めちゃくちゃ煩悩にまみれていた辛酸なめ子さんが試みた「無心セラピー」でわかったこと《インタビュー》

暮らし

公開日:2021/4/17

無心セラピー
『無心セラピー』(辛酸なめ子/双葉社)

 怒り、不安、焦り……、生きる上で負の感情を避けて通るのは難しいもの。辛酸なめ子さんの新刊『無心セラピー』(双葉社)は、少しでも心の状態を穏やかに、心を無に近づけることを目指した一冊。何かと不安の多い昨今、生きるヒントになりそうです。

『無心セラピー』では、いわゆる無心の代表格である座禅はもちろん、インスタ離れやスイーツ断ちをしてみたり、ゴミ拾いに無心を見出したり、日常のあらゆる行動の中で「無心」と向き合っています。辛酸なめ子さんに、無心セラピーの経験から見えてきたものについて伺いました。

不安なコロナ禍で心を落ち着かせる方法

――はからずも今、コロナ禍で心を落ち着けたいと思うことが増えました。『無心セラピー』について書き始めたのは、いつ頃からだったのでしょう?

辛酸なめ子さん

辛酸なめ子(以下、辛酸) 2018年頃からだったと思います。当時から色々な煩悩をなくして、心身を身軽にしたいと思っていたんです。途中からパンデミックが発生して、もっと無心になるのを心掛けていかないと、やっていけないような感じになりましたね……。

――今まで経験したことのないことが次々と起きて、動揺することは増えましたよね……。コロナ禍になる前にやっていた無心セラピーのうち、やっておいてよかったものはありますか?

辛酸 気晴らしという意味だと、アロマテラピーを勉強しておいたのはよかったです。心を落ち着かせる系のアロマをかいでリフレッシュしていました。

 あとは、腸内細菌の力で心を整えられるか考えてみるという回で、腸内細菌を調べたんです。これは、感染を防ぐ免疫力のことを考えると、やっておいてよかったなと思いました。免疫力は腸内細菌が影響しているみたいなんですが、検査してみたら善玉菌だらけだったんですよね。このおかげで、ちょっと安心できました。

――この回、読んでて衝撃を受けました。検査の方法が、わりと躊躇する感じの……。

辛酸 便そのものを郵送するので、これをポストに入れていいのか……という気持ちになりますね。ビニール袋が何重にも重なっていて、完全に密封されているのと、入れる便は少量ではあるのですが。他人の便と一緒に郵便物が送られることになるので、たまたまそのとき郵便物を出した人には申し訳ないです。

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初心者でも無心になれる。オススメの無心セラピーとは?

――本の中でお坊さんが「今無になってる、と意識した瞬間、無じゃないですね」と言っていたのが印象的でした。となると、「無心」とは基本的にその瞬間は気づけなくて、後から振り返って「そういえばあのとき無心だったな」と思うものなのでしょうか?

辛酸 そうですね。無心になれている、と思った時点で、もう無心じゃなくなっているので難しいです。でも、無心になろうしているときって、無に近いからこそ、普段忘れていることが浮かんできやすいんですよね。「あのメール書かなきゃ」と頭に浮かぶとか。この前、瞑想をしていたときは、「そういえばメルカリでバッグ出したままにしていて何もチェックしていなかったな」と浮かんできました。

――難しいですね……。初心者にもオススメの無心セラピーって何かありますか?

辛酸 ゴミ拾いイベントに参加したときはかなり自然と無心になれた気がしました。タバコの吸い殻をひたすら拾っていったのですが、拾っている間はかなり無心に近い上に、両手がふさがっているのでスマホを見る時間もなく、デジタルデトックスにもなります。

――確かに、何かに夢中になっているときって無心に近い感じになりますよね。

辛酸 地球をクリーニングすることで、運気アップにも繋がりそうですし、参加者もその地域の地元民や大学生といった、普段なかなか会えない人たちばかりです。一回参加したくらいでは連絡先を交換するタイミングはなさそうでしたが、何度も参加して常連になると、自然と交流も生まれるかもしれません。ゴミ拾いをするような人って、波動も性格も良さそうですし。地元の人だったら、相手の働いている店を教えてもらって通うようになるとか……妄想が膨らみます。

――(めちゃくちゃ煩悩にまみれてる……)

インドで過ごすと無心になれる

――では、最も効果があった無心セラピーはなんでしょうか?

辛酸 インドで参加した「クンブメーラ」という聖者のイベントですかね。天国と地獄が共存しているような、不思議な空気感で、その空間にいるだけで、抱えていた悩みや体調不良が浄化する気がしました。お年寄りの方が行列に割り込んでくるくらい元気で、インドの大地のエネルギーとか、生命力の強さとかを感じられます。

 そこに至るまでは試練が多くて、今まで2回行ったのですが、熱中症で救急病院に運ばれたり、急に天気が変わって大嵐になったり、何度も生命の危機を感じたんですけど。あと、車の交通ルールがちゃんとしていなくて、乗っているバスが道を間違えると同じ車線内で逆走することもありました。

――怖すぎる……。

辛酸 あとは、トイレがほとんどないので野外ですることになります。バスのトイレ休憩のときは、バスから少ししか離れていないところでするので、バスの中から見えてるんじゃないか、と不安でした。インドで過ごしている最中は、もうインドはいいかな……と思うんですが、帰国して何カ月かたつと、不思議とまた行きたくなるんですよね。試練を乗り越えてちょっと鍛えられた感じがあるからでしょうか。行く前は毎回、楽しみというよりも、覚悟を決めて行くような感覚です。

無心になることの良さとは?

――無心セラピーをあれこれ試す過程で、怪しげなスピリチュアルに引っかからないのも大事かと思うのですが、どういった点に気を付けていらっしゃいますか?

辛酸 お客さんや登壇する方の雰囲気とかはチェックしていますね。人々の不安を煽るようなことを言ったり、脅してきたりする人は気を付けたほうがいいかもしれません。言っている内容が、平和や慈愛を感じさせる人なら、大丈夫だと思います。

――最後に、これまでたくさん無心になれることをやられてきて、「無心になることの良さ」はどこにあると思いますか?

辛酸 普段、心の中に浮かぶ色々な思いに、エネルギーを消耗しているところがあると思うんですよね。全然関係ない人の不倫のニュースを見て、あれこれ思ったり、気に病んだり、怒ったりして。よく考えたら自分に無関係だから、エネルギーの無駄なのに。そういうので頭がいっぱいだと、直感力も鈍る気がします。無になった部分に湧いてくる直感力や閃きで、正しい判断をできるようにしたいです。

取材・文=朝井麻由美

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