西尾維新の筆を動かした!? 『美少年探偵団』瞳島眉美を演じた坂本真綾インタビュー!

アニメ

更新日:2021/6/27

坂本真綾さん

 ガール・ミーツ・ボーイズ。眩しい5人の美少年と1人の少女の物語はここから始まる。美少年探偵団とともに数々の謎に向かい合う少女・瞳島眉美を演じるのは声優・坂本真綾。西尾維新の〈物語〉シリーズでは、ヒロイン的なポジションを演じていた彼女の新たな挑戦と、西尾ワールドの魅力とは。

(取材・文=志田英邦 撮影=羽田 誠)

西尾維新のセリフを一言一句変えずに収録

 美しくあること、少年であること、探偵であること、そして団であること。美少年ばかりの探偵団が、摩訶不思議な謎を解いていく——。小説家・西尾維新による「美少年」シリーズがついにアニメ化された。主人公にして物語の語り部を務める少女・瞳島眉美を演じるのは坂本真綾。彼女は過去に西尾維新のアニメ化作品に参加した経験を持っている。はたして彼女は本作の原作小説を読んでどんな感想を持ったのだろうか。

advertisement

「テンポが良くて、すごく読みやすいんです。物語の中に謎解きがあるので、知らず知らずのうちに予想を立てて読んでいると、その予想を裏切るような展開が用意されていて。すぐに次の巻を読み進めたくなる。小説好きがくすぐられるような、数々のミステリー小説のオマージュがちりばめられていて、私がこれまで知らなかった西尾先生の世界に触れたような気持ちになりました」

 14歳の誕生日を前に絶望したマユミは、双頭院学という美少年に出会う。彼は美少年探偵団の事務所に眉美を導くと、団員たちとともに彼女の抱える謎を解き始める。

「綺麗な男の子がたくさん出てきて、その中にぽつんと女の子がいる。よくある構図の『美少年もの』なのかしらと勝手に思い込んで読み始めるとそんなことはなくて。この作品における『少年』とは、冒険に挑んだり、純粋に何かを信じたり、仲間を大事にしたり、何かを探求したりする、トム・ソーヤやピーターパンのような永遠の純粋さを指しているんです。読んでいるうちに、自分の中にある『少年』や『美しさ』について反芻したくなる作品でした」

 眉美は美少年たちに振り回されながらも、やがて探偵団の一員になっていく。中学生の彼女を演じるには、試行錯誤が必要だったという。

「眉美は普通の女子中学生という感じがあって、言葉づかいも現代の子っていう感じがあったんです。清廉潔白な良い子じゃないけれど、美少年たちに振り回されたり、翻弄されたり、戸惑ったりする中に年相応のかわいらしさが出れば良いなと思って。私ができる範囲で幼く、かわいらしくしたつもりです(笑)」

 かつて〈物語〉シリーズがアニメ化されたときは、西尾維新が原作で書いたセリフを一言一句変えずに、声優たちが演じることが求められた。本作でもそのスタイルは変わらないという。

「そのルールは今回も同じです。ただ、私は音響監督さんやスタッフのみなさんから『普通じゃないリアクションがほしい』とも言われていて。驚いたり、怒ったり、怯えたりするときに、いわゆる定型ではない、変なリアクションの声をするように求められたんです。とくにこの『美少年探偵団』はひとりで台本何ページ分もしゃべり続ける長セリフの多い作品なんですが、そのセリフの裏でも小説に描かれていることを補助する意味で、キャラクターがいろいろな表情や動きをしているんですね。自分のセリフがないところにも、いろいろなやるべきことがあって、リアクションや声のアドリブをたくさんしています。こんなにト書き(台本に記された情景描写などの説明文)まで読み込んだ台本も珍しいと思います。まるで大喜利みたいに、たくさん変なリアクションをしていて(笑)。ある意味でNGがない、何をやってもOKのような収録をしていました。私がもっと若いときにこの役をやっていたら、きっと泡を吹いて倒れていたと思います(笑)。いろいろな経験を積んできた現在だからできることもある。そう思えるくらいムチャクチャなフリをされて、楽しい収録です(笑)」

瞳島眉美

西尾維新の筆を動かした!? キャスト陣の熱演

 眉美を取り巻く美少年探偵団のメンバーはクセモノぞろい。美学のマナブ、美声のナガヒロ、美食のミチル、美脚のヒョータ、美術のソーサク。友だちでもなく、同級生でもない。それぞれ個性の強い彼らが、ひとつの謎に向かって行動するとき、全ての答えが見えてくる。

「みんな本当は我が強いタイプで、グループ行動に向いていない人たちなんです。でもリーダーの学がいることで、ひとつの事件に挑んでいく。私から見ると、うらやましい関係に感じられましたね。たとえば男性ばかりのバンドで、メンバー同士がわちゃわちゃしているのを見るような気分。仲が悪いことすら、微笑ましく見えるんです」

 美少年探偵団のメンバーの中でも特に魅力的に感じるのは、村瀬歩が演じる双頭院学(美学のマナブ)だという。

「学はみんなから好かれているという設定なんですが、村瀬くんの声の力もあって、すごく説得力があるんです。村瀬くん自身、どんなときも落ち着いている人なんですよ。常に堂々としていて、その迷いのなさが、主役を任されるべき人という感じがあります。まわりの人たちを勇気づける力があって、私も村瀬くんがいると安心して芝居をしています」

 そんな個性豊かな美少年探偵団に、もし坂本真綾自身が依頼をするなら、どんな問題を解決してほしいと頼むだろうか。

「美少年探偵団はどんな依頼でも引き受けてくれるわけじゃなくて、彼らの『少年心』がくすぐられないとダメなんですよね。そうですね……。私だったら、昔仲が良かった人の捜索をお願いしたいです。私は児童劇団出身なんですよ。少人数の劇団だったので、兄弟みたいに仲が良かったんですが、みんなそれぞれの進路があって、連絡先もわからなくなってしまった。現在のように携帯電話もなかったですし、子どものころだったので、手掛かりになる記憶はあだ名ぐらいしかないんです。美少年探偵団に、その懐かしい仲間たちを見つけてもらって同窓会をしてみたいですね」

 そして、もうひとつこの作品で描かれるのは「美しくあること」。彼らは美を重んじ、美を守るために行動していく。声優、アーティストとして活躍する坂本真綾にとって美とは?

「昔は『完全無欠』だったり、『非の打ち所がないもの』に憧れていました。変わらずにいることや、ずっと同じようにいることに価値を感じていたんです。でも、年齢を重ねてきて、変化することに美しさを感じるようになりました。仕事柄、よく『美声を保つ秘訣は?』なんて質問を受けるんですが、声は変わっていくものだし、年齢とともに味が出てきたら、それを受け入れて、そのときの味を出していきたいと思っているんです。革製品のように、使い込むことで味が出て、手に馴染んでいく。そういう変化を自分ができていければ良いなと思っていますし、まわりの人にもその変化を良いと感じてもらえたら嬉しいなと今は考えています」

 さまざまな美しさや美学がちりばめられた、綺羅星のような本作。その美しい輝きはアニメ化されたことで原作者である西尾維新の心をも動かしたという。

「西尾先生はアニメ化のときに、いつもアフレコスタジオにいらっしゃるんですが、今回はご時勢柄一度きりしかお会いできなかったんです。でも、第1話の収録をご覧になったら、インスピレーションがわいたそうで。一度は終わった『美少年』シリーズの新作を書き下ろしてくださったそうなんです。筆が速いことで有名な方でしたが、まさか一冊まるごと新作を書いてくださるとは。もしかしたら、これは〈物語〉シリーズのようにどんどん広がっていく作品になるのでは?とドキドキしています(笑)。私たちの演技が西尾先生の筆を乗せることができたのかもしれないなと。それを励みに、これからも収録を頑張っていきたいと思っています」

さかもと・まあや●声優、女優。『天空のエスカフローネ』神崎ひとみ役で本格的に声優活動を開始。〈物語〉シリーズの忍野忍役、『攻殻機動隊ARISE』草薙素子役、『黒執事』シエル・ファントムハイヴ役、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』真希波・マリ・イラストリアス役などを演じる。

あわせて読みたい