上川隆也「原作ありきの役に臨むときは作品へのリスペクトを忘れない。それが役者にとって大事」

あの人と本の話 and more

公開日:2021/3/20

上川隆也さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載「あの人と本の話」。今回登場してくれたのは、4月よりスタートする舞台『魔界転生』で主人公・柳生十兵衛を演じる上川隆也さん。大のマンガ好きを公言する上川さんが今一番ハマっているという『怪獣8号』について、そして2年半ぶりの再演となる『魔界転生』への思いをたっぷりとうかがいました。

「読みながら何度も唸らされました。普段から、周りと比べるとかなりの数のマンガを読んでいる大人だと自負しているのですが(笑)、そうした中で、今、特にオススメしたいのがこの一冊です」

 と、熱弁しながら上川さんが手にしたのは、ご自宅から持ってきてくれたという私物の『怪獣8号』。

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「特殊な力を手に入れて怪獣と戦う主人公像であったり、幼馴染みの女の子との約束を果たすために、もう一度目標に向かって進み出す姿など、いわゆる王道と呼ばれる設定が余すことなく詰め込まれているんですが、この上そこに “こんな展開もあるのか!?”と新鮮さを感じる要素がたくさん加えられていて。読んだ瞬間、まさに取り憑かれるように作品に引き込まれてしまいました」

 中でも驚かされたというのが、物語の舞台背景だ。

「主人公の日比野カフカは怪獣の死体を処理する清掃会社で働いているんです。僕は子供の頃、『ウルトラマン』を見て、倒した怪獣を抱きかかえて遠くへ飛んでいくウルトラマンの姿に疑問を持つことはなかったんです。でも、確かに地上で怪獣をやっつけたとなると、その死体の後始末が必要になってくる。“成る程、これを生業にする人間もいるのが当たり前だ”と、その着眼点に面白さを感じました」

 また、「怪獣たちと戦うことが日常化した世界で生きる人間たちの姿にも注目してほしい」と上川さん。

「あり得ない設定だと思う半面、気が付けば今僕たちもまさに想像もしなかった未曾有の状況に置かれ、そこに向き合うことを強いられている。この作品を読んでいると、人間はどんな危機的状況に陥っても、そこに順応していく強さがあるのかも……と思わされます」

『怪獣8号』はウェブコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で連載中の作品だ。上川さんは作品がスタートした直後から読み始め、今も毎週金曜日の配信を待ちわびているという。

「ただ、これほどの面白い作品が毎週無料で読めるのが信じられないんです。これまで受け取った楽しさや高揚感、感動に応える為の対価として、また今後も魅力的な物語を書き続けていただきたいという思いも込めて、しっかりと書籍も購入させていただいています」

 大好きなものに対するリスペクトは欠かさない。それは、演技においても同じだ。

「原作のある作品を舞台化・映像化する際に役者として大事にしていることも、やはり作家先生や原作を尊重するという思いなんです。僕は、原作が持つテイストを極力再現したいと思っています。ただ、逆にいえば、そこが一番難しいところでもあります。特に、現実世界から逸脱した物語を表現するには限界がある。けれども、追求をやめることは決してしたくない。それはいつまでも消えることのない、役者にとっての命題だと感じています」

 この度、4月から再演される舞台『魔界転生』。ここで上川さんは主人公・柳生十兵衛を演じる。作品の印象をうかがうと、まず最初に「何よりも、僕自身が山田風太郎先生のお書きになった十兵衛の大ファンなんです」との言葉が返ってきた。

「豪放磊落で、男女関係なく惚れてしまう男。それでいて、運命に翻弄されて戸惑う姿には哀愁もある。初演の稽古では、彼に巻き起こる様々な状況に相対しながら、“十兵衛ならどうするだろう”と自問自答を繰り返し、役を作っていきました。その一方で、僕自身が十兵衛に憧れ、十兵衛の背中をずっと追いかけているようなところもあって。きっと今回の再演でも、その作業をまた一から行っていくのだろうと感じています」

 初演が上演されたのは2018年。今回は小池徹平や藤原紀香など新たなキャストが加わり、2年半前とは違った新生『魔界転生』を目指す。

「前回を越えようといった意気込みやプレッシャーは感じていません。再演というのは、例えば料理でいうと“鍋物”みたいな感じでしょうか (笑)。一部の食材は同じでも、新たに加える具材が変わればまったく違う味わいになる。今は“この座組でどんな味付けにしていこう?”とみんなで話し合い、矯めつ眇めつしているところです。初演、再演にそれぞれの良さがあり、その違いを存分に味わっていただけるものをお届けいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います」

取材・文:倉田モトキ

かみかわ・たかや●1965年5月7日、東京都生まれ。演劇集団キャラメルボックスの看板俳優として活躍し、ドラマ『大地の子』でブレイク。代表作にNHK大河ドラマ『功名が辻』、舞台『ヘンリー六世』(ともに主演)など。現在、ドラマ『遺留捜査』の第6シーズンに主役で出演中。

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舞台『魔界転生』

舞台『魔界転生』

原作:山田風太郎(角川文庫) 脚本:マキノノゾミ 演出:堤 幸彦 出演:上川隆也、小池徹平、藤原紀香、村井良大、渡辺 大、浅野ゆう子、松平 健ほか 4月7日より愛知(刈谷市総合文化センター)、福岡(博多座)、東京(明治座)、大阪(新歌舞伎座)で巡演
●徳川幕府によるキリシタン弾圧で惨殺された天草四郎が魔界の力を借りて蘇る。幕府の滅亡を企てる彼らの野望を阻止すべく、幕府側の剣士・柳生十兵衛は戦いに挑む。