「絶望系アニソンシンガー」の最新アップデートにして、最高傑作の4曲を語る――ReoNa『ないない』インタビュー(後編)

アニメ

公開日:2021/5/13

ReoNa

 ReoNa5枚目のシングルは、TVアニメ『シャドーハウス』のエンディングテーマを表題曲とする『ないない』(5月12日リリース)。『SWEET HURT』『forget-me-not』『ANIMA』と、デビュー以来最高のシングルを連発してきたReoNaだが、あえて言うなら、『ないない』は楽曲群としての精度という点でそれらを凌駕する、最高傑作であるとお伝えしたい。今のReoNaを知るなら、『ないない』に収められた4曲(仕様によりカップリングが異なる)を聴くのが、一番早い。TVアニメ『シャドーハウス』の世界を体現し、4月のツアーファイナルでも圧巻のパフォーマンスを見せつけた“ないない”。表題曲と対をなし、シンガーとしてのすごみを刻みつけた“まっさら”。「絶望系アニソンシンガー・ReoNa」の最新アップデート形態を示す“生きてるだけでえらいよ”。自身のルーツであるカントリー調の楽曲で、ポジティブなメッセージも内包した“あしたはハレルヤ”。シンガー・ReoNaの表現力を全方位的に拡張した、聴き応え十分のシングルである。インタビュー後編は、シングル収録の4曲について、ReoNa本人の解説を交えながら、じっくり迫っていきたい。

 ちなみに、ダ・ヴィンチニュースでは、さまざまなアニメを観たインプレッションをReoNaが書き記す連載コラム企画も準備中。5月中にスタートの予定です。お楽しみに!

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絶対値的に振り切れてるものができました

ReoNa:お話することがいっぱいあるシングルになりました。

――いっぱいある?

ReoNa:いっぱいあります。

―― “forget-me-not”や“ANIMA”も含めて、すべてのシングルで取材をさせてもらった身としてあえて言わせてもらうと、『ないない』は最高傑作です。

ReoNa:そう言っていただけると、グッとくるものがあります(笑)。

――話すことがいっぱいあるということで、まずはシングル全体に対して感じていることを話してもらえますか。

ReoNa:このシングルには4曲収録されていて。まず出来上がったときに「大丈夫だろうか」と思いました。これだけ色とりどりで、深い絶望から、ちょっと落ち込んだときに聴けるような曲があって、このバラバラさに対して「いったいこのシングルを受け取ってくださった方はどういう反応をするんだろう」と感じました。『ANIMA』から出会ってくださった方、『unknown』からReoNaを知ってくださった方にどんな響き方をするんだろう、というドキドキワクワクに、ちょっとだけ不安も混じるような感じが、最初はありました。というのも、今まで自分が開けてこなかった扉を、たくさん開いたシングルだな、と思っていて。クラシカルな表題曲や、今までにないくらい壮大なバラードがあって、逆に言うと今だからこそ開けた扉、今までがあったからこそ、ここまで挑戦することができた1枚になったのかな、と思います。

――ReoNaができること、やれることを全方位に目いっぱい振り切った楽曲が4つあるって感じですよね。ということは、「今、この時点でのReoNaを知りたければ、これを聴けばわかるよ」という1枚になっているんじゃないかな、と。

ReoNa:本当にそうですね。絶対値的に振り切れてるものができました。

――なんか、『シャドーハウス』にものすごく楽曲がハマっていたことに驚いて――。

ReoNa:すごい出会いを果たしたなって、今になって改めて思います。お話をいただいた当初は、作品の世界観に対してReoNaはどう寄り添えるんだろう、と思いましたし、まったく未知の世界でした。作品のインパクトに対して、目いっぱい制作をした結果できたこの曲は、本当に誇らしいです。

――“ないない”っていうタイトルにもビックリしたというか。“Null”“unknown”とか、「ないこと」がある種のキーワードになってきたのがReoNaの音楽活動であって――。

ReoNa:そうですね、“Null”“unknown”と、『ReoNa Live Tour 2019“Colorless”』もそうですね。ないものだらけ、ないないだらけでした。

――ないものだらけを経て、“ないない”っていう楽曲が出るのは痛快だなあ、と。

ReoNa:ちょっと角度を変えて日本語になっただけで、ReoNaにはずっとあった言葉なんですよね、「ない」って。すごく新しいように思えて、実はあったんだっていう。

――前編で話してくれたように、1stアルバムの『unknown』を筆頭に、今までの楽曲が“ないない”のシングルにつながっているっていう話があったけど、もう「ほんとそれ」って感じですね。

ReoNa:本当にそうなんです。振り返って、『unknown』というアルバムで絶望への寄り添い方をいろいろな曲で経験して、それがじわっと広がったことによって、今回は全方位に行けたなって思います。まさに、アルバムがあったからこそだなって思います。

――2018年夏の“SWEET HURT”から、すべての音楽活動――リリースやライブや楽曲があって、ここまで進化してきたんだな、ということが伝わる、素晴らしいシングルであり、表題曲ですよ。ノンクレジットのエンディング映像も観たけど、楽曲と映像の融合がここまで見事なものはなかなかないと思うし。

ReoNa:ちゃんと楽曲が寄り添った分、作品からも寄り添われているなって感じられた映像でした。ガラスが割れる音やリズムを打つ音、印象的なチェンバロの音が、絵とハマるとこんなに気持ちいいんだなって。作品の方々に、曲を大切にしていただいているなって、強く感じています。

――表題曲の“ないない”の歌詞は、ダークだけどユーモアがあって、面白い仕掛けが施されてますけども、受け取ったときに感じたことは?

ReoNa:“ないない”に関しては、歌詞が出来上がっていく過程をけっこう横で見ていたんですが、歌詞の芯になる部分は、ReoNaが“unknown”で「本当の自分っていったい何なんだろう。何色をしてるんだろう、それっていったい誰が決めるんだろう」というお歌を紡いできたことに対して、ハヤシケイさんが出したアンサーが、「自分という存在は常に誰かの鏡である」ということでした。そもそも本当の自分なんて存在しなくて、ただ誰かとの比較、誰かの鏡みたいな自分があるだけ、という。

――面白い。“unknown”をいったん否定するところから始まっている、と。

ReoNa:そこはハヤシケイさんのひねくれてるところでもありつつ、ハヤシケイさんらしい部分でもあるな、と思います。「本当の自分なんてないんですよ」と。そして、存在がない、個性がないことに、苦しんでるわけです。でも、確かにわたしも考えたことがあって、例えば食べ物の好みだったり、音楽の好みだったり、自分が小さい頃目指していた将来の夢とか、家で出てきたご飯とか給食で出てきたもの、街中で聴いた音楽とか親の職業、友達が目指している夢……いろんなものをちょっとずつもらって、自分ができている感覚がすごくあって。じゃあ本当の自分って、それら一切の受けた影響を全部そぎ落としたものなのか、誰かに与えられたものを自分が好きになって自分が選んでいるから、それも含めて本当の自分なのかって。

――深い。

ReoNa:でもほんとに答えのない謎じゃないですか。

――実存とは、自分とは。

ReoNa:自分とは、という底なしの謎かけのようなテーマに対して、歌詞で韻を踏んでいたり、作品に対して言葉遊びで寄り添うような歌詞をつけて出来上がったのが、今回の“ないない”です。それを横で見ている中で、自分がこの楽曲を一体どんな声でどう歌うのかは、最初のデモの段階では想像がつかなくて、完成形の歌い方にたどり着くまでにはいろんな模索がありました。

――確かに、歌詞にユーモアがあるとはいえ、そのままやれば正解なわけではないし。

ReoNa:はい。歌詞の芯になっている部分は不穏で、答えのない謎かけも含みつつの言葉たちが含まれた歌詞なので。

――なるほど。ちなみに、今回のシングルでは、楽曲制作のどんな部分にコミットしてるんですか。

ReoNa:今回は、クリエイターさん発信で自然と出来上がっていく楽曲もあって、“まっさら”に関しては、歌詞もメロディーも全部固まっていたものを、毛蟹さんが自分の思うままに形にして出来上がりました。一方で、“あしたはハレルヤ”に関しては、ReoNaの制作史上、歌詞が最も難航しまして。

――へえ~。一番さらっとした歌詞に聞こえるだけに、意外かも。

ReoNa:たぶん、そこがまた難しかったんだと思います。あのメロディーで重苦しいことを言っても響かないですし。“あしたはハレルヤ”に関して、わたしは一体何枚メモを書いただろう、と思います。でも、いろんなことを提案して、初めて最後の一行、一文字が出来上がるまで立ち会えた楽曲で、かつてなく深く作詞にも関係することができました。自然発生的に、わたしが必要なときは自分も死ぬ気で制作に入り込むし、そうじゃない楽曲は自然と出来上がったものに対してどうReoNaを重ねるか、にトライする制作でした。

――“あしたはハレルヤ”は、絶望系でありつつ、ポジティブなメッセージも含む歌詞になっていて。

ReoNa:そうですね、とらえ方によってはすごくポジティブにも見える言葉になりました。

――《どうしようもない人生でいんじゃない?》、ここが面白いなと。どうしようもない人生であることはいったん受け入れて、それを肯定してみてもいいんじゃないかっていう。

ReoNa:まさに、そこが軸になった言葉でした。本当に言葉の通りなんですけど、「どうしようもない人生でいんじゃない?」って思うことの難しさって、すごくすごくあるんです。「どうしようもなかったら、やっぱだめじゃん!」って。

――……確かに(笑)。

ReoNa:その言葉が大きいからこそ、他の部分の歌詞が、なかなか出てこなくて。そこでクリエイターさんが苦しんで、わたしもその苦しみとともに、「こういう表現どうでしょう?」とか、日常のささいな絶望を羅列して送ってみたり。いろんな方向から《どうしようもない人生でいんじゃない?》にたどり着くまで、すごく模索しました。

――《どれもこれも抱えていけたらな》も、絶望系アニソンシンガー・ReoNaを体現する一行だな、と。「何も降ろさないよ」っていう。

ReoNa:はい。なるべく全部拾っていきたいし、でも腕は二本しかないから、順番も選ばないといけなければ、きっと気づかぬうちに落としているものもあって。どれもこれも全部、抱えて全部覚えていられたらいいんですけど、どうしても忘れていってしまうものもあるし、まさしくReoNaとして抱えている気持ちのひとつですね。

ReoNa

『ないない』は、絶望系アニソンシンガーという言葉の意味を、またひとつ深くしてくれた1枚になったと思います

――“生きてるだけでえらいよ”は、絶望系アニソンシンガー・ReoNaの最新アップデート、という趣きがありますね。とりあえず、歌詞が斬新すぎて。

ReoNa:この曲を受け取って、少しでも感情が揺れた方は、ぜひブックレットで文字としてもこの曲を受け取っていただきたいな、とすごく思います。

――絶望の風景として、絵が浮かびすぎてヤバい、というか。

ReoNa:そうなんです。歌っているときも、雑多な街並みとか、日差しの中にあるマンホールとか、駅のホームとか、薄暗い教室もそうですけど、どういう場所にこの曲の主人公がいたのか、すごくわかる曲ですね。

――聴く人それぞれの原風景に飛ばされる曲なんだろうなって思いました。

ReoNa:楽曲ができるにあたって、わたしが経験談を話したりしたわけではないんですが、キーワードとして、作詞・作曲の傘村トータさんとReoNaの共通項探しをしていく中で、「生きてるだけで偉いよ」って言われたいし、今苦しんでる人に言いたいけど、ほんとにそれすら眩しいとき、それすら押しつけになってしまうときに、眩しくも痛くもなく届けるのは難しいよねっていう話をしていて。まったく結論づいていない話の果てにこの楽曲があがってきたので、そういう意味でも最新アップデートというか、新しい引き出しを見せられたなって思います。“生きてるだけでえらいよ”って、楽曲の主人公が言われることによって、自分が言われているような感覚、寄り添われているような感覚になれるところまで至った傘村トータさんの頭の中って、一体どうなってるんだろうって思いました。

――ハヤシケイさんや毛蟹さんのクリエイティブがそうであるように、傘村トータさんも器なんでしょうね。

ReoNa:もう、ほんとにそうですね。いろんな人の人生の器が、ここにあるな、と思います。

――この曲に限らず、「歌詞に書かれていることがReoNaの原風景です」というわけではなくても、その傍らにあったごろっとした絶望みたいなものとはずっと向き合ってきているわけで、となると制作時に絶望との対峙は必然的に発生したんだろうな、と想像したんですけども。

ReoNa:はい。歌詞の通りではなくとも、歌詞に近いことはわたし自身も今までの人生で通ってきていて。帰り道がとてつもなく長い道のりに感じるときもあれば、逆に家から出て目的地に向かうときに、行きたくなくてしょうがないときもあって。そういうときって、ただたどり着くのが嫌で、足取りも重くなる日があったり、電車にすら乗っていられなくて、ホームでぼーっとしていた時間もあったし。最後の方に綴られている、「食べるものとか寝るところだってあるから、そういう人たちと比べたら幸せじゃん」という考え方も、まさしく自分が自分に言い聞かせていた言葉でした。どうしても、自分の中の物差しでしか自分の絶望は測れなくて、だからこそ学生の頃は、「自分よりもっとつらい人がいるから、自分はまだ大丈夫だ」って言い聞かせて、自分をなんとかごまかしていたことがありました。そういう経験がなかったら、この歌詞は歌えなかったかもしれないですし、上がってきた歌詞に何ひとつ疑問も違和感もなく、自分を重ねられたので、自分の原風景や体験に向き合うことになりました。

――この曲の何がすごいかというと、そういう絶望的な体験をしていない人でも共感できてしまうところなんですよね。歌われている駅の風景が自分にも見えたし、横断歩道のシマシマ――。

ReoNa:《ひとつ越えるのにも 3 歩かかるの。》

――もう、めちゃくちゃわかる。で、それってなんでなんだろう?って。

ReoNa:魔力ですよね。言葉の魔力というか。その風景にぐっと自分が引き込まれる感じ。ある種、小説を読んでいるときもそうだなって思います。自分がそういう経験をしていなくても、なんとなくその風景が浮かぶ。歌詞の書き方も含めて、ほんとにお歌だけじゃない何かが、この曲にはあるような気がします。

――“まっさら”は、これまでのReoNa楽曲の中でもとりわけ引力が強いというか、気持ちを持っていかれる、曲との一対一に無理やり引きずりこまれるようなパワーがある曲だな、と。

ReoNa:“まっさら”が出来上がった経緯としては、“ないない”とまったく同じタイミングで毛蟹さんが「『シャドーハウス』を僕なりに読み解いて、こんなのもできました」って上がってきた曲でした。その意味では、この曲も『シャドーハウス』からできた楽曲なので、違う角度から『シャドーハウス』を紐解いた楽曲なんですけど、作品の中にある切なさだったり、命が踏みにじられる感覚を毛蟹さんの中で紐解いた楽曲なんだろうなって感じました。

――歌としての迫力に飲まれる感じがあるんですよ。《壊れた時計 冷めた紅茶》のところ、何度聴いても歌声が震えるほど素晴らしくて。

ReoNa:嬉しいです。まさにそのあたりが、この楽曲の主人公の嘆きであり、叫びであり、吐露なんですよね。そこまでは浮かんできた疑問に対して問いかけをしていたところから、言葉尻も心がこもったものになっていく。その部分はレコーディングでも意図して作ったところだったので。何度でも鳥肌を感じていただきたいです。

 この曲に関しては、「THE FIRST TAKE」を経験させていただいたことが、大きかったかもしれません。想像の範囲なんですけど、毛蟹さんが「THE FIRST TAKE」や今までのReoNaを観てきた中で、「きっと今なら、これも歌えるんじゃないか」ということで作ってくださって、こういう楽曲になったのかなって思います。なんでしょう、「一対一力」というか。

――なるほど。

ReoNa:そのとき、その瞬間の最大風速で録れた一番いいものがずっと残り続けるものに対して込められるパワーみたいなものは、きっとただ歌うだけだったら今までのReoNaでもできたんでしょうけど、この“まっさら”に至っては、今のReoNaだからこそなのかなって思います。

――素晴らしい。いや、ほんとに、シンガーとしての凄みがここにあるなって思いますよ。今回の4曲の中で一番それを感じさせるのは“まっさら”だなって。

ReoNa:挑戦だな、と思いました。壮大で、旋律も美しくて、オケも美しい曲の中で、歌が主人公としていなきゃいけない、ひとつひとつを歌が超えていかないといけない、ということなので、腹筋が筋肉痛になるくらい、体が悲鳴を上げるくらいに、全力で歌いました。でも、そうは聞こえてないといいなって思うんです。

――必死感は、特に感じなかったかも。

ReoNa:そうなんです。必死っていうものに潰されちゃう感情もあるじゃないですか。「必死に歌ってるな」って思うと、言葉がまっすぐ入ってこなかったりしますよね。悲痛さや切なさも届けたいけど、今回は初めてホルンやフルート、金管楽器と木管楽器が入った楽曲になっているので、その高らかさ、賛美歌感を歌で表現したいな、と思って臨みました。

――なるほど。『ないない』というシングル全体に、とても手ごたえを感じていることが伝わってきましたよ。

ReoNa:はい。絶望系アニソンシンガーという言葉の意味を、またひとつ深くしてくれた1枚になったなって思いますし、この一枚を経て、これからReoNaの楽曲がどうなっていくのか想像できる余地を、この楽曲たちが切り開いてくれたと思います。未来にもすごくワクワクする1枚ですし、実際これだけ色とりどりなので、今までのReoNaの楽曲に加えてライブでお届けするときにどんな立ち位置になるんだろう、と考えると、いろんな部分で作っていける余白もある楽曲たちです。この“ないない”の4曲がどんな一対一をこれから作ってくれるのか、すごく楽しみを増やしてくれました。

ReoNa『ないない』インタビュー 前編はこちら


取材・文=清水大輔 写真=北島明(SPUTNIK) ヘアメイク=Mizuho

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