「妄想力」を駆使して映し出す、愛すべき日常の姿――和氣あず未『Viewtiful Days!/記憶に恋をした』インタビュー

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公開日:2021/6/16

和氣あず未

 すでに、自身名義の楽曲は、26曲を数える。声優・和氣あず未の音楽活動は、すこぶる順調である。2月、1stアルバム『超革命的恋する日常』リリースのタイミングでも話を聞かせてもらったが(和氣あず未『超革命的恋する日常』インタビューはこちら)、「妄想力」をもって歌詞の世界を自らの脳内で具現化し、その歌声をもって楽曲を華やかに仕上げていく和氣あず未の音楽は、リリースを重ねるごとに、楽しさを広げている。表題曲の“Viewtiful Days!”が、TVアニメ『スライム倒して 300 年、知らないうちにレベル MAX になってました』のエンディング主題歌に起用されている4枚目のシングル『Viewtiful Days!/記憶に恋をした』(6月16日発売)のテーマは、「日常」。性質が異なる4つの「日常」を楽曲で表現することに挑んだ、和氣あず未へのインタビューをお届けする。

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もっと皆さんに曲を聴いてもらって、もっと私らしさを知ってもらいたい

――最新シングル『Viewtiful Days! / 記憶に恋をした』は、新曲が4曲で、とても充実した内容になっているなあ、と思いました。シングル全体について、和氣さんが感じている手応えについて聞かせてください。

和氣:まずこのシングルを出すと決まったときに、プロデューサーさんから全体のテーマを「日常」にあします、と聞きました。ひとつひとつの楽曲をいただいたときに、「これも日常かあ、こんな日常もあるんだなあ」と思っていたんですけど、1曲目から4曲目までを通しで全部聴くと、「これがリアルな日常なんだな」って思いました。私が思う「日常」って、ほのぼのしたイメージがあったんですけど、この状況の中でのネガティブさも含まれていて、そういうところがリアルだなあって。ひとりの主人公の日常というよりは、世界の中でそういう感情を持ってる人もいるんだな、と感じる部分もあって、新しい挑戦になったと思います。

――自分とはかけ離れた「日常」へとアプローチしていくにあたって、意識したのはどういうことですか?

和氣:それはもう、妄想だと思います。

――早速来ましたね(笑)。

和氣:はい(笑)。私、妄想が大好きなので。“Viewtiful Days!”や、けっこう切ない曲ですけど“記憶に恋をした”は、昔読んだ少女漫画とかからイメージしやすかったです。でも、4曲目の“hopeless”のように、何もない虚無状態が、あまり自分の中にはなくて、「ここまで感情がないときって、人はどういう思いをしてるんだろう」って考えました。でも、お芝居のようにその人の気持ちを考えていくと、“hopeless”の主人公は「つらい」を通り越して、痛みも感じないくらいに心の中が真っ黒になってしまっているのかなって思いました。

――逆に、和氣さんが思う「日常」というのは、比較的色鮮やかな姿をしているんですか。

和氣:そうですね。生まれてから今まで、自分の中では大きすぎる苦戦というものがなくて、けっこうポワポワしながら生きてきたなあって思っています。日常がたぶんハードじゃないまま生きてこられたし、自分の中の日常はわりと平和ですね。“Viewtiful Days!”の歌詞の中に《サプライズは ほどほどに/緩めに暮らす 今のSlow Life》っていう歌詞があって。確かにサプライズもいいと思うんですけど、でもそれはほどほどで、何もないような平凡な日々が一番素敵なんじゃないかなあ、と思います。なので、自分では日常を最高だなって思ったことはなかったですけど、こうして改めて考えると、今はいい暮らしをしていて、すごく幸せな人生を送ってるなって思います。“Viewtiful Days!”を聴くことで、「自分、めっちゃ幸せじゃん!」って気づきました。

――和氣さんが音楽活動をスタートしたのが去年の2020年1月で、ちょうど1年半くらいになるわけですけど、客観的に見て、シングルは4枚目ですでにアルバムも1枚出しているって、だいぶペース速いですよね(笑)。

和氣:(笑)めちゃめちゃ速いです。

――その分、和氣さんは人をハッピーにしてるんだなって思います。期待している人、楽曲を待っていてくれる人がいるからハイペースでのリリースが実現しているわけで、それはこれまで和氣さんが発信してきたことが受け取った人を幸せにしているから、だと思うんです。

和氣:幸せにしたいです(笑)。そうだったらいいなあ。レコーディングのときのディレクションでも、「和氣さんらしい歌で素敵でした」って言っていただけることも増えたのが嬉しいですし、もっと皆さんに曲を聴いてもらって、もっと私らしさを知ってもらいたい気持ちもあるので、私の歌が幸せにしている、と言っていただけて、嬉しいです。

――これまで届けてきた作品の中で、1stアルバムの『超革命的恋する日常』は和氣さんにとって大きな位置を占めているんじゃないかと思いますが、改めて今、どんな存在になっていますか。

和氣:一番皆さんに聴いてもらって、一番褒めていただけたのが、あのアルバムでした。シングル曲では、等身大だったり、自分よりちょっと幼い学生時代の気持ちで歌うことが多かったんですけど、アルバムに入っている“Tuesday”はそれまでになかった失恋の曲で、大人っぽく歌っていて。レコーディングの時は、「これ、今までの和氣あず未から離れ過ぎちゃってないかな?」と考えていたんですけど、ファンの方に一番好きだって言ってもらった曲が、たぶん“Tuesday”なんです。普段見せない和氣あず未の表情が見えていよかったよって言っていただくことが多くて、それは新しい発見でした。今回のシングルに入っている“hopeless”は、私の中では“Tuesday”に似ていて。何もなくなってしまったときの気持ちを乗せているので、“Tuesday”のときよりもさらに進化できていればいいなあって思います。

――なるほど。表題曲の“Viewtiful Days!”の歌詞に、印象的なフレーズがふたつありました。ひとつは《一歩一歩! 日進月歩!》で、何度か和氣さんとお話をさせてもらっているイメージですけど、ピッタリな言葉だなあ、と思ったんです。リリースを重ねるごとに進歩していると思うし。「一歩一歩」「日進月歩」という言葉は和氣さんにとってどんな意味がありましたか。

和氣:すごく素敵だなって思います。急に飛び抜けて何かが上達したり、一気に進んでいくのも素敵だと思うんですけど、「一歩一歩」って人に言われたら、安心する言葉だなって思っていて。自分のペースで、日進月歩で進んでいくのは、プレッシャーを感じない素敵な言葉だし、自分の中で安心できる言葉です。

――和氣さんの音楽活動を象徴するような言葉のようにも感じました。

和氣:いや、本当にそうなんですよね。もともと歌が得意じゃない部分もあって、自分の中では一歩進むことさえ怖かったんですけど。まわりのマネージャーさんやスタッフさんが「一緒に頑張っていこうよ」って言ってくれたので、安心できました。

――歌が得意じゃない?

和氣:歌自体、得意じゃないです(笑)。もともと、小さい頃は歌うことが好きで、お兄ちゃんとカラオケにも行ってたりしたんですけど。家族でカラオケに行ったときにお兄ちゃんがふざけて、私が歌うときだけ採点モードにしたんです。自分が好きな歌だったらもうちょっと上手く歌えたんですけど、お兄ちゃんが途中まで歌って、「ちょっと疲れたから、あず未歌ってよ」って言われて、あまり知らない曲を歌ったら、「7点」って出たんですよ(笑)。それから、お兄ちゃんが私のことを「7点」って呼ぶようになって――小学生くらいだったんですけど、お家で歌うたびに「お~い、音痴ぃ」みたいなことを言われて、ちょっとトラウマになりかけてました(笑)。歌自体は好きだったけど、人前で歌うのは苦手でしたね。

――お兄ちゃん、なんてことをするんだ(笑)。

和氣:(笑)でもお兄ちゃんって、きっとそういうものなんですよね。今はお兄ちゃんもCDを買ってくれて、応援もしてくれているので、よかったなあって思います。

――それが長年トラウマだったことは伝えてるんですか。

和氣:たぶん、本人は知らないと思います(笑)。自分の音楽活動でステージに立ったときも、立つまでは不安なんですけど、実際にステージで歌っているときはすごく楽しいです。私自身も、友達のライブを見に行くのは好きだし、心の底から楽しく歌っている子を見ると、自分もハッピーになるので、私もそういう立場でいたいなって思います。

――まわりで音楽活動をしている人の存在は、刺激になったりしますか。

和氣:なんだろう、私はライバルとしてはまったく見てないし、自分と同じ立場だと全然思っていないんです。ただただ「アーティストさん」っていう、ファン目線で見ているかもしれないです。

――和氣さんも「アーティストさん」なんだけど(笑)。和氣さん自身は何だと思っているんですか。

和氣:(笑)なんなんでしょうね……なんなんだろう? でも、音楽活動をしている子たちを見ている最中は刺激を受けるというよりもファン目線で、「はあ~、すご~い」ってなるんですけど、見終わったあとは「よしっ、私も頑張るぞ」っていう気持ちになります。

――和氣さんって、人をライバル視したりしなそうな人だなあ、と思うけど、実際そうなんですね。

和氣:そうなんです。お母さんにも「それじゃダメだよ」ってずっと言われてきたんですけど、あまり人をライバル視できなくて。私は、あまり人と自分を比べたくないなって思うっちゃうので。人のいいところばかりを見すぎると、ネガティブになっちゃうんです。自分のペースでいこうと思っているので。アーティスト活動も、皆さんが背中を押してくださいますし、「和氣さんらしくやっていけばいいよ」って言っていただいていて、皆さんがイメージする私は、たぶん私自身が思う自分自身とも重なっていると思うので、マイペースにやれています。「もっと貪欲になりなさい」って言われたこともあるんですけど、そうなれなかったですね。

――なろうと頑張ったことはある?

和氣:専門学校時代はありました。声優になることを諦めたくなかったので、そのときは必死に覚えてもらおうと思って頑張ってました。でもライバル視ではなくて、まわりのことは気にしてなかったですね。でも自分がひとりで頑張ろうって思ってただけ。なんだろう、ライバル視ができないですね……。ゲームとかで負けて、めちゃめちゃ悔しい、諦めたくない、ということはあるんですけど。仕事とかそういう大切なものほど、ライバル視できなくなっちゃうかもしれないです。たぶん、ライバル視して何かを失いたくないみたいなものなんだと思います。

――音楽とか歌に乗っかっているものが何なのか、少し見えてくる話ですよね。他者と競争することで表現が磨かれていく人もいると思うんですけど、和氣さんは自分のペースで歩いていくことが合っていて、そこから出てくる表現に魅力が生まれるのかな、とか。

和氣:そうなんです。私は、自分のペースで進んでいかないとおかしくなっちゃうと思うので、ずっと自分のペースでやっています。自分のことも、第三者として自分を眺めている感じもしますね。

(応援してくれる方とは)「親戚と演者」みたいな距離感でいられたら嬉しい

――もうひとつの表題曲“記憶に恋をした”は、切ない歌詞が印象に残る素敵な曲ですが、あえて言うなら、これは「和氣さんが得意なジャンル」ですよね。

和氣:そうですね(笑)、私が大好きなジャンルです。もうキュンキュンで、切ない。

――妄想がはかどったのでは(笑)。

和氣:はかどりましたね。もう、自分の中でPVができ上がりました(笑)。歌詞はきっと高校生、学生時代の男女の恋愛がテーマなんですけど。数年経った今でも、毎日その人のことを思い出して切なくなるというよりは、夏に近づくにつれてその人をふと思い出してしまう女の人の歌なんですね。トキメキだったり、好きだった気持ちは今もふと蘇ってくるけど、でも本人に会えることはもう絶対ない、という歌詞になっていて。ただの切ない曲じゃなくって、「えっ、なんで会えないんだろう」とか、後悔が残るような曲になっていると思います。

――だいぶ想像が広がってますね。

和氣:そうなんですよね。きっと、初恋だったと思うんです。初恋だったと思うし、大人になってもまだ会える機会があるかもしれないのに、《今日にも明日にも》《君には会えない》って歌詞では言っているので、「えっ? なんで、切な~い」って思って、いろいろ考えちゃいました。

――カップリングの“2030”は、2021年の今だからこそ意味のある曲ですよね。冒頭の歌詞、《口元隠して恋をするなんて/新しい世界だね》にはけっこう驚きました。

和氣:今のこの状況ならではの歌詞になっています。私も最初に聴いたときに、「今のこの状況の曲になりますよ」って言われて、ネガティブな曲になっちゃうのかなと思ったんですけど、今の状況をポジティブにとらえて、歌詞にされているのが、すごい技術だな、と思いました。

――1年半音楽活動をやってきて、やっぱり今回の4曲を聴くと、グングン力をつけていることを感じるんですけど、和氣さんの中で「ここは成長しました」と胸を張れる部分はどこですか。

和氣:アルバムで10曲も録らせていただいたので、そのときから自分の中では「成長できているかな」って感じてはいたんですけど、やっぱり表現力と余裕はできたんじゃないかと思います。最初の頃は、レコーディングでもライブくらい緊張しちゃっていて。最近は、仕事としてのいい緊張感はありつつ、リラックスしてできるようになりました。心の余裕もできた感じがして、客観的に自分を見られるようになったので、精神的に成長できているんじゃないかと思います。

――その中で、自分の歌を受け取ってくれる人の存在について、どう感じていますか。

和氣:もう、本当にありがたすぎます。「なんで?」って思っちゃうくらい、こんなに応援してもらえることが不思議でした。最初は「なんで? 嬉しいけど、私も普通に一般人だからなあ」って思っていたんですよ。でも、歌の感想をくれたり、自分でも「ここ、成長できているな」っていう部分について、お客さんからも「成長したね」って言ってもらえたりするのは、家族や身内に応援されている感じがして、すごく嬉しいです。「ファンと演者」の距離感の方も、もちろんいらっしゃるとは思うんですけど、私はこう、「親戚と演者」みたいな距離感でいられたら嬉しいです。

――声優としての活動もこの数年とても充実しているんじゃないかと思うんですけど。音楽活動をしていることで、お芝居と音楽がお互いによい影響を与え合っているところもありますか。

和氣:あります。歌は、私も妄想したり主人公の気持ちを考えたりするので、そういうところは声優としての経験を持っていきやすいと思いますし、声優業のほうでも、キャラソンはもともと得意だと思っていたんですけど、自分自身の歌をしっかりやってからキャラソンを歌うと、また違った感じでよくなるな、と思います。ひとりでステージに立つ機会が増えたので、声優としてのイベントでも、もともとは複数人メンバーがいたら、「あじゅじゅはなんもしなくていいよ」って言われてる側だったんですけど、最近は「ちょっとMCやって」とか、大事なセリフやきっかけを言って、と言われるようになったので、少しはしっかりしたかなって思います(笑)。

取材・文=清水大輔


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