サカナクション山口一郎も称賛! MONO NO AWARE玉置周啓に聞いた、『行列のできる方舟』に影響したマンガ

エンタメ

更新日:2021/7/14

MONO NO AWARE玉置周啓氏。アルバム発売日の6月9日(水)の取材となった

玉置氏とギター加藤成順氏の出身地、東京都八丈島で撮影された「東京」のMV。自然豊かな島の雰囲気も味わえる。ギターサウンドにも注目の1曲

 

行列のできる方舟

 2013年に結成された4人組ロック・バンドMONO NO AWARE。ポップなメロディと実験的な曲想が同居するオリジナルなサウンドは、米津玄師、サカナクションの山口一郎、向井秀徳からも称賛され、2017年には「ROOKIE A GO-GO」からの投票を勝ち抜きFUJI ROCK FESTIVALのメインステージにも登場した。そんなバンドのフロントマンでソングライターが、93年生まれで八丈島出身の玉置周啓氏。『EYESCREAM』のWEBサイトで「読書感想文」という連載を持ち、noteにも定期的にエッセイを書くなど、その文才に注目が集まっているミュージシャンだ。6月9日に4枚目のアルバム『行列のできる方舟』がリリースされたばかりのタイミングで、新作の歌詞から母親との関係まで、玉置氏に話を訊いた。

(取材・文=土佐有明 撮影=下林彩子)

――玉置さんはラッパーのTAITAN(DosMonos)さんと定期的にポッドキャストでトークをされていますね。あそこで取り上げた作品も『行列のできる方舟』のリファレンスになっているとおっしゃっていましたが、具体的には何を参照しましたか?

玉置周啓氏(以下、玉置):映画だとヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』は「ダダ」っていう曲に反映されています。あと、宮野真生子さんという哲学者と磯野真穂さんという人類学者の『急に具合が悪くなる』っていう本。これはふたりの往復書簡形式の本で「まほろば」っていう曲に影響を与えていますね。あと、つげ義春の漫画『無能の人』は「幽霊船」とか「水が湧いた」とか「5G」とか、色々な曲に繋がっていると思います。

急に具合が悪くなる』(晶文社)/『無能の人』(日本文芸社)

――これまでになくストレートなラブ・ソングが多いアルバムですね。18~20歳の時に書いた歌詞も使われているそうで。

玉置:そう言われると若干赤くなっちゃいます(笑)。確かに僕らしくない歌詞ではありますよね。例えば、今回のアルバムに収録されている「LOVE LOVE」の歌詞を書いたのは20歳の頃なんですけど、あの頃は恋愛経験も少なかったから妄想で考えた恥ずかしいことを言い切れたんだと思います。でも最近になってようやく、ああいう歌詞を本気でいいなって思えるようになったんですよね。それまでは、クサいこと言っている自分を許せなかったというか、耐えられなかったもうひとりの自分がいて。その自分からダメだしがあったんですよ。

ムーたち
(榎本俊二/講談社)

――玉置さん、榎本俊二さんの漫画お好きですよね? 『ムーたち』(講談社)っていう作品に“セカンド自分”の話が出てくるじゃないですか。自分をメタな視点で俯瞰して見ているもうひとりの自分=“セカンド自分”がいて、その後ろにはサード自分、フォース自分もいたりする。

玉置:『ムーたち』には衝撃を受けましたね。実は似たような感覚を小さい頃から体験していて。保育園で僕らが昼寝をしている時に部屋の小窓から先生がちらちら覗くわけですよ、ちゃんと寝ているかどうか。その時に先生側の視点から自分たちを見たら、どんな情景が映っているかを想像していて。だから、『ムーたち』を読んで「あ、あれだ」って皮膚感覚で分かったんです。セカンド自分的な感覚が概念じゃなくて、体感として分かった。だから、『ムーたち』は読みながらすごく興奮しましたね。

advertisement

――ちなみに歌詞以外にもnoteや「玉置周啓の読書感想文」という連載で文章を書かれていますが、文体は意識的に変えていますか?

玉置:変わりますね。そういうのって日常生活の中でもよくあることで。例えば、LINEで相手が「絵文字オッケーならこっちも使おう」とか、「この人句読点しか使わないから絵文字やめとこう」とか、普段からあるじゃないですか。「段落ごとにポストをするのか」とか、「冒頭ひとマス空けるのか」とか。その上で考え抜いた長文を送ったらスタンプだけが返ってきたり。……っていうのを会話でも書きものでもしていて。『EYESCREAM』の読書感想文は小学生向けの読書感想文の書き方の本を見ながら書いています。一人称も私だし、ですます調で統一しています。一方作詞の作業は、まず手書きでスケッチ的なものをノート一面に書いて、樹形図状に広げて、使えそうな言葉のみでデモを作る。それをメンバーに渡して、曲ができあがった時に最終的に歌詞が完成します。

――ワープロが普及した時、頑なに手書きで書き続ける作家やライターが結構いて。要するに文章の質感まで変わってしまうことを懸念していたんです。

玉置:それ、分かりますよ。例えば、どんなギターや機材を使っているかで音が変わるんですよ。僕とMONO NO AWAREのギタリストの加藤成順は、MIZっていうアコースティック・ユニットをやっているんですけど、ギターが変わるとどうやってもバンドと全然違う曲ができる。エレキ・ギターのストラトキャスターを持っている時、エレクトリック・アコースティック・ギターを持っている時、MIZでガットギターを弾いている時。それぞれ思いつく言葉とか出てくるフレーズが全然違う。そういうことがタイピングでも起きているんでしょうね。回答に至る途中式が消えて見えなくなるっていう。

アコースティックによる心地よいサウンドを奏でるMIZは、
MONO NO AWAREとは異なる味わいを届けてくれる

――色々な媒体での文章や歌詞を読むと、玉置さんは、他人同士は簡単には分かり合えないという感覚が根底にある。でも、その延長には共生が可能かもという希望も持っている。

玉置:そうですね。その話だと色々な局面でふたつのパターンがある気がしていて。絆とか繋がりとか頑張ろうとか素直に言っている人と、それをニヒルに見ている人がいる。僕は最近までニヒル側にいたんです。「そんな綺麗ごと並べてもうまくいかないでしょう?」って。でも、そういう風に頭よさそうにしてへらへらしているだけじゃ何も変わらないし、自分自身を不幸にしている気がして。どうにかその両者の間にいけないかって思って。人間は考え方や物の見方もバラバラなんだけど、どうせバラバラだからって諦めて気持ちいい思いをするのはやめたほうがいいかなって。

――その辺の思考はSNSとの付き合いにも顕著に表れますよね。

玉置:高2の時にツイッターを始めたんですけど、10年前はおばあちゃんがやっている赤ちょうちんの居酒屋を見つけたような気持ちでした。人も少ないし常連も静かだし、ある程度大きい声を出してもおばあちゃんだから許してくれる。そういう居心地の良さがあったんですけど、2~3年したら繁盛店になってしまって。隣で飲んでいるおっさんがこっちに絡んでくるような感じがあって。そんな店から常連が離れていくのは当たり前じゃないですか。リプライとかで全然関係ない話をつっこんでくる人たちを見ると、酔っ払いしかいないなって思います。

――なるほど。音楽的な話も伺いたいのですが、玉置さんの音楽的なルーツはどの辺ですか?

玉置:UKのロックが大きいですね。大学生の時にアークティック・モンキーズ、レディオヘッドが好きで、USだとストロークスとかがドンピシャでした。

――MONO NO AWAREって音楽的ルーツが分かりそうで分からないんですよ。色々な音楽をスープに投入して煮詰めた結果、具材が溶けちゃって原形を留めていないというか。

玉置:それは嬉しいです。できるだけ好きな音楽のまんまにならないようにはしていて。まんま真似るとやっていてどうしても気持ちが良くない。かっこ悪くても自分らしいほうがいいと思うんです。

――前作では歌詞の内容を説明してメンバーと共有していたそうですが、今回は?

玉置:今回はしていません。MONO NO AWAREのメンバーは音楽の趣味も、音楽以外の趣味もバラバラなんです。そこで「僕はこう思っています」っていうのをメンバーに押し付けるのは、一緒に仕事をする人を支配しているみたいだなって。バンドはできるだけメンバーが横並びでいたいなって思っていたので、皆が歌詞に対してどういう解釈するかを楽しみに制作しました。そもそも、今回のアルバムのテーマのひとつが、(価値観が)バラバラな状態で人間が共存するっていうことだったので。メンバーとの関係もそれが理想的で。肩を組めなくても一緒に生きていくことを目指そう、というのが念頭にありました。

――リスナーから歌詞の意味を説明してほしいという声はないですか?

玉置:ありますね。もしかしたらコロナの影響もあるかもしれないけど、ここ6~7年くらいみんな意味とか理由をめちゃめちゃ求めていることが分かってきて。ツイッターで対話していても、作品ができたきっかけやタイトルの意味、歌詞の意図を知って安心したいんだなっていう人もいるし。

――演劇を観に行くと、終演後のトークで「意味が分からない」って質問する人が多くて。意味が簡単に分からないものに対する免疫がない。

玉置:意味が分からないことに……。そうですね。この前聞いた話なんですけど、映画で俳優が転ぶシーンで、監督に「右横ですか? 左横ですか」って聞いて「どっちでもいいよ!」って言われたって(笑)。そんな風に意味や理由を知りたがるのって、それだけ社会全体が精神的に参っていて、みんなが神経衰弱に陥っている証拠じゃないかって。転ぶ方向すら意味を求める。それが僕にとっては方舟に行列で並んでいるのに近い気がして。列を守って舟に乗れればオッケーっていう。それはアルバム・タイトルにも表れていますね。あと、つげ義春の漫画って意味も何もないじゃないですか。でもすごく面白い。大橋裕之さんの漫画なんかもそうですけど、そういうものに惹かれるんです。

手塚プロ公認のイラストレーターつのがい氏がイラストを担当した「かけがえのないものエッセイ集『YOLO』」(完売)

――ところで、玉置さんの文章を読むと、お母さんの存在が大きいのかなって思います。エッセイ集『You Only Live Once』にも書いていますが、物作りが好きだったり、似ているところもありますし。「ブーゲンビリア」という曲の歌詞はお母さんに向けられているのかなと。

玉置:母親とは仲いいですよ。マザコンかもしれない(笑)。「ブーゲンビリア」もその通りですし、物作りの面で母親の影響は大きいですね。実は母親は巫女さんと大工の家系なんです。スピリチュアルと物作りという奇跡の掛け合わせ(笑)。普通お母さんって公園デビューとかあるじゃないですか。ママさん界隈で脱落しないように頑張るっていう。それにまったく興味がなかったらしくて。マイペースというか。僕の活動も割とチェックしているみたいなんですが、特に何も言ってこない。……って、これ母親が読んでいたらちょっと恥ずかしいですね(笑)。

MONO NO AWARE(Vo.玉置周啓、Gt.加藤成順、Ba.竹田綾子、Dr.柳澤豊)
ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンド匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルや国内外の枠に囚われない自由な音を奏でる。6月20日(日)からは、札幌SPiCEを皮切りに「行列のできる方舟」リリースツアーがスタートする。全7か所、すべてワンマン公演。