アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑬(如月千早編):今井麻美インタビュー

アニメ

公開日:2021/6/18

如月千早
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『アイドルマスター』に関わってくださっている方々、が幸福な気持ちでいてくれたら嬉しい。それが私の、変わらない願い

――765プロダクション所属のアイドルの役を演じる皆さんは、長い時間を一緒に過ごしてきた、いわば同志のような存在だと思うんですけど、その中でかけられて印象的だった言葉やエピソードをお聞きしたいです。ちなみに、これまでのインタビューでは、今井さんが語った言葉を挙げている方もいました。

今井:そうなんですね。私、人にあまり影響を与えられるような人間じゃないから、すごく嬉しいです(笑)。

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――沼倉愛美さんが、「完璧主義はつらいだけだよ」って今井さんに言われてハッとした、という話をしてくれてました。

今井:それ、言いました(笑)。私の向き合い方として、やっぱり自分の中で揺れ動く気持ちがあって――人間として当たり前のことだとは思うんですけど、千早をステージで表現するには、時が経ち過ぎているんじゃないか、と思うことがあるんです。VRとかの技術がどんどん出てくる中で、私たち自身がステージに立ったり、頑張れば頑張るほど、せっかくのいろんな可能性を潰していないだろうかって、悩んだ時期もありました。そういうとき、私は性格的に引いちゃうんですよね。そうすると、ライブのオファーが来ても、なかなか返事を返せなかったりもして。もちろん、出たい気持ちはあるんですよ。だって楽しいし、プロデューサーの皆さんに会える機会も、そうそうあるものじゃないから。そういうときに、何人かが、私をご飯に呼び出してくれるんです(笑)。「そろそろライブの季節だね。麻美、ご飯食べに行くよ」みたいな。完全にもう、パターンを読まれてるんですね。

 誤解のないようにお伝えしておくと、やりたくないから出たくないと言ってるわけではないんです。「結果、出てるやん」っていう話ですし(笑)。でも、「今、千早さんとしてステージに立てるか自信がない」みたいなことを私が言い出すと、朝までファミレスとかでいっぱい話を聞いてくれたり、「一緒に出ようよ」って声をかけてくれたりする。そういうところ、自分も千早さんと結果的に似てきたなって思うんですけど、千早さんもたまに融通が利かないところがあって。「それはもう、笑顔で『うん』って言っとけよ」みたいなツッコミがあると思うんですけど(笑)。メンバーがいてくれて、「麻美がいてくれないと寂しいよ」って言ってくれて、「じゃあ、頑張ろうかな」って思って出たら結果めっちゃ楽しい、「お前が一番楽しんでるじゃないか」「すいませ~ん!」みたいなことはあります(笑)。

 基本的に、ファミレスに呼び出すメンバーは決まっていて、釘宮(理恵)、沼倉、たまに中村です。ぬーさん(沼倉)や(原)由実ちゃんとかは、普段から遊んだりするような間柄でもありますね。いろんな話をしている中で、おそらく私が理恵に「次のライブどうしようかなあ」みたいな話をしたときに、理恵が「じゃあ、ぬーさんと3人でご飯食べに行こう」と言って、そこから始まったような気がしてます。

――素敵な会ですね。楽曲の話になりますが、今井さんが千早として歌ってきた、あるいは全員曲でもいいんですけど、特に思い入れを持っている曲があれば、教えていただきたいです。

今井:千早のソロとしていただいたものは、毎回魂を削りながら歌わせていただいていて、ハッとさせられたという意味では、“自分REST@RT”が存在としては大きくて。10周年のときに、リレー形式で、みんなでショートで歌っていくことをやらせていただいたときに、当時のアーケードと同じ順番で歌ったんですね。で、ソロで“蒼い鳥”のショートバージョンを歌わせていただいてからの流れで、“自分REST@RT”だったんですけど、私としては10年プラス、オーディションや下準備から全部考えると、十数年にわたって千早と向き合ってきて、みんなで一生懸命『アイドルマスター』を知ってもらうために頑張ってきた年月を感じていて。そのときに、「“蒼い鳥”をこんなに大勢の人の前で歌わせてもらうのは、これが最後かもしれない」と思って、「魂込めて歌うぞ~!」って思ったんですね。そのあとに、シームレスで“自分REST@RT”がポーンって入ってきて、みんながワッと一緒に出てきてくれて、一緒に歌ったときに、ほんとにリスタートの気持ちになれたんです。

 うねりはあれども、長い坂道をず~~っとみんなで手を取り合って、必死に歩んできて、やっと頂の上のほうまで来れたときに、「この先に何があるんだろう?」ってずっと思っていたんですけど、「リスタートでいいんだよ」って言われて、ハッとしたというか。今まで頑張ってきたけど、力がフッと抜けて、新しくまた始めていいんだよって言われたように感じられて、歌いながら自然と涙が止まらなくなってしまって。そのときに見えた景色も本当に素晴らしかったです。当時、長い間ずっと一緒にやってきたのに、残念ながら出られなかったメンバーたちもいたんですけど、そのアイドルのカラーも、目の前に全部見えていたんですよ。緑の木々と若葉の黄緑と、台風一過の夕焼けの空がオレンジ色に染まっていたりして。それを見たときに、「ここからまた新しく取り組めるかもしれない」と思って、すごく嬉しかったです。

――今回の『MASTER ARTIST 4』に収録された千早ソロの新曲“Coming Smile”は、溌剌としたいい曲ですね。なんというか、「歌が好きな人の歌」という感じが伝わってきて――。

今井:そこを狙いました(笑)。

――(笑)全身で歌う喜びを表現しているような歌だなあ、と思いました。

今井:ありがとうございます、私もそう思います。今までの『MASTER ARTIST』シリーズで与えられてきた楽曲たちは、技巧的な曲がとても多くて、それを期待している人がいることも重々承知の上ではあるんですけど、今回の曲はほんとにギフトだなあ、と思いました。今回の新曲って、私の中ではすごくアーティスティックというか、アイドルからアーティストになる道標みたいなイメージだったんですよ。ソロシンガーとして千早さんが活動をしていくと想像したときに、「歌の喜びを伝えられる人であってほしいな」って私も感じていて。今までは、どちらかというとドラマチックだったり、ミュージカルに近い表現方法を求められてきていたんですけど、今回はアイドルが好きな人以外の方も「聴きたい」と思えるような楽曲を授けてくださったことによって、取り組み方も変わりましたし、表現方法をいろいろ追求する、いいきっかけになりました。その中で、「歌が好きだ」ということを100パーセント感じていただけるような歌い方をしたいし、するべきだと思って取り組んだので、それがまず伝わったということで、千早さんとガッツポーズをしたいと思います(笑)。

――“New Me, Continued”の《変わりゆく景色/変わらない願い》という歌詞が印象的なんですが、今後も『アイドルマスター』に関わり続けていく中で、今井さんにとって《変わらない願い》という言葉はどんな意味を持ちますか。

今井:とても難しい質問ですね。でも、変わっていることは間違いないと思います。変わらないものなんて、決してないと思うし。ただそんな中で、変わらない願いは、『アイドルマスター』が好きで、『アイドルマスター』に関わってくださっている方々、演者やスタッフ側や応援してくださるプロデューサーさんが幸福な気持ちでいてくれたら嬉しいな、と思っていて、それが私の変わらない願いです。

――ここまでともに長い時間を過ごしてきた『アイドルマスター』が今井さんにとってどんな存在であるかと、一緒に歩んできた千早さんに、今かけてあげたい言葉は教えてください。

今井:15周年を迎えている『アイドルマスター』全体として、まだ羽ばたいたばかりのグループもいたり、いろんな立場のグループがいる中で、『アイドルマスター』に関わってきた人生が、すごく誇らしく思える存在であることは、本当に間違いないです。自分が好きなものを、新しく関わってくれるみんなも好きでいてくれたらすごく嬉しいし、応援してくださる方が、どのグループでも構わないから、好きだなって感じてくれたら、作っている側の人間として本当に嬉しいです。そういう意味で、人生に彩りを与えてくれる存在であったことは間違いないと思います。

 千早に対しては、特に今回の『MA4』シリーズを収録する上で、私はアイドルとして歌を歌うことが本当に好きで、面白くて、クリエイティビティにあふれていて、挑戦的な気持ちになれることだなって感じました。まだ足りないところがある、もっとここをこうしたいって感じさせてもらう、いいきっかけになって。千早として歌うこと自体、以前と比べたら減ってはいる中で、またこういった形でたくさん向き合わせてもらえたことによって、まだまだ千早としてやり切れてないものがあるって感じましたし、これからも千早さんが望むものを出せるように、努力し続けていきたいと思っているので、「よろしくお願いします」と伝えたいです(笑)。


取材・文=清水大輔