毎週更新! みんなで語る『バック・アロウ』特集⑨――ゼツ・ダイダン役 堀内賢雄インタビュー

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更新日:2021/3/27

バック・アロウ
TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会

 信念が世界を変える! 壁に囲まれた世界リンガリンドに、謎の男バック・アロウが落ちてきた。壁の外から来たというその男をめぐり、リンガリンドの人々が動きはじめた。

 信念が具現化する巨大メカ・ブライハイトを駆使して、壁の外へ帰ろうとするバック・アロウ。その彼をめぐってリンガリンドの国々は、様々な策謀をめぐらしていく。ものすごいテンポ感とともに、壮大な世界がつむがれていく「物語とアニメの快楽」に満ちた、この作品が描こうとしているものとは――?オリジナルアニメ作品ならではの「先が読めない面白さ」を味わうべく、『バック・アロウ』のスタッフ&キャストの連続インタビューをお届けしている。

 第9回となる今回は、レッカ凱帝国の凱帝ゼツ・ダイダンを演じる堀内賢雄に話を聞いた。劇中で最強の一角を務めるゼツを、豊富なキャリアを誇る名手はどのように演じてきたのだろうか。

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60歳を超えても必死でした(笑)

――堀内さんはレッカ凱帝国の凱帝ゼツ・ダイダンという、この作品中で最強のひとりを演じていらっしゃいます。ゼツ・ダイダンという人物にどんな印象をお持ちですか。

堀内:谷口悟朗監督から最初に説明していただいたのは、「ゼツ・ダイダンという男は、とにかく戦いが好きだ」ということでしたね。ゼツは、たとえ戦いの最中に窮地へ追い込まれても「こいつはできるやつじゃないか」と喜びを感じるタイプで、常に余裕があって、相手が強ければ強いほど高揚する。でも、キャラクターの絵を見ると、仙人みたいな感じがあるじゃないですか。役を作るときに、老人っぽく作るのか、それとも年齢を意識せずに作るのか。そこが難しかったですね。第3話で初登場するときは、印象づけるために若干年寄りっぽく作っていたのですが、話数を重ねるごとに「もうちょっと若めで」という演出が入っています。年齢感は多少変化があるかもしれませんが、大事なのはゼツの狂気の部分だと思うので、そこが伝われば良いな、と思いながら収録していました。

――『バック・アロウ』の物語で、ゼツ・ダイダンの担う役割や展開については、事前に説明があったのですか?

堀内:谷口監督と中島かずきさん(シリーズ構成・脚本)は、先の展開を多くは語らないんですね。でも、先の展開がわかってやる芝居と、先がわからずにやる芝居は違うと思っていて、僕は先がわからずにやるほうが良いと思うタイプなんです。脚本家や監督が目指しているものに近づけるように、その都度必死に食らいついていきました。もちろん、彼らも妥協するような方ではないですし、アクションシーンの呼吸の息ひとつにも要望がある。60歳を超えても必死でしたよ(笑)。

――堀内さんは谷口作品、中島作品の両方に出演した経験をお持ちですよね。谷口作品には、どんな印象をおもちですか。

堀内:谷口監督の作品では、『スクライド』で雲慶という役と、『ガン×ソード』でカギ爪の男〈クー・クライング・クルー〉をやらせていただきました。どちらもお腹が痛くなるような役で……(笑)、難しすぎるんですよ。『スクライド』のときは、早口で何を考えているのかさっぱりわからない役で。収録の日は「今日上手くいくかなあ」と不安になりながら、スタジオに行った記憶があります。『ガン×ソード』のときはもっと難しい。谷口監督からは「悪役です。ただ、セリフを発したら、みんなが心穏やかになって引き込まれるようなキャラクターです。神の声のようなセリフを発してください」と言われて。しかも、収録中はなかなかOKが出ない。必死になってやるしかないけれど、必死でやるからその魅力が出てこないのかもしれないなどと、いろいろと考えた役柄でしたね。
おかげで、最終回を迎えたときのやり切った感は、すごく大きかったです。そこから劇場版『コードギアス 復活のルルーシュ』でナレーションとして関わったあとに、『バック・アロウ』の話が来て……「また難しい役が来たよ」と(笑)。でも、谷口監督からキャラクターの説明を受けたときに、カギ爪の男にちょっと似た印象があったんですよね。相手の内面に踏み込むような迫力を出していく、という意味で、は近いものがあるなと感じていました。

――中島作品の印象はどうでしょうか。

堀内:中島さんの作品では、『キルラキル』で満艦飾薔薇蔵という役をやらせていただいたんです。ギャグ調のセリフの中に「いきなりブラッド・ピットの口調を入れてほしい」みたいなリクエストがあって、これまた難しい。谷口監督と同じように、中島さんの作品も難しいんです。ただ、中島さんが書かれるセリフは、コミカルな中にセンスが詰まっているので、セリフをしゃべっていて気持ちがいいんです。中島さんと谷口監督とともにオリジナルアニメを作るという企画を立てたプロデューサーはすごいな、と。最初に企画を聞いたときは、どんな作品になるのか、楽しみでしたね。

――『バック・アロウ』のアフレコ現場はいかがでしたか?

堀内:今回、僕はオーディション組じゃないんです。ご指名を受けてゼツ役をやらせていただいているのですが、メインキャストのみなさんはオーディションを受けられていて。谷口監督・中島さんの作品に初めて出る方は、感激していましたね。谷口監督と仕事をしたかった、中島さんの作品に出たかった、そして、田中公平さんが音楽の作品に出たかったと。その想いが叶って、みんな喜んでいる感じがありました。

――実際にオンエアされている『バック・アロウ』をご覧になって、いかがですか?

堀内:第1話を観て、やっぱりすごいなと思ったのは、エッジャ村の人たちがいきなりバック・アロウを食べようとするシーンです。あと、パンツへのこだわりとか。バッキャローからバック・アロウが来たのか……とか(笑)。谷口監督のセンスと中島さんの発想が、バランスよく詰め込まれているなと思いました。しかも、話数が進むとレッカ凱帝国とリュート卿和国の戦争が始まって、『三国志』のような状態になっていく。僕は実写版の『三国志(三国志 Three Kingdoms/2010年中国で制作されたTVドラマ)』で諸葛亮孔明役をやったことがあるんですが、シュウ・ビは孔明に通じるものがあるなと感じました。

――シュウはレッカ凱帝国の長官の座から離れ、グランエッジャに身を寄せます。レッカ凱帝国から見ると、裏切り者でもあるわけですが。

堀内:『三国志』をやっているころ、「人はなんでこんなに裏切るんだろう?」と考えたことがあるんです。おそらく裏切った彼自身にとっては、「裏切り」ではなく「彼自身の生き方」なんだろうな、と。自分の道を歩んでいるだけなんですよね。

――おっしゃるとおり、シュウは世界をもっと知りたいという目的を果たすため、ひょうひょうとグランエッジャにいますよね。

堀内:そうなんですよね。あとフィーネ(・フォルテ)姫も良いですね。

――フィーネ(フィノワール)に挑発されたことで、レッカ凱帝国とリュート卿和国は戦争状態へ突入します。

堀内:彼女が放った言葉が「靴をなめな、クソジジイ」ですからね。中島さんは楽しみながらセリフを書いているなあ! と思いました。あの遊び心が素敵ですよねえ。役者は乗せられちゃいますよ。しかも、フィーネが二重人格という発想も面白いですよね。

――レッカ凱帝国とリュート卿和国は戦争の行方が楽しみです。

堀内:フィーネ姫は戦場に出ると、すごく魅力的なんですよ。華奢でありながら狂暴性を持っていて。そんな彼女の姿を見て、ゼツは喜んでいる。フィーネとゼツのセリフの応酬が、とても楽しかったです。

――梶裕貴さんが演じる主人公バック・アロウには、どんな印象をお持ちですか?

堀内:梶くんとはこれまでもよくご一緒してきたし、即興劇プロジェクト「AD-LIVE-」でも共演している(「AD-LIVE2016」で共演)のだけど、彼はバック・アロウという役のとらえ方が本当に上手いなと思いましたね。頭で考えすぎず、感覚でとらえている。とにかくやってやるぞ、という彼の心構えが、上手いバランスになっていたと思います。

――たしかにバック・アロウは記憶もなければ、信念もない男。手掛かりを見つけるのが難しそうな役です。

堀内:梶くんには、いい意味で悲壮感がないんですよ。梶くんのお芝居が明るいから、バック・アロウには暗い部分がない。そこがすごいと思いますね。ゼツも同じく楽しんでいるんだけど、僕の場合はそこに国を支配する深みを出さないといけない。でも、アロウは自分がやりたいように生きている。アロウとゼツの対比が、とても面白かったです。

――梶さんとの収録はいかがでしたか。

堀内:梶くんと掛け合うシーンがあるのですが、梶くんの芝居には触発されましたね。お芝居を見ていると、なぜこの時代に人気を集めているのか、わかるような気がします。勝つとか負けるではなく、お互いの芝居をぶつけていく楽しさを味わうことができました。終わったあと、梶くんが「元気ですね、賢雄さん」と声をかけてくれて、嬉しかったですね。

バック・アロウ

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梶くんの芝居に触発されて、我々も相乗効果で最高のものができたと思います

――ゼツ役のようなインパクトあふれるキャラクターを演じる堀内さんの活力の源は、どんなところにあるんでしょうか。

堀内:まあ、普段からふざけてますからね(笑)。たぶん、いろいろな人と普段から会っているからでしょうね。僕は仕事柄、普通の人の5倍はいろんな人とお会いしているんです。若い人からお年を召した方まで、本当に幅広くお会いしていて、その人たちが考えていることや意見を聞いて、刺激をいただいているんです。僕は上からものを言うタイプじゃないので、若い人からなめられがちなんだけど(笑)、それも良いなと思っていてね。でかい人もいれば、小さい人もいる。いろんな人がいて、いろんな生き方をしている。それが面白くて、いつも元気をもらっているんです。そういうところはゼツ・ダイダンと似てますよね。ゼツもいろいろな人の人生を見てきたから、多少のことでは彼は怒らない。自分より強い人間をずっと探し続けている。人生を遊んでいるんだと思います。

――人生を遊んでいるから、元気でいられるんですね。

堀内:この作品が面白いのは、戦うときに信念がかたちになることなんですよ。信念がかたちになってブライハイトになる。ブライハイトデザインの天神英貴くんのセンスも素晴らしくて、ちょっとかわいいブライハイトもあれば、エロティックなブライハイトもある。それぞれの信念によってブライハイトが違う。だけど「自分というものを持っていない人間は、同じかたちのブライハイトになってしまう」んです。これはすごい発想だな、と思いました。世の中を見ると、8割くらいの人間が、同じブライハイトになってしまうんじゃないかな。やっぱり、自分を持たないとダメなんだなって。

――しかも、この世界では信念を強く持つと、ブライハイトがパワーアップするんですよね。

堀内:そうなんですよ。その感覚は、個人的によくわかるんです。僕は20代の頃に、神経が過敏すぎて神経症のようなものになってしまった時期があったんです。でも、お医者さんに「神経は鍛えれば鍛えるほど太くなるから」と言われて、今のようになりましたから(笑)。

――20代の頃に、どんなことがあったんですか?

堀内:実は学生の頃、野球に打ち込んでいたんだけど、身体を壊してしまって。「これから先、どうやって生きたらいいんだ」と目標を失ってしまったんですね。それで高校卒業後にDJの仕事を始めたんですが、そのあともずっと「自分は何なんだろう」と考えていた。そうしたら10代の最後に自律神経失調症になってしまって。人と会うのもイヤになり、閉所恐怖症になって、映画館に入るだけで苦しくなるようになってしまったんです。

――目標を失って、自分がわからなくなってしまった。そこからどうやって立ち直られたのでしょうか?

堀内:それで病院に行ったら、お医者さんに「ここで家に引きこもるようになってしまったら、これから先はもっと外に出られなくなってしまう。キミは真面目すぎるから、心を解放する遊びをしなさい」と言われたんですよ。「神経は鍛えれば鍛えるほど太くなるから、もっと人前に出るような仕事をしてみなさい」と。そこから人前に出るようにして、結婚式の司会のような仕事も率先して引き受けるようにしたんです。そうしたら、どんどん神経が強くなっていって。気が付いたら20代の半ばにはお昼の生放送のワイドショーのレポーターを担当するようになっていました。心を鍛えれば、いろいろなことが変わるんですよ。

――堀内さんは自力で挫折を乗り越えたことで、道を拓かれたんですね。

堀内:神経は太くなったけど、心の根っこの部分はかわらない。ナイーブな部分は今でも変わらないんです。でも、そのバランスが大事だなと思っていて。役者って陽だけじゃだめで、陰な部分がないといけない。そのあたりは、僕が大切にしているところですね。

――堀内さんが、『バック・アロウ』のキャストさんへのインタビューの大トリとなります。このインタビューシリーズの第1回を飾ってくれたバック・アロウ役の梶裕貴さんに、メッセージをいただけますか。

堀内:梶くんは放送前にインタビューを受けたのでしょうから、ネタバレができなくてつらかったと思います。梶くんが今回の座長だったおかげで、バランスが良く仕事ができた気がしますね。彼の見た目は、アニメーションから飛び出してきたような風貌だけれど、現場ではいつも一生懸命で、芯が強い。収録の最後まで、スタジオを引っ張ってくれました。彼の芝居に触発されて、我々も相乗効果で最高のものができたと思います。ありがとうございました。

TVアニメ『バック・アロウ』公式サイト

取材・文=志田英邦