『珈琲いかがでしょう』も話題のコナリミサトさんに聞いた! DでIでYな最新マンガ『黄昏てマイルーム』制作秘話

マンガ

公開日:2021/4/23

黄昏てマイルーム
『黄昏てマイルーム』(コナリミサト/KADOKAWA)

『凪のお暇』や『珈琲いかがでしょう』がドラマ化されるなど、魅力的な人物像を描くことで定評のある漫画家のコナリミサトさんが、待望の新刊『黄昏てマイルーム』(KADOKAWA)を発表! テーマはDIYなのだとか。なぜDIY ? 作品が誕生した経緯から制作秘話まで、お話をお伺いました。

タイトルの発想はユーミン。そして、それは仕事場の引っ越しから始まった

――まず気になったのがタイトルなんですが、『黄昏てマイルーム』って、どういった経緯で付けたのでしょうか? 『黄昏マイルーム』の名詞形ではなく、「黄昏て」としたのが気になります。

コナリさん:このタイトルは、担当さんと決めました。漫画のテーマは早々にDIYに決めていたのですが、連載を始めるにあたって(注:この漫画は情報誌『TokyoWalker』の連載漫画としてスタートした)タイトルには、直接的過ぎるのでDIYっていう言葉はあまり入れたくないねって、2人で言っていたんです。そこで、どんなタイトルにしよう…と話し合う中で、担当さんが「ユーミン(荒井由実さん)の『陰りゆく部屋』っぽい感じはどうかな?」なんて提案をしてくれまして。そこからいろいろやりとりする中で、このタイトルに決まりました。

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――確かに、ユーミンっぽい雰囲気がありますね。ところで『凪のお暇』が、節約漫画を描きたい思いから始めたと聞きましたが、この『黄昏てマイルーム』はDIYが描きたい思いが出発点だったのでしょうか?

コナリさん:はい、そうです。DIYを描きたい思いがありました。

 昔アルバイトしていた飲み屋さんのマスターが、店内の内装をDIYで手掛けているのを見ていて、私の中の記憶では「DIY=楽しそうだな」というのがずっとあったんです。けど、材料とか揃えなきゃいけないし、ハウツーとか調べると大変そうで躊躇していたんです。

 そんな折、偶然にもこの漫画を始めるのと同じくらいのタイミングで、作業用の仕事場を借りることになりまして。そこが何もない部屋だったこともあり、これを機にDIY漫画を描こうと思い立ちました。

 DIYの漫画を描けば、自分もDIY を始めることになるだろうし、私も主人公もDIY初心者だから、初心者ならではのつまずきとか、主人公と同じ気持ちを体験できるかも…いいタイミングかも!と思って、テーマをDIYに決めたんです。

黄昏てマイルーム
コナリさんが借りた仕事場も、漫画の冒頭で主人公のキコちゃんが対面した部屋のように何もなかったそう。それがきっかけで、DIYに本腰を入れることに。

――コナリさん漫画って読んで得する情報が入っていますよね。生活の知恵的な。この漫画もDIYの情報が入っていて楽しかったです。

コナリさん:生活の知恵、好きですね。さりげなく盛り込んでます(笑)。昔、早朝にやっていた関東ローカル番組で『親子クラブ』っていうアニメがあったんですよ。地球にやってきたロンパパっていう黄色い宇宙人が、人間の家族と同居する話なんですけど、その家のおばあちゃんが「重曹はね…」って生活の知恵を教えてくれるんですよ。そういうのが昔から好きで、自然と物語の中にお得情報を盛り込みたくなっちゃうのかもしれませんね(笑)。

――読んで2度おいしい的な、読み得感はありますよね。

つくったDIY作品で、物語が、主人公たちが動いていく

――漫画の中でもいろんなDIY作品が出てくるんですが、コナリさん的に「これはよくできた! 気に入っている!」ってものは何ですか?

コナリさん:漫画に描いたものは割と気に入っていますが、中でも壁面収納棚(商品名:ラブリコ)は今も棚を続々増やしています。置く物によって棚の高さを変えられたり、いろいろカスタマイズできたり、釘を使わなくていいから賃貸物件でも設置できたりするので、本当におすすめです!

黄昏てマイルーム
壁面収納棚。いろんな意味で、結構いい仕事しています!

――収納棚も含め、どのDIY作品も漫画にするために、コナリさんが1回つくっているわけですね。逆に漫画にできなかった没の作品はありますか?

コナリさん:すのこに脚をくっつけてミシン台をつくったんですが、めちゃめちゃ安定しない台になってしまって…。ミシン台って安定しなくちゃいけないのに、ミシンを使うとその台も一緒にガタガタって揺れるっていう(笑)。それはあえなく没に…。

――それだと作業しづらいですよね(笑)。コナリさんは、ストーリーありきでDIY作品をつくっていたのですか? それとも最初にDIY作品ありきで、ストーリーを練っていたのでしょうか?

コナリさん:今回の『黄昏てマイルーム』は、最初にDIY作品ありきです。出来上がったDIY作品に絡めて、ストーリーをどう展開していこうかな、って感じで考えました。

――では、つくるのに失敗しちゃったミシン台が、もし成功していたら、ストーリーは違う方向に転がる可能性があったんですか?

コナリさん:あると思いますね。もしミシン台が完成していたら、手芸を絡ませた話になっていたかもしれないです。

――今とは、違う話になっていたのかも…? 面白いですね。

コナリさん:連載開始当初は、DIYのハウツー本のテンションで漫画を描いていこうと思っていたんです。つくり方を説明した、お一人様初心者向けのDIY漫画にしようかと。

 でも途中から、打ち合わせのときに、エモさとかポエミーな情感を求められているような気がしてきて(笑)、ちょっとラブの要素も入ったほうがいいのかな…って思ってあのような流れに…。

――確かに、最初は実用漫画の色合いが強かったけれど、物語が進んでいく中で絶妙な感じで恋愛の話が絡んでいきますね。その話が最初から想定していたものではなく、ご自身でつくられたDIY作品に導かれていった点が驚きですね。DIY次第では、違うラストの可能性があったかもしれないってことですし。

コナリさん:そうですね。

黄昏てマイルーム
2話でつくった角材アクセサリーホルダー。このころの話は、実用感満載です。

主人公のキコちゃんと同じ気持ちでつくっていた

――そんなコナリさんのDIYの発想は、どんなときに思い付くんですか。

コナリさん:自分が気になったもの、つくってみたかったもので、つくれそうなものを、つくっていく感じですね。初心者なので。あと、仕事場にこれが足りないと思ったら、つくってみようかな、みたいな感じです。キコ(主人公)と一緒でしたね。キコとリンクしていました。

――今回の単行本にはカラーの実用ページがあり、つくり方をコナリさんが指南してくれましたが、その指導法がいい感じにアバウトで(笑)。「これでいいんだよ」って言われているみたいで、説明を聞いているのも楽しかったです。DIY初心者のハードルをグッと下げてくれている感じがしました。

コナリさん:DIYに大切なのはつくっちゃうことだと思っていて。失敗したら悔しいんですけど、手を動かすことが最初の一歩だと思っていますね。だから死なない限りは適当でいいかと。

――確かに、命にかかわることは注意したい(笑)。

コナリさん:だからみなさん、床と天井を板でつっぱらせたら、柱のアジャスターはちゃんと締めましょう。あと換気ですね。私、ペンキを塗っているときに換気を忘れて、ラリってフラフラになったことがあるんです。命に関わること以外は、純粋に楽しんでほしいですね。

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特に接着剤や塗料を使うときは、必ず換気をしましょう。ケガにも気をつけ、安全を心掛けることも楽しいDIYライフには大切です。

――時々失敗も…?

コナリさん:全然ありますよ。ラブリコの柱を、ろくに計算をしないで買って来ちゃったりして、入れたい場所にハマらなくて自己嫌悪に陥ったり。「もぉ~、こういう思いをしたくなかったから、DIYに手を出さなかったんだよぉぉぉ。もうバカバカ…」ってなったり(笑)。

 そのトライ&エラーを繰り返していく中で、いろんな技術を学んで、どんどん成長していくって感じです。それに売り物じゃないから、自分がよければいいし。失敗した部分も味だし、使っているうちに「かわいいな」と思えるようになります。

――読者にもその楽しさを感じ取ってもらえたら、と。

コナリさん:今、家にこもらなきゃいけないご時世になっていますよね。そんな中、自分で何かつくるのって、結構楽しい作業じゃないかなって。

「DIYは面倒くさいし、失敗したら材料費がもったいない」とか二の足を踏んじゃうこともあるんですけど、自分もやってみたらすごい楽しかったんで、ぜひチャレンジしてほしていですね。簡単なタイルコースターからでも、ぜひ。そして出来上がった作品は、Twitterにアップしてくれるとうれしいです!

黄昏てマイルーム
簡単につくれるタイルコースター。まずはここからトライを!

――次はどんな題材の漫画を描きたいと思っていますか?

コナリさん:手芸ですね。興味はあるけど、手を出せずにいるジャンルなので。

――手芸漫画もコナリさん風のアバウトさがある感じなんですかね…? 手芸のハードルをグッと下げた漫画を描いてくれそうですよね(笑)。

コナリさん:トライ&エラーでつくっていけば、なんかなるかなぁって思っていますね(笑)。

取材・文=平川 恵

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