おっとりお姉さんの三浦あずさを演じるたかはし智秋に登場してもらった。「自分の役の引き出しを新しく作ることになった」と語るたかはしは、あずさにどのようにして近づいていったのか。ステージの上で輝くエンターテイナーとしての哲学とともに、あずさと過ごしてきた15年間を語ってもらった。

三浦あずさ
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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私が思う輝きの源とは……ずばり「ドヤ顔」(笑)

――2020年の7月に『アイドルマスター』のゲームが稼働して15年を迎えました。長くこのプロジェクトに関わってきて、15周年についてたかはしさんはどのような感慨を抱いていますか。

たかはし:最初はアーケードのゲームから始まって、そこからいろいろな仲間も増えて、これだけのビッグコンテンツになるとはまったく思っていなかったので、本当にビックリしています。

――たかはしさんが担当している三浦あずさとの関係性についてお話を伺いたいです。彼女と15年向き合ってきて、その過程でどんな一面を発見していきましたか。

たかはし:私が受けたオーディションの内容を思い出すと……得意な歌と得意な台詞を持参してくださいという、一風変わったものでした(笑)。キャラクター表はあっても台詞はまだなかったみたいで。そして、当時はまだキャラクターの数が少なく、あずささんはいませんでした。そしてオーディションを受けてからしばらく音沙汰がなく、「そういえば、あのお話はどうなったのかなぁ」という、半ば忘れかけたタイミングで、「受かりました」とご連絡をいただいて。ウキウキしながら資料を見たら、なんとそこには……想像もしていなかった、しかもキャラクター表にも載っていなかった、ふんわり優しいおっとりお姉さんの三浦あずささんがいたんです。これが、私とあずささんの出会いでした。オーディションの時に持参した台詞は、勝気で活発な女の子役でしたので、なぜあずささんが私になったのか、とても不思議でしたね。お仕事やオーディションでいただく役も、素の私に近いハキハキした役や、キツイ感じのお姉様役などが多く、優しいおっとりお姉さんをまさか自分が演じるなんて、当時は全く想像もつきませんでした。「この役は……本当に私で大丈夫なんでしょうか」と、心配で聞いてしまったぐらいです。なので、あずささんのような、おっとりお姉さんの役柄は、『アイドルマスター』がなければ、私にはまるでご縁がなかったと言っても過言ではありません(笑)。そしてそこからが、もう大変でした。自分の役の引き出しを新しく作ることになるわけですから、それはもう、試練の連続で。自分の中にゆっくりしゃべる、おっとりしゃべるというお芝居の概念がなかったので。アイドルマスター最年長(当時は)で最強のおっとり癒し系アイドル「三浦あずさ」を作り上げるのには……本当に、生みの苦しみを嫌というほど味わいましたね。

――なるほど。

たかはし:不思議なもので、四苦八苦しながらも、三浦あずささんという人を演じさせていただく中で、だんだん彼女への憧れみたいな気持ちが生まれてきたんです。私にはとても思いつかない女性らしい発想や感覚など……まったく違うタイプだけれど、こういう生き方や考え方も素敵だなぁと。そして、私自身に少しでも、あずささんのような、おっとりふわふわ優しいお姉さん的な部分があったならば、きっと違う人生を送っていたかもしれないなぁと、ふと思ったりして。

――自身とかけ離れているからこそ、彼女のよさや好きだなって思う部分は、逆に見つけやすかったりするんじゃないですか。

たかはし:はい。最初は困難だったあずささんのしゃべり方やテンポも、いつの間にかとても心地良くなってきて。あずささんは、当時のアイドルの中で一番年上でしたが、おっとりしていてマイペースなので、逆にしっかりした年下の子たちに引っ張ってもらうところもあったりするんです。でも、のんびりしつつ、大事な場面では、ちゃんと的確な対応ができたり、皆が焦って失敗したり落ち込んだりしてしまった時に、ひとりひとりを優しく見守り、そっと元気付けてあげたり……本当に彼女は、知れば知るほど素敵な女性です。私も見習いたいところがたくさんありますね。って、すみません、すっかり大切なことをお伝えし忘れておりました! まったく違う性質の私とあずささんですが、実は、最大の共通点があるのです!

――というと?(笑)。

たかはし:ズバリ! 方向音痴(笑)。あずささんほどではないですが、私もかなりのものでして、地図アプリを使っても目的地に辿り着けなかったりするので、行き慣れない場所ではいつも困っています。なので、道に迷った時のあずささんの気持ちが痛いほど良く分かるんですよ! あとは……結婚できないこと(笑)。何しろ、運命の人を探してアイドルになって、お嫁に行きたいと長年言い続けていますからね(笑)。私は運命の人を探すために声優になったわけではありませんが、お互いに、そろそろ出会いがあっても良いんじゃないかと思います……って、あ、そうでした、あずささんにはプロデューサーさんがいましたね!!(笑)。

――たかはしさんは『アイドルマスター』の初期からライブでステージに立ってきたわけですが、アイドルを演じたり、アイドルとして歌って踊ることの楽しさや喜びについてお聞きしたいです。

たかはし:う〜ん……私の中でライブは、楽しみや喜びよりも、より良いパフォーマンスを届けるために鍛錬したものを披露する執念の結晶というか(笑)、届けたい皆様のために、もはや脊髄反射かのように動いているというか。楽しさを頭の中で実感するというよりも、「歌って踊る自分とキャラクター」というものを脊髄反射のごとく受け止め、気がついたらもうそこにいる……というような、上手く言えないのですが、そんな感覚ですね。

――では、ライブに出るときに大事にしていることはなんですか。

たかはし:とにかくキラキラしたいです。人前に出るにあたって大事なのは、やっぱり輝き。みんながライブに何を見に来るかというと、ステージで輝いている演者、そしてその人から生まれたアイドル達です。最近、過去のライブ映像が随時配信されているのですが、改めて見直してみても、やはり輝きは大事だなとつくづく思いました。

――輝きを絶やさないためには、何が必要ですか。

たかはし:下田(麻美)ちゃんがインタビューで私のことを話してくれているみたいで、ちょっと恥ずかしいのですが(笑)、私が思う輝きの源とは……ずばり「ドヤ顔」(笑)。幕が上がると、そこにはこのライブを楽しみにしてくれている皆様がいる。緊張だったり、不安だったり、コンディションがイマイチだったり、予期しなかったトラブルだってあるかもしれない。でも何があろうと、今この瞬間、アイマスのアイドルを演じられるのは、世界でただひとり、自分だけなのです。貴重なお時間を割いて来てくださった大切なプロデューサーさん達のためにも、ビシッと、「ドヤ顔」を決め込んでパフォーマンスに集中すること。自分と演じているアイドルを信じて。そして何より、プロデューサーさん達に向けたその真心を信じて。そんな素敵で無敵な「ドヤ顔」を脊髄反射のごとくお届けするには……やはり、生みの苦しみを味わう必要があるのかもしれませんね。

――なるほど、つながってきますね。

たかはし:そうですね。

――見られる自分であることをキープし、パフォーマーとしてちゃんと力を発揮するには、それに裏打ちされた準備も必要である、と。

たかはし:歌やダンスもそうなんですが、何より心の準備が大切ですよね。先ほども言いましたが、自分と演じているアイドルを信じて。ステージの裏では色々なことがあっても、舞台の上、プロデューサーさんが見ている前では、とにかく輝く!

――(笑)たかはしさんが話していることって、ある意味エンターテイナーとしては当然のことかもしれないですけど、それを高いレベルでやり続けるのはものすごく大変なことなんじゃないかと想像します。そもそもたかはしさんがそういう考え方になったことには、どんな背景があるんですか。

たかはし:私は、マリリン・モンローやマドンナのような、セクシー・ディーバに憧れている幼少期を過ごしていました。なので、セクシーポーズを、5歳くらいの頃から研究していて――(笑)。いつも鏡に写る自分を意識しながら、自分がどう見えているのかを分析していましたね。当然、学校では鏡ばかり見てポーズを決めている変わり者ということで……イジメられていました。まぁ、イジメの原因はそれだけじゃないと思いますが。でも全然いいんです。イジメなんかよりも、鏡に写る私の方が大事でしたから(笑)。おそらく、生まれたときからそういう人だったんですね。物心ついた時から、私の「ドヤ顔」人生は始まっていたのかもしれません(笑)。

――それをずっと貫いているのは、本当にすごいことだと思います。

たかはし:たぶん、私はこういうふうにしか生きられないんだと思います。そして、こういう性分を活かせる仕事に就けたことに、心から感謝していますね!

三浦あずさ
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『アイドルマスター』は、私の人生を作る大切な仲間

――これまでたかはしさんは『アイドルマスター』でたくさんの楽曲を歌ってこられたわけですけど、思い入れのある楽曲について聞かせてもらえますか。

たかはし:やはり、“隣に…”ですね。『アイドルマスター』全体で見ても、バラードといえば、必ず名前が挙がる、三浦あずささんのソロ曲です。アイマスをあまり知らなくても、あずささんの歌が好きで聴いてくださっている方もいらっしゃるみたいで、とても嬉しいです。特にこの曲は、今でもたくさんの方に愛されていて、本当にありがたいです。私は、キャラクターのポテンシャルを上げるのも、声優の役目だと思っています。歌唱力、表現力、パフォーマンスなど、自分の持ち合わせているものすべてを使って、演じているキャラクターを輝かせたい。もしキャラクターのポテンシャルを自分が持ち合わせていなければ、持てるように日々精進ですね。三浦あずささんの歌は、私のポテンシャルとキャラクターが、良い塩梅で調合された賜物だと思っています。ふわふわした可愛い曲、しっとりと歌いあげる曲、力強いカッコイイ曲……。私が持ち合わせている歌唱の種類……言わば調味料、といいましょうか(笑)。その調味料を、色々な曲であずささんが表現したい声色や歌い方、感情に合わせて調合していきます。

――今回リリースされる『MASTER ARTIST 4』のレコーディングでも、その調合は実践しているんですか。

たかはし:もちろんです。曲によって、どんなあずささんを表現し、伝えていきたいか、スタッフさんと相談しながらレコーディングに臨みました。この15年で…私が持ち合わせている調味料がとても増えたと思うんです。最初の頃は、調合するといっても塩、砂糖、醤油くらいしかなかったのが、今では、出汁の旨味だったり、ターメリックなどのスパイスも利かせたりして、変幻自在なあずささんをお届けできるようになった気がします。それに、今回の『MASTER ARTIST』は、今までのあずささんのアルバムの中で一番と言っても良いぐらい、明確なストーリーがあると思うんです。曲は順不同ですが――“マジで…!?”と、あずささんがピンチに陥り、もうダメだと思ったら“人生は夢だらけ”。色々あるけれど前を向いて強く自由に人生を楽しもうと立ち直る。でも、そうやって強く自由に生きていけるのも、支えてくださっている無数の“糸”――プロデューサーさんや仲間たちの支えがあるからこそだと。丁寧に、そして大切に紡いだその糸で“VELVET QUIET”、とびきり素敵なベルベットの服を作って纏いましょう。決して焦らず、騒がず、コツコツと。そして“New Me, Continued”……何倍にも輝きが増した、新しいあずささんがそこにいる……みたいな。

――とてもいい解説文になってますね。

たかはし: 今までは、アルバムをひとつのストーリーとして捉えたことがなかったので、とても新鮮です。

――糸からベルベットのくだりで、ちょっとゾクッときました。

たかはし:まるでこのストーリーにするために作られたかのようですよね。でもカバー曲は、リクエストで一番多かった曲と2番目に多かった曲を自動的に選択したので、意図的に選んだわけではないんです。これは、本当に奇跡だなと思いました。

――新曲の“VELVET QUIET”は、たかはしさん自身も「調合で使える調味料が増えた」と言ってましたけど、その象徴のような曲ですよね。タイトルに“QUIET”ってあるから、穏やかな曲なのかと想像していたら、いきなりバキバキな音で始まるから、再生して2秒くらいで度肝抜かれました。

たかはし:新曲は、今まであずささんが歌ったことのないような曲にしようということになって。といっても、アイマスでは色々なジャンルの曲をたくさん歌わせていただいているので、新しいジャンルは難しいのではないかと、スタッフさんと一緒にけっこう悩みましたね。そして煮詰まった時に、ふっと、「EDM系はどうですか?ダンサブルかつバキバキの!」という案が浮上して。確かに、EDMは未開拓のジャンルでしたので、やってみようということになり、“VELVET QUIET”が誕生しました! 曲のタイトル”VELVET QUIET”の意味が、説明していただくまでまったくわからなかったのですが、作詞と作曲を担当してくださったミフメイさんに伺ったところ、ベルベットはとても高貴で気品があるもの。それを派手にアピールするのではなく、清楚で淑やかに着こなしている、素敵なあずささんをイメージしてこのタイトルにしたそうです。

――なるほど。

たかはし:だけど歌詞は、わりと情熱的なんです。「アイドルになれば、運命の人が私を見つけてくれるかもしれない」という他力本願なあずささんから、「運命は自分で切り開く」という強い女性に変わりたい……という。実は、あずささんの強い女性イメージな曲は他にもあって。“Mythmaker”“嘆きのFRACTION”などはカッコイイあずささんなのですが、“VELVET QUIET”は、この2曲とはまた違った強さがあります。静かに闘志を燃やすというか、何かに目覚めていくような、導かれているような……でも力強い意志を感じる。そんな新しいあずささんのカッコ良い魅力が、この“VELVET QUIET”にはたくさん詰まっています。

――そんなあずささんのカバー曲が“糸”って素晴らしいですよね。「縦糸」と「横糸」の歌詞の部分とか、非常に三浦あずさ的だな、と思いますし。

たかはし:先ほどもお伝えしましたが、“糸”はプロデューサーさんからの投票が一番多かった曲なんです。いろんな方がカバーされている不動の名曲なので、実はプレッシャーを感じていたのですが、そう思っていただけて嬉しいです。次に多かったのが椎名林檎さんの”人生は夢だらけ“でした。この曲も、椎名林檎さんの世界観が強い名曲で、かなり難しい曲でしたが、あずささんがある夜ふっと心に沸いた感情を日記に書いてみて、それを歌に乗せた、あずささんの可愛らしいひとりごと、というようなイメージで歌わせていただきました。純粋に投票数で選ばせていただいたこの2曲が、アルバムのストーリーを担う重要な存在になっていることに、運命を感じましたね。

――ストーリー性が感じられる今回の『MASTER ARTIST』を、プロデューサーの皆さんにぜひ楽しんでほしいですね。

たかはし:はい! 本当に……たくさんの方に聴いていただきたいです!

――長い時間を『アイドルマスター』というプロジェクトと一緒に過ごしてきて、改めて『アイドルマスター』とはたかはしさんにとってどんな存在なのでしょうか。

たかはし:『アイドルマスター』は何であるかを一言で言うと、仲間ですね。私の人生を作る、大切な仲間。スタッフの皆さんもそうですし、765プロの仲間も大切です。あとは『ミリオンスターズ』『シンデレラガールズ』『シャイニーカラーズ』『sideM』……そして何より、私が『アイドルマスター』を一緒に作り上げていくために、必要不可欠な存在、それが三浦あずささんです。最初は私の中にあずささんを生むのが大変だったけれど、15年の時を経て、今では、たかはし智秋の人生を作る、とてもとても大切な仲間。彼女がいるから、今の私がいる。本当に感謝しても仕切れない、かけがえのない仲間です。

――では、仲間である三浦あずささんに今かけたい言葉はなんですか。

たかはし:「アルバム発売おめでとう」(笑)。今は大変な情勢だけれども、いつかまたあなたと一緒にキラキラしたいし、一緒にステージで輝きたい。そのときを楽しみにしながら、のんびり待っていようね!と伝えたいです。


取材・文=清水大輔