田丸篤志「“声優をやめてもいい”くらいの心の余裕を持っていたい」【声優図鑑】

アニメ

公開日:2021/3/15

田丸篤志

 キャラクターの裏に隠された自分自身をありのままに語る、ダ・ヴィンチニュースの恒例企画『声優図鑑』。第260回目に登場するのは、TVアニメ『たまこまーけっと』大路もち蔵役、ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』一期一振役などを演じる田丸篤志さんです。

声優として10年以上キャリアを重ねた今、「お仕事としては他の選択肢もある」と発言する田丸さん。その言葉の真意とは? 客観的な視点と柔軟な考え方から、田丸さんの生き方や仕事観が伝わってくるインタビューでした!

——代表作を選びきれないほど出演作の多い田丸さんですが、声優として転機となった作品をあげるなら?

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田丸:一つずつの積み重ねであることは間違いないのですが、自分のことを世間の方に知っていただけたのは『たまこまーけっと』(2013年/大路もち蔵役)の存在が大きいと思います。京都アニメーションさんの作品ということで観ていただいた方も多いと思います。劇場版ではもち蔵にスポットをあてていただいて。いまだに「もち蔵が好きです」と言っていただけることが多く、作品の影響力が大きかったと感じています。

——もち蔵は、主人公のたまこのことが好きなのに気づいてもらえない、というキャラクターでした。今振り返って、アニメを観ている方にどんなところが受け入れられたと思いますか?

田丸:周りの人はほとんど気づいているのに、たまこ本人だけが気づいていない状況のなか、「なかなか報われないな」「うまくいくのかな」と見守り、応援したくなるようなキャラクターだったのではないかなと。僕自身、第三者目線でも応援していたし、もしかしたら共感をしてくださった方がいたかもしれません。

——他にも、転機となった作品はありますか?

田丸:さらに世間の方に知っていただけたのは『刀剣乱舞』(2015年/一期一振役)だと思います。正直、多くのコンテンツがあるなかで、あれほど爆発力のある作品に成長していくとは収録の時点では想像がつきませんでした。作品が、そして演じている一期一振が、「好きです」という多くの方々の言葉で、たくさん応援していただけていることをはっきりと実感できたし、自分自身のモチベーションが上がったなと感じます。

——社会現象にもなるくらいでしたから。もう一つ、挙げるとしたらどんな作品ですか?

田丸:自分の意識変化という意味では『学戦都市アスタリスク』(2015年/天霧綾斗役)。同じクールに『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」としてゲッツされた件』(神楽坂公人役)でも主人公をやらせていただきました。
特に『アスタリスク』はキャストが多くて、ラジオを一緒にやっていた内田雄馬くんのように仲良く話せる役者さん、年齢がある程度近い役者さんも多かったので沢山話す機会があったことと、モブではなく主人公として現場に入ることで、多くの現場で活躍している声優さんたちといろいろ話せたことが刺激になりました。

——どんな話をしたんですか?

田丸:新人同士とは違って、他のいろんな現場のお話を聞くことが多かったです。いろんな現場を見ているからこその目線で話をしてくれたり。自分にはない考え方に触れることができました。

——田丸さんはアニメのお芝居の他にも歌やナレーションなど幅広いジャンルに携わっていますが、特にご自身で力を入れていきたいお仕事をあげるとしたら?

田丸:どのお仕事にもさまざまな楽しみがありますけど、最終的に一番やっていきたいのはアニメなのかなと自分では思います。この業界を目指したのもアニメに出たかったからですし。

——声優を志していた頃から気持ちがブレていないんですね。

田丸:そうですね。自分の声という生まれ持ったものでしか勝負できないので「やりたいこと」と「やれること」は違ってきます。アニメが自分に向いているのか、というのは今でも分からないですし、それは周りの方が判断することなのかなとも思っています。ただ、掛け合いのお芝居をしながら複数の役者さんと作りあげていくアニメというコンテンツに魅力を感じますね。

推測ですが…A型の特徴で「完璧にできないならどうでもいい」

——最近の休日はどんなふうに過ごしていますか?

田丸:録画しているバラエティ番組を見るか、ゲームをするかの二択ですね。『世界の果てまでイッテQ』みたいな番組とか、『アメトーク』のようなお笑い系。そういったバラエティ番組がメインな気がします。あとは1クールに1作品か2作品だけドラマも観たりしますね。

——昨年の自粛期間中に自宅にいる時間が増えたと思いますが、何か新しく始めたようなことは?

田丸:『エイペックスレジェンス』っていうゲームを始めたくらいですかね…。でも、それも秋頃からだし。最初は、料理が全然できないので挑戦してみようと思ったんですけど、実際スーパーに行ったらレジに行列ができていて。食材を買いに行くのが一番危険だということに。

——あきらめざるを得ないですね…(笑)。

田丸:自粛期間に入ってからすぐは、家の片付けをめちゃくちゃやっていて、それなりにきれいになりました。昔はキレイ好きだったんですけど、最近はやや散らかっていたので。完全に偏見な個人的な意見になりますが、僕のようなA型の人って、「完璧にできないならどうでもいい」っていう特徴があると思っていて(笑)。例えば、録画容量が足りなくて、ドラマの録画が1話から最終話まで揃えられなくなってしまった瞬間に、その後の録画はどうでもよくなるという。

——極端な完璧主義!?

田丸:はい。僕がまさにそうですし、たぶん共感してくださる方がいるかも?どうでしょうか。完璧にできないと、途端にそのことに対して興味がなくなるんです。だから部屋も、ちょっと汚れているならだいぶ汚れても変わんないよ!と思うところがあって。

——気にならないのなら、いいような気もします。

田丸:まあでも、いつまでも片付かないので先に進みませんけど。

——(笑)。何が散らかりがちですか?

田丸:まず書類。台本もそうですけど、置き場所が決まってないので。あとでシュレッダーにかけようと思ってポンと置いたままにした書類が散乱していることも。部屋では、テレビを観るときもゲームをするときもだいたいソファにいますね。今の家に引っ越したときに仕事用のデスクを買いましたけど、台本はベッドで読むこともあります。

——外に出るときは、洋服などを買いに行ったり?

田丸:そうですね。ちまちまと買っています。たぶんこの職業じゃなかったら服に興味のない人だっただろうと思いますけど、みなさんの前に立つからにはちゃんとしないとっていう意識から。自信があるということではなく、服が好きかって聞かれたら好きだと思います。

——プライベートで、声優さん同士の交友関係はどうですか?

田丸:現場終わりに久しぶりに会った人とご飯に行くようなことはよくありますけど、プライベートまではなかなか…。業界と関係なく友だちなのは、賢プロの浅利遼太くん。『ジュエルペット』で一緒になって以来、もう9年くらいの仲ですね。作品でも年に一回くらい、毎年のように集まりますし。

トークも飲み会も、意外と「ちゃんと」しなくていいのかも

——声優になって初期の頃から「変わったこと」や「変わらないこと」があれば、教えていただきたいです。

田丸:変わらないことは何もないな…。いろいろ変わった気がしますね。たとえば、収録の台本を練習しすぎないようになりました。もちろん全然練習しないとか、読み込みが甘い状態で現場に行くということではありません。練習しすぎると、現場で「全然ちがうから、こう直して」って言われたときに自分の芝居を修正するのが難しいという経験をしたので。今は、本番前の“テスト”はプレゼンの場だと思っています。「僕はこう思って芝居を作ってきましたけど、どうですか?」って監督さんに提案するディスカッションの場というか。そこで「違う」と言われても怒られているわけではないし、柔軟に期待に応えられるのが役者として一つの正解だろうなと考えるようになってから、ラクになりました。

——それまでは悩むこともあったと?

田丸:とにかく昔は、いい芝居をしようというより「現場でダメ出しを受ける役者は優秀ではないんだ」と思い込んでしまっていたし、飲み会に行っても「先輩の前では失礼があってはならない」、イベントでも「面白いことを言って爪痕を残さないと」とか、「こうしないと」ってことばかり考えていたんですけど。

——それが今では変わってきたんですね。

田丸:トークでうまく話せなくて、真面目すぎる話ばかりしてもいいや…と思った瞬間に、周りの人が笑ってくれたことがあって。「うまくやろう」と肩に力が入るよりも、気楽に話したほうが自分はパフォーマンスしやすいところがあるかもしれないなと。
飲み会でも、自分が先輩の立場になってみると、少し雑な感じで後輩が話しかけてきたとしてマイナスな感情はないんですよ。「何言ってんの、先輩」ってくらいのほうが先輩もやりやすいんじゃないかと。ちゃんとしなきゃと思っていたけど、意外とそうじゃないかも、と思うようになりました。

——身をもって体験されて、変化があったのですね。どちらかというと「変わらないこと」より「変わったこと」のほうが多いと。

田丸:時代に合わせて業界の流行も変化していきますし。

——ご自分も時代に合わせて変わっていきたい、という意識が?

田丸:そうですね。声優になって1年目か2年目に、先輩の役者さんがおっしゃってたんです。「お芝居もパーソナルも個性の強い声優が集まるなかで、新人になるほど個性の薄い芝居をする子が多い。そんなナチュラルなお芝居が今の流行りで、求められる役者なんだとしたら、自分もそれを勉強してできるようになりたい」と。お芝居にもキャラクターにも流行りってあるんですよね。もちろん、自分そのものの変わらない声を求めてくださる方もいますけど、時代に合わせて変わっていくことも必要だろうなと、今その先輩の言葉を振り返って思います。

——これから目指したい声優像とは。

田丸:理想像って昔からないんですけど、長く続けられたらいいなと思います。お仕事としては他の選択肢もあるじゃないですか。だからといって、声優しかやっていない自分に他の仕事ができると思わないし、声優をやめるってことではないですけど、僕に限らず、「自分にはこれしかない」と制限するのは違うなと思っていて。実際には違うとしても、自分にはなんでもできると思うくらいの、心の余裕を持っていたほうが柔軟でいられるのかなと。どんな経験をしても、それがお芝居の糧になるような職業でもありますし。

——物事に固執せず、柔軟に世の中の流れに乗る田丸さんのお仕事観が伝わってきます。最後に、読者へのメッセージをお願いできますか?

田丸:普段は応援していただいてありがとうございます。今回は自由にお話していいということなので……趣味でも何でもいいので、みなさんの「おすすめ」みたいなものがあったら、なんらかの形で僕に教えてもらえませんか?
……まさかの、みなさんに質問するというコメントを残しつつ。このたびは記事を読んでいただいて本当にありがとうございました!

——田丸さん、ありがとうございました!

【声優図鑑】田丸篤志さんのコメント動画【ダ・ヴィンチニュース】

次回の「声優図鑑」をお楽しみに!

田丸篤志

田丸篤志(たまる・あつし)マウスプロモーション所属

田丸篤志(たまる・あつし)Twitter

◆撮影協力

撮影=山本哲也、取材・文=麻布たぬ、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト