心も身体も震わせる。今のReoNaのライブが、特別な理由――ReoNa『ないない』インタビュー(前編)

アニメ

更新日:2021/5/12

ReoNa

 4月29日。パシフィコ横浜国立大ホールで行われた、「ReoNa ONE-MAN Concert Tour “unknown”」のツアーファイナル公演は、本当に特別な時間だった。ReoNaがステージから届けるお歌、曲間で紡ぐ言葉、バンドが奏でるギターやピアノの音まで、何ひとつこぼさず、どれひとつとして忘れることなく、すべてを大事に持って帰りたい。そんなことを感じさせるライブだった。MCでReoNa自身が「思い出をたくさん作りたい」と述べていたのも印象的だったが、きっと多くの聴き手にとって、今のReoNaのライブは、忘れられない記憶として残り続けることだろう。ツアーファイナルの充実ぶりが示すように、ReoNaのライブは、明らかに進化している。一対一であることは変わらず、ReoNaとリスナーの精神的な距離は、より近づいている。再三、「ReoNaは依り代、器である」と書いているけど、楽曲のメッセージにReoNa自身の想いが濃く流れ込むことによって音は強度を増し、聴く者の心を震わせると同時に、フィジカルな魅力も獲得している。ReoNaのお歌は、パフォーマンスは、新たな段階に入ったのだと思う。

 今回は5thシングル『ないない』のインタビューだが、前編ではReoNaのライブの進化が何によってもたらされているのか、を中心に話を聞いた。それは、ReoNa自身の心のありようと、深く関係している。

ここで届ける、その一瞬一瞬に込める熱量が、どんどん増してきている感覚がある

――ツアー初日の神戸公演は、どんな体験になりましたか。

advertisement

ReoNa:アルバムツアーということと、ホールでコンサートをするツアーも今回が初めてで。『unknown』をリリースしてから半年近く経っていて、やっと今回顔を見てライブでお届けできる楽曲もあったし、そもそも演奏が初めての楽曲もあったので、今までとはちょっと違う緊張感がありました。久しぶりであることも含めて、直前までのそわそわ感は、今まで経験してきたライブの中でもかなり大きかったんですけど、そわそわ感の大きさとは裏腹に、ステージに上がってからの集中力も実は今までの中で一番持てていたと思います。ステージ上から一緒にお歌を届けているバンドさんの集中力だったり、わたしのお歌を届けるにあたって、その音を作ってくださっている方々全員の熱量があったからこそ、1曲目から集中して臨めたステージでした。

――ここ数ヶ月のライブを時系列で振り返ると、年末12月のLINE CUBE SHIBUYA公演(『ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”』)は、かなり印象に残るライブでした。ReoNaの音楽と歌が素晴らしい、というのはわかっているつもりだったけど、ステージにおけるフィジカルな音楽的魅力も加わったな、と思っていて。ライブでは一対一の空間ができているから、毎回心にずっしりくるんだけど、「身体にも作用するライブになっているな」と。

ReoNa:それは、単純に歌の技術が上がっているのか、わたしがもう一歩気持ち的に踏み込んでお歌をお届けできるようになったのかだと、どちらなんでしょう?

――おそらく後者じゃないかな、と。もちろん技術も向上しつつ、ステージにいるときの気持ちのありようも少しずつ成長しているのでは?

ReoNa:まさに、『ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”』のライブには懸けるものがありました。2020年でいうと、延期になっていた『ReoNa Live Tour 2019“Colorless”』の名古屋公演を除くと、1年でお届けできる最後のワンマンライブのチャンスだったし、ReoNaの人生を変えてくれた『ソードアート・オンライン』という作品があって、その作品にまつわる楽曲でライブができるくらい、アーティストとして深く深く作品に携わらせていただいているので、あの日に持っていた想いは、確かにすごく大きかったと思います。

――『ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”』は、リアルとオンラインの両方で観られるライブだったじゃないですか。生音に勝るものはないとは思うけど、遠く離れた人にも届ける強い気持ちがあったからこそ、出力が上がってたんじゃないかな、と。

ReoNa:あのときはハイブリッドで、目の前にいる方と画面越しのあなた、どちらとも一対一を作ることを経験しました。それまでは、完全に配信のみの撮影を経験したことはあったんですけど、生で紡いでいるお歌、プラス配信を初めてワンマンライブでやってみて、カメラ越しの一対一というのも存在するんだなって実感しました。全員が最前列にいて、まわりの誰を気にするでもなく、自分の空間、選んだ空間でお歌が受け取れることの強み、みたいなものを感じて、そこで意識がちょっと変わったかもしれないです。だから、出力が上がった……上げてもらった、上がらざるを得なかったところは、確かにありますね。

――上がらざるを得なかったとして、上がるキャパシティがないと出力は上がらないわけだから、正しく力が発揮された、ということですね。それを目の前で体験できたという点でも、『ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”』のライブは素晴らしかったと思いますけども。

ReoNa:やっぱり、ライブは「目の前にいるあなたとの一対一」だと思ってきて、その空間だけの特別をずっと大切にしてきましたし、リリースイベントのようなすごく近い距離から、アニサマやリスアニ!LIVEのように大きな会場でも、変わらず「あなたに」という距離感をすごく大事にしてきました。でもそれは、画面越しでも変わらないんだな、と思いました。画面越しのあなたもひとりの人間だし、その時間を、お歌を受け取ることを選んでくれたあなたなので、そこは『ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”』を経験してみて実感しました。

――逆に、トリを務めた『リスアニ!LIVE 2021』は映像で観させてもらったんだけど、印象的だったのが、“ピルグリム”と“unknown”を歌っているときの表情で。何度もライブを観させてもらっているけれども、「こんなに楽しそうに歌う人だったかな」って、ちょっと思ったわけです。歌えることの喜びのようなものを発散している感じがあったし、画面越しだからわかることだけど、「こんなに優しい表情で歌うんだな」と。ステージ上で歌っている今の自分について、どう感じてますか。

ReoNa:確かに、楽曲によって「伝えよう」と思うものが少しやわらかく、優しくなったなって、自分でもすごく感じています。“unknown”や“ピルグリム-ReoNa ver.-”の場合、楽曲の中に詰まっている孤独や痛みの割合が大きかったりもするんですけど、特に『リスアニ!LIVE 2021』のときは、楽曲が持つ優しさや、寄り添う部分を届けようと意識することで、微笑んでいたり、言葉の優しい部分を声に乗せようとした部分はあったと思います。特に“unknown”は、『LIVE EMPOWER CHILDREN 2021 supported by Aflac』という、小児がんのチャリティーオンラインライブに出させていただいたときに、イベントの趣旨を踏まえて、「“unknown”が届くといいな」と思って歌ったときに、やわらかく、優しく歌うことができました。そういう経験も経たことで、確かに今のライブでは、優しい顔をしている瞬間はあるな、と自分でも思います。

――“unknown”という曲が持つ言葉やメッセージが、歌うときの佇まいにも影響を与えている、と。

ReoNa:そうだと思います。曲の持つ優しさや、寄り添いを、たぶんそのときのわたしがもうありったけ伝えようとしたから、そういう表情になったんだと思います。

――これは仮説なんだけど、その状態を今はある程度コントロールできているんじゃないか、と思ったんです。“ANIMA”のインタビュー以降、自分は再三「ReoNaは依り代、器である」と言っているけど、それってある種憑依系のニュアンスが含まれるというか、ReoNaが歌っている場所に音楽の何かが降りてくる、みたいなイメージだったんですよ。降りてくるのを受け入れるのが、依り代であり器であって、それってコントロールできるものではないじゃないですか。

ReoNa:そうですね。操られているというか、何かを借りてきている部分もある。

――そうそう。でも、『ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”』や『リスアニ!LIVE 2021』を観ていて思ったのは、「降りてくる」だけではなくて、「降ろしている」感じもあるんじゃないか、と思ったわけです。コントロールという言葉を使ったけど、曲の持つメッセージや、届けたい想いを、器でありながら、自分の意志もそこに通してアウトプットすることができているんじゃないかな、と。

ReoNa:そこは、最近のライブで意識できているなって感じるところです。もちろん、今までも一回一回目の前のライブに打ち込んで必死にやってきたんですけど、最近のライブではまたひとつ、「今の自分」をすごく意識できている、というか。ただ緊張してるだけではなく、ただ熱に浮かされて高揚しているだけでもなく。地に足をつけて、と言うと、ちょっと違うかもしれないですけど――。

――「ふわふわしてない」っていう意味では、そうなのかもしれない。

ReoNa:そうですね。ここで届ける、その一瞬一瞬に込める熱量、みたいなものが、どんどん増してきている感覚はあります。

――冒頭に言った、「フィジカルな音楽的魅力が増した」というのは、まさにそこからきてるんじゃないかな、と思います。音楽に対して依り代、器になれるところがシンガー・ReoNaのすごみでありつつ、同時にReoNaは体温を持ったひとりの人間なわけで、楽曲に「人間」を通すことで実感がこもるというか、曲に実体が伴って、より深く伝わってくるようになったのかな、と。

ReoNa:まさに、ライブに関しては、どんどんチームとの連携も取れてきていますし、一歩一歩ステップを踏みつつ、ちゃんと右肩上がりにすることができているな、という感覚があります。それは自分が思っているだけではなく、ちゃんとお歌に乗せてお届けできているんだなって実感ができたので、嬉しいです。

ReoNa

ReoNa

ReoNa
Photo by 平野タカシ

『unknown』はReoNaというシンガーを決定づけてくれた、ReoNaらしさを作ってくれた1枚

――ここまで、最近のReoNaのライブのすごさを話してきたわけですけども、やっぱり『unknown』というアルバムを経ての今である、という部分はめちゃくちゃデカいな、と思ってまして。

ReoNa:はい。今回の“ないない”で感じていることでもあるんですけど、「絶望系アニソンシンガー」という言葉を掲げてお歌を紡いてきた中で、果たして「絶望系ってなんなの?」というところで、デビュー前から言い続けているのが、「失恋した痛みに寄り添ってくれる失恋ソングはたくさんあるのに、絶望を言葉にしてくれる絶望系ソングはなんでないんだろう」ということで。でもわたしはそれに救われてきたから、今度はわたしがお歌を紡ぐ側になって、絶望に寄り添えるお歌を紡ぎたいと思っている中で、その「絶望系」というものの幅が、どんどん広がってきているんだなって感じています。

 特に、ライブで“unknown”を歌うときにやわらかい表情になっていたのは、楽曲自体が優しく柔らかく、認めてあげるような形で絶望に寄り添う楽曲だったからだし、逆にアルバムで初めて音源化できた“Let it Die”は、心の悲痛な叫び、痛みの吐露のような楽曲で、「痛々しいもので絶望に寄り添う形」だと思っています。楽曲がひとつできるたびに、またひとつ新しい角度からの絶望への寄り添い方ができていって、意図せず統一感のあるアルバムになったなって、今振り返ると感じます。名もなき絶望に名もなきお歌で寄り添うことができた、そういうアルバムがあったからこそ、今回の“ないない”というシングルも生まれてるのかな、と思いますし、『unknown』がReoNaというシンガーを決定づけてくれたというか、ReoNaらしさを作ってくれた1枚だったと思います。

――『unknown』のリリース当時に話していたことで「いいなあ」と思ったのが、「わたしだけじゃない、ということが誇れる」って話だったんですよね。出発点は個の絶望だったかもしれないけれども、クリエイターさんや曲を聴いてくれる人にも共有された結果、いろんな力が加わって『unknown』が形作られていったんだな、と。

ReoNa:本当にそうですね。全楽曲を通して言えるのは、「ReoNaだけの絶望じゃない」ということです。楽曲が出来上がっていく段階から、ReoNaの絶望と、それに気持ちを重ねてくださったクリエイターさんの絶望、それを受けて言葉や音で表現してくれたミュージシャンさんの熱量が加わっていて、わたしだけのものじゃないところは、すごく誇れる部分です。

――そうして生まれた表現が、それぞれの場所で一対一を作っていく。変な話、こういう音楽性としては珍しいと思うんだけど、ReoNaのお歌でありつつ、「ReoNaとみんなのお歌」になっている部分もあるなあ、と感じますね。だからこそ、ライブにおける一対一の精度も、どんどん上がっていくし。

ReoNa:「自分ごとにしてほしい」と思いますし、「わかる。それ、わたしもそうだな」って、受け取ってくれる方のものでもあるお歌、は確かに目指してきたことですし、どんどんその深度が深くなっていったらいいな、と思います。

――聴いているうちに、いつの間にか自分ごとになってきているし、共感することもあるし。

ReoNa:それは本当に嬉しいです。自分はそうやって音楽に救われてきたし、自分がそこにいたいな、と思います。それに、自分ごとにできた楽曲って忘れないですよね。深く、ちゃんと記憶に残る。それは、最近になって昔自分が好きだった曲を振り返って思うことでもありますし、単純にメロディーとして好きな楽曲だったり、語感が好きな楽曲、声が好きな楽曲もたくさんある中で、やっぱり何年経っても聴き返しちゃう曲って、自分に当てはまるものなんだな、という感覚があります。

――聴いたときの気持ちを思い出せる音楽、それがReoNaの音楽なんだなって思いますよ。

ReoNa:思い出しますか? 「“SWEET HURT”の頃、こうだったな」とか。

――それはだいぶある。きっと、リスナーの人もそうだと思うし、聴いたときの自分の気持ちが曲と結合して残っていく、そういう音楽なんでしょうね。

ReoNa:わたし、すべての感情の中で、「懐かしい」が一番優しいと思っていて。そういう意味でも、記憶と音が結びつくのは、すごく優しい経験だと思います。そうあり続けられたらいいな、と思います。

ReoNa『ないない』インタビュー 後編は5月13日公開予定です

取材・文=清水大輔 写真=北島明(SPUTNIK)ヘアメイク=Mizuho



あわせて読みたい