秀吉の見せ場、試される“赤井一家”の絆……青山剛昌が、劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』の見どころと今後の展開を語る!

エンタメ

更新日:2021/4/19

劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』公式サイトより

 2020年4月6日。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、緊急事態宣言が発令される前日に、雑誌『ダ・ヴィンチ』では『名探偵コナン』(小学館)の作者・青山剛昌さんへの取材を行った。あれから約1年。2度目の緊急事態宣言が実施されるなか、延期されていた劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』の公開を前にふたたび取材を敢行。ついに公開する劇場版に向けてうかがったインタビューを、WEBでも一部掲載します!

〈はやく“普通”に戻ってほしい。世の中のしくみとか、いろんなことが以前と同じ状態には戻らないんだとしても……みんなで安心してコナンの映画を観に行ける日常が、はやく戻ってきてほしいですね〉と、昨年の取材で青山さんは言っていた。あれから1年。いまだ予断を許さない状況ではあるものの、延期されていた劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』が4月16日より公開されることが決定した。

「いやあ、思った以上にチュウ吉がカッコよかったですね。赤井一家の見せ場で、あいつだけは最初から脚本に書かれていたそのままで、オレが描いたシーンじゃないんですよ。カッコよすぎてちょっとジェラシーです。見せ場の華やかさでいったら、今回の登場キャラクターで一番なんじゃない?」と、声を弾ませる青山さん。この1年はどう過ごしていたのだろう?

advertisement

「案外、なにも変わりませんでしたね(笑)。人が集まるということ自体がファンタジーになっちゃうから、今後は合コンやパーティーのシーンは描きづらいかも、なんて去年は言ったけど、合コンはもちろん、密状態の縁結び神社も描いちゃったし。今は無理でも、いずれそういう日がきっと戻ってくるはずだ、という希望と期待があるからかな。躊躇したのは物語のリアリティを損ねないためだけど、みんなのリアリティはたぶん今も人が集まることのできる現実にある。だからもう、気にしないことにしました。リモート会議とか、それ以前に普及していなかったものを持ちこむ予定もないです。今はまだ、コロナ禍の象徴みたいなものですからね。『コナン』を読んでいる間だけは、みんながそれを思い出さずにいられるようにしたい」

 ミステリーを描くうえでも、コロナ禍は不自由が多いのだという。

「だってみんなマスクしてるじゃん(笑)。最初から顔を隠せちゃって、目撃証言が何ひとつ役に立たない。そのことを利用した犯罪が増えないかというのは、現実でも心配していることですね。あと、マンガ家としては単純に不便! 何人かのアシスタントさんにはリモート作業してもらってるんだけど、意思疎通が対面よりも難しくて時間がかかる。通いで来てくれる人も、雑魚寝は禁止で食事も個別。仕方ないこととはいえ、さみしいですよね。だからオレ自身、マンガを描いているときだけはコロナを忘れていたいし、逆に描き続けていたから前を向いていられたのかもしれない」

青山剛昌さんインタビュー収録号の『ダ・ヴィンチ』

ベタから少しズレたところに読者の胸をうつ“粋”がある

 ちょっとした思い込みやすれ違いで憎しみが生まれ、時にとりかえしのつかない悲劇が起きる。けれどその悲しみを背負いながらも、自分の信じる道を進む。それは、『名探偵コナン』でずっと描かれ続けているテーマの一つ。昨年刊行された『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』――警察学校時代の安室が4人の同期と駆け抜けた青春を描いたスピンオフにもそのテーマは通底している。

「ありがとうございます。まあ、そういうことですね。で、そういうのをオレは、ドストレートからちょっとズラして描きたいんですよ。ベタな展開に照れ隠しを入れるっていうのかな。映画『タイタニック』で、甲板から身を投げようとしていたローズに、ジャックは煙草を海に投げてその深さを示すじゃないですか。で、『(きみは)飛ぶもんか』って言う。ただ力ずくで止めるんじゃないその感じがめちゃくちゃカッコよくて好きなんですよね。日本なら『俺たちの勲章』の松田優作、『あぶない刑事』の舘ひろしと柴田恭兵、『プロハンター』の草刈正雄と藤竜也……。彼らの粋な感じは、マンガを描くうえでも参考にしていますね」

 たしかに、赤井秀一などは粋の結晶みたいな男である。

「何事にも執着しないから、必要とあらばすぐに方向転換できる。すべてを超越しているのがカッコいいですよね。秀吉も読み筋を見切ったときはめちゃくちゃいいんだけど、それ以上にカッコいいのが由美だよなあ。秀吉はすべて由美のおかげで成り立っていますからね。
89巻で、あんなに手に入れたがっていた婚姻届をあっさり破っちゃうし、そのあと叫ぶ『誰にも負けんじゃねぇぞ!!このハゲネズミ!!!』ってセリフも気に入ってます。織田信長って、豊臣秀吉のことをサルではなく、ハゲネズミって呼んでいたんですよ。ねねにあてた信長の手紙にもハゲネズミって書いてある(笑)。だから由美は、茶々じゃなくてねねなんです」

 そんな秀吉&由美も登場する劇場版。青山さん的見どころは?

「秀吉の他も赤井一家の見せ場はいっぱいあるので、そこはやっぱり見てほしいですね。あとは……言いたいけど、やめておきます。みなさんだって、知りたいけど知りたくないでしょう?」

※この記事は、『ダ・ヴィンチ』版を再構成したものです。雑誌『ダ・ヴィンチ』では、100巻刊行を控え、トクベツに今後の展開のチラ見せも! あわせてぜひお楽しみください。

取材・文:立花もも

あわせて読みたい