感情のダム決壊! 絶対見逃せない後半の重要シーンとは──『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』松岡禎丞×大西沙織対談

アニメ

公開日:2021/5/27

 いつの頃からだろう、「幼なじみ=負けヒロイン」の図式ができたのは……。子どもの頃から主人公の隣にいたのに、いつのまにか他のヒロインにかっさらわれる。ずっと彼を支えてきたのに、不遇な当て馬ポジションに追いやられる。そんな暗黒時代に終止符を打つべく、冷遇され続けた「幼なじみヒロイン」の復讐(リベンジ)が今、始まる! さあ、全国ウン千万の幼なじみラバーよ、立ち上がれ──!!

 4月14日からスタートしたTVアニメ『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』(通称『おさまけ』)は、タイトルどおり、幼なじみの“勝ち”が約束されたラブコメディ。と言っても、そう簡単に事は運ばない。小悪魔系幼なじみ・志田黒羽、クールビューティーの女子高生作家・可知白草、「理想の妹」と呼ばれる人気女優の桃坂真理愛の3人が、主人公の末晴をめぐって大激突! さらに、ストーリーが進むと、衝撃的事実も……!?

 そんな『おさまけ』の魅力をキャストの対談で深掘りしていく。今回は、主人公・末晴役の松岡禎丞さんと、その妹的存在である真理愛役の大西沙織さんが登場。劇中では、仕事上の先輩後輩であり、兄妹のような関係でもあるふたりを演じた松岡さんと大西さん。実際、同じ事務所の先輩後輩にあたるふたりが、末晴&モモを演じて感じたこととは?

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幼なじみが絶対に負けないラブコメ
(C)2021 二丸修一/KADOKAWA/おさまけ製作委員会

「王道のように見えて王道じゃないのが面白い。後半に向けてどんでん返しもあります」(松岡)

──まずは、ご自身が演じるキャラクターについて印象をお聞かせください。

松岡:末晴は、物事に対してまっすぐなキャラクターだと思います。抱えているものは多いですが、それらをひとつずつ乗り越えて先に進んでいって。とはいえ、まだ高校生なので、対人関係、特に異性に対しては不器用で空回りしているんです。まあ、それを言ったら登場人物全員空回りしてますけど(笑)。

大西:確かに(笑)。私の場合、モモ(桃坂真理愛)を最初に演じたのは、原作の新刊告知PVでした。その時は本当にひと言ふた言ぐらいだったので、「かわいい理想の妹が出ますよ!」という感じで、アイコン的な演じ方をさせていただきました。でも、今回アニメでモモを演じていくと、理想の妹で大人気女優であるだけじゃない面を強く感じました。遠くから見たらかわいいハート型の風船だけど、その中には針とかいろんなものがたくさん入ってて、パン!と割れると全部見えてくる……みたいな(笑)。一見かわいくて柔らかなイメージですが、実は末晴の過去を知っているので、彼に対して働きかける力が白草や黒羽よりも強い気がします。面白いキャラクターだなと思います。

松岡:実際、モモみたいな子が現れたら、僕は騙されると思う(笑)。ただ、付き合いが長くなるにつれて「あれ、こいつなんかおかしくね?」ってなりそう。「本心で言ってるのかな」って疑い始めるんじゃないかな。大西は、末晴についてどう思う?

大西:末晴は……うーん、なんて言うんですかね……。個人的にはそんなに好きじゃないかな(笑)。私はどちらかと言うと白黒はっきりつけたいタイプです。末晴は周りに振り回されるポジションなので、あちこち気持ちが揺れ動いたり、素直になれなかったりする部分がありますよね。「なんでそんなに決めきれないの……」と思うことは多々あります。もうちょっと男らしく行こうよ、みたいな。ただ、そうやって揺れ動くさまが楽しいというのも共感します。自分と末晴を重ね合わせて、いろんな女の子に振り回されるのも楽しいんじゃないかな。

松岡:そもそも“ラブコメ”だしね。

大西:でも、でも……! 末晴にはもうちょっとはっきりしてほしいですけどね。

松岡:まあ、そう思うよね(笑)。ただ、僕は男性として末晴の気持ちもなんとなくわかるところはあります。

大西:ほう……。

松岡:黒羽の告白を断ったのも、男のめんどくささというか好きの裏返しみたいなところがあって。小学生でもあるじゃないですか、好きな子にちょっかい出しちゃうことが。だからこじれていくんだけど。でも、この作品は王道のように見えて王道じゃないのが面白い。『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』というタイトルを聞くと「わちゃわちゃしたラブコメだろうな」と思うんだけど、それだけじゃすまない作品。

大西:PVを見た時に感じる「ああ、ひとりの男の子をめぐって、みんなでラブバトルをする感じなのね」という印象は、物語が進むにつれて裏切られるんじゃないでしょうか。

松岡:後半に向けてどんでん返しがくるから。

大西:「ただのラブコメだけじゃないぞ」って。

松岡:むしろ「あれ、ラブコメ……だったよね?」みたいになってくる(笑)。

大西:目的を忘れ始めますよね。

松岡:「ちょっと重いんだけど……」となるかもしれません。

「末晴に対するモモの気持ちは、あこがれや感謝が大きくて。女子3人の中では異質なんです」(大西)

──末晴とモモの関係についてはどう思いますか? いろいろな感情が混ざっていそうですが。

大西:モモって、女子3人の中では異質だなと思います。黒羽と白草は「恋人になりたい」「恋愛関係になりたい」って末晴をめぐって動いてますが、モモは役者としてのあこがれや昔の思い出の美化みたいなのが半分くらい混ざっているような気がして。小さい頃、ちょっとひねくれていたモモが、180度変わるきっかけになったのが末晴。憧れや感謝が大きくて、先輩や恩人という見方が強いからだと思います。だからこそ、末晴が自分に対して何かしてくれるんじゃないかという期待も高くて。それを踏まえたうえでバトルに参加しているので、他の2人よりはちょっと遊び心のあるアプローチになっているんじゃないでしょうか。ガチじゃないと言ったらモモに失礼かもしれないけど、他のふたりとは本気度のベクトルが違う感じはします。

松岡:ふたりは子役時代からの知り合いで、最初は仲が悪かった。でも、紆余曲折があって、モモが慕ってくれるようになって、モモは尊敬の念を抱いているし、「あの頃のお兄ちゃんに帰ってきてほしい」という思いもあるんでしょう。ただ、モモっていろんな段階をすっ飛ばします。外堀から埋めていくんじゃなくて、いきなり本丸に大砲を撃ってくる(笑)。

大西:しかも、大砲を弾かれても「あれー? 弾かれちゃった!」ってあまり傷つきもしなそう(笑)。あと、このふたりって過去に縛られている感じがします。「もっと未来を見ようよ」と思うことはあります(笑)。

──松岡さんと大西さんも、同じ事務所の先輩後輩です。そういう点で、末晴やモモと共通する感情はありますか?

大西:背中は年々大きくなっているなと感じます。物理的に(笑)。

松岡:なに、ディスってんの?(笑)

大西:5年前はスッとしてたのに、年々ムキムキになっていますよね。しかも背中が大きくなるにつれて、より頼れる先輩になっていく(笑)。演技的にも安心して頼れるというか、甘えちゃおうってなります。松岡さんと一緒の現場は、すごく楽しいです。

松岡:同じ事務所というのもあるけど、共演も多いので。お互いの引き出しがわかるから、「多分、大西だったらこうくるだろうな」って脳内再生ができる。でも、現場に入ったら戦争ですが。

大西:今までご一緒させていただいた時の引き出しはわかっていますけど、松岡さんは日に日に新しい引き出しを増やしているじゃないですか。現場でびっくりすることも多くて。

松岡:「ここ、崩れるんじゃないかな」と思ったら、ガン!とやっちゃうから。ダメだったらやり直せばいいやと思って、思い切って演じるようにしています。

「ひさびさにあんなに泣きましたね。シンクロ率120%で、もう涙が止まらない」(松岡)

──今回、おふたりで一緒に収録する機会はありましたか?

大西:あまりご一緒する機会はありませんでしたが、後半にある重要な回は一緒に録らせていただきました。

──一緒になった時に、お互いの演技について感じたことはありますか?

松岡:つらそうだなーって(笑)。

大西:私にとっては、珍しい妹キャラだったので大事な時に、テストで声がカスカスになったこともありました。本番は、普通に声が出ましたけど。あまり演じることのないタイプだと、そういった生みの苦しみもあります(笑)。

──重要なシーンでの演技はいかがでしたか?

大西:現場では、冷静に分析している余裕はありませんでした。テストでは末晴のセリフに対して、その時の気持ちをリアルタイムに返していく感じ。テストが終わった後にも「あそこの芝居はこうだったから、こう返したほうがいいかな」と冷静になれる自分がいなくて。不思議な感じでした。

松岡:実は、家で事前に予習で演じた時には「これ、泣けないな」と思ったことがありました。「どうしよう。泣けないかもしれない。無理矢理泣くのも気持ち悪いし」って。でも、現場で掛け合いをしてみたら、奥底から湧き上がってきたものが一気にあふれてきたんです。ひさびさにあんなに泣きました。シンクロ率120%で、もう涙が止まらない。いろいろな感情が相まって、堪えているのに涙が止まらないという状態でした。

大西:泣こうと思って泣いてないですもんね。

松岡:すべての感情が一点に集中して、分厚い鉛の扉みたいのを貫通しちゃったんですよ。ダムが決壊するというか。今まで堪えてきたものが全部あふれだして。

大西:後半にそういう回があるので、ご期待ください!

──現場に入ると、やっぱり違った感情が引き出されるのでしょうか。

松岡:モモがどういう風にくるのか、家でやっていた時は定まっていない部分もありましたでしょうね。直前までは客観的に見ていましたけれど、モモの切実な思いを受け取って感情があふれてきました。大西の芝居に引っ張られたんだと思います。ほら、今も涙が止まりません。

大西:それ、花粉症だからじゃないですか(笑)。

──大西さんはその時のことは覚えていますか?

大西:あまり記憶がないんですよ。末晴の奥底にあるものを引き出すために、まずモモが仕掛ける。そこから転じて……というシーンだったので。私としては、「末晴に発信しなきゃ。ここにいるよ、気づいて」という思いで、必死でした。

幼なじみが絶対に負けないラブコメ

幼なじみが絶対に負けないラブコメ

幼なじみが絶対に負けないラブコメ

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「後半は、単なる理想の妹では終わらない、モモのいろいろな側面が表れます」(大西)

──末晴は、「普段は冴えないけれど、演技になると別人のよう」と言われます。おふたりは、お互いに対してそういったギャップを感じることはありますか?

大西:出会ったばかりの頃なら感じたかもしれないですけど、今はもう「これが松岡さんだ」って感じです。私がデビューしたばかりの頃、とにかくどの現場にも松岡さんがいました(笑)。役に対する向き合い方、シンクロ度は昔から抜群で、すごい先輩だと思っていました。ただ、以前は現場でも「シンクロしなきゃ」「集中しなきゃ」という雰囲気で、緊張感がありました。今はスッと「あ、松岡さん、役にお入りになられました~」という感じに見えます(笑)。

松岡:確か8年目ぐらいの時、現場でマネージャーさんから「今日は新人さんが来るから、面倒を見てあげてね」と言われたことがあって、その時に「あ、こんなこと言われるようになってしまったんだ」と思って。今まではきちんと現場を終わらせる、とにかく仕事をまっとうするということだけに集中していたけれど、自分のことばかり考えていられなくなってしまったんです。後輩がつまずいた時にアドバイスしなきゃいけない立場になったんだなと。だとしたら、もう自分のことだけ考えるのはやめにしないとと思ったんです。そこから少しずつ、自分から積極的に後輩に声をかけるようにもなりました。

大西:(無言で拍手)

松岡:なんなんだよ(笑)。

大西:あの松岡さんが……!

──そもそも声優業界は、先輩が後輩を指導する文化があるんでしょうか。

松岡:人によるのかもしれないです。僕の場合、恐縮しすぎて逆に先輩に聞けなかったタイプ。とにかく見て覚えて、わからなかったら調べて……という感じでした。

大西:私は、同じ事務所の先輩後輩とあまりつながりがなくて……。自分から「ここってどうなんですか」と、先輩に聞くこともありませんでした。ただ、私の振る舞いを見て「もうちょっとこうしたほうがいいよ」とお声がけしてくれる先輩もいらして、本当にありがたかったです。

──末晴とモモは先輩後輩であり、兄と妹のようでもあります。大西さんはひとりっ子だそうですが、松岡さんはご兄弟はいますか?

松岡:妹が2人、弟が1人います。だから、妹には幻想を抱いていないです。

大西:妹さんとは仲が良いのですか?

松岡:今はね。昔はそれほどでもなかった。

大西:喧嘩してたってことですか? それともあんまり関わらない?

松岡:思春期に反抗期があるじゃない? 小さい頃は仲が良かったけど、どんどん外の世界を知っていくと、家の中では会話がなくなる。でも、今の年齢になると、一周回って普通に「お兄ちゃん」みたいな感じになってきて。中学生の頃なんて、僕を呼ぶ時「ねぇ」だもん。名前も呼ばず、「あのさぁ」って。

──理想の妹像、理想のお兄ちゃん像はありますか?

大西:私はひとりっ子なので、お兄ちゃんへのあこがれが強かったです。特に年の離れた仲良しのお兄ちゃんがいて、しかもかっこよかったら最高だなって思っていました。でも、末晴みたいなお兄ちゃんは……別にいいかな(笑)。私の理想は、頼りがいがあって妹の面倒を見てくれる優しいお兄ちゃん。今の末晴は、どちらかと言うとこっちがお世話しなきゃいけないじゃないですか。優しいけれど、もうちょっと守ってよ、しっかりしてよと思います(笑)。

松岡:安心して手のひらの上で転がっていいんだぜ……。

大西:末晴は、手のひらの上で転がされるタイプじゃないですか(笑)。

松岡:僕の理想の妹像は、気を遣わないでバカ話しながらゲームするようなタイプかな。

大西:あー、そっち系かー。

松岡:友達みたいな妹がいいです。

──では、最後に作品の注目ポイントを教えていただけますか?

松岡:『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』というタイトルを聞くと、やっぱり黒羽が優勢に思えますが、白草もモモも幼なじみなので、誰が勝つか負けるか、最後まで観てほしいです。

大西:モモは、後半に進むにつれてちょっとした毒や「あれ、煽ってんの?」という面が出てきます。単なる理想の妹では終わらない、いろいろな側面が表れるので、ぜひそんなところも楽しんでいただけたらうれしいです。

松岡:『おさまけ』って、男女関係なく誰かしら刺さるキャラクターがいるので「その気持ち、わかるわー」って思えるキャラクターが絶対ひとりはいるはずです。ラブコメではあるけれど、けっこう生々しい感情を描いているので、そういった面も楽しんでいただけたらと思います。

TVアニメ「幼なじみが絶対に負けないラブコメ」公式サイト

取材・文=野本由起

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