運命が、兄弟を分かつ。熱い芝居の先に、演じるふたりが感じたものとは!?――『蜘蛛ですが、なにか?』堀江瞬×榎木淳弥インタビュー

アニメ

更新日:2021/4/2

堀江瞬・榎木淳弥

 高校生たちが異世界に転生したら――「私」は蜘蛛だった!? 蜘蛛に転生してしまった少女の運命と、異世界で新たな人生を送るクラスメイトたちを、ふたつの視点で描く『蜘蛛ですが、なにか?』。そのアニメ版の放送がはじまり、いよいよ中盤戦へ突入している。

 原作は小説投稿サイト『小説家になろう』で連載され、いわゆる「異世界転生もの」のお約束を裏切るような展開を描き、2015年の年間ランキング1位を獲得した人気作品。アニメ版では蜘蛛に転生してしまった主人公の「私」、通称「蜘蛛子」を悠木碧が熱演し、注目を集めている。

 そして、アニメ第9話で人族最強の「勇者」ユリウスに衝撃の展開が。弟のシュンはその展開をどのように受け止めたのだろうか。弟シュン役の堀江瞬と兄ユリウス役の榎木淳弥に、このドラマチックな展開を振り返ってもらった。

 プライベートでも仲の良い兄弟のようなふたりが語る、『蜘蛛ですが、なにか?』の兄弟関係とは?

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蜘蛛ですが、なにか?
TVアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』 TOKYO MXほかにて、毎週金曜22:00~放送中 (C)馬場翁・輝竜司/KADOKAWA/蜘蛛ですが、なにか?製作委員会

主人公が蜘蛛に転生する、斬新な異世界ものです(堀江)

――原作の『蜘蛛ですが、なにか?』は、『小説家になろう』から生まれた作品でもあり、いわゆる「異世界転生もの」の中でも異色作と言われています。この作品の印象についてお聞かせください。

堀江:新しいタイプの「異世界転生もの」ですよね。これまで僕が見てきた「異世界転生もの」は、主人公ひとりが異世界に転生して、新たな人生を生きる、というものが多かったんです。けれど、この作品はクラスメイト全員が異世界に転生してしまって、なおかつ、人ではないものに転生してしまう者もいる。蜘蛛になったり、竜になったり、別の種族になってしまう。しかも、ただの「異世界ファンタジーもの」ではなくて、最初に合流しているクラスメイトの人数が少なくて、残りのクラスメイトがどうしているのかをだんだんと知っていく。視聴者的には人間サイドだけでなく、魔族サイド、蜘蛛子サイドの前世は誰だったのかが徐々に明かされていくミステリ要素もあって。斬新な異世界ものだなと感じています。

榎木:そもそも主人公が蜘蛛で、人間の姿じゃないところが面白いですよね。物語が、「人間パート」と「蜘蛛パート」に分かれていて、徐々に両者の接点が見えてくる。蜘蛛子の謎がだんだん見えてくるのも面白いですし、人間だからこそ起こりうる転生者同士の争いみたいなものも描かれていて。モンスターとの戦いと、心理的な描写がどちらもある。それがこの作品が魅力的なところじゃないかなと思います。

――堀江さんは、シュン(シュレイン・ザガン・アナレイト/山田俊輔)というキャラクターにどんな印象を抱いてましたか?

堀江:途中までは運命に翻弄されながら《勇者》として戦っていく青年、ほどほどに正義感があるけど、どこにでもいる等身大の主人公みたいな感じがありました。でも第8話で学校に通っているころの回想シーンがあって。そのときにシュン(山田俊輔)だけでなく、いろいろなキャラクターの印象が変わったんですよね。僕は第1話のときから、なんでいじめグループの主犯格だったフェイ(フェイルーン/前世は漆原美麗)と相棒のように一緒にいられるんだろうなと、不思議に思っていたんです。そうしたら第8話で、山田がクラスのいじめに何となく加担しているところが描かれていて。山田は正義感が特別に強いわけではなくて、ある意味で人間らしいキャラクターだったんだなと感じたんです。この第8話の回想を経たことで、彼とほかのキャラクターとの距離感がわかった感じがありました。

――榎木さんは、勇者ユリウス(ユリウス・ザガン・アナレイト)にどんな印象をお持ちでしたか。

榎木:正直、あまり登場回数が多くないので、ユリウス自身がしゃべっているというよりも、シュンが主に「兄さまはこういう人で」と説明することで補完されているキャラクターなのかなと感じていますね。完璧で立派な人物で、強いように見えている。けれど、ユリウス目線になると、いろいろと考えて行動しているんですよね、その見え方と内面の違いが面白いなと感じていました。

堀江瞬・榎木淳弥

兄弟役に決まって、LINEが来たんです(榎木)

――榎木さんが演じるユリウスと、堀江さんが演じるシュンは兄と弟です。おふたりが兄弟役だと知ったときは、どんな印象がありましたか。

榎木:(堀江から)LINEが来たんですよ。「兄弟役です」って。「ちゃんとしてよ」と返事をしました。

堀江:軽くあしらわれました。

榎木:いやいや、僕のほうがむしろLINEのやり取りを冷たく切られましたよ(笑)。

――おふたりの仲の良さがお芝居に反映されているのかもしれませんね。

堀江:実は第1話から第3話くらいまでは榎木さんがユリウス役と知らなくて。誰がやるんだろうなと思って、兄への尊敬を想像して、すごい熱量で演じていたんです。

榎木:そのころはたぶん、僕がユリウス役になるって決まってなかったんじゃないかな。僕がユリウス役に決まったので……「やりやすいでしょ?」とLINEで送ったら、「やりにくい」と返事があって(笑)。

堀江:けっこう、長いことふたりでラジオ(「榎木淳弥・堀江瞬 エノホリック」)をやってきたので、今度は兄弟になったのは面白いなと思いつつも、そこに引っ張られず、それぞれのキャラクターを大事にしていこうと思っていました。

――ユリウス役が榎木さんだと知って、アプローチは変わるものですか?

堀江:どうだろう(笑)。実は昨今のアフレコの状況で、僕が先に収録をするパターンが多くて、ユリウスの声はオンエアで初めて聴いていたんです。先日、LINEでふざけて「(ユリウス役が)榎木さんって最初から知っていたら、ここまで愛情ある感じでやらなかったっすよ」と言ったんですけど。

榎木:ストーリー上、そういうわけにもいかないからね。

堀江:榎木さんとは付き合いも長いですし、やっぱりユリウス役が榎木さんであることを知っていたら変わった部分もあるかもしれません。兄弟という関係性を演じるにはプラスになることかな、と思います。

榎木:僕は、収録の時に彼のお芝居を聞くことができたので、アフレコ現場でシュンの演技を再生してもらって、それに応えるように収録ができました。堀江くんからの、僕に対する愛情を感じましたね(笑)。

堀江:榎木さんに対する愛情!? 役を超えて伝わっちゃいましたか!?

一同:(笑)

榎木:ええ、深い愛を感じました。

堀江:えっと……お芝居を、過剰に受け取られてしまったかもしれませんね(笑)。

――シュンは、ユリウスへ憧れと尊敬を抱いています。その兄弟関係をどのようにとらえていましたか。

堀江:本来、ユリウスは異世界の血縁であって、シュン(山田俊輔)にとって現実世界の家族ではないわけですよね。おそらくシュンにとって一番重要なことは、異世界ではなくて、現実の日本だと思うんですよ。でも、そんなシュンでありながらも、異世界で血縁関係の兄(ユリウス)や妹(スー/スーレシア)に深い想いを持っている。まあ、異世界で十数年も暮らしていれば、当然、情もうつるんでしょうけど……。異世界で出会ったキャラクターにどんな感情を持っているのか、最初は手探りで演じていましたね。

――ところが、そのユリウスが衝撃の展開を迎えます。

榎木:オファーをいただいたときは、ユリウスの運命については教えていただいていました。彼の《勇者》の称号は、シュンに引き継がれてしまうので。

堀江:そうですね。

榎木:ユリウスの運命をシュンが知るのは称号を引継いだことがきっかけ、というところが皮肉だったなと思いますね。シュンがあこがれていた《勇者》の能力を得ることはつまり、ユリウスの悲しい運命を受け入れること。その事実が、残酷だったなと感じます。

――ユリウスの運命を知って、シュンは絶叫していましたね。

堀江:シュンはかわいそうだなと思いました。僕自身だったら、兄の背負っていた運命を背負いたくはないな(笑)。血を分けた家族を失うことは辛いだろうし、その兄の運命を受け入れて、戦っていくということは並大抵の覚悟ではできないことだと思います。シュンがすごいなと思いました。「大変だろうけど、頑張れよ!」と。

榎木:(ユリウスは)きっと良いお兄ちゃんだったんですよ。深くは描かれなかったけれど。

堀江:ユリウスの最期を直接描いていないのは、オシャレな演出だなと思いましたね。

――榎木さんはここで『蜘蛛ですが、なにか?』から一度離脱することになるわけですが、今後はどんなふうに関わりたいとお考えですか?

榎木:僕はここで作品から離れてしまうので、ひとまずは視聴者として作品の展開を楽しみにしたいと思います。このあと僕がモンスター役で出たりしたら、視聴者の方々も混乱してしまうでしょうから(笑)。これから先はオンエアを見ますよ!

蜘蛛ですが、なにか?

蜘蛛ですが、なにか?

蜘蛛ですが、なにか?

蜘蛛子のしゃべりはずっと聴いていても、飽きずに、もっと欲しくなる(堀江)

――蜘蛛子がひたすらモンスターと戦っている「蜘蛛パート」をご覧になって、どんな印象をおもちですか?

堀江:「悠木(碧・「私」役)さん、すげえや」と。もう、そのひと言に尽きます。第1話なんて、本当にすごくて。ただでさえカット数が多いのに、1カットの中にセリフが3~4個あって。オタクチックな蜘蛛子の口調を見事に演じていらっしゃる。しかも、「ああ、オタクってこういう言い方をするよなあ」とリアリティを感じるようなニュアンスが、すごく絶妙で。しかも、物語が進むにつれて、蜘蛛子がひと役じゃなくなる(並列意思が登場する)……。ひとり4役を、ひとりで掛け合いながら演じていらっしゃる。ずっと聴いていても、飽きずに、もっと欲しくなる。大変そうだけど、すばらしいなと思っています。『蜘蛛ですが、なにか?』の収録期間中に別の現場で悠木さんとご一緒しているんですが、毎回お会いするたびに「今回も蜘蛛、大変そうでしたね」とただ感想を報告しています(笑)。

榎木:僕が一番驚いたのはエンディング・テーマの『がんばれ!蜘蛛子さんのテーマ』ですね。すごい早口なのに、聴き取りやすい歌声で。あの曲も堀江くんが見せてくれたんです。「聴いてくださいよ。これ、すごいでしょ?」って。あれ、早回しはしていないんですよね。

堀江:そうらしいんですよ。あの原曲のテンポのまま(最速BPM400程)レコーディングされたそうです。

榎木:その悠木さんのスキルがすごいですよね。

――シュンがいる「人間パート」のドラマはいかがですか?

堀江:そうですね。人間であるがゆえの面倒くささ、尊さのようなものがあるなと思いました。人間関係を構築するうえで、「こういうことあるよね」って感じることがまざまざと描かれていて、すごくリアルだなと感じました。だから、スムーズに世界観へ没入することができたんじゃないかと思います。収録はそれぞれのキャストと別に録ることが多かったのですが、お話の力が強かったので、別録りの難しさをあまり感じずにできました。

――とくに「人間パート」のドラマでは、ユーゴー・バン・レングザンド(夏目)との人間関係は生々しかったですね。ユーゴーは強さを求めていながらも、シュンの力に敵わない。ユーゴーの悔しさが、シュンに対する態度に変わっていく。おふたりのシーンの収録はいかがでしたか。

堀江:ユーゴー役の石川(界人)さんとは掛け合いで収録をさせていただく機会が多くて。事務所の先輩、後輩という関係でもありますし、キャラクター的にも戦う関係でもあるので、何となくキャラクターと声優がシンクロするところがあるんです。石川さんとは、何年か前にレギュラーでご一緒したとき(『ナナマルサンバツ』)でもライバル関係のような役の関係だったんですが、そのときと今を比べて成長を感じてもらえるように、想いを込めながら収録していましたね。

――この作品で、おふたりが気になるキャラクターはいらっしゃいますか?

堀江:そうですね。この段階では、ユーリちゃん(ユーリーン・ウレン/長谷部結花)が気になります。かわいいんですけど、狂信的な感じがあって、何かをきっかけに崩壊してもおかしくないような危うさを感じるキャラクターなんですが、僕はそういうキャラクターが好きなので……。ユーリちゃんがこのあとどう物語に絡んでいくかが楽しみです。

榎木:僕はフィリメス(フィリメス・ハァイフェナス/岡崎香奈美)ですね。暴走するユーゴーを止めていましたが、本当の狙いはまだ見えない。これから彼女がどのように物語に関わっていくか。とても楽しみにしています。

――『蜘蛛ですが、なにか?』も中盤から、いよいよ「蜘蛛パート」と「人間パート」の接点が見え隠れしはじめます。ぜひ、中盤以降の見どころをお聞かせください。

榎木:僕はもう役目を終えてしまいましたし、この先の展開を知らないので、視聴者のみなさんと一緒に、新鮮な気分で今後の展開を楽しんでいきたいと思っています。これから激しい戦いに巻き込まれていくと思いますが、《勇者》は弟のシュンに引き継がれたので、僕の得意技である聖光魔法「聖光線」を使って生き延びていってほしいと思います。

堀江:大事に「聖光線」を使わせていただいております(笑)! 悠木さんが以前「1クール目は壮大なアバン(幕前芝居)」とおっしゃっていて。まさしくそのとおりだなと。2クール目からは、物語に撒かれた種が芽吹いて、絡み合い、すごいことになっていくので。1クール目をここまで観てくださった方には、ぜひ引き続き2クール目を楽しんでいただきたいです。シュンは、これから大きな戦いも待っているので、そちらも注目してください。「蜘蛛パート」と「人間パート」の関係がどうなっていくのか、パズルのピースが徐々に埋まっていくと思いますので、最終回までご覧いただけると幸いです! よろしくお願いいたします。

TVアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』公式サイト

取材・文=志田英邦  写真=竹花聖美
ヘアメイク=加藤ゆい(fringe)、川端麻友(fringe)

堀江瞬(ほりえ・しゅん)
大阪府出身。声優、アーティスト。2017年、『ナナマル サンバツ』越山識役でTVアニメ初主演。『アイドルマスター SideM』ピエール役、『アクダマドライブ』ハッカー役など多数の作品に出演する。音楽ユニット・SparQlewのメンバーとしても活動している。

榎木淳弥(えのき・じゅんや)
東京都出身。声優。『呪術廻戦』虎杖悠仁役、『はたらく細胞BLACK』赤血球〈AA2153〉役、『2.43 清陰高校男子バレー部』黒羽祐仁役、『天地創造デザイン部』下田役、洋画ではマーベル・シネマティック・ユニバース『スパイダーマン』シリーズのピーター・パーカー役の吹き替え声優を務めるなど、多数の作品に参加している。


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